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5-8「泥棒だって良心が痛む時がある、って話だよ」

「きゃあん……!」


 青と白の毛並みのインコ顔グリフォン、キャアが先に仕掛ける。


 一度大きく羽ばたき、その推進力だけで突進。

 翼を閉じ弾丸の如く加速して「普通の」グリフォンへと飛び掛かる。


 前足の鉤爪で翼を狙うが、上へと逃げた敵の胴体を軽く掠める程度で終わった。


 そのままキャアは降下し、翼を開いてホバリング。

 敵との距離を整える。


「全然見えない……」


「マトさんよ、俺も流石にあの速度は見えねえな……。

 あいつなら大丈夫なはずだがな」


「おうよ、キャアが1発当てたぜ。

 動きも判断も明らかにキャアのが上だ。安心してろよ、お父さん」


「……誰がお父さんだ、ったくよぉ。

 俺の大事な商品だからな、怪我でもしたら冗談にならねえ」


 アードが懐から小さな杖のような道具を取り出す。

 間違いなく魔装だろう。


「大将はいつもこうですぜ。

 奴隷の引き渡しのたび、こんな感じですぜ」


「うるせえ! ピート、お前さんは黙ってウチのキャアを応援してろ!」


「やっぱ良い人じゃん、アードのおっさん」


「キヒィ、最初から手を貸さず……見守っている所もまた、良い人ですねェ!」


「つい私は先陣を切り飛び出してしまうのだが……。

 弟子や子を見守る姿、やはり父の威厳か……!

 流石だ、アード殿!」


「商品の心配をしてんだ、父親じゃねえって言ってんだろ!

 この前、この辺の森で出会って仲良くなっただけだ!」


 その声と同時に、敵のグリフォンが反撃に出る。

 降下する速度を加えた、ワシのようなクチバシでの突進攻撃。

 直線的にキャア目掛けて降ってくる。


「きゃあん!」


 突進してくる敵グリフォンの軌道を予測、小さな羽ばたきで軽やかに横へと避ける。


「……クゥ、キャア強くない……?」


「おうよ、マト。シハ遺跡でもちょくちょく気になってたんだけどよ。

 強いよな……。みかん欲しいだけの可愛いグリフォンだとばかり……」


「お二人とも、これは意外ではありませんよォ!

 翼の筋肉や立ち姿の美しさ!

 インコなお顔が可愛らしさを強調していますが、体躯は間違いなく強力な捕食者ですよォ!」


「俺もみかんが好きなだけの、腹ペコグリフォンくらいにしか思ってなかったぜ。

 あいつは見た目が特殊だ。

 群れや仲間と一緒に居られず、単独だったのかもしれねえと。

 素性を鑑定しちまったら(ギヴン)で俺の商品にはならねえ。

 だから、俺の勝手な想像だけどな」


「売るつもりなら、鑑定してピートに売らせりゃ良かったじゃねえかよ。

 おっさん自身で面倒見るために鑑定してねえんだろ?

 ……本当に良いおっさんだぜ」


「お前さんがチビを見るのと大して変わらんさ。

 しかしな、今は手を出せねえ。何故ならあの目は復讐の目だからだ」


 2頭の攻防は続いている。

 ただ、その力量の差は歴然としていた。

 遥かにキャアのが強い。


 相手の周囲を高速で旋回しながら、爪やクチバシでの突撃を繰り返す。


 敵のグリフォンの羽毛が舞い散る。

 傷が広がっている。


「……全喰い種(ワーム)や、ガーディアン……それにマガロの時は大丈夫だったんだけど。

 倒された猪も大丈夫だった。

 理由は分かんないんだ、でも……。

 復讐って言われても、グリフォンが傷付くのを見るのはしんどいかも」


「マト、それで良いんじゃねえか?

 グリフォン同士での殺し合いに見えるのも、色々思うとこがあんだろ」


 クゥが肩に乗るボクを掴んで、抱っこしてくる。

 腕に抱えられると、少しだけ気が楽になる。


「勝手かなぁ」


「おう、勝手だぜ。

 嫌だと思うのも好きだと思うのも勝手じゃねえか。

 思った気持ちだって変わるものだ、気にしてても仕方ねえ。

 ……泥棒だって良心が痛む時がある、って話だよ。

 だから、こうしてマトを抱えてる時は良い盗みだったって安心するんだ」


 わしゃわしゃとクゥが頭を撫でてくる。


「クゥ……」


「だからよ。オレはこう決めてる。

 大事なモンが戦ってるなら、全部抜きで、大事なモンの味方だってな!」


「うん……そうだね」

 

「はい、くしゃくしゃな顔は終わりだぜ。

 きっと、キャアにも理由があるんだ。

 オレらの仲間を応援してやれ。

 だが、倒された敵も無駄にはしねえさ。

 商人も料理人も薬師も泥棒も……脱税領主も居るからな」


「クゥ殿!! その付け加え方は遺憾だ!

