5-17「我はそのようには鳴かぬ!」
「……キラキラが奥に飛んでる! あの飛んでる草で気付かなかったけど……あれ、遺跡?」
指さす先は、四角く切り出した石を積み上げたような建物。
「ちっと遠いが、間違いなくアレは遺跡だな……!
夕方も近い、あそこの入り口付近で野営する……もしくは転移での帰還を視野に入れるのが妥当か?」
「キヒィ、名案ですよォ!
一度訪れた場所へと帰還する転移魔法は、王都図書館の異界録で頻出しますゥ。
比較的回数が使える魔法だと思って頂いて大丈夫ですよォ」
「そういうことなら、進んじまうのが吉だな。
お前さん達に賛成だぜ。
夜をこの森で過ごすのはリスクが高い、あの建物の側なら問題ねえだろう」
「異論はありませんぜ!
あっしは皆さんにお任せしやす」
「うむ、私も同じくだ。
森の探索経験は浅い、慣れたクゥ殿に任せる方が……」
「オレ森は初めてだぞ」
「……ッ」
「なんだよその顔、くしゃくしゃしゃねえか……。
マトが真似するといけねえからやめてくれよな。
ジジイが慣れてるが、ジジイは話長くて仕切るの下手くそだからオレがやってるだけだぜ」
「キーヒッヒッ、ご信頼頂き嬉しいですよォ!
このまま進んであの場所での野営か、一時転移か決めましょう。
アリさんや、幼虫さんなど生体の皆さんを連れておりますし……」
「ぎゅっぎゅっ」
「ぎちち……」
「……おう……。宝の殆どが虫じゃねえか……」
「アリさんは高いよ!」
「蟲さんも高いですぜ!」
「昆虫採集に来たわけじゃねえんだがよ……。
それじゃお前さん達、あそこまで進むぞ」
慣れぬ景色の森。
警戒しつつの進行は、見えている建物への移動でも時間を要する。
「おっさん、息が切れてるじゃねえかよ」
「……ここまでより明らかにしんどいぜ、クゥさんよ……。
お前さんも息切れてるじゃねえか」
「思ったより環境がキツいぜ……」
「あっしは問題ありやせんぜ!」
唯一元気なのはピートだけ。
ガダルは返事がないくらいに
シワシワの顔。
マヌダールは既にキャアの上でヘロヘロである。
盗賊も商人も、自警団も魔法使いも、湿度の高い密林の中を駆け回る仕事ではない。
結果、1日の終わりが近づけばこうもグロッキーになるのは道理である。
「あちゅい」
「おう、ふわふわ……。
ちっちゃくなったな顔」
「湿気で毛がぺちゃん、ってする。むう……」
「マト、おじさんになってるから……。せめて笑って励ましてくれ……」
「がんばれー」
「くしゃくしゃだよォ……」
そんな悔しそうな声出さなくても……!
「何やってんだお前さん達……。
だがよォ、着いたぜ」
ついに森は開ける。
辿り着いた建物は遠くから見るより遥かに巨大だった。
密林が視界を遮り、その高さを正確に認識できていなかったのはある。
小型のビルくらいはある高さ。
灰色の石で作られたピラミッドのような姿だ。
入り口は極めて巨大な扉。
この大きさは……。
「これ、もしかしてマガロん家か!?」
「クゥ、ボクもそう思う!」
「俺もそう思うぜ、お二人さんよ。
つまりこれが、ニラルゲの森遺跡入り口って事だな。
壁画もやたら派手なドラゴンだ、見覚えがあるぜ……」
「キーヒッヒッ、マトさんのキラキラのおかげで1日かからず辿り着いてしまうとは……!
ほぼほぼ目的地、遺跡ですねェ!」
「この扉の大きさ、シハの地下と同じくらいか?
……厄介なガーディアンが居ないと良いのだが……!」
「ガダルさん、今のは失言ですぜ」
「ガダルさんよ……誰も言わなかったんだぜ……。
どうして言っちまうんだ……」
その瞬間、門が輝く。
イルイレシア王国の遺跡と違い、機械めいた音声はない。
けれど、もし聞こえていたとしたら「侵入者を発見、迎撃を開始」とでも言ったのだろう。
壁画に描かれたドラゴンが動き始め、絵から外に出てくる。
大きさはマガロくらい、二足歩行の巨大恐竜。
ただ、その全身は金属や木材、動物の骨……様々な素材で作られたアート作品のよう。
「マガロもどきだ!」
「声や音はないが……そのマガロもどきが遺跡のガーディアン、って事で間違いねえな……」
「またやるのかよ……。あいつ本人でも大変だったんだぞ、マガロさんよお……」
「しかし、これは良い機会だぞ!
あの時、決着は付けられなかったが……ガーディアンならば思う存分叩き壊せる!
マガロ殿の偽物、感謝するぞ!!
魔装展開、『狼王剣』!!」
「ガダルがめっちゃやる気だ! ボクもがんばる!
欲【宝の在り処】!!!
