5-24「派手な口上が無くてすいやせんね」
アードの魔装、浮かぶオーブがエメラルドグリーンに輝く。
現れるのは美しいオーロラ。
オーロラは布を畳むように重なり、その厚みを増していく。
マガロを包む氷のドームの前で、何層にも重なったオーロラは一瞬で凍結。
分厚い氷壁へと姿を変える。
「魔装開放……『狼王剣』!
この盾の前に、小細工など通用すると思うな……!
開け、『狼王の晶盾』!!」
ガダルの咆哮と共に突き上げたバスタードソードが両刃の巨大な両手剣へと姿を変える。
紅と黄金の光が収束、その刀身から放たれた輝きが宙に巨大な狼の家紋を描いた。
二色のオーラが混じり合い、家紋を囲むように作り出すのはエネルギーの盾。
マガロほどもある超巨大な盾は、轟音と共に地面へと突き刺さる。
「……キャアさん、高度をギリギリまで上に!
敵の全身が激しく蠢いていますゥ、実による爆撃が来ますよォ!」
マヌダールの声と共に、巨大樹の枝が大きく揺れた。
枝から紫の実がポロリ……と落ちていくのが見える。
「あれじゃあ、自分の足元にしか攻撃できねえだろ。
落下前に回収出来るか……?」
「クゥ、ダメだと思う。
横へと離れて様子を見よう。
ああいうのは……きっと飛んでくる」
「分かったぜ。
マトがシワシワになってねえんだ、かなり可能性が高い。
回避中心で盗れそうなら盗る、だ!」
「わかった!」
その瞬間。
大樹から落下を始めた実がピタリ、と空中で留まる。
「……ほら!」
「ご明察、ってとこか?
集中するぜ、振り落とされるなよ!」
蠢く大樹の動きが止まった。
同時に空中で一時停止していた実が、一斉に放物線を描いて味方全員へと飛ぶ。
その数、数十……まさに雨あられ。
ガダルの展開した巨大盾に次々と炸裂した実が、オレンジ色の樹液を撒き散らす。
オーラの盾ゆえに溶解はしない。
けれど、その雫が雨のように降り注いだ石床は、泥のようになって削れ始めている。
「クッ……! 一つ一つはそれほどでもないが、この数は……!」
「我の力の影響を受けながら長年育ったのだろう。
……我がそばに居ることで、力を増している可能性も高い……」
「ほぼそう言うことだろうなぁ、マガロさんよ!
だが、その位じゃねぇとな?
探索は盛り上がらねえよな、お前さん達!」
「違いないですぜ!
あっしの知ってるやつは、実を落とすだけでしたが……投げてくるとは面白いですぜ!
弱点は同じハズ、狙いは変わりませんぜ!」
ガダルの盾の影響下から、ピートが走り出す。
足はお世辞にも速くない。
踏み出して即、敵の懐へ肉薄なんて事は出来ない。
泥臭く走り、紙一重の直撃を避け。
跳ねた雫で服や肌を焼きながら、恐れる事なく巨木へと突き進んでいく。
「……欲【司書なき図書館】。
縷々たる書庫――棚は魔法。
開くは呪文書、妨害術。
第五階位、時の法。
回らぬ針、刻まぬ針。
流るる理は遅れ、事象の追従を振り返る。
鐘が告げるは昨日の夕暮れ――。
『複数速度低下』!!」
上空からマヌダールの声が響く。
放たれた時計の秒針のような光のトゲが、宙を舞う実へ次々と突き刺さる。
実が破裂することも、ダメージも無い。
けれど、その飛行速度は著しく低下。
まるで、ゆっくりふわふわと降下してくる空気の抜けた風船だ。
「助かりやすぜ!」
この着弾速度ならば、真っ直ぐ走って充分に敵の弱点へと届く。
「流石ジジイ、分かってやがるぜ! オレらの仕事も再開だ、マト!」
「うん!」
敵の攻撃範囲から外れ、様子を伺っていたクゥも動く。
ゆっくりと落下する木の実へと走り込んで、そっと抱える。
「落とすなよ!」
「わかった!」
クゥがマトへと小さめの実を手渡し。
クゥは空いた両手で再び実を抱え直す。
これで2個ずつ運べる。
「運ぶぞ!!」
駆け出した足は、まだ加速の影響を残している。
つむじ風の如く、氷の壁の横を回り込みアードの横へと実を運ぶ。
「お届け物だぜ!」
「だぜ!」
「ったく、爆弾を増やしやがってよ!!
こっちはガダルと俺で大丈夫そうだ!
実はお前さん達がバッチリやってる、木はウチの見習いがぶっ倒す!」
「おっさん、この爆発物、持ち帰り方考えといてくれよな!
じゃ!」
「じゃ!」
声と共に跳ねたクゥの姿はもう無い。次の実の回収へと走っている。
「……!? お前さん達、人に面倒事押し付けて行くんじゃねえ!
ったくしょうがねぇなあ!」
アードが盛大な溜息を着けば、氷のドームの中でごふん、と大きな咳払いが反響する。
「マガロさんよォ、ケツを床にハメたまま笑いを堪えてんじゃねえよ。
俺には聞こえてんだぞ」
「く、苦労人だと思ってしまってな……」
「お前さんのせいでも苦労してんだよ!
