5-13「カタツムリに続いて最悪なんだけどよ」
「確かにマヌさんの言う通りだぜ、こんな森の中で人に擬態する理由がねえ」
アードがヒゲを指で弾きながら唸る。
「うん、確かに。
あれ? ……背中がブルってした、嫌な感じ」
「マト……? 全員、警戒してくれ。
……囲まれてるな……オレも今まで気付かなかった」
「どうやら、ぐるっと周りに何か居やがりますぜ」
「ッ……私とした事が気付かないとは……!」
ガダルが静かにバスタードソードを構える。
「きゃああん! きゃっきゃっ!」
翼を広げ、キャアが叫びを上げる。
顔がシワシワで可愛くない。
インコなのに可愛くない……!?
これか! この顔になってるんだ……。
「来るぜ! 構えろ!」
クゥが腰の短剣を抜いた瞬間。
激しい足音が周囲から近づいて来る。
が、姿は見えない。
「……!? 足音だけ!? オバケみたいなやつ!?」
「……んにゃ、マト。
これは潜駆の出来損ないみたいなやつに違いないぜ。
消えるタイプの獣はトカゲとカエルに多い……足音的にはオオトカゲか?」
「厄介すぎんだろ、クゥさんよ!
目立つ植物罠と、周りから迫るオオトカゲねえ。
ったく、俺に剣を抜かせやがってよ……!
魔装開放『風打ち』!!」
甲高い風の音がアードの周囲で渦巻く。
構えたレイピアが青緑の閃光を放ち、空圧を正面へと叩き込む。
巻き起こされた突風が突撃して来る透明な何かを捉え、浮き上げ、奥の大木へと叩きつけた。
「なるほど……ここは気合いを入れるべき所、と言う事だな。
『加速』『剛力』重ねて『集中』『捕食者の瞳』『超化』!!
なるほど、確かにオオトカゲの群れだ!
クゥ殿、流石の感覚だ!」
ガダルが駆け出し、バスタードソードを振り上げる。
斬撃音の後、空中へとトカゲの尻尾が切り飛ばされたのが見えた。
身体から切り離された部位は、透明化が解けるのだろう。
「素早いな……!
だが、本命はこちらだ!」
高く掲げられていた剣が真っ直ぐに振り下ろされれば、オオトカゲの背を貫く。
同時に、その姿が顕になる。
技が切れた……仕留めた、と言う事。
「良い腕ですぜ、ガダルさん! あっしも負けてられねえ!
透明になる相手は何人か戦いやしたが、全員ブーイングされてましたぜ!」
ピートが目を閉じ、体を深く沈め込む。
一歩踏み出し、大きく息を吐き出した瞬間。
何かを掴んだ。
それを振り上げ地面へと叩きつける。
前、後ろ、と繰り返し何度も叩きつければ、動かなくなったオオトカゲの姿が見える。
「……意外と早いダウンでしたぜ」
「きゃあああん!! きゃっ!」
駆け出したキャアは真っ直ぐに突進、飛びつくように鉤爪を振り下ろす。
その斬撃はオオトカゲの首元を捉え、一撃で仕留める。
その動きに無駄は無く。
続く後ろ足の蹴り飛ばしが、次のオオトカゲを木へと叩きつける。
「……お前らよォ……。透明化を簡単に突破するのは勘弁して欲しいぜ……」
「潜駆!」
「ん? おーマト、可愛い顔が見えちまった、オレも突破成功だな!」
「にししー」
「で……オレは仕留めるのは向かないんでな!」
ヒョイと跳ねれば、足元を透明なトカゲが走り抜けていった。
くるりと回って音もなく着地、トカゲの動きを追う。
「戻ってこない? オレらが狙いじゃないってことか?」
「あのあのあの!ちょっと待ってくださァい!
皆さん!? 透明ですよォ!
見えない! 見えない敵が来てるのに!?
ああああーーッ!
噛まれそう! 噛まれそうですよォ!」
マヌダールが慌てふためきながら走り回っている。
キャアの戦う後ろ側へと偶々走り込んだ形になり、難を逃れたようだ。
「ジジイのその反応で安心したわ、普通そうなるんだよな……」
透明なトカゲを仕留めてしまったチームが親指を立てて悪い笑顔を向けてきた……。
これは……「お前達を見ている」……そう言う意味だ。
ボクとクゥは、プイと目を逸らした……。
「マヌダール殿、そちらにはもう居ない! 安心して聞いてくれ……!
すり抜けたトカゲは今、あの植物の罠らしき所に突撃している……!」
「キッヒィ!!! ……おほん。植物へ突撃している、と。
――なるほど、分かりましたよォ!
あの植物は『獲物』として弱い人間を模した疑似餌、丸腰の存在を作り出して獣を誘引する!
私達は先陣を切ったアード殿の魔装や、ガダル殿の気迫、ピート殿の攻撃力から『獲物』と認識されなかった!
