5-25「森じゃねえか!」
「キラキラが階段の下に流れて行ってる!」
「派手に崩したから、マガロも入れそうだな!」
「……我もこうなるとは予測できなかった」
マガロの眉間に深い皺。
気まずそうに目を逸らしている。
「だが、マガロさんよ。
木を倒しただけじゃこの階段は見つからなかったハズだ。
ハマったのは事故だとしても……床をブチ抜くほどの攻撃で開く隠し扉かもしれねえぞ」
「キヒィ……確かに、ですよォ。
マガロさんの力を知っている人々なら、植物に対し炎を使わず蹴りを放つ事を想像できるハズ。
不在だったマガロさんが戻った時に、何かを伝える為に作った建物ではないでしょうか?」
「なるほど、汝らの話……最もだ」
「んじゃあ、この下にはマガロさんへの贈り物がある、って事ですかい?」
「キーヒッヒッ、可能性はありますよォ!
しかし、今ここに人々が住んでいないと言う事は、何らかの問題があったと考えるべきですゥ」
「……悲しい記録を見るかも知れないと言う事か……。マガロ殿……」
「我に気遣いは不要だ、ガダル。
地下に宝物があると分かった今、帰る盗賊団が居るのというのか?」
「ッ……確かに」
「マガロが盗賊団って言った!」
「オレも聞いたぞ」
「マト、クゥ……我は汝らに同行しているのだ、我も盗賊団の一味であろう」
「おいおい……マガロさんよ。俺とピートは商人、そこのマヌさんは薬師で雑貨屋だぞ……。
ガダルは元領主の用心棒みたいなモンだから盗賊団だな」
「グハハ、盗賊団の商人と薬師ではないか!」
「ったく言い返せねえな……。
ま、肝は座ってる、しんどい事があるにしろお宝探しに付き合う、そういう事で良いんだな、マガロさんよ」
「うむ」
「それじゃ、そろそろ出発するか。
宝があるなら止まってられねえ、先に行きてえからな!」
「しゅっぱつ!」
「クゥさんマトさんよ、待てだ。
何か忘れてねえか?」
「ん?」
アードが静かに紫色の実を目の前に突き出してきた。
アッ……。
爆発し溶解液を撒き散らす木の実。
ボクとクゥでいそいそ集め、合計は8個。
「これなら今、処理してしまうのが妥当ですねェ!
爆発させずに果汁を抽出することで霊薬の素材となりますゥ!」
手作業でも問題なく出来る、とマヌダールは口にしながら魔法で一気に作業を進める。
今は手早く進めたいタイミングだから、だそう。
マヌダールの魔法は欲由来で一度きり。
同じ魔法は2度と使えない。
要所でケチらず魔法を使える彼だからこそ、赦に縛られて居ないように見えるのかも知れない。
ちなみに異空間に道具を収納する魔法もあるそうだが、二度目の使用が出来ず引き出せなくなるそうだ。
液体を試験管のような瓶に抽出、そのまま割って種を取得。
果肉は乾かすと繊維質で凹凸があり、洗い物便利らしい……。
手際よく作業するマヌさんを皆で手伝いつつ、1時間もかからず全ての処理が完了。
「キーヒッヒッヒ、作業完了ですよォ!
無駄なく! 完璧に! ……爆発性で採取が難しく、市場に流れにくい素材ですゥ、素晴らしいですよォ!」
「マーさんが採取した液体とか、切り分けた果肉とかのがキラキラがいっぱい出てる。
ちゃんと使える状態にすると、そのままよりキラキラするんだ……」
「魔装も最初は岩や木なのですゥ。そして鉱物、金属、道具と価値を上げていくのですよォ。
小さなキラキラでも、集めておくと凄いモノになるかもしれませんねェ」
「なるほど……!」
「んじゃ、マト。これからは小さいキラキラも注意しとかないとな?」
「しっかり視るよ!」
「準備も良いな、改めて出発だぜ!」
一階の真ん中をくり抜いたような大階段。
横幅はマガロより遥かに巨大で、明確に床を「破壊」して降りることを想定されていた形。
崩れていなかった場所をマガロが取り除き、問題なく全員で下ることが出来た。
「うわァ……」
「森じゃねえか!」
地下に広がっていたのは、地上と同じような密林。
薄暗さも日中の森、くらい。
熱帯性らしきツタや奇っ怪な形の食虫植物、ド派手な大輪の花、巨大なキノコ……目を凝らさねば地中だと分からぬほど。
壁や床に見える石造りが「遺跡である」と静かに証明している。
「……お前さん達、この手の環境を再現してるタイプの遺跡はお察し通りやべェぞ。
戻るなら今のうち、だが――遺跡の名前を冠する魔装の出所はこういった場所だがな」
「アードのおっさんの持ってる、鐘もココのってこと?」
「『竜を寝かす鐘』の事か?
