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5-6「なんも恥じることねえじゃねえか」

「……ならば、話そう。

 私の願いは知っての通り、寝て起きたら全てが良くなっていて欲しい、なのだ」


 ガダルがいつもより小さな声で語り始める。


「私に、大層な思いなどなかった。

 ……多くの心労が溜まっていた結果かもしれん。

 あの頃……増税どころか領地の一部と領民を国へと返せ、と繰り返し圧力を受けていてな」


「わ、政治の話だ……」


 異界へと辿り着くものが世界を変える話は、しばしば政治に介入し解決する。

 けれど、こうして目の前で政治を話されれば「全く分からない」ことだけが分かった。


「マト殿、確かに表向きはその『政治』の話だ。

 正しくは税をもっと払え、領地と民を返せ、でなければ国の一部としては認めないと。

 国の一部でない、大きな力を持つ街はどうなるか分かるな? という脅しだ」


「待てよ、ガダルさんよ。

 ずっと国とはマトモな関係だったんだろ?

 余りにも突然でおかしい話じゃねえか」


「ああ、突然だった。クゥ殿が私のこの指輪を盗んだ後、しばらく経ってからの事だ」


 険しい顔でガダルが唸る。


「……本当に悪かったと思ってんだよ……」


 クゥが苦笑いで頭を下げた。

 膝に抱かれているボクも、同じように頭を下げる。


「いや、それで良かったのだ。むしろ……今では感謝している」


「感謝だと……?」


「王国は脅しの後……1つの提案をしてきた。

 『赤き指輪』を渡すのならば今までと変わらずシハを保護してやろう、と。

 今となれば、狙いは分かる。

 『赤き指輪』は遺跡の鍵で、返せと言われた領地は遺跡の真上だ。

 だが当時の私は、失った伝家の秘宝の話を持ち出す事で脅して来たと思ってな……」


「最悪のタイミングで迷惑かけちまったな。

 王国はガダルが指輪を無くした事を知っていて、揺するネタにしてきたと思った、と」


「……その通りだ。指輪を盗んだ者は王国が雇った盗賊かもしれない、とまで思ったさ。

 しかも指輪には人化の魔法も込められている。

 それを渡すと言うことは、王国でトガの子孫と言われる獣人族への非難に晒されろ、という事だ」


「おうおう、ガダルさんよ、随分面倒くせえことになってたんだな……。

 で、指輪もねえ、領民も守らなきゃいけねえ、税負担も掛けたくねえ。

 結果、脱税領主の誕生か」


「そう聞こえを良く言われるのはありがたいが、そもそも税周りの話など雑でな。

 国の顔色を見て納めていた程度の話……そもそも、そこまで関わりは深くなかったのだ。

 領地の守りを手伝う代わりに、王国へ少しの税を納めてくれ、という関係だった」


「とってもたいへんだった、ことがわかった」


「おう、オレもそう思うぜ、マト……」


 クゥがボクをひょいと抱き上げ、顔を隠すのに使っている……。

 ボクも両手(あんよ)で顔を隠す。

 流れは分かるが、国と領主や諸々の話なんて元いた世界の政治より分かったもんじゃない。


「わはは、その認識で間違ってはおらん!

 色々面倒な話が代々伝わっていたが、なんとなく上手くいっていた。

 だが突然、王国が要求を始め、それに従えなかった事を断罪すると襲いかかって来た、という事だ」


「しかし、大規模すぎるぜ、ガダルさんよ。街1つ滅ぼす理由としては正当性が……」


「その理由は、私にあるのだ。ミアレに近い獣人の領地などと触れこまれ。

 領民全員に獣の血が流れている、と流布されたとしたら」


「……指輪を出しても出さなくても滅ぼすつもりだった、ってことか」


「待って? そんなに差別されてるの……?」


「キヒィ、マトくん。良い質問ですねェ!

 ミアレ王国では、人族以外を民としていません。

 人族以外は恩寵と呼ばれ、存在を許されている、程度の話ですよォ。

 それ以外は奴隷という扱いですゥ」


「ま、ピンク色のお前さんはもっとマズいぜ。

 だから俺とピートはお前さんが現れた瞬間に追いかけたし、そこのクゥもお前さんを抱き上げた訳だ」


「いや、オレはおっさん達が血相変えて追いかけてるから、金目の物かと……」


「え?」


 気まずい沈黙。

 でも、それが彼らしくて、なんだか笑ってしまう。


「ふふふ、良いよ! そのおかげで今楽しいから、みんなのおかげ。

 そっか、じゃ……ガダルは人になる指輪を使わないと政治で大変だったって事かあ」


「ああ、そういう事だな。

 使いの前にも顔を出せず、結果不審を招き……このようになったと思っていた。

 領民全てに使いを出し、避難させたがな」


「ガダルさんよ、それは出来る領主様なんだよ。

 その疲れから一生の願いを使ったって事で良いんだな?」


「まさにその通り……恥ずかしい限りだ。

 願ったその日、街で巨大な全喰い種(ワーム)が暴れる事件もあった。

 私はその退治へと赴き、何とか頭部を切断するに至ったが……強酸を浴びてな」


「……。おいガダルさんよ、その全喰い種(ワーム)ってのは」


「地下の化物の擬似餌に似ていたかもしれんが、正体は分からぬ。

 姿を隠す訳にも行かず、この狼の身で駆けつけたが領民は歓声と共に受け入れてくれた。

 ……腕は掲げたものの、傷は酷くてな」


「願ったのは、そっちの傷が原因じゃねえか!

