5-26「滅炎統べし我が爪牙」
「森の門、強き者選ぶ――」
「うん!? 古代語か!? おっさん、分かるか?」
「くそ、細かいニュアンスは俺にも分からねえ!
門は強い者を選ぶ……だ……?」
「……そう言っている。アード、やはり汝は古き言葉を扱えるのか?」
「魔装の起動に必要なモノも多いんでな!
が……言葉で知るより、戦った方が早いって感じだぜ!
全員下がれ、来るぞ、例のアレが!」
「おうよ、例のアレだな……!」
「キイイ……」
「マト殿、小声で真似しても聞こえている!
戦う前に気が抜ける、やめるのだ!」
「二体目とはちょっと手抜きじゃあないですかい?
闘技場でも同じ獣は盛り上がらねえですぜ」
「……」
アードが魔装を構えつつ、下がっていく。
緊張で黙ったのとは違う。
思い出し笑い、は誰にとっても強敵なのだ。
絵が輝く。
凄まじい足音と共に、中からマガロに似た二足歩行の竜が飛び出してくる。
ガラクタではなく、植物のツルや木片だけで作られた、マガロの偽物。
表で戦ったものとは別の存在だろう。
植物の恐竜は大きく口を開き、咆哮した。
「しゅううう」
「我はそのようには鳴かぬ!!!」
クゥは手の甲で口を抑えて耐えている。
ボクは両手で口を抑えて事なきを得る。
アード、クリティカル。
腹を抱えて崩れ落ちる。
慌ててピートが支えるも、数秒耐えた後の笑い返しにて爆笑。
ガダル、しわしわ。
そしてマヌダールは……苦笑いだ……!
笑いの原因を作った犯人は気まずくて笑いきれず。
半端に口角を上げながら、ピクピクと眉を動かしている。
「しゅああー」
「愚かな偽物め!
我のタテガミは赤と橙!
そのような枯葉のような茶色では無いわ!」
マガロが偽マガロへと突進。
同じ体躯同士で組み合う形に。
「色の事にツッコむのかよ……っく」
「クゥ、笑いが漏れてる。
マガロ、おしゃれさんだねえ」
なんとか調子を整えたアードが、咳払い一つ戦線に復帰。
「こほん、もう大丈夫だ。
ったく、マヌさんの物真似が上手い事しか頭に入って来なかったぞ……。
さて、マガロの支援だ、お前さん達準備は良いか!」
「おうよ、任せとけ!
マト、一応確認だ!」
「おっけー! 欲【宝の在り処】!!」
目を静かに閉じ、思いを込めて開く。
目の前で輝きが弾け、光の川となって流れる。
もちろん、門の中へと流れ込む煌めきが1番多い。
だが、偽物の植物恐竜へとも光の標は飛び込んでいく。
「マガロの偽物の胸の辺り!
何かある! 結構強くキラキラしてる……!」
「良いねえ、お宝確認だな!
ならオレらはそれを狙う、行くぜマト!」
「わかった!」
「キーヒッヒッ、ならば私はキャア殿と上空から皆さんのカバーに入りますよォ!」
「私はマガロ殿と共に闘うとしよう!
目覚めろ『狼王剣』……!
『加速』『剛力』!!」
「あっしも前に行きますぜ!
怪我も皆さんのおかげで一つもねえ、バッチリ戦わせてもらいやすぜ!」
「ンなら、俺は鐘での支援を試しつつ、マヌさんと全体の補助を担当する。
マガロさんもやる気だからなァ!
それじゃぁ一仕事始めるか!」
「おうよ! 行動開始だ!」
一斉に全員が走り出す。
マガロが押さえ込む偽竜へ、身長ほどもある巨大な両手剣を構えたガダルが飛び掛かる。
その一撃は植物で形作られた足を簡単に切り飛ばす。
しかし。
「再生……だと……!?」
ガダルの一撃が通り過ぎ、切り落とされたと思った足は既に繋がっている。
ツルとツルが結びつき、偽竜の身体は再び無傷に戻る。
「厄介でやんすね……!
斬撃でダメなら! コイツならどうですかい!」
ピートが足へと掴み掛かり、その腕力でツタを引き千切る。
ブチブチ音を上げながら千切れた部位の決断面はぐちゃぬちゃ。
これなら再生しない、そう皆が思った……が。
「切れた面から新しい芽が生えて、絡み合って再生していますよォ!」
上空をキャアに跨り旋回しているマヌダールが叫ぶ。
「切断でも千切っても高速再生か……!
やはり、ここはやるべきなんじゃあねえか?
おい、マガロさんよ!
俺が合わせる!
好きに技でもぶち込んでやれ!」
「……アード……!
面白い、汝の言葉を信じよう!
もはや加減の必要なし!
真なる赤き竜の力、見るが良いわ!」
偽竜と組み合う、真の赤き竜の全身が炎の如く揺らめくオーラに包まれる。
唸り声と共に、周囲でパチリパチリと弾ける音が聞こえ始めた。
「マト、マガロが大技使った後もしっかり光を見続けろ!
安全はオレが確保する!