早くケツ引っこ抜け!」
「抜けぬ……」
ハァァー、という巨大な溜息が聞こえた気がする。
その間もピートは突き進む。
落下する実がゆっくりになろうとも、大きく回避していては時間を食う。
多少の被弾など気にせず、自慢の体力で真っ直ぐに突撃する方が相対的にダメージが少ないと判断した。
「身体は昔戦ったヤツより遥かにデカいですが、形は同じですぜ!
なら――間違いなくコブをぶっ叩けば倒せやす!」
浴びた溶解液での傷跡は全身に残り、煙をあげる。
けれど、眼の前には弱点らしきコブがハッキリ見える――辿り着いた。
巨樹もようやくその接近に反応する。
爆撃木の実の間、動いていなかった根が再び激しく蠢いた。
木の実を射出、コントロールするのに何らかの機能を集中しなければならないのだろう。
「いまさら遅いですぜ!
力を貸してくだせぇ、魔装……『銘刀の末』!!」
腰に着けた古びた短剣を引き抜けば、いくつもの壊れた武器の幻影が重なっていく。
折れて錆びた短剣は、無骨な片手剣へと変わり、左手にはバックラーが姿を現す。
妨害のために振るわれた根を、いとも簡単にバックラーで弾き飛ばし。
コブへと突き進みながら振り下ろす片手剣は、正確に根を切り飛ばす。
「ガダルさんみたいな派手な口上が無くてすいやせんね。
……それじゃあ、コイツでトドメですぜ!!」
振り上げた片手剣に全体重を乗せ、コブへと叩き込む。
硬い。
根のようには切断できない。
「随分硬ぇですが……ンなら! 全力で叩き斬るだけですぜ!!!」
全身の筋肉が隆起し、さらに剣へ力を加える。
斬撃はゆっくりとコブにめり込むと、そのまま真っ二つに切断した。
揺れ動いていた触手のような根が一斉に停止、床にドサドサと落ちる。
大樹は根の力を失い、今まさに倒れようとしていた。
「くそ、あっしだと間に合わねえか!」
倒れてくる巨木は、走り出してきたピートの真上へと迫る。
「――さあて、本番だぞマト。
実より大事な物、持って帰るぞ」
実を運びつつ、ずっと戦況を見ていたクゥが動く。
「まかせた! ボクはしっかり周りを見てる!」
「おうよ!」
倒れる巨木の前へと疾風のごとくクゥが走り込んだ。
「お待たせだぜ、ピート。
紙一重だな!」
「クゥさん! 助かりやす……!」
ピートの手を掴み、思い切り横へと引っ張る。
そのおかげで見事に幹の直撃を回避。
枝が身体に触れ、傷跡は増えたものの、大きなケガには繋がっていない。
「っしゃあ、完璧だな!」
ズウウウン、と遺跡全体に振動が伝わる。
大樹が倒れた音。
もはや動くことは無さそうだ。
程なく全員集合。
氷の壁やドーム、オーラの盾は消え。
次なる大仕事のはじまりだ。
「おうおう、マジですっぽりハマってんな」
「わー。ぴったりだねぇ」
「予想以上にしっかりハマって見える……。
屋敷に飾る鹿の頭のようだ」
「これはケツだけどな、ガダルさんよ……」
「キーヒッヒッヒ、マガロさん。
これでは遺跡の扉ですよォ!
何でも開ける鍵の宝物……マトさんが触れれば抜けるかも知れませんねぇ!」
「えい!」
「何も起こらぬな……」
「起こる訳がねぇだろ! マガロ、お前さんもマジな顔で信用してるんじゃねえ!」
「引き抜けば良いのですかい?
あっしなら……!」
そう言えば、遺跡でブン投げていた気がする。
ピートなら引き抜けるかも知れない。
「キヒィ、お任せしたい所ですが、まずは傷の手当が優先ですよォ!」
「そうだな、違いねえ。よくやった、ピート。
治せる時に治しちまう方が正解だ」
マヌダールの薬品、アードの持つ道具類。
2人が協力し全身の傷やヤケドも、手際よく治して行く。
「マトさんよ、薬や道具の使い方は帰ったら覚えとけ。
お前さんの相棒は、ちぃとヤンチャでケガもするだろうよ」
「わかった!」
「助かるぜ、マト」
「にしし~」
「んでは、傷も治りやしたし、あっしがパパっと引き上げちまいますぜ!」
ピートがマガロの横に入る。
「私も手伝おう!
『超剛力』重ねて『肉体超過』!!」
虹色のオーラを噴き上げたガダルが逆サイドへと回る。
「っせえの、ですぜ~!」
「ウオオオオン!」
2人の叫びと共に、床にヒビが走り。
徐々にマガロの巨体が浮かび上がってくる。
「ここまで上がれば何とかなろう!
汝らに感謝する……!」
ようやく救出された恐竜のケツの下。
地下への階段が口を開けていた。




