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5-14「本当のふわふわを見せてやろう」

「此処は両手剣に変えぬ方が良さそうだ……!」


 魔装の力は使わず、小回りが利く通常形態の剣をガダルが構える。


「この世界のアリってこんな感じなの!?」


「オレはこんなの初めて見たぞ、サソリよりデカいし……」


 クゥが腰のポーチから試験管を取り出す。


「ナイフじゃないの?」


「無理だ、ナイフはやむを得ない時だけだ。

 あのサイズのアリと無傷で戦える気がしねえ。

 絶対毒もってやがるからな、手をやられるはマズい」


「でもクゥ、ボク、リーチのある武器ないよ?」


「しっかり袖下ろして、ふわふわしとけ!」


「ふわふわ……!」


「クゥさんよ、毛皮で多少は噛まれにくくはなるが……。

 まぁ、他に対策はねぇな。ふわふわしとけ!」


「ふわふわ……!」


「あっしはふわふわしてねえですから……素手はマズいって訳ですかい。

 んなら、枝で充分ですぜ!」


 ピートが倒木を拾う。

 長さはガダルより大きく、太さにして人間のふとももくらい。

 巨大な棍棒、木の棒の誕生である。


「ふわふわ……!」


「フハハ! 私もふわふわしている! ならば先陣は適任、任せておけ!」


 ガダルが透明なトカゲと戦うために発動した技は続いている。

 全身から赤や緑のオーラを吹き上げながら、崩れた大地のフチまで走る。


「ふわふわ……!」


 自分の両手(あんよ)を見る。

 一匹くらい叩いても大丈夫な気がしてきた。

 ふわふわだし!


「マトくん、ふわふわもそうですが、靴も履いていますし手袋も着けていますゥ!

 基本的には大丈夫ですよォ。

 クゥさんの探検セットは伊達ではありません……!

 さて……アードさん、キャアさんをお借りしますよ……!」


「おうよ、マヌさんに任せるぜ!」


「んきゃっ!」


 キャアによじ登ったマヌダールが空へと上がる。

 浮人草(マンフロート)が生えていた位置は幸いにも空が開けている。

 ジャングル内部でも空へと飛び上がれる数少ない場所。


「さあて、お前さん達! 地上組はそろそろアリの到着だぜ……!」


 浮人草(マンフロート)が浮き上がる事で陥没した大地を、赤いアリが登ってくる。


「んじゃ、到着前に挨拶だ!」


 指に挟んでいた試験管を、アリの群れへと投げ込めば真っ白い閃光を放ちながら爆発。

 味方を巻き込まない小規模の爆発だが威力は申し分がない。


「っしゃ、ぶっ飛んだか?」


「いや、足りてねえな。

 とはいえ俺らを巻き込まず使える範囲で調整されてやがる、やるなマヌさん……」


「爆発物でも倒しきれぬか! 多勢に無勢……しかし遅れはとらんぞ!」


 ついに目の前へと到達した赤いアリ。

 一歩踏み込み、地表スレスレに放たれたガダルの薙ぎ払いが唸りを上げる。

 ギィン、と金属同士の擦れる音が耳についた。


 数匹のアリが真っ二つになる。

 だが、思ったより倒せていない。


「硬い……! このアリ……鎧でも着ていると言うのか!?」


「ちぃ、硬いのは厄介だぞ……!

 魔装解放『風打ち(エアロスラスト)』……!」


 アードのレイピアが巻き起こす空圧が、アリ達を吸い上げ浮かぶ巣穴へと吹き飛ばす。

 巣穴は植物、叩きつけられた程度ではダメージにもならない。


 少しの時間稼ぎ程度の効果。


「やっぱり効かねえか……!

 効きそうだが、森の中で炎の魔装は使えねえ……!」


「アードさんのおっしゃる通りですよォ!

 湿度があるとは言え、森の中での炎は避けるべきですゥ!」


「ならジジイ! 何か策はあるか?」


「草を落とし、女王を倒すしかないですよォ!

 そのアリの兵隊に意思はありません、女王のコントロールするいわば小型のガーディアンですゥ!」


「なるほど、納得したぜ……! なら、あの草から女王を……」


「絶対にいけません!

 女王の能力も姿も不明、アードさんの情報だけが全てです!

 手元に引き摺り出した瞬間、首を刎ねられたり致死性の毒を打ちこまれる可能性までありますよ!」


「それはヤベエな……なら……」


「魔装や爆薬、私の魔法で巣である浮人草(マンフロート)を倒し地面に落とします!

 その後、遠隔攻撃で巣を破壊、外へと引き摺り出します!」


「雑だが分かりやすくて良いぜ!」


 クゥが試験管を2本同時に投擲する。

 進軍してくるアリへ1本、後ろの草は1本。

 2つの閃光が重なり、轟音が轟く。


 浮草の根の一部が吹き飛び、根菜のように実っていたオレンジ色の何かが弾けた。


「ッ……遠くでも分かるくらいすげえ匂いだぞ!

 箒で殴ってくるおばさんみてえな匂いだ……」


「クゥ、それを言うから殴られるんだと思うよ……」


 化粧品や香水の匂いに近い。

 浮人草(マンフロート)の人型疑似餌から放つ香りの素、だろうか。


「蜜としては使えねえな……、だが金にはなるらしい……けどよ」


「金にはなる……。

 そうだ、(デザイア)宝の在り処(キラキラ)】!!」


 光の粒子が示すのは森の奥への道と、今まで集めたお宝と、仲間達。

 そして、風に乗り纏わりつくのは……浮人草(マンフロート)の1つの実。


 やっぱり1つの実だけが光ってる。

 他には光がなくて……実の中で何かが動いてる……?


