5-10「エッ……」
「重ねるぞ、ガダルさんよ!
魔装展開――氷晶の塔ティカ遺物『氷の天蓋』!!」
アードの手から、美しく澄んだ水の玉が浮かび上がり。
生み出される薄く柔らかい布のような水が、ガダルの作り出した結界の裏側へと張り付いていく。
「……恩に切る、アード殿! だが私の盾も簡単には壊させぬぞ!!」
「頼むぞ、ガダルさんよ!
お前さんの盾が耐えてくれねえと、この先に続かねえからな!
そこだ……凍りつけ!」
魔装が水の玉から氷の玉へと姿を変える。
同時に広がっていた水膜が氷へと変わり、強固な壁と化した。
「これで冷気を帯びた結界の盾……水攻撃なら凍結させて食い止められるはずだぜ!」
同時に、ガダルの結界へ触れていた水槍が一斉に凍結、砕け散る。
「流石だ、アード殿!
……! もう一度来るぞ!」
「ニュオオオ!!!」
竜より巨大なカタツムリは、空気を震わせるほどの咆哮と共に全身に突起を生み出す。
再びその体より作られた体液のトゲは射出され、降り注ぐ無数の槍と化した。
「何度やっても同じだと教えてやろうぜ、ガダルさんよ!」
「当然だ! この盾、破らせはせぬ……!」
「凍りつけ!!」
赤きオーラの結界に重なって、輝く冷気の粒子が舞う。
敵の水槍が結界に触れた瞬間、次々と凍って崩れ落ちた。
2人の連携で、敵の放つ水槍は防げている。
だが、突破する名案はまだ見つからないまま。
ジリ貧な事に変わりはない。
「マト、集中しろ!
敵は動きが鈍い……! 集まってるキラキラを見極めるんだ!
……出来るな?
盗賊はよ、感覚的に宝の価値を見定められねえとな?」
「分かったよ、クゥ! やってみる!!
欲【宝の在り処】!!」
視界に宝を示す黄金の煌めきが再び生まれて、舞い上がる。
飛ぶ先は巨大カタツムリと、森の奥。
カタツムリは全身……ただ、殻よりも透き通るゼリーのような身体に輝きが纏わりつく。
輝きの量は……体の上部のが多い気がする。
集まっているのは……眼のような、ツノのような頭部の突起……?
「クゥ、頭の出っ張り! 眼みたいなところにキラキラが多い!」
「ピート、ジジイ聞いたか?
あの突起を狙う……!
軟体の体への攻撃はオレ達にはキツい。
すまねえ……マヌダール、魔法を貸してくれ」
「おや、クゥさん……ジジイと呼ばれないと不吉ですよォ!
気持ち悪いので言い直してくださいねェ」
「めんどくせえなジジイ! せっかく気を遣ってやったのによぉ!」
「……それに。貸してくれではありませんよォ。
借りたら返すのが当たり前なんですよォ、盗賊さん……!
覚えておいてくださいねェ!
キーヒッヒッヒ! それでは、私もォ! 王国図書館から『拝借』致しましょう!
欲【司書なき図書館】!!」
マヌダールの手元に古ぼけた絵本が現れ、蒼き光に包まれる。
その周囲で舞う白き光は、まるで雪のよう。
「縷々たる書庫、棚は絵本。開くは物語、攻撃術……!」
「にしし、拝借ねェ。
ジジイだって返す気なんてどこにもねえじゃねえか! ……任せたぜ」
「……マヌダール殿の魔法が完成次第、結界を解いて下がる!
クゥ殿、ピート殿……攻撃を任せたぞ」
「俺もガダルと下がる!
守りは任せておけ!」
「畏まりましたぜ!
あっしは右の出っ張りを叩きますぜ!」
「なら、オレらは左側だ! マトは続けて敵を観察し続けろ!
……かっぱらうぞ!」
「うん!」
「北の逸話――妖精の城。
真っ白な街。静かに舞う雪の羽布団から頭を出すのは氷の塔。
家も、城も、鳥も、人も――その永遠の氷の中で眠っています。
幸せとは変わらぬ事、そう伝えた姫の夢の守りで」
「……行くぜ!」
クゥの声と共に、ガダルとアードの結界が解除される。
クゥとピートが前へと走り、盾を生み出す2人は後方へ。
「『氷晶の夢』!」
マヌダールの開く本は、灰となって空に消えた。
瞬間、巨大カタツムリの真下から鋭い氷の塔が飛び出し――その身体を貫く。
その塔は、絵本の表紙に描かれた物。雪に閉ざされた街の巨大な時計塔だ。
名を――氷晶の塔ティカ。
「マヌさんよ、粋な事しやがって――!
魔装が反応してるぜ……今なら、もっと力を貸してくれそうだ……!」
貫かれたカタツムリが一気に凍結していく。
しかし巨大すぎる。
その全身を凍りつかせるには、塔という槍1本では足りない。
「応えろ『氷の天蓋』!!
