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5-18「だけど宝はあるんだな?」

縷々(るる)たる書庫、棚は禁呪、攻撃術。

 階位棄却、外法の七。

 怨みの声、妬みの叫び……暗き底より響く彼岸の奏。

 眠る事は許されぬ、目覚める事も許されぬ。

 今もなく明日もない、過去をただ彷徨うのみ。

 伸ばした手は宙を切り、その腕掴むものなし。

 だが与えよう、その無限から放たれる法を。

 見つけ差し出せ、その形代。

 今より示す生者こそ、すべての苦痛の代行者。

 掴め引き摺れ冥府の底へ!

 『生権交代(ソウルスワップ)』!」


 マヌダールの手の中で、小さな魔本が焼け焦げる。

 何者かが残した記録、もしくは書き出した物語。

 もはやそれが何であったか知る術などない。

 ひとたび魔法と変わった書物は焼け焦げ、2度と力を示さぬのだから。


 大地が唸る。

 木々が軋み、冷たい空気が辺りへと流れ込んでくる。


 ガラクタで出来た恐竜めいたガーディアン目掛け、足元から影のような腕が何十何百と現れ掴みかかる。


「……ジジイ、すげえ悪い顔で魔法使ってるな……」


「マーさん、絶対やりたかったやつだこれ」


「マヌさんよ……。

 これは胡散臭いんじゃなくて、邪悪な魔法使いだと思うんだけどよお……」


「街はずれの小屋に籠り、1人で謎の薬を作って居そうな顔ですぜ!」


「ピート殿、そもそもマヌダール殿はそのような仕事であった気がするが……。

 しかし邪悪な気が渦巻いているッ……死霊術の類か!?」


「あ、ガダルも言いたかっただけだね、これ」


「オレも言いそうになった。わかるぜ」


 そんな会話と共に、皆が一斉に敵から距離を取る。


 恐竜に掴み掛かった腕は、身体を作るガラクタを一つ一つ剥がし地中とも分からぬ足元の闇の中へと引き摺り込んでいく。


「キィイイイイ」


 恐竜が咆哮し、身悶えする。

 掴みかかる腕を振り払うことすら出来ず、その装甲はバラバラに解体されていく。


「……これぞ大魔法!

 教師のみ立ち入れる禁書棚に残る、秘術ゥ!!

 持ち出し中は私が所有して居ますから、私の(デザイア)で力に変わるのですよォ!

 キーヒッヒッヒ!!!」


 全ての暗き腕が地中へと戻った。

 そこに残るのは、身体を作るパーツを毟り取られ、動く骨のようになったガーディアン。


 そのアバラのようなパーツから透けて見える胸の奥には、赤い人魂……炎が揺れている。


「わー、スリムになった!」


「……マト、暇だろ。

 闘技場の雑な実況みたいになって来たぞ」


「……」


「難しいこと考えてるとくしゃくしゃになるからすぐ分かるんだよ……。

 可愛い顔で、んー? みたいな顔されても可愛いだけだぜ」


「んー……!

 (デザイア)宝の在り処(キラキラ)】!!」


 輝きは、殆どが石造の遺跡へと向かっている。

 その中で、小さなキラキラがふわりふわり、と骨格だけになったガラクタ恐竜に飛んでいく……。


「ん!?」


「どうした!?」


「マガロの偽物にも少しだけ飛んでくんだ。

 何処だろ……胸の中?

 赤い炎のトコじゃなくて、そのそば!

 肋骨みたいなやつの1本!」


「……見えねえ! 分からねえ!

 だけど宝はあるんだな?

 最高じゃねえか……かっぱらうぞ、マト!」


「うん! かっぱらう!

 どれだろう……! むむーッ」


「クゥさんよ、マトさんを真剣にさせるのは良いがよ……。

 顔がくしゃくしゃになっちまってんだよ……」


「いわゆる(ギヴン)だな、これ」


「違いねえ、くしゃくしゃになってしまう、みたいな」


「む~!」


 そんな中、ガキィンと激しい金属の衝突音が繰り返し聞こえてくる。


「やるな、マガロもどきよ!! 軽くなって加速したか?

 私はくしゃくしゃにはならん……何故なら、貴様と戦う事がたまらなく楽しいからだ!」


 ガラクタ恐竜は、先ほどよりはるかに素早くなっている。

 装甲が剥がれた分、加速したのだろう。

 ガダルの回り込みにも多重の乱撃にも対応し、跳んで回避、尾で弾く……動きのレパートリーが増えた。


 一進一退であり、噛みつきを寸前で避けたガダルの腕から血が流れるのが見える。


「……さあて、真剣に決めるか。

 マガロの偽物だからと笑ってる場合じゃねえな、ガダルに先にぶっ壊されちまう」


「うん!

 ガダル、めちゃめちゃ楽しそうだから倒すのも早いよ。

 ボクらも行こう!」


「キヒィ、ならばもう1発準備しますよォ!」


「おっと、そいつが撃たれる前に、俺達で仕留めちまうかもしれねえがな!

 行くぞピート、俺も補助する! ……今度は俺らで決めるぞ!」


「了解ですぜ大将!

 ンなら、ここからが全力の全力ですぜ!!」


「っしゃあ!! 行くぜ!」


「宝と聞いちゃ俺も興奮しちまうぜ!

 魔装展開、フルディア海幽霊船の秘宝『海蛇の舶刀シーサーペントカットラス』……!

