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5-9「マガロさんよりデカいですぜ」

「んんん! すごい音したよ!」


「ああ、オレにも聞こえたぜ、マト。

 その宝物の木の芽を採ったらすぐに行こうぜ」


「うん! マーさん、この小さなみかんの芽、持っていける?」


「キヒィ、勿論ですよォ!

 まだまだ手のひらくらいですし、邪魔にもなりませんッ!

 少しだけ大きめに土を掘って、皮袋に入れましょう!

 トゲに気をつけてくださいねェ!」


 大きな音に驚きも興味もあるけれど、目の前の小さなみかんの木も宝物。

 根を傷つけないように掘り起こし、皮袋に入れれば運べる苗木に早変わり。


「……トゲの形に癖があるな。これは、東の方のみかんだな。

 キャアを保護した奴が持って来たやつだろうよ」


「みかんの木、トゲあるんだ」


「転移者が作ったやつにトゲは無いらしい。

 まあ、みかんってのも古代の転移者が名付けたらしいがな」


 やっぱり……。

 野生のみかんにはトゲがある、と聞いた事があった。

 これは、美味しい品種も持ち込まれている……って事だろう。


「きゃっ! 」


 キャアが座り、首で背中を示す。

 乗せてくれ、と言わんばかりに。


「おうおう、キャア。お前さんが運ぶんだな?

 じゃあよ、この布もお前さんの見つけた宝物だ」


 汚れた魔装をキャアの鞍に括り付ける。

 続いてみかんの苗木の革袋も吊るし、準備は完了だ。


「きゃあん!」


「今日の最初の稼ぎはキャアか、負けてらんねえな!

 っしゃ、でかい音の方に行くぜ!

 どう考えてもロクでもねえ!

 ロクでもねえってことは、何かあるかもしれねえって事だ!」


「うん! 行こう!」


 一同は出発する。


「ん~ッ、変だなあ。光が飛んでいく方向が、さっきの音の方じゃないみたい」


 うさぎの耳なので、それなりに音には自信がある。

 聞こえて来た方向と、キラキラの示す宝の位置は異なっている。


「それなら、キラキラしてる方に行くべきですぜ。

 宝の影響で違う場所で音がした、なんて事もありますからなぁ」


「ピートが言う通りだな、マト、光の位置への誘導を頼む!」


「分かった! 音はあっちの奥!

 宝物のキラキラはここから左に飛んでる!」


「んなら、左だな。マトさんよ、他に気配とかは感じるか?」


「うーん、分かんない……! キラキラも1ヶ所へ飛んでる気がするよ!」


「む……。アード殿、マト殿。私の鼻が違和感を感じている」


「ガダル? 匂い……?」


 ボクは鼻をふんすふんすと動かす。

 言われてみれば、森の遊歩道……爽やかな木々の香りとは異なっている。


「……オレも言われるまで気付かなかったが……今までの香りと違うな。

 湿っぽい……森の緑を濃く濃集したような」


「キヒィ……明らかに湿度が変わっていますよォ!

 これは話に聞く南方の密林、のような空気なのではァ」


 違和感を感じつつも、皆は進む。

 光の標はこの奥へと続いているのだから。


「暑い……ですぜ。さっきまでと大違いですぜ」


「うん、ピートの言う通りだよー。

 毛がベトベトになっちゃう、すっごい暑くてジメジメ……」


「……同じ森でここまで気温が違うのは、違和感通り越して胡散臭え」


「森、異常な湿度……東の森で聞く現象にもあったな。

 たしか森の香りが濃くなって、暑くなったら……」


「引き返せ、だな、アード殿。

 シハでも南方にある森での活動には気をつけろと伝えていた」


 歩みを進めれば、湿度は上がり続け。

 ついには蒸気の如く、霧が地面から湧き上がってきた。


「……皆さんのお話で検討がつきましたよォ」


 全員の目が鋭くなる。


「先ほどの大きな音も、この暑さやジメジメと同じ物が原因でしょう。

 暑く雨量が多い森にしか生息しない筈ですがァ……これは偽水(フェイクスプリング)と思われますよォ」


 マーさんが言うには、湧き水に擬態する大型の軟体生物らしい。

 森の中で泉のフリをして、人を誘い近づくとその中へと引き摺り込んで消化する。


「だがよ、ジジイ……こんなズレた匂いで誘うってのは違和感がねえか?

 ぜんぜん元の森の匂いと違うぜ?」


「クゥさん。私は教師をしている時に南方の森へ行った事がありましてェ。

 その時の森を濃くしたような香りですよォ。つまり、外来種が住み着いたかと」


「マヌさんの言う通りだろうな。

 キャアの育ての親もそう、そもそもキャア自体も森の外の生き物かもしれねえ。

 外から持ち込まれた物が居着いた、ってのは可能性が高いな」


「む……皆、止まるのだ。生臭い……これはもはや泉を語れる匂いではないわ!

