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1-7「だからおっさんに頼んでんだよ」

「ン? 王国の勇者だって? 悪ぃ……知らねえな……」


 クゥが目を逸らして頭を掻く。


「おいおいクゥさんよ……。

 お前さんが住んでいるアルクバーグは、たしかに王国の領地では無いけどよ。

 丁度いい、マトって言ったな。お前さんも聞いておけ」


 やれやれと額に手を当てて溜息を吐いたアードが、苦笑いを浮かべて話を始めた。


「マト、ミアル王国ってのはココから遥か東、馬車でも数週かかる距離だ。

 そこのクゥが住んでいるアルクバーグは西の終点、王国に属していない言わばド田舎だよ」


「ド田舎はねぇだろ、良い街じゃねえか!」


 クゥが身を乗り出して抗議する。


「ド田舎だから良い街だって言ってんだ、バカ野郎。

 話は最後まで聞け。王国の領地ってのは、やっぱり"領地"でしかねえ。

 王国がある程度守ってくれても些細なもの、納税やら生活やらは苦しいっていうやつだな。

 それに今――その領地に化け物が溢れてるんだ」


 ぴょこん、と耳が立ち上がる。化け物、と言った。


「おっさ……アードさん、それ魔物じゃないの?」


「おっさんで良いぞ、マト。

 異世界から来たヤツは皆そう言うって聞いてたが、本当なんだな。

 それは昔この遺跡を作った奴ら、古代イルイレシアで使われた言葉だ。

 ……人族じゃない敵って意味だ」


 クゥが両手……前足を掴んでボクの口に当ててきた。

 ぬいぐるみを動かすような動き。

 言うな、という意味だろう。


「そうだな、今は言っちゃいけねえ言葉だ。

 というかトガのお前がソレに該当するんだぞ……」


 アードが、頭を撫でようと手を伸ばしてきた……が。

 空中で手が止まる。

 ここまで届かない、そんな感じ。


「……撫でるくらい"赦し"てくれても良いと思うんだがな。

 ま、話の続き……化け物の話だ。

 人のような姿をしてはいるが腕が多かったり、顔がない影だったり。

 言葉も通じなければ、生きるため、ナワバリを守る……そういう目的もない。

 出現した地域に存在する命を根絶やしにするまで攻撃し続ける存在だ」


 アードの怖い顔がより怖くなる。

 なるほど、これが大きな問題か、と分かりやすい。


「そんな話、この辺では聞いた事がねぇ……。

 でもヤバい事になってんのは分かったが……勇者って奴との関係はなんだよ」


 クゥが再び身を乗り出す。


「その化け物を倒して回ってるやつだ」


「良い奴だろ、それ……」

「それは確かに勇者だ……!」


「ハァ……。やっぱり、こうなるんだな。

 勇者は化け物を倒すが――魔物も狩る。

 ……王国が魔物と呼ぶもの全てを狩る存在だ」


「……いきなりキナ臭くなったじゃねえか」


「そういうことよ。

 勇者は王国が異世界から召喚した存在だという触れ込みだ。

 王国自体ではまさに英雄、称賛の言葉だらけだ。

 ……少し離れた街や壊滅した村の生き残りはそうは言わねえ」


 ごくり、と喉を唾が落ちていく。

 嫌な予感……ボクはそういう話を沢山知っている。

 だから、その状態を想像してしまう。


「こう言うのさ。

 自分の意志を持たないゴーレムのようだった、と」


 予想通りだ。

 洗脳やらなんやらの手法。

 ミアル王国にとって都合の良い最強の駒。


「……ったく、奴隷商人のおっさんの顔に見えねぞ、アード。

 辛そうな顔で話すんじゃねえよ、奴隷だって同じだろ」


「……まぁ、そうだな。そうだよ。

 ……だけどな、俺の(デザイア)は商品しか鑑定出来ねえ。

 一度商品にしねえとよ……ちゃんと分かってやれねえんだ」


 クゥが黙ってしまった。

 何となく、このアードというおっさんの人柄が分かってきた。

 周囲にキラキラした光が見える気がする。


 ぴょん、と膝の上から飛び降りるとアードの横に立つ。

 その(ギヴン)がどんな力かはハッキリ分からない。

 ただ、もしかしたら……そう思って。


 アードの右手を両手で掴んで、自分の頭の上に運ぶ。

 背伸びするように頭を押し付けて、こっちから撫でられてやる。


「ああ、なんだよ……気を遣うなって……」


 ただの良いおっさんだった。

 顔が怖いしやり方は正しいか、と言えば違うかもしれない。

 この世界のルールや仕組みなんてまだ何も分からない。

 でも、善意は確かだと思ったから。


「顔怖かったし、最悪だったけど。

 助けてようとしてくれてありがとね」


 に、と目を細めてアードを見上げる。

 静かに一度目を閉じると、おっさんは微笑んでくれた。


「なんかズルいぞ……」


 クゥがぼそ、と呟くのが聞こえたので走って膝の上に戻る。

 抱え込む力さっきより強い。


「あげねーからな、オレが盗ったんだし」


「俺のモンにゃならねえ、って言ってんだろ全く……」


 おっさんが目を逸らした。


「ですがよぉ、大将! このピートの物になら!」


 子分が喋った瞬間、アードが放った拳が顔面を捉えていた。


「すまねえな」


 舌打ちした後、髭面の大将が頭を下げた。


「で、分かったかクゥさんよ。王国周りは酷いことになってんだ。

 勇者や異世界人の支配、現れてる化け物も召喚術の(ギヴン)だ、なんてウワサもある。

 そこのマトは、良い獲物だ。

 文字通り、王国の宝の地図にされちまうぞ」


 クゥが気まずそうに髪をくしゃくしゃ弄っている。


「うわ……やっぱりそういう感じなんだ。

 おっさんさ、ボクの事どのくらい分かる?

