5-5「嘘でも、信じていれば本物になるかもしれない、ってこと?」
「俺らは、森の探索に向けて人拐い……業を何とかしなきゃいけねえ。
だから……その根元にある、願いをお互い知っているべきだ、って事で話すぞ」
「……おっさんが納得できる理由を決めて話してくれたらありがてぇ。
どんな願いであれ、オレらは『願うな』とすら言われて生きてきてんだ。
重いも軽いもねえ、楽しい悪事だぜ?」
んべ、と舌を見せてクゥが笑う。
「ったく、お前さんはよォ……。なら、聞いておけ」
座れ座れ、とアードが手を動かす。
マーさんの話に集中しすぎて、立ち話だったので皆が腰を下ろす。
ボクも手招きするクゥの膝の上に移動、抱っこされる形に。
「若え頃の話だ。まだ駆け出しでな。
遺跡から出た骨董品や壊れた魔装を売る商人の見習いをやってたんだよ」
「おっさん、元々は奴隷商じゃ無かったのかよ!」
「初耳ですぜ、大将……!」
「しかも俺は商人の家の出じゃねえ。
母親は死んでたし、親父は所謂トレジャーハンターだよ」
「おい、おっさん。それは親父さんが盗賊だって事だな?」
「親父もそうだったが、多くの墓荒らし、盗掘者、遺跡泥棒は自分の事をそう名乗るんだよ。
クゥさんよ、お前さんみたいに堂々と盗賊と名乗る奴は居ねえ」
「そんなもんか」
「そんなもんなんだ! ボクはクゥの弟子らしいので、宝物泥棒だよ」
「マトさんよォ……俺はお前さんにはトレジャーハンターと名乗って欲しいんだぜ……。
話を戻すがな、そんな若い頃よ。親父がやつれて土色の顔で帰ってきた。
ガキの目に見ても死にそうだ、ってくらいにな」
「キヒィ……私も生徒に言われましたよォ、それ!
日に日に先生が動く死体みたいになってきた、とォ!」
「マヌさんよ、それは取り憑かれてたんだろ……。
ま、親父もきっとそうだ。
母さんが居た、母さんが帰ってくる、うわごとのように繰り返してたぞ」
「……アード殿。それは所謂、呪われた……」
「ガダルさんの言う通り、俺もそう思った。
普段から親父が持って帰ってきた骨董や魔装を俺の勤め先に売ってたんだ。
だから、いつもそれを受け取るんだがよ、親父はその日の宝を見せてもくれねえ」
「待って、呪われた宝ってそう言うことなの!?」
「お、ウチの呪われた宝が喋ったな」
「クゥ〜、ちょっとー!」
「呪われた宝、ってのはそれだけじゃねえけどな。
『手放したくなくなるが、持っていると悪い事が起こる』ような物をそう呼ぶ事が多いんだぜ。
親父は肌身離さずその宝を持ち歩くようになった。
まともに動けなくなる日までな」
「我の時代からある話よ。
願いと可能性に満ちたこの大地では、その願いそのものが願われる事を『願ってしまう』ことがある」
「……ったく古臭え言い回しだな、マガロさんよ。
それは古文書によく出てくる言葉だな……生で聞くのは初めてだ。
で、結論から言えば……親父は死んだか消えた」
クゥが目を逸らす。
特に家族に関しての痛みは……何か感じ取る事があるのだと思う。
ピートが顔を覆っている。
信頼している大将の話に、感情が揺れているのが見て分かる。
「死体は見つかってねえ。
親父はある夜突然、母が帰って来たと外へ飛び出して消えた。
翌朝、街の外に親父の武器や道具が落ちていたらしい。
当然、唯一の家族の俺が呼ばれて確認が始まった。
その中に見慣れぬ1つの魔装があった」
「待てよ、おっさん。サラッと流すなよ、親父さんはよ……」
「……クゥさんよ、その顔はよしてくれ。
ガキの頃にお前さんが居たら、頼っちまいそうな顔をすんな。
ああ……消滅しただろうな。人拐いに出会ったんだろうよ。
なんの欲だか俺は知らねえが、力を持ってたらしいからな」
「おっさん……。出しゃばっちまった、悪ぃ」
「いいさ、良い奴すぎてお前さんは賊に向いてねえ気がするんだけどな。
で、その魔装は手鏡だった。
俺が1人で生きていくには稼がなきゃいけねえ、見慣れない道具も形見にはしたくねえ。
即、勤め先に売ったのさ」
「手鏡か……。どうにも鏡の魔装に良い話は聞かぬな。
貴族でも没落する前に手にするのが、鏡の魔装と言われるくらいだ」
「……鋭いねえ、ガダルさんよ」
その後の話は誰もが想像する通り。
アードの勤め先の店主は、手鏡を手放さなくなり。
毎日、嫁が出来た、嫁が毎日訪ねてくる、嫁は可愛いんだ、そう話してやつれていった。
そして、ある日……父と同じく消息不明、失踪したらしい。
店の見習いはアード1人。
店主の失踪、残されているのは自分だけ。
今は自分が店を守るしかないと気合を入れたそうだ。
「で、店に立った朝……形見が届いたのさ」
「……ったく、呪いの品は厄介だな。マト、お前も厄介か〜?」
クゥが頭を撫でた後、頬を引っ張ってくる。
「え〜、そんなコトないよー!
