5-7「みんな、出発だーーッ!」
そして早朝。
既に出発の準備は完了している。
朝に弱そうな雰囲気がある人々ばかりなのだが、何の問題もなく。
キリッとした顔で全員が庭に揃う。
「っしゃ! 揃ったな!
今回は遺跡探しからスタートして、上手くいけば中に入るぜ。
一番の目的は、この隣の森に本当に遺跡があるのか? を調べる事だ!」
「りょうかい!」
元気に答えれば、クゥに抱き上げられる。
「と、言う事で。こちら、噂のトガの地図だぜ」
「ちょっと~」
「冗談はさておき、基本的にはマトの宝探しの欲に頼るぜ!
頼りになるが、一番やべえ部分でもある!」
「ヤバいの!?」
「ああ、やべえな、マトさんよ……。本人が気にしてなかったパターンか……」
「なるほどですぜ、それは確かに……」
「キーヒッヒッ、言われてみれば、ですねェ!
あまりにも日常過ぎて忘れておりましたァ!」
「……ッ?」
ガダルの顔がくしゃくしゃになる。
なんも分からん、の顔だ……。
「マト〜? 自分の赦を言ってみろ」
「呪いの宝物になる! うさちゃんは、曰く付き、って言葉を頭に送って来た!」
「よし。全員、目を閉じろ。マトがあの顔になるぞ。
じゃあ、呪われた宝ってどう言う事だ……?」
「ンッ」
「……薄目で見ちまった。くしゃくしゃだなぁ……マトさんよ……」
「大将! そう言われたら見ちまうに決まってるですぜ! ……うっ」
「見ませんよォ! 私の生徒は、おじさんではありませんッ!
可愛い少年兎なのですゥ!
ああああ」
「……私は言葉に従い、見ぬ事を……ウッ」
「全員、見てんじゃねえか! マトー、こっち向い……。
おう……」
「もうー! 難しい事考えたら難しい顔になるよお……。
んでも、確かに。呪われた、とか、曰く付き、とか分からない」
「マトさんよ、お前さんの言う通りだ。
嫌な感じがする、持ち主に何か問題がありそうな気がする、そういうイメージでしかねえ。
俺の鑑定眼でも、そこまでしか分からねえんだ」
「オレの悪運は、オレに降り注ぐ悪運だ。
規模がデカくて巻き込む事はあるが……。
マトのはその対象も効果も、方向性も完全に不明。
うさちゃんの目が光る時、呪いの力が出てるはずだが、その時ですら不明だな」
「困った……」
「いや、マト。これは単純な解決もできる。
お前らに聞く! 遺跡の奥で呪われてるすげえ宝があるとする!
呪いの内容は不明! どうする?」
「俺は1人なら放置するがよォ……『決まり』は一つだろ」
「ああ、違いねえですぜ。あっしも決まってますぜ」
「それが唯一の掟なのだろう?」
「キヒヒ、それを置いて帰るなんてとんでもありませんよお」
そして声が重なる。
『金貨一枚残さずかっぱらう』
「って事だ。呪われてても関係ねえ、対応しながら持って帰る。
だが、呪われてると分かるなら『注意している』事はできるぜ。
マトを抱っこして歩くのも同じ事だな!」
「そっか、ボクが欲を使うたびに、何かのトラブルや予想外を呼び込む事があるかも、ってこと」
「偉いぞ〜、ちゃんと分かったな、マト~!
リスクがあることは、全員忘れねえようにな」
庭の横、森の中で丸くなっていた恐竜が頭をあげた。
「……それこそ良き赦しだ。
世界へと多くの可能性を還す、素晴らしき欲との対。
我も此処で、汝らの可能性の行き着く先を見届けよう!
そして良い感じに寝床が出来てきたのだ、見よ!」
「うっせ! 寝てたんじゃねえのかよ、マガロ……。
何が『見よ』だよ、知らねえ間に材木重ねて巣を作りやがって……。
まあ、全員に話は伝わったな!
マトの力を借りる分、諸々トラブルは増えるかもしれねえ。
だが、顔をシワシワにせず楽しんで乗り越えてくぞ!
良い事らしいからな、赤の竜さんが言うにはよ!」
『おうよ!』
全員で拳を掲げ、気合い充分。
「きゃっきゃ!」
キャアもご機嫌そうにぴょこぴょこ跳ねている。
「そういや、コイツもこの森から来たかもしれねえ。
何か見つかったら、少し嬉しいな」
「クゥさんの言う通りだがよ、もしかしたら森に帰さなきゃいけねえだろ。それはよ……」
「嘘だろ……? もしかして別れの可能性で悲しんでるのか?
奴隷商って人の心があったのかよ!」
「あっ」
「キヒィッ、いい音しましたねェ!!」
「……そうなるだろう……。何も弁護できん」
「……」
ピートが口を押さえて耐えている。言わなくてよかったね……。
当たり前のようにクゥがアードに殴られた。
「痛ってえな、ホントよお……。
んま、これでおっさんもいつも通りだな!
