5-16「アゴを乗せるのはマーキングですゥ!」
「また来るよ!」
確かに女王らしき銀色のアリの1番前の2本の足……鉤爪は吹き飛ばした。
だが、怖気付く事もなく残る4本の足で走り出し飛びついてくる。
「中々良い根性してるじゃねえか!」
切断の魔装はもう使えないだろう。
クゥは腰の短剣を引き抜いて構え、敵の動きを追う。
「ギュエェ」
跳ねたアリの大顎が左右に開く。
噛みつきだと察し、素早く飛び退きナイフを投げて迎撃。
刃こぼれしたナイフでは貫くには至らないが、敵の接近は阻止した。
「くそ、硬すぎる……!」
「クゥ、上!」
今度はボクの仕事だ。
女王と戦っている間にも、浮かぶ蟻塚からは兵士が降ってくる。
両方の対処は厳しい。
「……『ふわふわの兎のあんよ』……!」
クゥの肩から飛び上がり、落ちてきた兵隊アリへと輝く蹴りを叩き込む。
アリは、ガダルの元へと吹き飛び一撃の元に切り捨てられた。
「ナイスだ、マト!
女王はまだ光ってるか?」
「うん、明らかにお宝だよ!
強く光ってる!」
「ジジイ! 動物の目的や思考を読みとる魔法とかないか?
巣を守ってるのは確かだが……『持ち帰る』なら話し合えるかもしれねえだろ!」
「キヒィ……面白い事をおっしゃりますゥ!
確かに生きた宝なら、マトくんと同じで意思があるはず!
……感応系の本は……ええと……国立図書館の……」
「早く拝借しろ!」
「返さないやつじゃん!」
「オレらは盗賊だからなあ!」
再び跳ねて来た銀色のアリを、横へと避けたクゥが蹴りで吹き飛ばす。
「見ろ! オレのふわふわあんよだ!」
「ふわふわなの!?」
「いや、ふわふわじゃなかったのでクソ痛かった……。
めちゃくちゃ硬いし重いわ、アレ」
「ふわふわ、大事……!」
「ジジイの詠唱が始まってる、もう少し粘るぞ!」
クゥが爆薬を上へと投げた。
落下してくるアリに直撃、続く兵士もまとめて吹き飛ばす。
「ジジイ特製爆弾もそろそろ弾切れか……!
ったく、敵が多くて小さいのも面倒くせえ!」
銀アリも諦めずに跳ねて、噛みつきを狙ってくる。
左に避け、再び蹴り飛ばし。
「あぶねェ……!」
足元へと走り込んできた赤い兵隊アリを跳ねてかわす。
噛みつきが一瞬掠ったのか、ブーツの一部が千切れて風に舞った。
「……数が多すぎて捌ききれねぇ……!
ジジイまだか……!」
「……『共振』!!」
マヌダールの魔法の光が、銀色のアリと繋がる。
銀色のアリから周囲の赤いアリへも輝く光の糸が繋がり、周囲一帯が輝いている。
「おい、何やったマヌさんよ! そこらじゅう光ってて……!」
「この光は意志を繋ぐ光!
……動物や獣、異界で言う魔物の感覚を読み取る魔法を使いましたァ!
銀色のアリに使ったのに、全体に繋がった……つまり敵は1体!
その銀色の個体だけです……!
周りの赤いアリは、そのアリに反応して動く、いわゆる小型ガーディアンみたいなものですよォ!
恐らく銀色が作り出している傀儡ですゥ!」
「1部隊を1人で操作しているというのか、出来るッ!」
ガダルが斬撃を繰り返しながら、正面の赤アリを蹴散らして走り込む。
「集団戦を1人で組み立てるとは手強い将軍ですぜ!」
ピートが巨木を振り回し、周囲一体のアリを叩き潰す。
「で、目的とか対策は俺が再び鑑定した方がいいか……?」
ピートを支援するように、浮かぶハンマーを操作するアードはだいぶ息切れが目立つ。
「いえ、だいぶ読み取れました。
食べたい、襲われた、戦わねば、守る、守る……みたいになっていますねェ」
「とってもアリだな……。
けれどそこまで意思があるなら、説得できるんじゃねえのか?」
「確かにッ……!
ですが、一般の獣はキャアさんのようにはいかないはずですよォ……!」
「できる、かな……。
怖いけど、ふわふわだからできる!
宝物は全部持って帰るんだ!」
「マト、危ねえ! 飛び降りるな!」
「ボクの欲が宝物だって言う意味が分かった!
中に巣を作ってガーディアンを動かせる、アリさんは必要なんだ!!」
ボクは銀色のアリをまっすぐに見つめ、体を沈めて力を込める。
捕まえる!
「手袋もふわふわもある! できる!」
跳んできた銀アリを横に避けて、両手を伸ばす。
避け方が甘かったか、大顎が掠った頬に血が滲む。
だが、身体を掴む事には成功。
そのまま地面へと倒れ込んで、全体重で押さえ込む。
「アリさん!!! 巣を攻撃してごめん!
代わりの巣になるガーディアンと、兵隊の素材の鋼鉄がお家にあるんだ!
