5-27「その力は、死ぬより辛い事を招くぞ」
「ちょうど先日、子ども達に読んだ本がございましたァ。
焼いてしまうのは残念ですが……ならば、今日の話を文字にでも起こしましょう!
欲【司書なき図書館】!
縷々たる書庫……棚は伝説、語るは詩人の英雄譚。
北外れの宝石鉱山。
帰らずの鉱夫、自ら石となりて悠久の時刻む。
勇者、輝く鏡の盾以って魔なる瞳持つ蛇を討たん。
蛇、美しき杖と変わり王国の宝となり眠る。
英雄譚『石蛇狩りの歌』!」
マヌダールの手元に現れた、古ぼけた魔本が灰になって消えた。
魔術の本を物語だと読み聞かせ出来るのは、マヌダールが欲でしか魔法を扱えないから、なのかもしれない。
美しい銀色に輝くベールが現れ、揺らめきながら黄金蛇を包みこむ。
黄金の蛇は水銀のように纏わりつく銀に抗い、毒を吐きかけた。
その様子は、英雄譚に語られる物語そのもの。
跳ね返る黄金毒を自身に浴びた蛇は、瞬く間に動かぬ金へと姿を変えた。
ほんの僅かな時間だった。
「うおお……! ジジイすげえじゃねーか!!」
「マーさん凄いよ……! ボクの世界でも似たお話があるよ……!
本当にこうやって倒すんだ……!」
「キーヒッヒッ、ここは魔法使いとしてェ! やるべきことをやっただけですよォ!
キーヒッヒッ!!!」
マーさんが2度笑った。
自慢げな笑顔がいつもよりキラキラしている。
なんだか、ボクもとても嬉しい。
「ん!? ……この杖蛇さん凄く光ってる!!
マーさんが黄金にしたら、さっきよりもキラキラが増えたよ!
凄いお宝になったみたい!」
「キヒッ……!? それは想定外ですよォ!? 価値になんらかの変化が起きたと……」
「金になったから高い、って訳じゃあ無さそうだよな。
この動かなくなった蛇の杖、だからこそ……みたいな。
まあ、分からねえな!」
「もう、クゥ……いい加減なんだから」
もぞもぞ動くと、クゥが肩へと乗せてくれた。
「そんなモンだろ!」
煙が晴れ、視界が通る。
マガロの技で一面の植物は燃え尽き灰になり、ただの石造りの巨大遺跡になってしまった。
門に刻まれていた絵もない。
飾りっ気のない巨大扉が静かに佇んでいるだけ。
「お前さん達、宝ってのは取れたのか? ……ん、その金の杖か!」
「お、来たかおっさん!
そうだぜ、これだ!
マガロの偽物から飛び出してきた、黄金にする毒を吐き出すやべえ奴だった!
ジジイがパパッと片付けちまったがな」
「マヌさんも相変わらず流石だな……で、だ。
情報、必要だろ? 欲【鑑定眼】!」
駆けつけたアードが早速、指で窓を作り価値を覗いた。
手元に光り輝く羊皮紙が生まれ、自然にその情報が刻まれていく。
「名前は――まだ誰も命名してねぇのか……! コレは実に貴重な奴だぞ!
『偽金杖』って記載だな。
魔法的に作られた生物を魔装に加工したもの……?
加工したもの……マヌさんの仕業か……。
本物と見間違う偽物の黄金を作る力を持つ、と。
……こいつは……」
「なぜ私を見るのだ、アード殿。
確かにこれが有れば納税できたが……今となれば」
「ガダルさん、あっしが思うにそういう所が問題なんじゃねぇかと……」
「言わないでやれ、ピート。
俺はあの感じだから良い領主だったんじゃねえかと思うようになったよ……。
価値としては金貨二千枚くらいだな。
まだ知られていない魔装……これは未来に価値が跳ねあがるぜ、裏社会でなァ」
「裏社会! こわい!」
「マトォ……ちょっとこっち見ろ」
「ん? どうしたのクゥ? ……むむッ」
「くしゃくしゃだよォ……。
その、裏社会ってのはだな。 盗賊が物を売ったりとかな?
奴隷の取引をしたりだとかな? 秘密の魔法薬を売ったりとか……脱税もそうか……」
「あっ」
「よーし、ふわふわに戻ったな。ということで、マトは立派な裏社会の見習いだぞ!
良かったな!」
穏やかな目で皆が微笑んでいる。
腕を組んで偉そうな顔をして頷けば、一緒に同じ動きをしてくれた。
「汝ら、何をしているのだ?
あの偽物は灰になった、ならば進めるであろう?」
ズゥン、と大きな足音が響けば見下ろしてくる恐竜。
上機嫌、やってやったぞ! の顔。
どこかで見たような表情。
「マガロすごかったよ!
ものすごい爆発でびっくりしちゃったけど」
「グハハ!! そうであろう! 我の力はこの程度ではないぞ!