そう聞いていたんだがな……ココではない、だけで森に遺跡はあるのかもしれねェ」
「汝らよ、あれは間違いなくこの森の物で……かつて遺跡になる前、この場所にあったものだろう。
巫女らが使った鐘だ」
「しかし森の遺跡の魔装にしちゃあ違和感がある。竜のブレスを無効化する、なんて触れ込みだ。
お前さんと敵対していたヤツが、討伐のために持ち出した道具……に見えるんだが?」
「……ン」
「どうした、マトさんよ」
「マガロの技って、燃えるよね?」
「我は赤の竜、炎や熱、思い……赤色の願いを扱う者だ」
「森に住んでたの?」
「うむ」
「……お前さんのせいか……。
お前さんが森を守るために戦うと、火が出る可能性がある。
それを補助するために鐘があった、と」
「我も昔は荒々しく……暴れた、らしいのでな……」
「お前さんのせいじゃねえか!
守るために戦ったりすると、テンション上がって火を使うから大変だったって事かよ!
そうだよなぁ、俺は踏みつけするなって言ったもんなァ……」
「しかし、その我のおかげでこうして地下に入れたのだ!」
「……ったくよォ。
鐘の本来の目的が分かった。なら、きっちりサポートすんぜ。
巫女じゃなくて、その道具を持ってる商人で悪ぃんだけどな。
……燃やす時は言え、カバーする」
「グハハ、ようやく本気を出せると言うものよ! 感謝するぞ、アード!」
「仕方ねえなあ、任せておけ。
……マトさんよ、お前さんのドラゴンさんだ。
帰ったら使い方を教えるから、鐘、練習しような?
魔装は誰でも使える物と、負荷が大きいものがある。
鐘は結構キツいが……覚えとく価値はあんだろ」
「うん、お願いする! そしたら出来ること増える!」
満面の笑みでヒョイと右手を上げれば、アードが親指を立てて微笑んでくれた。
現状、眼の前に広がる森のダンジョンは一本道。
このまま進むしか無い。
盗賊の専門は街や、一般的な遺跡のようなダンジョン。
森に近いこの場所は、薬師であるマーさんの方が知見がある。
キャアに乗り、先頭へ。
その横でのサポートにクゥとボク。
続いてガダル。
アード、ピートで後ろを守り、フリーでマガロが歩き回っている。
「キーヒッヒ、森自体に特殊性はありません!
ここまでの熱帯性の森とほぼ同じ……違和感は、食虫植物が存在するのに虫が居ないことですゥ。
鳥や獣の鳴き声や気配もありませんねェ」
「吹き矢とか、落とし穴とか……そういうヤツも無さそうだな。
オレの感覚で判断しにくい環境だが、誰かが作った罠、みたいなものは――。
止まれ!」
「キヒッ、ストップです、キャアさん!」
「あるじゃねェかよ、罠……。
見てろ?」
クゥが足元に転がっていた乾いた木の実を拾って投げる。
孤を描いて飛んだ実は、地面へと落ちる。
その瞬間、地面に広がっていたツタが網のように実を包こみ、高すぎて見えない天井へと引き上げていった。
「わぁ……知ってるやつだこれ……」
「森にある罠の代名詞っちゃあ代名詞だな。
何個かある……めんどくせえなこれ」
「……キヒィ、私には全くわかりませんでしたよォ」
「ンなら、オレは位置を教える――」
「足に絡んで鬱陶しい……クゥ、これが罠というやつか?」
「は? マガロ、お前何やってる?」
「踏むと指に絡むのだが」
罠の問題は一瞬で解決した。
回答、マガロが先頭で全部踏む。
間違いなく、マガロならば問題なく進めるように作られている構造。
「クゥ殿、この方法が正攻法、ということだろうか?」
「おうよ、ガダル。
マガロが『居る』なら影響がねぇように作られてるって感じだな。
それ以外は侵入者、遺跡らしく牙を剥いてくる、ってな」
「む、むう、楽をしている気がして気が引けるのだが……」
「楽なのが一番だ。こういう時は、余力が一番の武器だからな。
楽で良かった、くらいで構えておけよ、ガダル。
それに技も何個か使ってんだ、楽、ではねぇだろ」
「確かに、だ」
「ねぇ、みんな。
なんだか、キラキラが強くなった」
視界の中の光の道標が、強く輝き始めた。
正面の奥、うっすら霧で見えにくい場所。
「正面奥、扉……かなぁ?」
「……ン……。扉だな。 シハの遺跡くらいあるぞ」
「おい、クゥさんよ。
ってことは……この森の道は下へ降りる道どころか地下1階入口への道って事か?」
「そう考えるのが妥当だろうな。
注意して近づくぞ」
警戒し、歩調を合わせ、ゆっくりと扉のある場所へと進む。
踏み込めばそこは大広間。
周囲をツタで飾った巨大な空間に、マガロより大きな扉。
門に描かれているのは、やはりマガロだ。
「我の絵か……!」
「なあ、マト。これ」
「うん……。キイイイかなぁ」
「だよなぁ……」
門の前に皆が辿り着くと、辺りに声が響いた――。




