5-19「盗られた!!!」
下方向への純粋な加速に乗せた、右足での飛び蹴りがガラクタ恐竜の浮かぶ頭へと叩き込まれる。
ガァンと鈍い音。
浮かぶ竜頭は少し沈み込むくらいで、吹き飛びはしない。
「うりゃあああああ!」
精一杯声を張りあげて全力で押し込み続ける。
とはいえ、そもそも体重もパワーも足りない。
上空からの落下に、なんとか超跳躍の加速を乗せて威力を水増ししただけだ。
ピートやガダルの一撃とは比べ物にならない。
「ちゃんと! やるん! だあああああ!!!」
逆の左脚に力を込める。
小さな願いは、もっと強い踏みつけを。
「『足だんだん』!!」
右足の蹴りで浮かぶ敵へと着弾、その反動で跳ね上がりもう一度逆の足で蹴りを放つ。
危険を知らせる、機嫌が悪い……もろもろバッドな感情を乗せる、うさちゃんの足ダン。
それを攻撃に転用した、飛び蹴りによる連続攻撃だ。
一撃が炸裂するたび、浮かぶ敵……ガラクタ恐竜の頭が少しずつ地面へと落ちていく。
両足で交互に蹴り飛ばされ、まるで階段を下るように落下していく敵。
あと数mで地面に完全に叩きつけられる。
「うおおおおお!
『ふわふわの兎のあんよ』!」
蹴りの反動を利用し、大きく跳びあがって。
空中で1回転、浮かぶ敵へと全力のドロップキックを叩き込む。
ぽわん! という可愛らしい音を立てて吹き飛んだ敵は地面へと叩きつけられた。
ピートなら地面にめり込ませただろうし、ガダルならバラバラにしただろう。
そんな威力は出ない。
だけど、確かに敵の頭部を地面に叩きつけ、大きなダメージを加えたのだ。
ガシャン、とガラクタが崩れるような音が響き、頭部だけの敵が地面に転がった。
「……ナイスファイトだぜ、マト。仕上げといこうぜ」
耳元を小さな声が通り抜けて行く。
瞬間、手を握られていた。
クゥが潜駆を解除し姿を現す。
「合わせろマト! 赤い炎みたいなのはガーディアンのコアだ!
アレを奪えばもう再生できねえ!」
「う、うん! わかった!」
『奪取!!!』
片手は繋いだまま。
2人で空いた手を突き出す。
クゥの手元に飛んだのは炎のオーラ。
宿る場所を失った視覚化された力は、立ち上る湯気のように霧散した。
ボクの手元には、赤いドロップのような小さな結晶。
赤色を帯びた美しい透明な石。
僅かに、宝のキラキラが見える。
「盗ったか?」
「盗った! これ、ちょっとだけお宝みたい」
クゥの手を離して、広げた両手の上に結晶を乗せて見せる。
「宝石か……!
可愛いお宝だな、ナイスだぜ!
無くさねえようにポッケにしまっとけ」
「うん……わっ!」
「ぷう」
「盗られた!!!」
「あちゃあ……最後の油断だな……。
ちゃんとアジトに持って帰って換金しねえと、盗んだ意味が無いぜ?」
にしし、と笑って頭を撫でてくれた。
とっても嬉しいけど、まさかボクのうさちゃんに宝石が奪われるなんて思ってもいなかった。
「むう、まさかうさちゃんが……」
「一緒に頑張りたかったんだろうよ。
もしかしたら、その小さな宝石もコッソリ作ったのかも知れねえからな。
そのうさちゃんが」
「そう言うことにしとこう……」
「ぷぅ」
胸ポケットを撫でながら、崩れた敵の残骸を見下ろす。
もう、再び動き出す事は無さそうだ。
「とりま、撃退完了だな!」
クゥが目の前にしゃがんでくれた。
ので、ヒョイと手を挙げる。
ぽふ、とハイタッチして。
「完了だよ!」
いそいそとクゥの肩へと戻る。
めちゃくちゃ撫でてくるので、髪や耳がくしゃくしゃになる……。
「トドメは取られてしまったか……!
素晴らしいぞ、2人とも!
やはり偽物では私の敵として不足という事だな!」
ガダルが剣を納め走り寄って来た。
遅れてピートとアードが合流。
「お疲れだぜ、クゥさんマトさんよ。
俺も久しぶりに縁起の悪い魔装を使っておけて何よりだ。
マガロの偽物には感謝しねえとな」
「大将のアレは、時々働かせて報酬をやらねえと、あたりに悪霊をばら撒いちまう呪いの魔装なんですぜ」
「その武器……呪われてんのかよ……。
呪いの宝物はオレも持ってるから、報酬やらねえとな」
「わっ、抱っこして掲げないで!