……えー……」
「どうしたマト! シワシワだぞ!」
「門の奥へとキラキラが飛んでくんだ」
「……そこのマガロもどきのコアとか光ってんだろ!?」
「ご期待に添えなくてごめんなさい」
「やめてくれ! そのシワシワの顔をやめてくれ!!
つまり、あのマガロもどきは」
「ただのガーディアン……」
「あああああ! 面倒くせえ! やる気が出ねえ!」
「クゥさんよ、やる気の話はしてねえ!
その奥に宝があるんだ、やるしかねぇぞ!」
「キーッヒッヒ、つまり悩むこと無く全力で戦って良いという事ですよォ!
私も寄りすぐりの魔法を使う時が来ましたァ!!
これは使っちゃダメの棚から何冊か拝借しましょう!」
「壊して良い……。
なら――加減は要らねぇってことですかい?
腕が鳴りやすぜ!」
「キイイイイイッ」
マガロもどきから甲高い咆哮が響く。
「似てないし安っぽい!」
「似てねえ……」
「キヒィ……我はそのようには鳴かぬ!」
「ンブッ……妙にうめぇ声真似やめろジジイ!!!」
「……ふッ」
アードが目を逸らして口を抑えている。
ツボに入ったのを隠している顔だ。
「マヌさんのが上手くて無理だった」
「オレも無理だった。
ふざけやがって……ジジイ後で一発殴るからな!
構えろ、もどきが来るぞ!!!」
「我に任せておけ――」
紅いオーラを纏う、身長よりも巨大な両手剣を担いだガダルが声真似1つ走り出す。
ガダルのモノマネも絶妙に似ている……。
重要な局面なので笑わない努力はしている。
けれど、これはズルい。
「クソッ、ガダルてめえもか!! ふざけんなよ、マジでむり」
「ボクもむり」
「マガロさんは声や喋りに癖が強いんで、やりたくなるのも分かりますぜ!
キイイイイではパッとしませんからなぁ!」
ピートがアードに続いて駆け込んでいった。
背負う幼虫2匹がぎゅぴぎゅぴ鳴いている。
さっきより、声が大きい気がする。
「汝の力を貸してくれ、我は空から……ウッ……!
突かないでくださいよォ、キャアさん!
空から狙いましょうゥ!」
「きゃっ!」
キャアにモノマネを妨害されたマヌダールが、キャアに跨り空へと飛ぶ。
ぶら下げた銀アリは休息中で反応はない。
「……さあて、マト。オレらは盗むものもない。
宝を注視する必要もない」
「うん」
「でも、見てるわけには行かないよな?」
「我も戦う」
「汝もそのつもりか」
「……~~ッ!!」
アードがずっと笑いを堪えている。
「さあて、冗談は此処までにしてブッ倒すぞ!」
マヌダールの冗談を皮切りに、皆の疲れ切っていたテンションが上がった。
やっぱり、賢者や大魔法使いというのは確かなのかもしれない。
「掴まってしっかり見とけ、弟子!
ああいう素材が多いガーディアンは関節を狙うのが妥当だ!」
「わかった!」
走り出すクゥの肩にしがみつく。
「キイイイ……竜脚跳躍」
マガロもどきが、大地を強く蹴って飛び上がった。
オリジナルと違い、赤いオーラや炎は纏わない。
単純な巨体による踏みつけ攻撃だ。
「『肉体超越』『超化』!」
空から落ちてくる巨体目掛けてガダルが跳ぶ。
踏みつけを狙い落ちてくる巨竜をすり抜け、相手より上に。
「受けるがいい、『狼王の牙』!!!」
真紅に輝く担ぎ上げた両手剣を、マガロもどきに叩きつけるように振り下ろす。
紅の半月が空で閃き、巨竜を形作る胴体へと斬撃が唸る。
「キイイイイ!!!」
ガシャアアン、というガラクタが潰れるような音が響き巨体は地面へと吹き飛ばされた。
「……流石ですぜ、ガダルさん!
やはり偽物では役不足ですかい?」
地面にめり込んだマガロもどきが立ち上がろうと蠢くが、その間にピートが距離を詰める。
ゆらりと立ち上がった瞬間、ピートがその尾を掴む。
「お前さん達、全員下がれ! あの馬鹿野郎、絶対振り回すぞ!」
アードの叫びで一旦皆が後退。
「喰らいやがれですぜェ!!!」
尾を掴んだピートが、回転を開始。
ぐるぐると回れば、その巨体がふわりと浮き上がる。
その姿はまるで竜巻の如く。
充分に加速した後、手を離せば巨竜は吹き飛んでいく。
「馬鹿野郎!!!!!」
アードの絶叫は、巨竜の着弾と同時だった。
巨竜は自身が這い出て来た、巨大な石門へと叩きつけられ轟音をあげて倒れた。
「なんでお前さんは一番当てちゃいけねえモノにぶち当てるんだ!」
「大将すいやせん、回ってみたもののそこしか投げつける場所がなくて!」
「しかしィ、それで壊れないことが充分に分かりましたよォ……!
ならば、私も問題なく魔法が使えますゥ!
欲【司書なき図書館!!」
マヌダールの手元に小さな文庫本が現れた。