 そ、そうだ! 新たに、狩人みたいな呼び方を……!」


 その時。


「きゃあああ!」


 咆哮に全員が空を見上げる。

 前足の鍵爪が敵のグリフォンの翼を引き裂き、地面へと叩き落とした。

 土煙が上がり、鈍い音が響く。


 キャアがぐるぐると翼を広げ、落ちた敵の頭上を旋回する。


「――勝負あったな、キャア。

 俺の魔装も必要なかったか。 何かあったら受け止めるつもりだったんだがな」


 アードが水色の翼を見上げて穏やかな顔をする。


「キャア殿、構わないな?」


 ガダルが剣を抜きながら尋ねた。

 トドメを刺して良いか、という事。


「きゃあん」


 分かった、という鳴き声1つ。

 静かに地面に降り立つと、キャアは奥の巣穴の残骸らしき場所へと歩いていった。


 地に落ちたグリフォンはガダルが一撃の元に仕留めた。


「きゃあん~~!」


 折れたみかんの木と、壊れた巣を見下ろすキャア。

 クゥに抱かれ、ボクもその横に辿り着く。

 勿論アードも一緒だ。


 キラキラとした宝の輝きは、みかんの木……の根本。

 小さな芽――トゲのあるその茎は、恐らくこのみかんの新芽。


「クゥ、そこの芽が光ってる」


「なら、お宝だな。持って帰って植えてやろうぜ」


「そうしよ。ん……」


 キャアが巣穴をじっと見下ろしている。

 輝いているのは、ボロボロになった布。

 外套や羽織だったもの……そんな感じ。


 長い月日が経ったのか、巣穴に残っている布切れはボロボロだったり苔やカビが生えている。

 けれど――黄金色の美しい模様や、フリルで女性物の服の残骸だと分かった。


「きゃっ」


 キャアが座り込み、クチバシを外套に押し込む。


 ボクは思う。

 きっと、大切な人の服なのだと。


「骨がねぇな。服だけ置いてったのか……?」


「確かに……」


「お前さん達よ、森の中にある死体ってのは遺跡の中みたいに残らねえんだ。

 この辺りで死体が動く話も聞かねえ。

 恐らく――死体は動物が持ってったんだろう」


「きゃあん……」


 ふすふすと鼻を鳴らして、キャアが布に顔を突っ込んでいる。


「なぁ、おっさん。この布はよ、キャアのだろ?

 おっさんの商品にするのか?」


「光ってるしお宝かもしれないよ?」


「がはは、俺の鑑定では0点だが――もしかしたら価値があるかもしれねェなあ!」


 アードが彼らしい極悪な笑顔で答える。

 指で窓を作り、布を覗き込みながら呟いた。


(デザイア)鑑定眼(プライスレス)】――!」


「きゃあん!!」


 その声に気付いたキャアが、ぴょん! と跳ねて起き上がりアードに身体を擦り寄せる。


「おうおう、調べてやろう――な――」


 アードが凍りつく。

 手元に現れた輝く羊皮紙に目を落とした瞬間、引き攣った顔のまま動かなくなる。


「どうしたんだよ、おっさん」


「アードのおっさん? 大丈夫!?」


「これは布切れじゃねえよ……やべえ物だ。

 劣化した現状でリーヴ金貨1万枚相当。

 ……魔装『妖精の慈愛(フェアリーオーラ)』――。

 力を開放すれば、纏う者を環境に適応させる。

 つまり体温を上げたり、雨風から守ったり、水中で呼吸なんかも出来るものだ。

 元の所有者は、カミナ・アディニア。

 東の方で有名な女性の行商だ。

 ここ数年、店を畳んだとか疾走した、とか言われていた。

 名前は知ってるが俺も有った事はない。

 ……俺の(デザイア)には『故人』と記載されてる」


「……みな!」


 キャアが声を上げて跳ねた。


「えっ、キャア? 別の言葉……?」


「みな!」


「お、おい、キャアさんよ! 今なんて鳴いた……?

 カミナ……」


「きゃあん! かみな!」


「……そうかよ。

 カミナは、お前さんを守ってくれたんだな?

 ……多分、あのグリフォンから」


「きゃっ!」


 3人は顔を見合わせて話す。


 キャアが小さな頃、カミナと呼ばれる商人がキャアを保護。

 育てている最中に、グリフォンに襲われて亡くなった。


 恐らく彼女が与えた食べ物で一番好きだったのが、みかん。


 おそらく一番印象に残った言葉、覚えた声は――彼女の最期の悲鳴。

 だから、キャアは女性の悲鳴で鳴く。


 でも、これはボク達の想像にすぎないお話だ。

 アードの鑑定眼(プライスレス)で調べれば、(ギヴン)で彼とキャアを引き離す事になるのだから。


「キャア、こいつは持っていこう。

 お前さんの宝物だ、見つかって良かったな」


 アードが布に手を伸ばしても、キャアは怒らなかった。

 それどころか、嬉しそうに横で跳ね回っている。


「これは、キャア、商人が好きなだけかもしれねぇな……う゛ッ」


 クゥがアードに小突かれた。


「余計な事言うんじゃねぇ! マトも言ってやれ、盗賊が好きなだけだって」


「盗賊が好きなだけだよ~」


「マト~! やめてくれ、これはきつい!

 オレが悪かったよ、おっさん。

 ……おっさん、動物に好かれるタイプだろ」


「ああな。そう言っときゃいいんだよ、全く――」


 アードが照れくさそうに目を逸らした、その瞬間。

 森の奥からドオオン! という轟音が響いて来た。

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