この勢いで行くぞ!」
「……ったく仕方ねえな……!
しっかり付き合ってやろうじゃねえか」
クゥはこうなると分かっていて言った気がする。
アードの寂しげな空気が消えていた。
ムードメーカーとしての仕事なのかもしれない。
ボクも覚えよう。
「それじゃあ……マト! 出番だぜ!」
クゥがボクを高く掲げる。
「うん! みんな、出発だーーッ!
欲【宝の在り処】!」
目を閉じ、大きく息を吸い込んで吐き出す。
そして目を見開く!
視界いっぱいの輝きが生まれ、空を舞う光の道のように広がっていく。
道のりは真っ直ぐに森の奥を示す。
道なき森は、今、道を得た。
「あっち!」
「おうよ!」
一同は森へと踏み込んだ。
振り返れば、巨大な竜が立ち上がりこちらを見下ろしている気がする。
「マガロ見てるね」
「まあ、あいつの家みたいなモンだからな。
帰りを待つのが楽しそうだったし、帰ったら沢山話をしてやれ」
「うん!」
キラキラの道標は、森の奥へと誘ってくれる。
迷う事はない。
マーさんは嬉しそうに草を毟り、木の実を拾っている。
ピートがその話を聞きながら、同じようにキノコや木の実を集める。
薬師と料理人には、素材の宝庫なのだろう。
少し歩くと、光がふたつに分かれた。
「みんな、光が右と左に分かれてる! 右の光のが強い!」
「おっ、これは楽しみが出て来たな……!
追いかけて来たのが強い光だとすりゃ、弱めの光は新たな宝だな!」
皆が左に曲がった途端。
キャアが走り出した。
「きゅるるるる」
「お、おい! キャア!?
なんだその声! 悲鳴じゃねえ声はじめて聞いたぞ!」
「キヒィ、クゥさん! 早く追いましょうゥ!
慌てたり、単独で走っていく事は今までありませんでしたァ。
キャアさんも元々野生のグリフォン、何かトラブルかもしれません」
「急ぐぞ、お前さん達!」
あまり体を動かすのを好まないアードが、珍しく前に走り出る。
それを見たクゥがボクへアイコンタクト。
頷いたボクをアードに投げる。
赦でアードからはボクを抱けないが、ボクから乗るのは問題ない。
「着地完了!」
「来てくれたのか! ……悪いな、マトさんよ。キャアが心配でな」
「……うん、わかる」
分からない訳がない。
この世界に来る前はトリマー……犬や猫の美容師だったのだから。
動物も人も関係なく、家族は家族なのだ。
「アードのおっさん、このまま真っ直ぐだよ!」
「くっそ、ウチのキャアはどんだけ足が速えんだよ! 行くぞ!」
倒木を飛び越え、傾斜を走り。
木の間を抜け、辿り着いたのは空が見える小さな丸い丘。
「キャア、どこだ!?
俺は心配してるんだからな!」
「アードのおっさん……。
ん! キラキラが奥にあるよ!
折れてる木と――さっきマガロが作ってた巣みたいなトコが光ってる!
上にも光が……」
見上げれば、影は2頭。
翼を持つ四足の獣が空を舞っている。
宝の輝きを纏うのは、水色の毛皮にインコっぽい頭……キャアだ。
もう一方は茶色の毛皮にワシっぽい頭。
「きゃああ~!」
「クルルルルゥ!」
「おっさん、上にキャア! でも別のもいる!」
「なん、だと……!?
マトさんよ、グリフォンなんて本来、ほとんどお目にかかるもんじゃねぇんだよ!
キャアは偶然仲良く慣れただけだ! 普通のヤツは……!」
「極めて凶暴ですねェ……! あの色からして、その『普通の』グリフォンですよォ!」
この世界でも、あの造形が普通のグリフォンらしい。
「おい……ジジイ! あいつら仲良しってワケじゃねえだろ?
めちゃくちゃ怒って見えんぞ」
「怒ってますねェ! クゥさんの見立てで間違いありませんよォ!」
「ッ……私には何か因縁を感じる……!」
「因縁……? たぶん、アレが……因縁!」
アードの肩でボクは奥に見える木と巣穴を指差す。
「マトさんよ。まさか、キャアの元々住んでいた場所って事か……?」
「わかんない、でも宝物だってボクの欲が言ってる!」
「キーヒッヒ……! あの木は間違いなく、みかんですよォ!
折れたみかんの木、巣穴……」
想像するのは簡単だった。
恐らくあのグリフォンが、キャアの巣に何かをした、のだ。
「マトさんよ、クゥの肩に戻っておけ。
そもそも――グリフォンは肉食性だ……俺は何となく、気づいちまったんだよ。
あの目は……見たことあるんでな」
「アードのおっさん……」
真剣な顔、真剣な目。
顔は相変わらず悪人だけど、どちらかと言えば父親の顔だ。
「分かった!」
肩から飛び降り、クゥの元へと走る。
そのままよじ登り、いつもの定位置へ。
再び、グリフォン2頭の咆哮が響いた。