「第一階位、色、灯……『(マーカー)』!!」


 光の柱が突き刺さる。

 対象は半透明のオレンジの実。

 根の真ん中あたり、沢山実っている中の1つだ。


「あの実! アレだけが光ってて、中で何かが動いてる!」


「またこのパターンかよ!

 朝から何かの中で動いてるモノばっかりで滅入って来たぞ、オレ……」


「多分、女王だと思う。でもお宝みたい」


「蜜なら全部光るはずだからな。

 マトさんの能力曰く、蜜は捨てて良いって話か……。

 3000リーヴ金貨は美味えと思うんだが……もっと大事なモノって話だな」


「承知……ッ!

 あれを盗む、捕獲する、回収する……いずれにしろ、草から切り離し持ち帰ると言う事!

 ふわふわに任せておけ!」


 ガダルがアリまみれの抉られた大地へと飛び込んで行った。


「マジか!? マトの反応が可愛いから言ってただけだぞ、ふわふわ!」


「クゥ殿オオオオ!!!」


 今更言っても、もう遅い。

 飛び込んだガダルへ無数のアリが殺到する。


「本当のふわふわを見せてやろう、この程度の事でやられはせぬ!

 纏めて斬り捨てる……『狼の牙(リーシオンファング)』!!」


 踏み込み、力強く剣を薙ぎ払う。

 赤きオーラを放つ一撃は、そのまま回転するように円を描いて空へと昇る。

 飛びかかるアリも足元のアリも、赤き竜巻へと飲み込まれ、バラバラに切り刻まれた。


「このまま突っ切るッ……!」


 技を使わずとも、その斬撃は鋭く素早い。

 駆け込みながら的確にアリを蹴散らし、真っ直ぐ巣穴めがけてガダルが突き進んでいく。


「やっぱ強ぇぞ、ガダル……」


「今更それを言うのかクゥさんよ……このなかでマトモなのは俺くらいだぞ……」


「何言ってんだおっさん……。

 どんだけ魔装隠してんだよ、そこら街の財宝の数なんか比べ物にならねえ価値だろ、それ……」


「ガハハ、そう言われるのはちぃと気持ち良かったぞ、クゥさんよ!

 お前さんが狙ってくれそうなコレクションとなりゃ、俺も集めた甲斐があるってもんだ!

 さあて、俺らも負けてらんねえぞ!」


「やるか! マト、行くぞ!」


 アードが指輪を付け替えながら走り出す。

 クゥが並走しつつ、投擲式の爆発ポーションからナイフの二刀流に切り替える。


「敵の状態が不明ですよォ!

 宝なら、バラバラにしてしまう訳には行きません!

 威力の強い魔法は避けたい所ですゥ!

 小魔法は既に多く消費してしまい、私には扱えません。

 防御系の支援しか今しばらく出来ませんよォ!」


「分かったぜ、ジジイ! サポート任せた!」


「さあて、コイツを試させてもらう!

 魔装解放、ゲデアガ遺跡秘宝『地霊の大槌(ランドシェイカー)』!!!」


 悪趣味としか表現できない、ケバケバしい黄金の指輪が緑色に輝く。

 それに呼応し、浮かぶ身長ほどもある大槌が姿を見せた。

 背に城を乗せた陸亀の紋様が刻まれた、黄金色の神々しい武器。


「……良いねえ、これは俺の好みの造形だぜ!

 ……吹き飛ばせ『地霊の大槌(ランドシェイカー)!!」


 大満足の笑顔。

 眉間の皺も口角の上がり方も、見下ろす目も、まさに極悪商人アードである。


 大槌はアードの意思に従い飛翔し、大地ごとアリを叩き潰す。

 炸裂した場所には大穴が広がり、その威力の著しさが伝わって来る。


「おっさんなんだそれ!?

 やべえけど、宝はブッ潰すなよ!」


「ガハハ、粉々にしちまうかもしれねぇなあ!

 しかし……この魔装、ちぃと疲れるな……浮かべて飛ばして殴るか……」


「アードのおっさんがんばれ〜!」


「む……そう言われちまったら張り切るしかねえだろうが!」


 槌は高く飛び上がり、繰り返し隕石の如く降る。

 轟音と共に着弾……アリの群れが一気に弾け飛んでいく。

 ガダルの斬撃とアードの槌が、浮かぶ巣……浮人草(マンフロート)への道を切り開いた。


「流石おっさん! クゥの良いとこも見てみたい~」


 クゥの顔を両手(あんよ)でもしゃもしゃする。


「……おうよ、マトが言うなら仕方ねえなあ?

 おっさんに負けてらんねえからな!

 『加速(ラピッド)』――!」


 クゥの足元で風が渦巻き、緑の光が溢れる。


超跳躍(ハイジャンプ)じゃないの?」


「安全に着地できる気がしねぇ……懐まで走ったほうが良いってヤツだぜ!

 掴まってろ!」


「うん!」


 声と同時に大きく踏み切り、跳び出す。

 飛び出してくるアリを両手のナイフで弾いて。

 疾風の如く、切り開かれた道を走り抜ける。


 辿り着くのは巨大な浮かぶ巣の目の前――!


「さあて、仕事の時間だぜ!!」

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