1-8「そのみかん、めちゃくちゃ光ってる!」
「おい、クゥさんよ。
そこらの獣との戦闘経験はあるか?」
「おうよ、一角獣種なら、ある程度デカくても。
有鱗種はしんどいな……」
アードの眉間にシワが寄る。
普段から怖い極悪面がより悪人めいてしまう。
「マトが言った通りなら……人の声を模す獣、もしくは例の"化け物"だ。
どっちもそこいらの野生動物とは比にならない」
「んなら、ココでやり過ごすのが無難じゃねえか?」
クゥの言うことには一理ある。
中に入ってくるのにも罠がある。
ここで待つほうが安全ではないか?
「……俺達はな。
お前さんは、悲鳴みたいな鳴き声に聞き覚えがない。
ここに長く住んでるなら……大体の動物は知ってるはずだ。
特に危険なもの、はな?
知らねえんだろ……?」
「ああ、聞き覚えも……ウワサすら聞いた事がねえ」
「なら――この辺の生き物じゃねえ。
飛んできたか、湧いて出たか……。少なくとも移動するやつだ。
悪いな、俺は今すぐ街に戻らねえといけねえ」
「大事な商品に傷がついちまいますからな!」
子分のピートが冗談を言ったつもりだ。
顔は極めて真剣、脂汗も凄い。
彼らしくない、動揺の仕方。
「そうだな。
だが、お前には仕事がある。
お前はロクに戦えねえんだ……ココの金貨を回収しやすく集めとけ!
そのトガを詰める予定の袋にだ!」
わざとらしい言葉回し。
この二人が雰囲気や空気から、緊張を消そうとしているのが伝わってくる。
「しかし大将だけじゃあ。デカいのは顔だけですぜ……」
「顔より小せえお前に何が出来んだ、仕事をしておけ!
クゥ……頼ってもいいか?」
子分に指示を終えたアードが、クゥへ真っ直ぐ歩み寄る。
「当たり前だ、やれることはやるぜ。
おっさんの馬車どころか、俺の家も街も危ない、そういうことだろ。
マトはそこのピートと一緒に金貨集めだ、良いな?」
足手まといになる……良く分かる。
うん、と頷こうとした時。
「マト、俺からは抱けねえ。
が、お前さんからなら肩や頭に乗れるな?」
「やってみる」
クゥの腕から飛び降りて、アードの身体をよじ登る。
別に問題はない。
これなら赦の影響を受けることもなさそうだ。
「のれた」
「おい、おっさん、まさか連れて行くってんじゃ……」
「ここに放置しても、何かあったらピートにゃ自分を守る以外の余裕はねえ。
課外授業だ、見せたほうがいいだろ?
どうせ、俺も守ってもらわにゃいけねえんだからな」
声が真剣だ。
最適解を考える商人の声。
「なら、マトは任せたぞ。俺の"宝"だからな?」
クゥがイタズラっぽい笑顔を見せる。
「商人が預かっといてやる。
……それじゃ行くぞ、クゥ。敵が街へと向かう前にココで叩く。
俺は自衛しか出来ねえ、期待はすんなよ」
「自衛出来んなら充分だ!」
二人が走り出す。
「任せましたぜ、大将!」
早速、金貨の回収に取り掛かるピートの見送りの声が響く。
彼は彼で仕事のできる"おっちょこちょい"なのだろう。
クゥの案内で一気に遺跡を走り抜ける。
目指すは入口、おっさんの頭にしがみついて、耳を立てて音を聞く。
「鳴いてる! きゃあああ、って声がする!」
「まだ居るな! 外に出る瞬間、上から来るかもしれねえ、気をつけろよ!」
「おう、盗賊の腕前……見せてやるぜ!
出てきやがれ! このチキン野郎が!!」
バカでかい声で遺跡の中から叫びながら飛び出る。
アードのおっさんが、ほぅ……と関心したような小さな声を漏らす。
ボクは奇襲を狙うのだろうと思っていた分、驚きを隠せない。
「俺らは少し様子を見て、隠れて移動するぞ。
クゥが引き付けるつもりだ。
騎士やら戦士より盗賊は賢いねぇ、いやズルいのが褒め言葉だな」
アードが嬉しそうに笑う。
【鑑定眼】で何を見たのだろう。
けれど、彼ならやれると確信している声。
「うっお! でっか! なんだコレ!」
クゥが走り出す。
遺跡の中からではその姿を追えない位置へと移動した。
けれど、彼を追いかける何かが着地したのを目撃する。
水色と黄色、それに少しの白と黒の羽毛の翼。
4つ足……ライオンやヒョウのような形の前足。
後ろ足は鳥だ。頭部も鳥。
体長にして3mくらい。
グリフォン、異世界人なら誰もが知っているソレの特徴。
けど。
頭が……。
「セキセイインコ……」
声に出てしまう。
ちょこっとした桃色のクチバシの上に小さな鼻。
ちょっとふわふわに見えること以外、水色のセキセイインコ。
「なんだそれは? お前さん、あの獣……どんな種類だか分かるのか?」
「ボクが居た世界に、ペットで飼われてる動物に似たのがいるんだ。
人の声を真似したりする。
あそこに居るのはグリフォンだけど……」
「お前さんの世界、どんだけヤバい動物がいるんだ……?
