5-21「よろしくね、これからもずっと」
今日はとてもお腹が空いた。
ナイフとフォークを構え、目を輝かせる。
目の前に並ぶのは、まるでハンバーグのセットメニュー。
この世界に食を伝えた、ボクの世界からの来訪者のおかげ。
「マト、食わねえなら貰うぞ?」
「えっ!? 食べるよ!
ご飯が想像と違うから、いつもびっくりするんだ」
「想像と違う……?」
「うん。
ピートのご飯、ボクの世界と同じなとびきり美味しいご飯だもん。
ボクが知ってる物語に出てくる食事はこうじゃないんだ。
干し肉と味の薄いスープに、ぼそぼそのライ麦のパン……そんな食事をしている物語が多いよ。
ハンバーグ……で良いのかな、こんな美味しい食事はビックリする!」
「マトんとこの物語、歴史の本みたいだな……。
オレの飯はチビの頃からこんなだけど、こんなに美味えのはピートが作ってるからだぞ」
ナイフとフォーク、レストランめいた食事。
所作もいつも通りで良いハズだ。
ふわふわのハンバーグを静かに切って口に運ぶ。
肉汁も凄いし、甘みもしっかりあるのにさっぱりしている。
ソースだけは表現しにくい。
デミグラスともケチャップとも、ガーリックとも言いにくいし、グレービーとも言えない。
焦がした醤油に胡椒のようなスパイシーさ、味噌のような奥深さ。
トロリと滑らかで、しっかり肉を包んで離さない。
この辺りが世界特有なんだろう。
クゥがハンバーグを一口大にまとめて切り分けた。
ライスの皿を左に持つと、右にフォークを構え。
ライスの上で肉をワンバウンドさせてから、口に運び、ライスをかき込む。
若者だなあ、と笑みが漏れてしまう。
いや、これが常識なのかも……!
「照れやすぜ、飯は昔かっぱらった品物の中に本がありましてねぇ。
そいつで覚えたんですぜ」
にこり、と嬉しそうに笑うピート。
会話に悪行がしれっと混じっていた……。
ナイフとフォークの使い方はとても綺麗。
高いレストランで同席しているような感覚を受けて、見ているだけで緊張してしまう。
アードに教わったのだろう、2人の所作はそっくりだ。
食べる分を切り分けて口に運ぶスタイルだし、クゥがヤンチャ飯なだけだった。
「クゥさんよ、お前さんの弟子の教育に悪いからかき込むのはやめやがれよ……」
「お、おお、仕方ねえな。 そうか……そうだな。マト、こっち向け。ほら~」
「なあに?」
「ココ、ソースついてるぞ〜。ほれ」
クゥが指先で撫でとれば、確かにそこにはソース。
「!?」
ふわふわ……!
口の周りのふわふわ!
ここ気をつけないと汚れるんだ……。
「マトさんよ、上手にナイフは使えてるから、もうちっとだな。慣れれば大丈夫……」
何かを見たアードが額に手を当てて盛大にため息を吐き出した。
視線の先はガダル。
「あれ? ガダル食べないの? あれ?」
お皿が綺麗である。
「……おい、腹減ってたのは分かるぜ?
ガダルさんよ、お前……貴族だよな?
領主様だったんだよな……?」
「もひろんだ」
「食いながら喋るんじゃねえよ! 腹ペコ狼さんか!
一口で食った上に、隙をうかがって皿を舐めたな!?
俺の目は騙されねえぞ」
「クッ」
「キヒィ……会食などは如何なさっていたのですかァ……ガダルさん……」
ハンバーグの湯気でメガネがしばらく曇って停止していたマーさんが動き始めた。
ボクと同じくらいの感じ。
一緒にランチでハンバーグを食べている、くらいの所作。
高級なレストランを生み出してしまう、アード一派とは違い、一緒に食べて安心できるお行儀とカジュアルさのバランス。
「かたじけない……。
日中張り切りすぎて空腹に我慢ならなかったのだ。
指輪を使って人になれば、口も小さいゆえ切り分けざるを得ないのだが……」
「そっかあ……。
美味しく食べるのが1番だし、1番美味しく食べたんだよ」
と言った瞬間に、となりのクゥが加速。
一気に食べ切る。
「んまかったぜ、ピート!」
「マトさんよ、師匠がおかしくなるからテキトーな事を言うんじゃねえよ。
美味えもんはどうやっても美味えんだ、なあ」
「大将……」
「おい、やめろ、なんなんだピート!
こっち向いていきなり泣くんじゃねえよ、気味が悪いだろうがよ!」
「美味えと真正面から言われると、嬉しいもんですぜ……」
「美味しいよ! ピート、いつもご飯ありがと!」
「とても美味かった。
うちのシェフに雇いたいくらいだ」
「お、良いぜ、ガダルさんよ。
だがキチンと領収は切るからな?」
ガダルが目を逸らした……。
口の周りがソースで汚れている。
動物のお口の毛並みは汚れやすいのだ、とつくづく。
後でお手入れにいってあげよう……カピカピに固まりそうで気になる……。
一方、屋敷の庭。
「きゃあーん」
「……ギギ……」
「汝ら、よく食べるな。
我のこれも食べるか?