 ったく、真面目だか不真面目だか分からねえな、ガダルさんよ……。

 多くの疲れや傷が重なって漏らした言葉が(デザイア)になった、と」


「そうだ、それで違いない」


「なんも恥じることねえじゃねえか。

 すげえ使い手だな、とは思ってたけどよ、流石だなガダル!」


「たくさん責任がある偉い人は大変だな、って改めて思ったよ……。

 やっぱりガダルは凄いね!

 うーん、ガダルさん凄いです、かなあ」


「マト殿その顔は……。

 私の中の可愛いうざきさんのマト殿との解釈が異なるので、やめて頂きたい……」


「ん、どんな顔してんだ? ……うわ……」


 くるり、と抱かれた体を回されてクゥと目が合う。

 いや、クゥもすごい酷い顔してるけど!?


「クゥも酷い顔してる」


「マトの真似してんだよ」


「おい、お前さん達、こっちに顔見せな? そのまま2人ともだ」


「う゛っ、なんですかい、そのシワシワ顔は……。

 あっしは何も見なかった事にしてえですぜ……」


「キヒィ、シワシワの質がいつもと違うのでよりキツいですよォ……。

 ギュッとしたシワシワではなく、眉間にシワがァ……」


「マヌさんよ、具体的に説明するんじゃねえ!

 ……その、何だろうなあ……。悪事を考えてる領主の側近の爺さん、みたいな……」


『それだ』


 一同の声が重なってしまった。


「えー! そんなコトないよー!」


 両手(あんよ)で顔をくしゃくしゃして整えてから、笑顔を作る。


 皆がお花を飛ばすような優しい笑顔になった。

 そんなに真面目な顔するとキツいのかボク……。


「ま、全員の願いと、ちょっとした事は分かったな!

 これで人拐いの対策もバッチリだ!

 オレさ、皆の話が聞けて良かったよ。

 やりたい事に付き合ってもらっててすげー感謝して頼りにしてるからさ」


 クゥが照れ臭そうに頭を掻いていた。

 そう言えば、ボクより年下……この中で一番若いのだ。


「当たり前だろ、クゥさんよ。そんだけの報酬、頂いちまったからなァ!」


 アードが極悪な笑みを浮かべ胸を張る。


「頂いちまったからですぜ!」


 ピートが真横で同じように胸を張った瞬間、アードに張り倒された。

 この流れ、安心感がある。


「キヒヒィ、私も楽しませて頂いておりますしィ。

 クゥさんもマトくんも、放って置けませんからねェ」


「違いない。私も救われた身だ、これからも世話にならせてくれ。

 だが世話も焼くぞ、この盗人め」


「ボクも改めて宜しくね!

 みんなのおかげで、楽しいからね!

 なので次の宝探しもよろしくお願いしま……。

 よろしくね!」


 そう告げた頃、孤児院から町長……"霞の腕"のオルドが戻る。

 小さな会議の話を伝えれば、人拐いと向き合うのは「その場」のが良いだろう、との事。


 感情や思いに由来するなら、わざわざ準備をして暗い所で待つのは「弱虫じゃねえか?」というオルドの意見。

 盗賊の親分らしい言葉だが、皆は納得して頷いていた。

 オルドの言葉からは一種のカリスマめいた力を感じる。


「それじゃあ、てめぇら、仕事は明日からだ。

 休んでなんて居られねえぞ?

 学舎は儂らが作っておいてやる。

 てめぇらはまず経験を積んで金も稼げ。

 先生達の経験は多いほうが良いだろう?

 そう言う話をよ、チビ達は聞きたがって学ぶんだ。

 この儂より面白い話、語ってみな!」


 口角だけを上げて、迫力はそのままにオルドは笑った。

 そして、声色が変わる。


「こほん、と言う事です!

 それでは皆さん、宝探し頑張ってくださいね!

 あと、こちらは上納として頂いておきます!」


 優しい老人の顔に戻った町長が、クソデカい竜を繋いでいた枷を一つ担いで帰って行った。


 皆が絶句しながら見送った後、準備の1日が始まる。

 出発は明日の早朝。

 昨日帰って明日出発、休みはなし。

 休んでなんて居られないほど……皆、次の探索が楽しみなのだ。


 そんな1日はすぐ終わる。

 各々が準備に走り回り、あっという間に夜。

 後は明日、旅立つだけだ。


「ほら、寝ろ、マト」


「早くない?」


「チビは早く寝るんだよ」


「むう~~」


「今回は転移もなし、家の横から森に突入して……遺跡探しからだぞ?

 マトの道案内が肝だからな?」


「うん――」


 布団を乗せられれば、自然に身体は眠ってしまうものだ。

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