 実は、何も分かんなくて」


「やっぱりそうか。

 異世界人は(デザイア)(ギヴン)を自分で知る前から1つ持ってるらしい。

 マト、お前さんはな――」


 ボクやクゥに分かりやすく、噛み砕いて伝えてくれた。


 価値、リーヴ金貨100万枚。

 さきほどの剣の10倍。


 種族は(トガ)

 アードには取引用の資料として情報が見えるらしい。

 しかし、その種族の記載部分に不自然な空白があったそうだ。


 獣人族の2才相当。

 成人までの成長速度は早いらしいが、まだガキとの評価。


 そして気になっていた能力。


 (デザイア)宝の在り処(キラキラ)】――自らの宝となり得るものや道筋に、光の印をつける。

 (ギヴン)――自らが呪われた宝としての価値を持つ。


 今のところ身体能力など、全てが低い。

 やや聴力や感覚に優れるが、人間とトントン。

 魔力が高いらしいけれど、オマケのようなものらしい。


 今使用できる技能(スキル)と魔術は無い。

 

 総括、そこらの子どもより弱い。 


「……って事だな。

 マト、忘れんなよ。ウワサの強い勇者様と違ってお前さんはポンコツだ。

 それでいて、宝を探す力を持っている"宝"。

 いわゆる魔法道具みたいなもんだ」


「オィ、言い過ぎだぞ、しかも道具って言い方も……」


「気に食わねえよな。俺も気に食わねえ。

 ……だけど奴隷商、なんでな?」


 アードはガハハ、と低い声で極悪な笑顔を浮かべる。


「その顔しなきゃ良いおっさんなのになぁ。

 ……状態分かったよ。ありがとね」


 笑顔で返せば、おっさんは目を逸らす。


「……なぁ、おっさん。

 ここにある金はオレの(デザイア)で現れた本物の金貨なんだけどよ。

 これ、おっさんに全部やる。

 その代わりよ、オレのトコにいるガキがちゃんと暮らせるやり方教えてくれよ。

 このお宝の世話もあるしな?」


 クゥが、真剣な顔で切り出した。

 ぽんぽん、と頭を叩いてくる。

 ……世話、と言われるのは何とも照れくさいけれど。


「……は? クゥさんよ、正気か……?

 こんだけ金貨があれば、お前さんトコのガキくらいどうにでもなるだろうがよ」


 元々小さな目だが、更にキュっと縮んだのが見て分かる。


「おっさんの馬車、何人乗せてんだよ。

 逃げる時にウチの前に停めてたの見てんだぞ。

 このお金配りお兄さんじゃあ、どうにもならねえのか?」


「……買うってことかい?」


 ヒゲを触りながらアードが困った顔になる。

 悪人の奴隷商人を演じていないと隙だらけ、といった雰囲気。


「うんにゃ、おっさんに全部金貨はやる!

 うちにもたんまり金貨があるからな……まぁ、その?

 お宝が自分の生活費を持ってやってきたって奴だ」


「クゥ、言い方~!

 でも助かる。ボクも全然ここの事分かんないし……。

 他の子もガッコー行かせるって言ってたじゃん」


「学校、か。王都の事も知らねえで言ってんのか?

 そんなもんは王都にしかねえぞ。こんな田舎じゃ……」


 アードは困った顔のまま溜息を1つ。


「おう! だからおっさんに頼んでんだよ。

 金も場所も出す。あそこの土地はさ、オレが引き継いだ孤児院だ。

 ……学校にしてくれねえか?

 おっさんの商品じゃねえやつ……言いにくいな! も皆暮らして学べるやつをよ」


「ここの金じゃあ足りねえが……ン?

 お前の(デザイア)……確認するぞ。

 突き出して報奨金、賊は商品っと」


 そう言ったアードが指でモノクルを作れば、引き攣った顔のまま咳払いをする。


「マトの分があるって事かよ、お前さん……」


「だぜ!」


「それなら充分――」


 そう言いかけた時だ。

 マトの耳が、遺跡の入口付近で聞こえた轟音を捉える。


「待って! 外でなんか凄い音がした……!

 音じゃない――これ、何かの鳴き声っぽい……!」


「……鳴き声だって……? この辺にそんな動物は居ないぜ……?」


 クゥがボクを抱いたまま立ち上がる。


「おい、マトさんよ。どんな音だ」


「女の人の悲鳴みたいな音、かな……」


「……大将、ちいとマズい気がしますぜ」


 ずっと頼りない雰囲気だった子分の顔が、キッと整った。

 嫌な予感がする――。

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