5-23「精進する!」
「んじゃあ、作戦開始だ!
何に反応してるか分からねえ、無駄遣いは避けたい……潜駆はナシでいくぞ!
しっかり掴まってろよ!」
「うん……!」
走り出すクゥにしっかりしがみつく。
眼の前では蠢く大樹に巨竜マガロが組み付いて抑え込んでいる。
大樹は太い根をムチのように振り回し、マガロを引き剥がそうと抗う。
「この程度の攻撃が我に通じると思うな!」
貫禄のある声と共に咆哮したマガロが唸る根に噛みついて引きちぎった。
「この樹を引き抜けばいいのだな!
我に、任せておけェ!!」
幹から一度手を離し、尾で周囲の根を薙ぎ払う。
「ならば――! 受けてみよ、『竜脚跳躍』!!」
ズゥン……という鈍い音と共に、遺跡の床にヒビが走る。
全身の力を両脚に集め、踏み切って舞い上がる。
天井の高い遺跡だからこそ、の動き。
跳ね上がった二足歩行の恐竜は、両足で大樹目掛けて飛び込んでいく。
そのまま押し倒すか根本から折ってやろう、そんな挙動だ。
激しい轟音が響く。
恐竜のドロップキックが巨大樹に炸裂。
自身が折れるのを防ぐために根を引き抜いた大樹が横倒しになり、壁へと吹っ飛ぶ。
「相性など我が竜脚に――のあっ」
弾け跳びながら植物が伸ばしてきた根が、マガロの両脚に絡み付き。
ビタァン、という轟音と振動、尻もちをつくように派手に転倒した。
その衝撃で根は千切れたのだが――。
「む……」
マガロが上を向いたまま倒れている……動かない。
ダメージは特に無さそうだ。
「……むう」
「……おい、マガロ。ケツの下に何が有る」
「分からん。尻尾が階段らしきものに当たっている」
「冷静に実況してんじゃねえよ、お前絶対ハマっただろ!」
「まさかマガロ、お尻抜けなくなったの!?」
「言うなマト――汝らの言うとおりだ――」
「お二人さんは自分の仕事をしろ!
そこのオオトカゲは俺がカバーする!
だから踏みつけは使えねえって言ったんだ、何聞いてたんだマガロ!
そこで日光浴でもしてやがれ……!
魔装展開『氷の天蓋』ォォ!!」
アードがオーブを掲げれば美しいオーロラがマガロの周囲に満ちる。
オーロラは半球を描き、一瞬で凍結。
まるでガラス貼りのドームのような氷の結界を展開する。
「ちょっと寒そう」
「わかる、寒くなくてもビジュアルが可愛そうだ……。
ま、あっちの木をぶっ倒さないとマガロは抜けないってことだな。
ガダルやピートに任せる!
オレらは予定通り実を狙うぞ!」
「了解!」
「『加速』『超化』!!
見てろよマガロ――こうやるんだよ、『超跳躍』!!」
クゥの足元で緑の風がぐるぐると回る。
トン、と小さく踏み出した一歩は羽のように軽く。
鳥が飛び立つが如く、宙へと舞い上がる。
「さあて、弟子! かっぱらう準備をしろ!
小さいものからコツコツだ……オレはあのデカい実!
マトは横の小さな育ち始めの実だ!」
「わかった!」
クゥ達が大樹目掛けて跳ねたのを確認したガダルが走り出す。
敵もまた、体勢を立て直し根で立ち上がる。
タコやイカの足のように蠢く根、頭部が樹木……何本もの足が生えた実のなるブロッコリー。
根の中央にあると聞いた、コブのような弱点はまだ視認出来ない。
根が多すぎるのだ。
何本かの根が触手のムチとして、走り出したガダルと結界の中のマガロ、二人めがけて放たれた。
「ならば、その根と幹を断つのは私の仕事だ!
噛み千切れ、『狼の牙』!!!」
狼の剣士はバスタードソードを構え、真紅の半月で放たれた大樹の根を一掃する。
振り抜いた一撃で何本もの根を切り落とし、斬り上げ、薙ぎ払いと繋ぎながら前へ前へと走り込んでいく。
「あっしはコレと似たやつと戦ったことがありやすから、遅れは取りませんぜ!
ここは、こいつが正解ですぜ!!」
マガロを守る結界の手前まで走り込んだピートが、鞘から引き抜いたボロボロのショートソードを大樹目掛けて投擲する。
特技も欲も使わない、単純な筋力と技術による投擲。
ゴゥ、と重い風切音を纏った回転する飛翔体は伸びてくる根を次々と切り飛ばしながら大樹本体へと突き進んでいく。
幹には到達しなかったものの、その投擲物は何本もの根を削いだ。
一方、キャアに跨るマヌダールは上空に。
「キーヒッヒ……見下ろすとマガロさんと目が合って実に気まずいですねェ……。
図録にある『紫の実』と比較すると遥かに巨大……!
