5-22「そいつは地下に本体がある!」
「よし……! 全員揃ったな!」
「おうよ、クゥさんよ。
魔装の手入れや、諸々の補充なんかもバッチリだぜ」
「キヒィ、霊薬の類は多めに用意致しましたよォ!
しかしィ、身体の大きなマガロさんの分は確保できていません。
治療の魔法でカバーしますゥ、安心してください!」
「私もしっかり寝れたのでな。マト殿、毛玉助かった。
故に傷一つ残らず、体力も全快だ!
今日も任せてくれ」
「ぎゅぴぴ」
ボクの耳は確かに鳴き声を捉えた。
「んっ……ピート?
背負ってる荷物の横につけてるの、ソレなに……」
「おそらくサナギですぜ!
昨夜、ぎゅぴが突然歩き始めた後、荷物にくっついてしまいまして……」
一同の目線が一気に集まる。
背負い鞄の左右に、エメラルドグリーンの宝石のような結晶。
あの芋虫だったとは思えないくらい美しいサナギ……? が、張り付いている。
「ぎゅぴ……。
そこにくっついたなら連れて行かないとダメだねえ」
「ったく仕方ねえなあ……。
ピートはしっかりイモムシ……サナギの面倒見とけよな。
全員、準備も問題なさそうだな。
マト、出発の掛け声をくれ!」
「それじゃあ、今日も~!
金貨一枚残さずかっぱらう!
しゅっぱーつ!」
『おうよ!』
全員が拳を振り上げる。
続いてマヌダールが転移魔法を詠唱開始。
あっという間に、昨日マガロもどきを倒した石造りの遺跡前へと到着した。
「これは……我が知っている場所ではない……」
開口一番、マガロが困惑した声を漏らす。
「マガロ、どういうこと?
昨日まで知っている感じだったよね?」
「石造の建物は確かにあった。だが、これほどの大きさではない。
扉もまた、我が通れない小ささで、このような大きさでは……」
「キヒィ……もしや。
マガロさんが遺跡に閉じ込められた後、不在になった主を祀る場所として何者かが作り直したのでは……?」
「なるほど。ここが我の知る場所ならば、巫女と民が暮らしていた場所だ。
その者たちかもしれぬ……」
「可能性はあるな。
おい……マガロ、長生きで凄えドラゴンでも見たり聞いたりが辛ぇ事はあるはずだ。
嫌な予感がする……ここで待つのも手だぞ」
「フハハハ、盗賊風情が我を心配するのか!
……汝の心遣い、感謝しよう。
だが、嫌な予感と向き合うのも責務よ。
我はこの森の主だったのだから」
「分かったぜ。それじゃマト、解錠頼んだ!」
「任せて!」
クゥの肩から飛び降りて、巨大な石扉へと走る。
両手で、そっと門に触れれば、身体から淡い光が溢れ出した。
門もまた光に包まれ、共鳴するように明滅を繰り返す。
「開けーーッ!」
大きな声で叫べば、石扉は自動で中央から両側へと開く。
観音開きに巻き込まれないよう、慌てて走りクゥの肩へと戻った。
「なんだと……? 馬鹿な、今の力の波長は我の巫女のものだ……!」
「えっ? 巫女の力?
ボクは真の守護者ってお宝で、万能の鍵みたいな意味では……」
「マトよ、その名は王国の者がつけた名。
我を祀る場所で有効な力では無いはずだ」
「……キヒィ、つまり。
マトさんは、イルイレシア王国のマスターキー、真の守護者と一方的に認識されただけ。
マガロさんを祀る場所の扉を開ける力も持っている、巫女でもある。
……つまり、全ての扉を開ける鍵、というお宝なのでは……?」
「えっ、もっと凄い鍵ってこと!?」
「まあ、実際に扉が開いちまったしな。オレの弟子はサイキョーだって事だ!
オレの8つ道具め、サイキョーの鍵に就任だな」
「サイキョーの鍵!!」
「クゥさんよ……後で名前は俺らと考えような。
マトさんも、キラキラした目で納得しないでくれ。
もうちょっとこう、荘厳な名前にして迫力を出さねえと価値が落ちるぞ」
「そんなもんか。
ンならおっさん、後で良い案あったら教えてくれ!
オレの呪われたすげー宝物の肩書きになるやつ!」
「なるやつ!」
「ったくお二人さんでキラキラしやがってよ、仕方ねえな。
帰ったら、その解錠術に名前つけんぞ!