今は吹っ飛ぶ心配はしないで良いぞ!」
「わっ……!?」
気づけば、ボクはクゥに小脇に抱えられていた。
「抱っこのが良いか?」
「大丈夫、これのが見やすい!」
「うっしゃ、行くぞ――!」
クゥが走り出す。
マガロと偽竜から距離を取りつつ、そこから前進も後退も出来る位置へ。
いつでも盗める位置だ。
「ガダルさん、あっしらも一度下がりやしょう!
マガロさんの本気、見てぇですぜ!」
「ああ、ピード殿、私もだ……!
後学のため、しっかり見させてもらうぞ!」
前衛2人が目を輝かせながら一旦撤退する。
名のある竜らしきマガロが大技を使う、そう思ったら居ても立っても居られないのだ。
「いつでも鐘は鳴らせるぞ――行け、マガロさんよ!」
「承知! ゆくぞ、赤き冠の一撃――『滅炎統べし我が爪牙』!!」
マガロが咆哮と共に高く跳躍する。
全身の赤き輝きは、まるで小さな太陽の如く辺りを照らす。
両足に爆炎を纏い、そのタテガミが赤い炎と姿を変えた。
そして太陽は、隕石のごとく降る。
「――ったく、派手で分かりやすい事で。
魔装――ニラルゲ遺跡秘宝……『竜を寝かす者』!!」
鐘が静かに音を響かせる。
その震えは薄い膜となり、全員も床も壁も……敵たる偽竜以外全てを包んだ。
同時に、着弾する。
落下して来た赤の巨竜は、その燃え盛る両足で一度偽竜を踏み潰す。
激しい爆発音が繰り返し響く。
溢れ出す赤と橙の閃光で何も見えない。
続いて響く咆哮。
「グアアアアアアアアアゥ!」
太く、重い間違いなくマガロの咆哮。
「なんだと……!? 勝手に鐘が動きやがる……!」
咆哮に共鳴するように、アードの持つ魔装『竜を寝かす者』が再び美しい音を響かせる。
皆を包んでいた音のベールが白く穏やかに輝く。
煙と閃光の中で、マガロの大きく開いた口から豪炎が溢れるのが見えた。
牙が打ちたての鉄のごとく赤熱している。
「そうかよ、古代の人はマガロさんの性格まで分かってる、ってか。
追撃するのまで織り込み済みとはたまげたぜ」
そのまま、焼け焦げ倒れた植物竜へと噛みついていく。
再び激しい爆音。
見えぬ天井まで登ったのではないか、という程の火柱。
でも、今視るべきは、マガロの活躍じゃない。
ボクが視るべきは――植物竜の宝。
眩しくても、注視するんだ。
見失うな――!
「マト……見えてるか!」
「もちろん……! マガロの足元、倒れた偽物から光が移動してる――!
煙で見にくいけど、倒してヤツから離れていってるよ!」
「良くやったぜ、仕事の時間だ!」
そっとクゥの手が頭に触れた。
いつでも、撫でてもらうのは安心する。
絶対目を逸らさない、そう緊張して強張っていた身体が楽になった。
「その正面の煙の中――!」
「突っ込むぞ、口抑えとけ!」
煙へと飛び込めば、その輝きの元がすぐに見える。
「第一階位――色、灯――『印』!!!」
抱きかかえられたまま、指差すのは這いずる黄金の杖。
その形状は、ヘビ。
まるで生きているかの如く、その身をくねらせて扉の方へと進んでいる。
光の印はその杖へとしっかり突き刺さった。
「アレか! あの杖だな――!!」
「うん!」
逃げるヘビの杖目掛けて走り込むクゥ。
杖……いや黄金のヘビが振り返り、鎌首をもたげてシュゥゥゥと唸る。
開いた口に鋭い牙が二本。
「クゥ、奪取はダメだよ!
嫌な感じする……! 呪われたお宝みたいな!
色もデザインも動きもヤバいと思う!」
この世界の事は全然分からないけれど。
ボクらが夢見た異世界では、こういう存在の毒は極めて厄介だ。
「ただのヘビだろ……首を捕まえちまえば」
「ダメだよ、クゥ。
石化とか黄金化とかの毒を持ってて、血清がすぐ作れないやつかもしれない。
それに――毒を吐くやつもいる!」
「……くしゃくしゃな意見だな、ってことは真実かもしれねえ――!
!? っと、あっぶねえな……!」
クゥが横に飛んで、ヘビの吐いた毒を避けた。
やっぱり、そういうやつだ。
毒が落ちた場所を見れば、見事に黄金に変わっている。
「黄金化の毒だと思う!」
「お得だが、浴びたらお得じゃねえな!
どうやって捕まえるか……!」
「杖だかヘビだか分からないけれど、絶対持って帰りたい……でも毒も浴びたくない!」
「キーヒッヒッヒ、お困りのようですねェ!!
『印』見えましたよォ、つまりその杖ヘビがお宝!
捕まえれば良いのですね!」
「マーさん、何とかなりそう?」
「勿論ですとも、お任せくださぁい!
この手の自衛機能は反射してしまうのが最適解ですよォ!
自身の毒で黄金の杖に戻して差し上げましょう!」