ゆえに、関わりを避けて丸腰の疑似餌へと走っている!」
「……なるほどな、マヌさんよ。ならもうすぐ――あの胡散臭ぇ植物が動くぞ!」
森の中でも違和感のある、丸く開けた場所に立つ裸体の女性。
どう見ても罠だ。
この領域全部が女性型の疑似餌を持つ植物のトラップだろう。
透明なトカゲの数匹が、その疑似餌らしき女性へと飛びついていく。
ぐにゃり……とその体が歪んだ。
結びついたロープが解けるように、女性の身体は肌色のツルに戻る。
その色は一瞬で緑色へと変わり、四方に広がった。
カメレオンが色を変更する、タコが色を変える……そんな瞬間芸のような色変わり。
「きもちわるい」
「オレもそう思う。カタツムリに続いて最悪なんだけどよ」
「お二人さんよ、俺も帰りたくなってきた」
「あまり気持ちの良いものではないな……」
「あっしは、まぁ、人の形してるよりやりやすくて助かりますぜ」
「女性部分もツルだったとは意外ですよォ!
けれど、この周囲の違和感のある丸い空間――その説明がつきませんねェ!」
「あっ……」
「開いてたツルが閉じたな」
「……トカゲが飲み込まれた。
まるで、巨大な水生動物が触手で丸呑みするが如くッ」
「ガダルてめぇ、言い方どうにかならねぇのか!
んッ……揺れてるか?」
「揺れてますぜ!!」
太く触手のようなツルが蠢く中心部分から、地面が割れる。
ずるり……と何かを地中から引き抜くように植物は浮かび上がっていく。
それは巨大な根菜の根。
ジャガイモやサツマイモの根のような、太くて長い根がザワザワと蠢いている。
もちろん、根にはたくさんの実がぶら下がっている。
実は半透明のオレンジ色。
中には――動物のものらしき骨が包まれている。
「……マトォ……。
もしかして光ってるトコはよォ……あの実みたいな奴か……?」
「うん、1個だけ光ってる……。
多分食われた何かが実の中にあるんだと思う……」
「お宝収穫してさっさと先に進もうぜ……」
「ギュウウウウウウウウウ」
完全に浮かび上がった植物が野太い鳴き声を上げる。
一番上のツタ部分が触手のように蠢き、根がザワザワと揺れる。
咆哮は上の方……おそらく触手が囲んでいる中央が口だ。
「あああああ! 鳴きやがった!!! なんでだよ!
今日本当にツイてねぇな!」
「……俺も同乗するぜ、クゥさんよ。
だがしかしな……お前さんは不幸もウリだろ、気合入れな!」
「キヒィ、こんな存在は図録にもありませんよォ!
正体不明ですが、人や獣を食う罠を作るタイプの食獣植物ですゥ。
触手のようなツタは形状や色を変えられ、植物を捕食する器官……。
浮き上がってきた根には実、中には死骸――。
地中から浮き上がる必要などないのに飛んだ……ということはァ」
「あの根も武器だって事だろ!!」
「ご明察ゥ! 私もそう思っていますよォ!」
「なるほどなぁ、武器。だが――木や草、特に実には薬効があるって言うじゃねェか。
俺は専門家じゃねえから?
別にそこまでとは思わねえんだが……金の匂いがするなァ!
欲【鑑定眼】!!!」
アードが躊躇いもなく指で窓を作る。
この理由付けなら力の対象にもなるはず。
「敵は『寄生壺蟻』――!?
食獣植物に寄生するアリの一種。
大型の食獣植物を巣穴として寄生。
宿主になっているのは、『浮人草』……人型の疑似餌を持つ飛行能力のある食人植物。
植物の持つ特殊能力を女王が奪い取り、あたかもその植物のように振る舞う。
宿主にも栄養を与え成長させながら巣穴を拡張、その根の実に獲物を保存し蓄える。
非常に希少なアリで、その蜜は香りが良く美味だと珍重される。
蜜は――少量でもリーヴ金貨3000枚、とのこと」
「おっさん……早口でよく分かんねぇけど、あの化け物草の中にアリが住んでて、高い蜜があると」
「そうだな、それで間違いねぇよ、クゥさん。
だが悪いのはここからだ……。
このアリ自体も人や獣を食う。
植物として振る舞っている際は外に出てこない。
本来は超攻撃的で獰猛な為、巣に刺激を与えたり危険が迫れば嬉々として襲いかかってくる。
アリ達の大きさは拳くらいだが、女王は人より遥かにデカいらしい……」
「アード殿! それ以上説明を聞く時間はなさそうだ……!
弱点が読み取れたら教えてくれ!」
ガダルの言葉と同時に、その根を突き破り、無数のアリが溢れ出してくる。
赤い甲冑を着込んだ、どうみても攻撃的な兵士アリ。
「弱点は……全てのアリが女王と連結されており、女王を倒せば巣穴ごと滅ぶとのこと」
「厄介すぎんだろ!しかも巣穴が『飛べる草』って事か……逃げても追ってくるな」
「放置すれば被害も広がりますよォ! アルクバーグに近づけるわけにはいきません!
ここで仕留めましょうゥ!」
「マト、今回は敵が小さい……オレのサポートもしてくれ!」
「うん、任せて!」