ですが、特異性は無いと考えて良さそうですねェ」
「きゃあん」
「そうですねェ、キャアさんの好みの実では無い、と」
マヌダールがキャアの首横を、ぽんぽんと叩く。
「んきゃ」
穏やかに見下ろしている二人にも隙はない。
魔法を放つ準備も、突進でのサポートの準備も万全だ。
ガダルとピートの連携攻撃が根を減らし、弾丸のように跳躍したクゥが今まさに敵へと届く。
「っしゃあ、邪魔な根っこが吹っ飛んだぜ!
掴むぞ、マト!
ちっこいの任せたぞ!」
「わかった!」
目の前には紫の木の実が2つ。
爆発すると溶解液が溢れる、だっけ。
大きい方をクゥが狙う。
小さい方は、ボクでも脇に抱えられそうだ。
クゥが手を真っ直ぐに伸ばす。
遠くから、掴み取るように。
ボクも合わせて手を伸ばす。
「『奪取』!!」
二人の声が重なる。
クゥの手元から緑の風が巻き起こった瞬間、その脇には実が抱えられていた。
ボクの手元からも、風が巻き起こった気がする。
色は黄金色、クゥとは違う橙色の煌めき。
指で何かを掴んだ感覚がある。
思い切り引っ張れば、ボクの小脇にも小さな実が姿を現す。
「ナイスだぜ、マト!
ちぃと遅ぇが、人間じゃなきゃ問題なくかっぱらえそうだな!」
「精進する!」
「反応がおっさんくせえ! 減点! さあ、撤退するぞ!」
クゥが蠢く大樹の枝に着地。
「まだ何個か実があるよ?」
「持てねえだろ! ジジイやおっさんに投げても間違いなく落として溶解するぞ!」
「たしかに……!」
「繰り返し運ぶしかねえ!
マガロを囲んでる氷の結界の後ろまで走る!」
「分かった!」
枝を踏み切り、床へと跳ぶ。
超跳躍は使わない。
着地と同時に走り出す。
「クゥさん! 右後ろから根っこが来ますよォ!」
「おうよ! 分かってるぜ、と!」
音や感覚的な物なのだろう。
振り返る事なく、いとも簡単に根による追撃を避ける。
ボクも時々振り向いて様子を見るが根の動きは想像以上に早く、目で追うのがいっぱいいっぱいだ。
「マト、見えるか?」
「早すぎてむり」
「んじゃあ、オレから何か盗まれても見えねえぞ」
「むう~」
「今はシワシワ確認してる余裕がねえけど、これはシワシワだな!」
「そんなコトないよ~!」
「私にも全く見えませんから大丈夫ですよォ、マトさん!
そしてクゥさん! その大きさの実ならば、かなりの数の薬が作れますよォ!
もう2、3個欲しいところですゥ!」
「んじゃ、とっとと次の仕事だぜ! 木の実の管理よろしくな、おっさん!」
クゥが走り込み、そっとアードの横に紫の実を置く。
なのでボクも飛び降りて、横にそっと実を置く。
「おぃ、お前さん達よ!
そばに置くんじゃねえ!!
爆発するんだろうが、それ!」
「メンゴな!」
「めんご!」
「ったくよお! お二人さんにはデコピンをツケといてやる、感謝しな!」
てへぺろ、と舌を出してアードに微笑む。
くしゃくしゃ、と前髪を掻いて苦笑いしてくれた。
「それじゃ、ドンドン狙うぞ!」
「でも奪取はあと2回だよ?」
「おう、実を2つ確保した。
これで収穫0は防げた、つまり少し余裕が出来た!
丁寧に狙えるってことだ!
小さめの実をオレが刈り盗って渡し、マトが抱える。
2個目を盗ってオレが抱える……で、離脱だ!」
「わかった!」
「んじゃ、作戦続行!」
クゥが再び大樹へと走り出す。
「その根、全て切り落としてやろう!
……『狼王凱旋』!!」
ガダルの遠吠えが遺跡に反響した。
バスタードソードが、流れるように閃く。
踏み込んで薙ぎ払い、剣を構え直して袈裟斬り。
もう一歩踏み込んで切り上げ。
回転しながらの薙ぎ払い、再び踏み込んで切り上げ。
真紅のオーラを放つ連続攻撃が周囲で蠢く根をバラバラに粉砕していく。
「流石ですぜ、ガダルさん……!
おかげで見えましたぜ、中央のコブ!」
ピートの視線の先には、大樹の蠢く根に隠された、丸いコブ。
恐らく、弱点部位。
「……いきやすぜ!」
古ぼけたマチェットを荷物から外して構える。
構える、というより振りかぶる。
敵のコブめがけて、真っ直ぐにマチェットをブン投げた。
唸りをあげる投擲物は、敵の根の妨害などお構いなし。
コブめがけて突き進み、見事に突き刺さった。
「……!!」
大樹は咆哮しない。
けれど、身悶え苦しむ声が、ザワザワとゆらめく全身から聞こえた気がした。
「やった……いや?
様子がおかしい……倒した感じではありませんッ!
皆さん、反撃に備えてくださいッ!」
マヌダールの声が響く。
「反撃――だと?
ならば! ピート殿、アード殿、私の真後ろに!」
「ったく、実も守らなきゃならねえって言うのによォ!
ガダルさんよ前の壁、頼んだぜ!
……さぁ、二回目の仕事だ『氷の天蓋』!!」