 私の鼻は欺けんぞ!」


 ガダルが皆の前へと走る。

 その木陰の先……エメラルドグリーンの湧き水が姿を表す。


 クゥの肩の上から見える泉は、素晴らしく澄んでいて宝石のように美しい。

 その水底は土。

 水草はなし、魚もなし。


 頭蓋骨、あり。


「動物の骨が! そこに埋まってる!」


「……って事は……こいつはマーさんが言う偽水(フェイクスプリング)だな」


「キヒィ、その種ではあると思いますが、この地方の個体は聞いた事がありません。

 何らかの変異をしている可能性もございますよォ!」


「……しっかりとした泉ほどのサイズがある。

 動き出せばかなり巨大だ……難敵かもしれぬ。

 マヌダール殿、どうすべきだ?」


「水へと触れなければ動かない筈ですからァ。

 関わらないのも手ですよォ。

 しかし本当に偽水(フェイクスプリング)ならば霊薬の素材や魔装の修復材の素材として高価値ですよォ……!」


「高価値! お~~!?」


 ボクの視界の中でキラキラが再び溢れ、泉の上に降り注ぐ。


「マーさんの話聞いたら、目の前の泉が輝きだしたよ!」


「んなら、マト。これはどうするべきだ?」


「金貨一枚残したくないなあ」


「そう来なくちゃなあ、マトさんよ!

 なら指揮は任せたぜ、マヌさんよ!」


「畏まりましたァ!

 この生物自体、貴重なお宝!

 消滅させずに倒しましょうゥ!」


「水を殴るのは初めてですぜ、ちぃと楽しみですなぁ!」


「……ピート殿、私も同じだ。

 水を切る……中々面白い体験だとは思わぬか!」


「きゃ……ん」


 あの強力なグリフォンのキャアが下がった。

 何だか、嫌な気がする。


「みんな! キャアが怯えてる気がする!

 1日は始まったばかりだけど……魔装と技、ケチらないで使っていこう!」


「分かったぜ……!

 マト、オレ達はいつも通り様子を見て……奪える物を奪うぞ!

 それじゃ仕掛ける! 全員、構えろ!」


 クゥが腰のダガーを抜いて泉めがけて投擲する。

 ナイフが泉に飲み込まれる瞬間。


潜駆(ステルス)……!」


 クゥと肩に乗るボクは姿を隠し、木陰へと走る。


「ニュオオオオン……」


 その瞬間、奇怪で野太い咆哮が、地鳴りのように周囲で響く。


「くそがよ!! なんてバカでかい鳴き声……だ……よ……!

 声だけじゃねえ、なんだこの生き物の大きさはッ……」


「アード殿……私はこれに驚く事に慣れてしまいそうだ。

 朝一番、本当は出し惜しみしたいのだがな……そうもいくまい。

 魔装展開――狼王剣(ロード・デフェンダー)!」


 ガダルがバスタードソードを掲げれば、赤き光と黄金の煌めく巨大な両手剣と姿を変える。


「マガロさんよりデカいですぜ……。

 流石にあっしも持ち上げられるかどうか……!

 しかし美味そうな甘味めいた姿ですぜ、帰ったら子ども達に作ってやりやす」


偽水(フェイクスプリング)は本来、馬車くらいの大きさのハズですよォ!

 なんて巨大な――!」


 その姿は巨大なカタツムリ。


 胴体の色は透明、美しいくず餅のよう。

 その中に沢山の動物の骨が漂っている。

 消化器官は無さそうだ。

 その体内に取り込んだものを全て消化する所謂スライムのようなものだろうか。


 背負う殻は森そのもの――土の塊に似た色の殻に生えた木々。


 注視すれば、それが木でないことも分かる。

 木のように作られた殻……明確に、あのカタツムリの一部。

 擬態する為の器官ではなく、強度の防御力も兼ね備えていそうだ


「ニュオオオオオオン!!!!」


 偽水(フェイクスプリング)が咆哮する。

 そして、ズルリと這い出した。


 透明の身体に全体につぶつぶした丸い膨らみが発生し、トゲのように伸び始める。


「クゥさん、マトくん! 戻ってください!

 ガダルさん、最大の盾を!

 アードさんは氷の壁の魔装での補助の準備を!

 体液の槍の雨と想定できます!!」


「チッ……仕方ねえ! 一旦退くぞ!」


「承知した……受けて立つぞ、カタツムリ!

 開け……『狼王の晶盾リーシオン・グランドディフェンダー』!!!」


 狼の紋章が眼の前に現れ、巨大な盾の如く地面に突き刺さる。

 その周囲に赤き光を放つドームが現れ、走り込んだクゥ達も含め味方全員を包み込んだ。


 剣が再び真紅に輝く。

 真上に――二枚目の盾が生成される。

 展開される2つ目の盾は、シハ地下遺跡最後の部屋の扉。

 その壁画は――狼の騎士と並び立ち、敵へと立ち向かう竜の姿と変わっていた。


「ニュオオオオ!!!」


 カタツムリの軟体部分から伸びた透明なトゲ……1つ1つが木の1本程もある槍が射出される。

 それは、空を埋め尽くすほどの数。

 辺り一面へと降り注ぐ、透明な絨毯爆撃。


 狼の2枚の紅き盾と結界がその攻撃を受け止める。

 数本なら話にもならない。

 だが――その数は数え切れぬほど。

 炸裂するたびに、豪雨のような雨音が響き、全員を包むドームに小さなヒビが広がる。


 轟音とガダルの咆哮が木霊した。


「させるものかァアアア!!!」

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