ボクと来て欲しい! 戦ってる最中で意味わかんないかもだけど……!」
ガチガチと動くアリをなんとか押さえ込む。
力を緩めたら、今すぐ噛み付かれそうだ。
「キミが欲しい、キミが欲しい、キミが欲しい……」
物を奪い取る奪取があるなら、きっと心を動かしたり奪う技だって出来るはず。
「『あごの下』!!」
ギチギチと軋む音をあげるアリの背に、淡く桃色の光を纏いながらアゴをそっと乗せる。
ぽぅん、と可愛い音と共に沢山の光が弾けた。
「なんだ、それ……!?
いや、マト! 顔から血が出てる、大変だぞ!」
クゥが血相を変えて走り寄ってくる。
その時、アリは暴れるのをやめ全身の力を抜いた。
動き回っていた赤いアリも全て動きを止め、攻撃的な雰囲気が全て消滅した。
「アリが止まった……? マト、……これは?」
「わかんない……!
キミが欲しい、ボクと来てってお願いして、頭に浮かんだ言葉と動きをしただけ……!」
暴れそうにない。
のしかかるのをやめて、アリから降りる。
降りても、アリは暴れずこっちを向いているだけだ。
「マトくん! アリの興奮状態が解けています!
強力な洗脳や魅了ほどの力はないにしろ、そんな技かと思いますよォ!
ちなみに、うさちゃんがアゴを乗せるのはマーキングですゥ!」
「えー……マーキングなんだ……。あえて言葉にされるとキツいよ、マーさん……」
「マトォ……。いや、そんなことはいい……! ほっぺ大丈夫か?」
クゥがマヌダールの霊薬と布をポーチから取り出し、心配そうに頬を見てくれた。
大きなキズはなく、大丈夫そうとの事。
「クゥ、ありがと」
横でしゃがみ込んだクゥの膝の上にアゴを乗せておく。
お花が開いたような笑顔で頭を撫でてくれた。
アゴは最強かもしれない。
「で、アリさん。
お家を壊したり攻撃してごめんなさい。
アリさんは1人だけだよね?
お家に出来そうな大きなガーディアンと、それと同じ素材があります。
……それをあげるから、街を守る仕事を頼めませんか。
ご飯も出ます」
「ギチチ……」
「お、なんか答えたな。
ぺちゃって潰れた。良いよって意味か?
オレも足切っちゃってごめんな、後で上に飛んでるジジイに治してもらおうな」
「ぎち」
「答えてるね……」
「マトのアゴ、恐るべしだな……可愛いからな……」
「そうだ! 絆を結ぶってどうしたらいいの、アードのおっさん」
「マトさんは、まだチビッコだから出来ねえぞ。
獣を自由に使役するものだと思ってる奴もいっぱいいるが、そういうものじゃねえ。
オレもキャアと結んでいるがな?
これは『キャアが何か迷惑を起こしたら、俺が責任を取ります。ゆえ駆除しないでください』という意味だ」
「ボク、さんじゅう……むぎゅ」
「言うなマト。マトはチビッコ、覚えておけ」
「ふぁい……。じゃあ、アリさんはどうしたら良いんだろ?」
「そもそも仲良くなって、安心して街に連れていける、家に置けるから責任を証明するんだ。
んだから、そいつも連れて行くだけでいい。
絆は、戻ってからで良いだろうよ」
「分かった!
でも、アリさん部隊やこの飛んでる草ハウス、どうしよう……。
アリさん、これ持っていけないけど大丈夫?」
「ぎちち」
「あ、歩いてく」
「お、実の下で止まったな。踊ってるのか……?」
「アレが欲しいってこと? 寝る場所なのかなぁ」
結局、実を1つクゥが切り落とし、マヌダールが何かの霊薬をかけて保護。
袋のように処理すれば嬉しそうに横で銀アリが踊っている。
キャアもアリと何かを話している様子。
「きゃ、みかん」
「ぎちー」
「きゃあん、きゃ」
「ぎゅかん」
「……ウッ……。 オレには今、アリも何か喋ったように聞こえたんだけどよ」
「ボクも聞こえた……。わっ、キャア! 何!? 何!?」
歩いてきたキャアが、オレンジ色の袋をクチバシで突き、自分の鞍を続いて示す。
つけろ、ということかもしれない。
クゥが鞍に袋を取り付けると、キャアがアリを優しく咥え、袋に放り込んだ。
くるり、と袋の中で向きを整えると落ち着いたように休息へと入った。
「あっ、そこが良いんだ……」
その言葉と同時だった。
大量に居た赤い兵士アリは、鉱物や動物の骨などの素材へと姿を戻し。
浮人草を利用した巣穴はゆっくりと地に落ち、枯れ草へと変わった。
主たる銀色のアリの力の供給が切れた、という事なのだろう。
「とってもキラキラしてる。
帰ったらシハ遺跡のガーディアンをあげよう!
さて……と――!?」
視界の中のキラキラを追っていて気付いた。
森の奥へと飛んでいく輝きが集まり、光の柱のようになっている場所がある。
目を凝らす。
アレは――石造りの建物だろうか。