さあ、油売ってねえで出発しやがれ!」
「うん!開いたよ、みんな! それじゃ出発だ!」
一番前はガダル。横に並んでピート。
続いてクゥと、肩に乗ったボク。
その後ろにキャアに跨ったマヌダール、最後尾に巨竜マガロの布陣。
石造りのピラミッドのような巨大遺跡へと一同は踏み込む。
「……うおぉ……!」
ボクは両手を握りしめ、つい声を漏らしてしまった。
内部の天井は高く、石造りのホールと言った雰囲気。
シハの地下遺跡と同様に広く、圧迫感はない。
中は何故か明るい。
ボクの考える「ダンジョン」は松明やカンテラが必要なのだけれど、シハもニラルゲも内部の視界に問題はない。
それに、中央に真っ直ぐ光が差し込んでいる。
見上げれば天窓のように頂上にくり抜かれた場所がある。
内部全体には植物が侵食しており、壁にはツタが這い、花の咲いた低木、食中植物……まさに自然の中の遺跡。
植物園の廃墟のようだ。
「森の続きみたいだな……。
マト、正面の絵のドラゴン、知り合いだよな?」
「ほんとだ。マガロ、絵に見覚えは?」
「我という事は分かるが、あのような絵や場所も知らぬ。
その前の祭壇らしきものは――見たことがあるな。
肉を貰った」
入口真正面の奥には、等身大のマガロの絵。
その前には階段、上には石造りの台……マガロの言葉から祭壇である、と分かる。
肉を貰った……つまり過去、贄を捧げられた場所に似ていると想像するのが良さそうだ。
「だがよ。上にデカい建物なのに、あの階段くらいしかねえのか?
マガロの腰くらいまでしかないじゃねえか」
「うーん、あまりにもだだっ広いよね。
シハの地下のが神殿! みたいな感じした」
「私も同様の意見だ。
この空間は広すぎる……違和感を感じるのだ。
確かにシハの地下にも巨大な扉がある、という不自然なものだったが……」
「地下、地下か……。
おい、お前さん達。この下に何かある可能性はないか?
草や木々が茂ることで、室内の森として隠している可能性は?
天窓からワザワザ光と雨が入るのには意味があるんじゃねえか?」
「なるほどな、おっさん。
確かに……外から見れば上にデカい、中も森の続き。
隠すにはちょうどいいって事か!」
「なら、ボクなら見つけられる!
教えて、欲【宝の在り処】!!」
目を閉じ、強く願って開く。
宝物が欲しい。
ボクだけじゃなく、みんなの宝物も集めたい。
きっと、マガロの大事な物がここにある。
だから、教えて欲しい。
「うわ……すごい……!」
視界に溢れる光が、一面を黄金に染めるほど溢れ出す。
輝く美しい粒子が渦を巻いて浮かび上がり、一直線に下へと飛んでいく。
「えっと、なんだか凄い! めちゃくちゃキラキラが地下に飛んでく!
こんなに光ってるの始めて見たんだ……!
光が差しているとこ、そこに生えてる木の下!
で、その木の紫色の実も光ってる!」
「さすがマトだぜ!
つまり、あの木を引っこ抜けば進めると……」
「ほほう、面白い。
力仕事ならば我が適任だろう……!
始めての盗賊稼業というやつだ!」
「マガロ、紫の実はお宝みたいだから大事にね!」
「……フハハ、大したことではないわ!
丁寧にブチ抜いてくれよう!」
ドスドスと地鳴りのような足音を響かせながら、マガロが樹木へと走る。
高さにしてマガロの腰くらい。
噛みついて振り上げれば……ボクもマガロもそう思っていた。
だが、遺跡探索というのはそうそう上手くいかないもの。
「マガロさん、待ちやがれですぜ!!!
紫の実の大樹……。
あっしが闘技場で戦った木に似てやがりますぜ、その木は……木じゃねえ!」
何かに気付いた、ピートが叫ぶ。
「なんだと――!」
マガロが木へと辿り着く少し手前、遺跡全体が激しく揺れる。
「下がってくだせえ! そいつは地下に本体がある!
動く木だ……!」
マガロの踏み込んだ足に反応し、その周囲に巨木ほどもある根が飛び出して来た。
根は一斉にマガロに絡み付き、その巨体を縛ろうと蠢く。
「愚かな、我を縛れるとでも思ったか! ガアアアゥ!」
咆哮1つ、マガロが尾で周囲の根を薙ぎ払う。
だが、尾に切断力はない。
弾力のあるゴムのごとく力を受け止めた根は、ちぎれることなくマガロの尾へと絡みつく。
「……コイツは相性が悪いってヤツだな、マガロさんよ。
場所柄、火も放てねえ、踏みつけも使えねえ。
それで樹木の化け物か……んなら、ココは俺達でカバーするとこだな」
「おうよ、おっさん!
ちゃっちゃと決めちまおうぜ」
「あっしが知っているあの樹木は、根の中央にあるコブが本体!
そこを潰さないと何度でも復活しやす!
普段は根で戦いやすが、暴れれば根を引き抜いて地上に出てくる……根で歩き始めたらチャンスですぜ!」
「キーッヒッヒ、ピートさん、それだけ情報が有れば種の判断も容易!
偽樹種の『紫の実』ですよォ!
高温の密林に生息する、人や獣を食う歩く木……紫の実は煎じれば万能薬に!
煎じる前は獲物を溶かす果汁が詰まった爆弾ですよォ!」
「いきなり厄介な情報が出揃ってんじゃねえか!
なら――マト! オレらがやることは!」
「実の回収! 武器にされる前に、薬の素材として全部かっぱらう!」