わっわっ」
「大将の海賊よりあっちのが可愛いですぜ」
アードの素早い拳が唸る。
ピートが頭を抱えて地面に崩れ落ちた。
「キーヒッヒッ、ガーディアンは倒した……感じですねェ。
皆さんお疲れ様でしたァ、マトくんも沢山頑張れました! 良い子ですねェ!」
キャアと共にマヌダールが舞い降りて合流。
全員集合である。
「良い子だぞ~!」
「クゥ、あの、すごく恥ずかしいので高い高いしないで」
「上にあげないと、マトはちっこくて見えなくなっちゃうからな」
「むう~」
「……下げろ」
「下げてくだせえ」
「下げてくださいねェ」
「下げるのだクゥ殿」
「ん……? うわ……」
くるり、とクゥがボクを抱く向きを変え。
目線がバッチリ合った。
「なーに」
「くしゃくしゃだよォ……」
「えー! そんなコトないよ~」
「くしゃくしゃだよォ……」
あんまり皆がくしゃくしゃだと言うので、顔を両手でゴシゴシしてから笑顔を作る。
全員が満足そうに頷いたので、事なきを得て。
散らばったガーディアンの体、ガラクタに宝が混じっていないかチェック。
ピートが残骸に混じっている壊れた武具をかき集めていた。これは彼の魔装の力へと変わるのだろう。
「さて、お宝は回収完了だな。
キャアの恩人の魔装と、概ね虫と虫……オレの短剣。
あとはマトがうさちゃんに盗られた赤い宝石くらいか」
「うん、キラキラが集中してるのはこのでっかい扉の向こうだから、今日の仕事はバッチリだね」
そう一歩踏み出して、巨大な石扉を見上げた時だった。
大きな地鳴りが響き、門が紅く輝く。
「わっ、光った!」
マトの身体も僅かに輝き、門と共鳴するように明滅を繰り返している。
「おー! 流石『真の守護者』だな、マト!
何でも開くすげぇ鍵パワーか!」
「何もしてないんだけどなぁ……」
「お二人さん、テンション上がってる時に悪いがよ。
今触るのは止めときな。
入る前に開けねえと、別の盗賊が入っちまうかもしれねェだろ」
「たしかに!」
「アードさんのおっしゃる通りですよォ。
それに、そろそろ夜が来ますよォ。
一度アルクバーグへ帰還するか、ここで野営するか決める時間ですねェ」
「本来は野営して突入するのが当たり前だ。だけどオレらはジジイの転移がある。
回数制限があるとは言え、使わないで抱え続けるよりベストな選択を選べる時に選ぶのは大事だと思うぜ」
「クゥさんの言う通りですねェ。
まだまだストックはございますゥ、使わないで苦労を重ねるより、使い切って苦労した方が無駄はないと言うもの。
ピートさんの背負う虫さんも、マトくんの捕まえたアリさんも一度置いてくるほうが無難でしょう。
生き物、ですからねェ」
「おう、マヌさんがその考えなら異論はねぇ。
マヌさんの欲にお世話になってる身だ、ありがたい限りだぜ。
帰還できるなら身体的にも回復が早いしな!」
「助かりますぜ!
この2匹がずっとぎゅぴぎゅぴ鳴きやがって、ケガさせちまうといけねぇですからな。
なんつっても高額なお宝ですぜ!」
「恩に切る、マヌダール殿。
若干傷がある――部屋にあるマト殿の毛玉ボールを嗅げば眠れるのでな、明日には全快だ!」
ええ……。
まだ持ってたのあれ……。
「ボクも戻るのが良いと思う! ズルだけど、ズルいのが盗賊だもの」
「お、板についてきたな弟子よ」
「えへへ~」
「それでは、帰還しますよォ! 戻ったら風呂と食事にしましょう!
リフレッシュして明日は遺跡内部!
欲【司書なき図書館】!」
マヌダールが古ぼけた本を開き、言葉を唱える。
程なくして現れた光の門は、クゥの孤児院へと道を繋ぎ。
難なく全員の帰還が完了した。
「汝ら、戻ったのか」
庭へとヒマそうに顔を突っ込んでいた巨竜マガロがあくび1つ声をかけてくる。
「キィイイイ……」
「マト、やめろ、その真似はやめろ、耐えられねえ……んふ」
マガロの偽物の鳴き真似がクゥのツボに入ったらしい。
他の皆も顔を覆ったり袖で口を隠している。
「どうした汝ら? 我に何か問題でもあるのか……?」
「森の奥にあった、石の遺跡の扉から我の偽物が出てきたんだ。
でも声が全然違ったの」
「我の偽物……」
「声が甲高くてキイイイって鳴く、枝とか鉱石とかボロボロの武具が集まって出来た、ガラクタのマガロみたいなガーディアン」
「おお……! それは確かに我を称える祭壇のガーディアンだ!
まさかたどり着いたのか!?」
「うん!」
「おうよ、バッチリな。その場所もマヌダールが把握してる。
明日は転移でそこから探索を開始する予定だぜ」
「1日で探り当ててしまうとは……あの周辺は、特殊な迷いの森だ。
宝目当ての冒険者は迷い、永遠に辿り着けぬと言われていたが……」
「ここにサイキョーの地図が居るからな」
「えへへ~」
「なるほど、汝の欲の力か。
その……頼みと言っては難なのだが……」
「おう、なんだよマガロ」
「我も行きたい」
一瞬、空気が止まった。
なんだか口調が可愛かったので返答に困る。




