5-11「クゥさんよ、こいつはやべえぞ……!」
「……鳴くんだ、そのイモムシ……」
「おう……」
芋虫2匹を抜き取られた、巨大カタツムリは凍結したまま動かない。
そして、芋虫強奪団が空から皆の元へと帰還する。
「もどったよ〜!」
「任務完了ですぜ!」
「……盗ったぞ……芋虫……」
「キヒィ!!! 気持ち悪いですねェ!!!」
「オレも気持ち悪いんだよ! 第一声がそれかよ、ジジイ!!!」
「……面妖だな……」
「ガダル! 目を逸らすんじゃねえ! 見ろ、芋虫を!」
「ガダルがくしゃくしゃになった」
「ん、この虫、そんなに気持ち悪いですかい?
耳を澄ませてくだせえ、ほら……ギュピギュピ良い声で鳴いてますぜ!」
「ぎゅぷっ」
「オ゛ッ……」
「クゥさんよ……お前さんでも、この手のものはダメなんだな……」
「おっさんもダメだろ! なんで今、手袋しやがったんだ???」
「キメぇからに決まってんだろ、馬鹿野郎!」
気持ちが悪いお宝。
緑と黒の縞々の幼虫、大きさは赤ちゃんくらい。
鳴き声はぎゅぴぎゅぴ。
居た場所、巨大カタツムリの目。
「……ボクにはこれ、よからぬ寄生虫に見えるんだ……」
「言うな、マト……。
わー! 大きな幼虫だね! が正解だろ……。
おじさんの顔にならないでくれ……」
「……いやあ、マトさんよ。
くしゃくしゃになるのも分かるぜ、これはキツい……。
でもデカいカタツムリとか普段居ないからな、売れるかもしれねえ」
「……アード殿、まさか触らなくて済むように赦を使うつもりでは……!」
「赦を使うって言い方をするんじゃねぇ、ガダルさんよ!
だが正解だ、オレは触らねえぞ!
欲【鑑定眼】!!」
アードが指で窓を作ると、ふわり、と目の前に輝く羊皮紙が生まれる。
「……む……。
んん……? ……おお……」
「どうしたんだよ!! やべえのか! 価値はないんだな? 捨てて良いんだな!?」
「クゥさんよ……そうはいかねえ。そいつは確かに『ヤバい』代物だ。
『妖精虫』希少種、とのこと。
属性は水、治療の力を持つ成虫へと進化する。
価格は1万リーヴ金貨。
偽水大型個体の眼球に寄生して育つらしい。
宿主の力を奪って育ち、赤子ほどの大きさになると蛹になる……」
「なあに、妖精虫って」
「俺は水や風なんかを使う小型の種族を妖精って言って売ってきた。
だが、妖精虫は聞いた事がねえぞ……」
「キーヒッヒッヒ!! ならば私がご説明しましょう!
妖精、とは正式な種の名前ではございません!
正しくは『妖精虫』種ですゥ。
可愛らしい個体でも不気味に聞こえてしまうので、現代では妖精という略称が広まりましたァ」
「なるほど、もともと虫の仲間って事なんだ、妖精さん」
「はぁい! マトさんが言う通り……!!」
突然、マヌダールが見慣れぬ素早い動きでクゥから離れた。
同時にアードがピートから走って逃げる。
ガダルは既に遠方で剣を構えている。
キャアに至っては一瞬で空だ。
「おい、お前ら!! 何処に行きやが……」
「クゥ! 芋虫が光ってる!!」
「やめてくれ! もう無理! 無理だってマジで!」
「ぎゅぴぃ」
「クゥさん! あっしの虫ちゃんも光ってますぜ!」
「ピート!! 掲げるんじゃねえ! 神殿のありがたい絵みたいになってんだよ!
やめろ! そのポーズをやめ……うああああ!」
「やだあああああ」
ボクの眼前で、虫が発光し浮き上がる。
噴き上がる水色のオーラが収束、幼虫に巻きつく。
バキバキという硬質な音が響き……ゴトン、と地面に落ちた。
それは、蛹の形をした水色に澄んだ宝石。
イモムシよりはわりとマシだ。
わりとマシだけど、プラモデルの透明パーツで作ったカブトムシのサナギみたいだ……。
「……お、これならイケるわ」
「うん、これならイケる」
クゥが地面に落ちた美しくて大きな……サナギを抱えあげる。
「ぎ……ぴ……」
「あああああ! 前言撤回!!」
「おい!!! クゥさんよ!!! 1万リーヴ金貨を投げるんじゃねえ!!」
「うるせえおっさん! 鳴いた! サナギが鳴いたんだよ!!」
「クゥ、お宝だから拾おう……」
「くそ……そうだな……」
クゥが一度は投げ飛ばしたサナギを拾い上げる。
「あっしが運びやすから、任せてくだせえ」
ピートがにこやかに走り寄ってきた。
ピートの抱えるサナギも同じ物のようだ。
「助かるぜ」
クゥは躊躇なくサナギをピートに手渡す。
まるで、逆奪取、目視できぬ程の速度。
本当に触りたくなかったのが分かる。
「……キーヒッヒッヒ、そんなふうに成長するのですねェ!