時が来ればまた見せてやろう、マト!!」
あー。
ワンちゃんだ。
ボール持ってきて褒めて欲しいワンちゃんだ……この顔……。
「でね、マガロ、倒した偽物からあの杖が出て来たんだ。
最初はヘビだったけど、マヌさんが杖にしちゃった。
で、それを調べてたの」
「ヘビだった杖……か。
何かを模したり、形状を変える毒を扱うヘビも森には居るのだ。
おそらく、それらを民が研究し、作り出した生きた魔装のようなものだろうな。
我が森を守っていた頃、魔装には喋る物が多かったものよ」
「おいマガロさんよ……知らねえ話だぞ……。
喋る魔装なんてのは、最近の市場では聞かねえ。
歌や物語には時々存在するが……お伽噺だって事になってんだぞ」
「どれだけの時を眠っていたかは分からぬが、間違いなく事実だ。
グハハ、宝探し、面白くなりそうではないか!」
「ったく、探す側の事も考えねえでよ。
だそうだ、マトさんよ。喋る魔装なんてのも有るらしい……見つかれば伝説の遺物だ。
楽しくなってきたなぁ?」
「うん!」
「おうよ、オレもアガって来たぜ。
その手のお伽噺関連の品々は、かっぱらうと偽物ってパターンが殆だったんだ。
本物が存在してるってんなら、腕が鳴るぜ!」
「この場所のキラキラも杖に吸い込まれて落ち着いてるよ。
扉の先へと流れていってる。
まだまだ先がありそう、出発できる?」
皆が「おうよ!」と拳をあげてくれた。
「じゃあ、ゆったりしてないで出発!」
杖はマヌダールの成果かつ、上手く使えそうという話でマヌダールの元へ。
全員が門の前へと並んだ。
「やっぱり鍵がかかってんな。
何処かに仕掛け……は……っと」
クゥが扉を調べ始める。
「罠は無さそう?」
「無いな。複雑な施錠がされてる。
専用の鍵や道具が必要……だな。
よっと!」
「わっ」
肩に乗るボクをクゥがひょいと掴み、前に突き出して抱っこする。
これは……8つ道具目のお仕事のご依頼だ。
「よろしく!」
「分かった! 開け~!!」
ふわふわの両手で門にそっと触れる。
マガロの熱が残っているのか、少しだけ温かい気がした。
門全体が夜光茸のような淡い光に包まれ、小さなオーブをふわふわと飛ばし始めた。
巨大な石だった扉は徐々に緑色に変わり、美しい花を咲かせたツルへと戻る。
扉全てが絡み合うツルに変化したあと、解けるように消え……扉は無くなった。
浮かぶ小さなオーブだけが、幻想的にその場に漂っている。
「ナイスだぜ、マト~!」
「えへへ~」
クゥが抱っこして褒めてくれたので、とても満足感がある。
何か特別な技術ではないけれど、この宝物としての力は赦というのは申し訳ないくらい。
そう思うたび、いつか「呪われた」の部分で後悔するのだろう、と不安が胸に溢れてくる。
「ん、マト、ちょっとくしゃくしゃになったな。心配事か?」
「赦なのに、便利な力だから、悪いことしてる気がして……」
「んなコトねえぞ。ハッキリ言っとくわ、マト。こっち見ろ。
その力は、死ぬより辛い事を招くぞ。
何でも開く鍵なんてモンは、合っちゃいけねえ。
オレら盗賊は死ぬほど欲しい。
何かを守りたいやつには、死ぬほど憎い。
どっちからも狙われる……立場どころか、命すらな。
だから、オレ達以外に言うな、見せるな。
約束だぞ」
「……そっか。 うん、約束する」
「良い子だぜ」
改めて思う。
この皆だから、ボクを助けてくれて、ボクを大事にしてくれる。
そもそもトガはこの世界において、宝の地図で金目のモノ。
クゥやアードに見つけてもらわなければ、今、ひどい目に合っていたのかもしれない。
「……みんな、ありがとね」
「うぉ……0点だな」
「っ……0点ですぜ」
「すまぬ、解釈違いだ」
「キヒィ……王都に預けましょうかァ……」
「マト、何か患っているのか? あまりにも苦痛に満ちた皺の深い顔だ。
我の力で何か出来ることはあるか?」
「マトォ! くしゃくしゃだよォ! くしゃくしゃ!
困った顔で感謝するな! はい、両手を上げて!
口角あげろ~! ふわふわに! ふわふわに~!」
「……! ふ、ふわふわに~!
ありがと!!」
強面のおじさま達の顔が輝く笑顔に満ちた。
満足そうに頷いている。
「……一時はどうなるかと思ったぜ。
あんまりくしゃくしゃしてると、ずっとくしゃくしゃになっちまうぞ。
そしたら売っちゃうからな」
「え~! そんなコトあるの!?」
「あると怖いだろ! さ、道はマトが開いたんだ!
案内も出来るな!」
「うん!」
門の先に広がる空間は――黄金一色。
今までの景色とは全く違う。
植物の気配はない。
ただただ豪華絢爛な黄金の神殿。
その眩しさで欲の輝きを見失ってしまいそうだ。
「んだよ、コレ……おっさんの家みてえだな!」
「クゥさんよ、一回も見たことねえだろ!
どんな偏見だ全く。こんな悪趣味なワケがあるか!」