人の声を真似るのは、捕食行動の為の誘引だぞ……?
しかし……すると異界絡み可能性もある存在、か――」
「アードのおっさん、【鑑定眼】は?」
「待て待て、俺もグリフォン欲しいからよぉ、ちょっと待ってくれよ。
値段をつけるのはプロなんだぜ?」
ン……?
ンン?
頭から乗り出してアードの顔を覗く。
奴隷商の悪人顔で笑ってる……。
これは善意じゃなく私欲の顔だ……。
そんな会話の間にも、戦いは続いている。
「くそ、やっぱ速ぇ! こんなやつ、どうするんだよ!」
クゥが後方に宙返りしながら、インコグリフォンの攻撃を避ける。
グリフォンは翼を広げ、空へと飛ぶと旋回しながら突撃。
前足の鋭い爪での薙ぎ払い。
そのまま小さく可愛いクチバシを突き出す。
薙ぎ払いをジャンプで避け、身体目掛けて突き出されたクチバシを咄嗟に短剣で弾く。
「待て待て待て!! 何が目的なんだお前!」
「きゃあああ~~」
「気持ち悪い! やめてくれ! その顔からその叫び声を出すんじゃない!」
再び、猫がパンチを繰り出すような爪攻撃。
勢いも範囲も、短剣で弾ける攻撃ではない。
後方宙返りで避け、次の一撃に備える。
弱点……見た感じ、弱点が見当たらない。
何となく可愛い。
可愛いのだが、攻撃は熾烈、鳴き声が気持ち悪い。
身体を沈め、敵の向かって右横へと走る。
鳥の頭は正確にその動きを追いかけ、横を向く。
斬撃が通用しそうな部位が無い。
お腹もしっかりフワフワ、身体もフワフワ。
背後なら、と更に加速して走り込む。
が。
「きゃあ~!」
グリフォンは女性の悲鳴のような鳴き声と共に、後ろの鳥足で蹴り上げを狙ってくる。
馬の後ろ足のような動き。
「どあああ! やべえ、それはやべえ! 死ぬ死ぬ!」
素早くバックステップしながら、短刀で後ろ足の爪の直撃をいなす。
軽く掠っただけ。
けれど、威力は著しい。
ぽん、と宙に打ち上げられ、遠くの木まで弾き飛ばされる。
「ってええ!」
受け身を取ったとは言え、木への直撃。
咳き込みながら、ふらふらと立ち上がる。
ドサドサ……と周囲にみかんの様な実が落ちてきた。
「……まずいか? クゥが叫んでるな。
マト、外に出る。お前さんに迷惑はかかるが……欲は使えるか?」
「呪われた、って部分が引っかかるけど……おっさんが言うなら。
できるよ!」
「なら、外に出たら周囲に使え。
宝物ってのは……その時に、これから先に、大事になる物のことだ。
大事なものを見失わねえ特技だぞ!」
アードが走り出す。
クゥの叫びと衝撃音が聞こえた、最悪ターゲットを自分に向けて守ろうという考え。
「――欲【宝の在り処】!」
外に飛び出たアードの頭上で、力を使う。
周囲に溢れるキラキラは――。
おっさんが眩しくて見えない。
分かってた。
もちろん、大きな木の下で武器を構えているクゥ。
おっさん、良かったね……あのインコグリフォンも光ってるよ……。
そして、小さなキラキラが集まっている場所。
地面に落ちている、みかん。
みかん……?
「おっさん、聞いて。
おっさんとクゥと、あのグリフォンと、落ちてるオレンジ色の実が光ってる」
「みかんが光ってんのか……?」
この世界でも、みかんで良いんだ……。
「叫んで伝えてもいい?」
「マト……俺にまた走れって言ってんのか?
お前さんのせいで明日はボロボロだぞ……。
しっかり掴まってんだぞ!」
「ありがと、おっさん!
クゥ!! そのみかん、めちゃくちゃ光ってる!
グリフォンも光ってるよ!」
全力で叫ぶ。
グリフォンが気づき、こっちに首を向ける。
気が抜ける顔をしている。
「なにしてんだマト、叫んだら気づかれ……みかん!?
グリフォンとみかんが光ってる!? 宝物ってことか!?」
まさか、コイツも宝物……友達になれる、そう言ってるのか?
みかんで? みかんでだよな?
「いいぜ、それなら倒すより何倍も楽しめるって事だ!」
クゥが落ちているみかんを左手で掴む。
右手は腰のベルトに繋いだ、鞭のようなロープへ伸ばす。
「……落ち着かせねえとどうにもならねえ!
でも、燃えるじゃねえか!
いくぜ、女の悲鳴!!!」
最悪な名前でグリフォンが呼ばれた気がする。
後で、何とかしなければ……。