今日の3度の力、全てカタツムリにくれてやれ!!」
アードがオーブを掲げれば、魔法と力が反応し――その姿が変化する。
オーブの中央に現れるのは懐中時計。
青く強い輝きを放てば、その秒針がピタリと止まる。
同時に、敵へと突き刺さった氷の塔から鐘の音が響く。
そして一瞬の事。
カタツムリは氷の膜に包みこまれ、完全に凍結した。
「今ですよォ!!!」
マヌダールの叫びに合わせ、震えていたキャアがついに翼を開く。
走るピートの元へと舞い降り、その背へと誘う。
「よくやったキャア……。
うちの見習いは、マトと走る速度あんまり変わらねえからな……」
小さな溜息1つ、アードが呟いていた。
「お、キャアもやる気か? んなら――この高さなら届く!
マト、掴まってろ! 吹っ飛んだら、説教だぞ!
『超跳躍』!!」
もはや、それはジャンプと呼べる代物を超越している。
大地を蹴り、まるで飛ぶが如く空へと突き進む。
耳が風に煽られ、一瞬身体が浮きそうになる。
しっかり、掴まらなくちゃ……!
カタツムリに突き刺さる氷の塔へと辿り着けば、クゥは続けて技を発動。
「そんで、『壁走り』ってな!
氷は危ねえからな、しっかり技で補助だ。
……滑らねえって願いだからな、これはよ!」
「おーッ」
変な声を漏らす事しか出来なかった。
視界はまるで頂上へと登っていくジェットコースターだったから。
「うっしゃああ! 到着だぜ!
カタツムリの角――中にあるのは……なんだ? アレ……」
「緑と黒のシマシマの玉……?
玉じゃない……何かの幼虫……?」
「むちゃくちゃ気持ち悪いんだけどよォ」
「わかる、むり」
「ほら、ちゃんと見ろ!」
「クゥ!? クゥも気持ち悪いんじゃん!
大ミミズ大丈夫だったのに!?」
「大ミミズはデカいから大丈夫なんだよ!
あの赤ちゃんくらいの大きさの芋虫は無理だ!
ほら! 弟子の仕事は見ることだろ!」
「むうーーー!
うわッ……超光ってる。あの幼虫、やっぱり何かのお宝だよ……」
「エッ……」
「何その顔!? エッ、じゃないでしょ、師匠!」
「今だけ師匠って呼ぶんじゃねェ、弟子よ!
マト、今から『奪取』のやり方を教えるぜ。
この大仕事、マトがやるんだ」
触りたくないだけじゃん!!
「え~! クゥがカッコよく盗むトコ見て覚えたい」
ふわふわの両手でクゥの顔をぷにっ、と押す。
「くしゃくしゃの顔で言うなよ……はい、笑顔」
「にー」
「仕方ねぇな……。おっし、頑張るか……」
両手をワキワキしながら、カタツムリの角を登って丸まった緑と黒の芋虫……らしきモノへと近づく。
瞬間、真横でガシャアアン! という氷が砕ける音が響く。
チラリと見ればキャアの背から飛び降りたピートが、思い切り角を殴り飛ばし破壊。
中から出て来た芋虫を抱きかかえ、キャアの背に戻っていった。
「何やってるんですかい?
腕力での破壊は厳しいかもしれませんぜ、あっしが壊しましょう」
ピートは大丈夫なんだね……。
いや、待って? 動いてる! その芋虫ウネウネしてる!
カタツムリに居る虫ってロクなイメージないから触りたくないよ!?
「あッ! ぼ、ボクがね! クゥに技を習ってた!」
咄嗟に叫ぶ。
「お、おうよ! オレが今、弟子に技を伝授するところだぜ!」
上手い! 上手く誤魔化した!
「そりゃあ大事ですぜ、あっしも見学しやしょう!」
「きゃあん~! みかん~!」
「うわッ、キャアが言葉覚えてる!!!」
「なんで今なんだよ!? それにみかんじゃねェ、アレは芋虫だ……。
くそ、やるしかねェんだな……!
願いは『それはオレのもの』だ。
いくぞ! 『奪取』!!」
クゥの伸ばした右腕が緑の光に一瞬包まれた気がした。
ガダルの使う漫画のような派手な技と違い、気配がほとんどない。
ただ腕を伸ばしただけ。
その瞬間、ギュピッというゴムが軋むような音が目の前で響く。
「オ゛ッ……」
めちゃくちゃ嫌そうな声を出したクゥの手には、芋虫が抱かれていた。
「……気持ち悪いし、なんかムカついてきた」
「んッ!? マト、もしかして妬いてるのか?
なぁ? 妬いてる?」
「えー。そんなコトないよー」
「棒読みやめろ! オレも気持ち悪いけど我慢してるんだよ!
後でマトも抱っこするから!」
「お、回収完了ですかい? んならキャアさん、クゥさんも乗せてやってくだせぇ」
「きゃあん!」
「助かるぜ、キャア! 急いでくれ――本当に! 急いでくれ!」
クゥがキャアの背中、ピートの後ろへと飛び乗れば、一直線に皆の元へと降下する。
「クゥ、芋虫動いてるね……」
ボクはギュプギュプする輝くお宝から静かに目を逸らした……。
「目を逸らすなら口に出すんじゃねえよ……。
このお宝ヌルヌルするぜ……」
「え~……」
「ぎゅぴゅ」
「鳴くなよ!!!!」