 合わせろ、ピート!」


「畏まりですぜ!!」


 決して素早い動きではない。

 けれど、体にブレはなく、その一歩は力強い。

 駆け込んだピートがガラクタ恐竜の足を掴めば、バキバキと轟音を立てて締め上げる。


「……尻尾で狙ってくるのも分かっていやす!

 あっしを狙えば自分へ当たりやすぜ!」


「そういう事だ、マガロの偽物さんよ!

 ……てめぇは今、うちのピートを引き剥がせねえ。

 つまり……避けれねえ、って事だ!」


 アードの手元で錆びついた片手剣が淡く輝いている。

 辺りの気温が一気に下がる。

 カラカラ……と乾いた音が響き、地面の中から立ち上がるのはカトラスを構えた骨の兵。

 ボロボロのバンダナ、フジツボや貝がついた身体……それは、海に沈んだ海賊の骸だ。


「……やっちまえ!

 お前らだけじゃあ足りねえが、うちの右腕が手伝ってんだ、出来ねえ訳がねえよなあ!」


 アードが剣を振り下ろせば、無数の骨達は剣を構えて恐竜へと飛び掛かる。


「バトンタッチですぜ……!」


 敵の体へとよじ登る海賊を見れば、足から手を離してピートが一歩下がる。

 もはや、ピートの竜への拘束は必要ない。

 海賊の雑兵が抑え込んでいる。

 つまり……動かぬ相手に痛烈な一撃を叩き込める、という事。


「……コイツを喰らいやがれですぜエェ!!」


 ピートが大きく息を吸い込み、身体を低くする。

 大地を揺らすような強い踏み込みの後、振りかぶった拳が巨竜の脚へと唸る。


 派手な輝きも、技のオーラも無い。

 ただ純粋な拳の一撃。


「キィイイイイ!!!!」


 ドスン、と鈍い音が響いた後。

 恐竜が悲鳴と共に崩れ落ちる。


「……もう良いぜ、お前ら! コイツが取り分だ!」


 アードがコインを親指で弾くと同時に、海賊部隊は消滅。

 空中でコインも消滅した。


「癖の強え魔装だが、マヌさんが悪の魔法使いをやるなら俺も合わせたくなるもんよ!」


「キヒィ、極悪な船長の顔でしたよォ! 甲板員も大変そ……」


「マヌさんよ、1発ツケとくんで帰ったら取りに来な」


「キヒィ……」


「アード殿、ピート殿、最高の攻撃だ……! これで奴は動けまい、我が剣の錆にしてくれよう!」


 足を破壊され、立ち上がれずに蠢く恐竜型のガーディアン目掛けてガダルが跳ねる。

 真紅のオーラを纏う両手剣を大きく振り上げながら。


 いつもよりも遥かに隙の大きな構え。

 速度を捨て、破壊力に全てを込めた剣技を放つ姿勢。


「喰らうがいい!

 『狼王残月(リーシオンクレセント)』!!」


 振り下ろした剣が巨大な弧を描き、まるで赤い月の様に輝く。

 真紅の斬撃はガラクタの恐竜の腹部へと直撃。

 赤いオーラの爆発を繰り返し、その胴体を粉々に粉砕する。


「なんつう破壊力だよ……」


「えー!?

 マガロの偽物の首しか残ってないよ……!?」


「ま、マト。

 その、宝残ってるか……?」


「うーん……。

 あ! あるよ!

 頭の方に吹っ飛んでる!

 なんだろうアレ……短剣かな?」


「……んー?

 ンッ! アレか! 頭の横にある、緑っぽい鞘の」


「それ!」


「んじゃ、パパッと拾っちまうか!」


 クゥが駆け出す。

 残骸を跳び越え、あっという間に宝へと走る。


「その短剣だよ!」


「っしゃあ、今日は楽な仕事……」


 その言葉と同時に、転がっていたガラクタ恐竜の頭部だけが浮き上がる。

 頭蓋骨の中で、先ほどまで胸の中で揺らめいていた赤い炎が見える気がする。


 物理的なコアはないが、あの炎がコアだと分かりやすい。


「クソ! イージーに終わると思ってたのによお!」


 浮遊する恐竜の頭部は口を開きながらクゥへと突撃。

 短剣を拾いながら横へと跳ね、噛みつきを紙一重でかわす。


「っしゃあ、2人で決めちまうぞ! 掴まっとけよ!

 ――『超跳躍(ハイジャンプ)』!!!」


「うん!」


 土煙を巻き上げながら、ビルほどもある石造りの建物を飛び越えるんじゃないか、という程高く跳ぶ。

 狙うべき巨大な恐竜の頭は、まるで玩具の恐竜の頭ほどの小ささに見えて。


「『潜駆(ステルス)』!! 『加速(ラピッド)』重ねて『超過(ブースト)』!」


 視界が白黒に変わる。

 ボクらは今、これで視覚的には認識されないはずだ。


 あのガーディアンがどんな感覚器官を持つのかは分からない。

 けれど、地上にある恐竜の頭はガダル目掛けて突進している。

 つまり、ボクらは今、あの恐竜の意識の外に居るという事。


 クゥは何も言わない。

 それでも、この高さから敵へと真っ直ぐに降下している状況で全て分かった気がした。


 先に行くよ、と小さく呟いてクゥと拳を軽くタッチ。

 肩を踏み切って、跳ぶ。

 視界に色が戻る。


 マガロもどきは反応しない。

 いや、出来るわけがない。


「『超跳躍(ハイジャンプ)』からの~~!!!

 喰らえ~!!! 『兎のあんよ(ラビットスタンプ)』!」

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