興味深い! 興味深いですよォ!」
「そうだな、興味深いな」
「うん、興味深い!」
「そうだな。呼び方の違いなども学べた、良い経験だったと俺は思う。
……欲【鑑定眼】……!
……うわ」
「どうした、おっさん!?」
「クゥさんよ、こいつはやべえぞ……!
おいピート! 丁寧に扱え、最悪お前が2体とも背負っておけ!
そいつの価値が3万リーヴ金貨に変わった!
成長すると高くなってやがる!
サナギから成長するのに栄養は要らねえようだ、寄生はされねえから安心しろ!」
「……!? この虫ちゃん、そんな高いんですかい!?」
「高い!
大人になれば使役する契約もできるとの事だ。
今のところピート、てめぇしかそのサナギを可愛がれねえ、育てろ!
成虫への成長は自然環境の影響を受けるらしい。
マガロの森の力だ、悪くねえだろ」
「畏まりやしたぜ、大将!」
いそいそと梱包し、背負う準備に入るピート。
サナギが布で巻かれ、赤ちゃんお包みスタイルが出来上がってしまった。
ちょっと可愛いかもしれない。
「よし、虫の処理は終わったな」
「キーヒッヒッヒ! 終わったとお思いですか、クゥさん!
まだ、大事なことが残っておりますよお!」
「ん?」
「クゥ、あれ」
「凍ってるカタツムリか!! ん!? なんか、バキバキ言ってないか!?」
「寄生型の妖精虫は宿主の力を全て吸い出し、亡骸の鎧として使うのですよォ!
つまり、そこで凍っているカタツムリは巨大な死体。
水のような体、土のような殻。
何が起こるかお分かりですねェ!!」
「崩れるって事じゃねえか!
全員走るぞ……! マト、道案内しろ!」
「欲【宝の在り処】アアア!
あっち!! カタツムリの後ろ側! 光の粒が飛んでく!」
「全員、撤退ーッ!!!」
皆が走り出す。
ピートは相変わらず遅いので、キャアが回収した。
地味に背中の幼虫に興味を示している。
カタツムリは嫌いだが、もしやコレ、食べるのでは……?という空気。
「キャアさん、食べちゃダメですぜ。大きな虫ちゃんになるかもしれねえ」
「みかん?」
「みかんじゃねえですぜ」
「きゃああ〜」
「こっちは大変なんだよ! のんびり会話してんじゃねえ、ピート!
しかも、俺のキャアが今みかんって鳴いたのか!?」
「みきゃあああん」
「いいから走れ、おっさん!全力出せ、すげえ揺れてる! 音もヤバい!」
ガシャアアアン、と砕ける音。
続いてドォンという凄まじい揺れ。
凍って砕けたカタツムリの一部が、超巨大な氷柱として降り注いでいる状態だ。
「キヒィ〜〜!
死んだ偽水は大地に吸い込まれ、森を育てる大きな栄養になるらしいですよぉ!
素晴らしい循環ですねェ〜!」
「今ウンチクは要らねえ、すぐに逃げろ!
ん? 大地に吸い込まれる……? マト、そういやカタツムリ全身が光ってたんだろ」
「そうだった! ……クゥ、まだあの氷柱光ってる!」
「みんなは距離を取っててくれ!
オレとマトはやる事がある……!」
「馬鹿野郎! 命あっての宝だぞ、クゥさんよ!」
「弟子も一緒なんだ、任せとけよ、おっさん!」
「うん! ボクとクゥなら、氷柱の破片を持ってこれる!」
「ったく仕方ねえな……!
ヤバそうならカバーするが……お前さん達2人ならやれんだろ! 任せた!」
「もちろんだぜ! 見た感じ、破片は地面に刺さった瞬間に消えちまってる。
つまりはよ……落下中に回収しなきゃいけねえ」
「キヒィ! 純度が高ければ培養して増やせる素材ですゥ! 量は必要ありませんッ。
ただの水分なのか、偽水の身体なのか見極めて回収して下さいねェ!」
「見てわかんねえよ!」
「ううん、クゥ……ボクなら分かる!!」
「そうだったな弟子! 行くぞ!」
クゥが走り出す。
降り注ぐ無数の氷柱を、その身体能力で難なく回避しつつ走り込む。
「不安そうな顔をするんじゃねぇ!
なんとかするのが――オレ達だろうがよ!」
「うん! ……見えた! 上!
デカい氷柱の中に光の塊!」
「アレか!」
その言葉と同時に、妨害するかの如く目の前に氷柱が突き刺さる。
「クソ、この位置は届かねえ!
なら『奪取』で……マト、どれだ!?
オレには全部同じ氷にしか見えねえんだ!」
クゥへ『印』で知らせるのは間に合わない。
「奥の大きな氷柱の真ん中! 光の塊があって!」
この一瞬で伝えきれない。
ボクがやるしかないんだ。
習ったばかりじゃないか。
小さな願いは、なんだっけ。
咄嗟すぎて思い出せない。
なら!
「『金貨一枚残さない!』
『金貨一枚残さない!』
『金貨一枚残さない!』
『奪取』!」
ボクは氷の中のキラキラを掴むように手を突き出した。