我は先日しっかりと食べたゆえ、暫くは」
食い溜めスタイルのマガロが、ピートが調理したと思わしき丸焼きのイノシシをキャアとアリさん甲冑に差し出す。
「みかん~」
キャアは首を左右に振って、自分の分の山盛り果物をしゃりしゃりする作業に戻る。
「みかんではない、な……」
肉食性が強いグリフォンの割にキャアは果物ばかり食べる。
頭部がインコだから、と言うのもあるのだろうか。
「ぎゅい」
「汝は食べるのか。
ならば譲ろう」
首なし黒甲冑の中から、紅いアリ達が飛び出し、肉を担ぐと鎧の中へと運んでいった。
「ふむ、そのアリ達は汝の作り出した傀儡か。見事、見事!」
外は外で盛り上がっている。
メンバーは、極彩色の恐竜。
インコ顔の水色グリフォン。
首なしの巨大黒甲冑アリの巣。
ダンジョンボス達が宴会をしているようなものだ……。
「さて、ご馳走様だぜ!」
「ごちそうさま!」
皆ペロリと平らげて、夕食もおしまい。
軽く明日の話をしたものの、行き当たりばったりで解決してしまうチームゆえに細かい打ち合わせは無し。
子ども達が今日の話を聞きたくて集まって来たので、皆々がお話を伝え。
満足した子ども達が部屋へと戻れば、それを機に解散。
全員が自室へと戻ったのだった。
「……うーっし! 今日もお疲れだぞ、マト~」
「おつかれ~」
部屋に入れば、ボクはぴょんとベッドに腰掛け、クゥはコレクションの棚の前へ。
2人とも部屋着は他の子ども達と同じで、白い襟付きシャツに七分丈のパンツ。
クゥは前のボタンを止めずに羽織っているので腹筋はしっかり確認できる。
ちなみに、うさちゃんは吊るした探検着のポケットで幸せそうにお休み中。
「今日もばっちりお宝集まったな!
明日はいよいよ遺跡だからな、気合い入れてかっぱらうぞ!」
棚を眺めていたクゥが、笑顔で振り向く。
「うん! あしたもバッチリがんばろ!」
「おうよ! 宝物が欲しい、って願いはまだまだ叶ってねえのか?」
「うん……? そうだなぁ……叶ってないよ!
もっと探したいし、もっと集めたい!」
「お、欲張りな顔するじゃねえか。その感じサイコーだぜ!」
「でも、一番の宝物はクゥだから叶っていると言えば叶ってる!」
「……照れるから、真っ直ぐ見て言うなって」
「え~」
静かに歩いてきたクゥが、横に座った。
「始めて耳掴んだ時さ、必死に追いかけてるおっさんとピート見て、良い物見つけた! くらいだったんだよ」
「クゥ、やっぱそうだったんだ。あの2人、ボクを助けるつもりだったみたいだけど」
「オレは特に何も考えてなくてな。
気づいたら、すげえ大切になってた。理由も分かんねえ。
馬に一緒に乗ってる時からすげー楽しかったからな」
「むむ、これはボクの呪いでは……?」
「呪われてるのカッコいいから、そういう事にしとくかぁ」
「え~!」
「なんてな。
理由なんて細かいことは分かんねえけど、マトは、オレのサイコー宝物だからな。
なんつったってオレの欲で一番幸運を周りにばらまいたのが、マトだぞ」
「えへん」
気づけば膝に乗せられて抱えられていた。
「相棒が欲しいなー、って昔から思っててな。
相棒ってのも宝だよな」
「うん、ボクもクゥの相棒で宝だし。
クゥも相棒で宝だよ!」
「にしし、それなら叶ってるな」
「叶ってるとゴールみたいで悲しいねえ。
何か決めようよ、ゴールの先はスタートらしいから」
「なんかこう、ガダルが言いそうな言葉が出てきたな……。
でも良いな、それ。
じゃあ……相棒と」
「相棒と……!」
クゥの膝の上で、もぞもぞと向きを変えて顔を見上げる。
『全部かっぱらう!』
ぱん、と両手と両手をハイタッチして。
「よろしくね、これからもずっと」
「おうよ、弟子はちゃあんと育てねえとだからな!
んなら、おチビはそろそろ寝る時間だぞ。
明日は遺跡なんだからな」
「うん、じゃ言う事聞いて早く寝る~」
「ま、オレが疲れたから寝るって言ったんだけどな」
「クゥって疲れるんだ」
「オレをなんだと思ってんだ……?」
「むむむ……そうだなぁ、たからもの」
「なんで寝る前にくしゃくしゃなんだよ~~、ワザとやらないでくれよ~~」
「えへへ。じゃ、寝よ」
そっとベッドの布団へと滑り込む。
この身体は丸くなったほうが寝やすい。不思議なものだ。
「おやすみ」
さあ、明日は遺跡本番だ。