あ、でも。ボクも必ず帰ってくるから、プロの呪われた宝物だよ」
「吹っ飛んだのどこのどいつだよ……。
で、鏡をどうしたんだよ、おっさん」
「盗まれたのさ。もう何処にあるかも分からねえ。
……店主が消えた店にガキ1人。
そりゃあ盗人は来る。
俺は命を守る為に隠れるしかなかった。……悔しかったさ、本当に」
「……なんも言えねえ」
「ま、お前さんも盗賊だからな?
だが、俺はずっと思ってたんだよ。あの鏡に価値があるのか? ってな。
何度見ても、ただの手鏡にしか見えねえ。
魔装を触った時の、ザワつく感覚が無かったのさ」
「キヒィ……しかし父上も店主も、買って行った人々もおかしくなった、というお話ではァ?」
「ああ。盗まれちまったら……永遠にそれを知る術がねえ。
だが俺の目じゃ分からなかった。で、願ったのさ。
……取り返そうとは思わねえ、だがあの品の価値を教えてくれ、ってな」
「それが一生のお願いになっちまったって事か……だからおっさんの鑑定眼は……」
「価値が分かっても俺の物にはならねぇのかもしれねぇな。
まぁそりゃ赦だ、深く理由を考えたってしかたねぇ。
で、オレは欲を得て、その価値を見たって話でな」
「すごい気になる!」
「おうおうマトさんよ、そうだろうよ。しかしつまらねえ話だ。
その手鏡の価値は……廃品。割れたもの、装飾も雑、金銭的価値無し」
「は?」
「おお、その顔だよクゥさんよ。俺もその顔だった。
逃げる盗賊共は、ついに手に入れたぜ……! 本当だ、見える、見えるぞ!
なんて大騒ぎしてるのにな。価値はゴミだった。
しかも、魔装でも何でもねぇ。
俺が一番最初に疑ったのは自分の欲だ。
そこで……店の商品を見たが間違っちゃいねえ。
見た瞬間、盗賊が戻ってきやがって……コイツも高い品だぞ! と盗んでいった」
「おっさんの赦……見たら自分の物にはならなくなる、って奴か……」
「そうだな。で、例の手鏡……一番下に書かれた項目にな、こうあった。
魔装とは願いより生まれるもの、虚構もまた願いとなり力になり得る、とな。
俺はよ、その一文は一生忘れないと思うぜ」
「……嘘でも、信じていれば本物になるかもしれない、ってこと?」
「ああ、そういう意味だな。
結局……親父は拾った宝を魔装だと思い込み幻覚を見た。
その後のやつも噂で思い込んだ。
……その結果が降り積もり、いずれ魔装になるかもしれない、みたいなな」
「……でもよ、なんで奴隷売ってんだよ。
そのまま骨董とか魔装売ってりゃ良かっただろうが」
「クゥさんよ、俺ん家はそんなに裕福だったワケじゃねえ。
今はおかげさまで大金持ちだがな! ガハハ!
……俺の欲はよ、物の値段を知ると売り物に出来なくなっちまう力だ。
だが、あの言葉がずっと頭に残っていてな」
「嘘も重ねれば本当になるって奴か?」
「そうだぜ。
嘘を真にすりゃあいい、そいつにとって嘘が真ならいい。
俺が鑑定しなければ、思ったこと全部が真実かもしれねえだろ?
魔装よりよほど嘘が金になるんだよ、奴隷商ってのはな」
「そうやって悪い顔しても、悪くないの分かるもん。
アードのおっさん、やっぱいい人じゃん」
「……ったく、マトさんよ……。ま、そういうことだ。
ひでぇ目に合うかもしれねぇヤツを……とびきりの存在に仕立ててよ。
全員が得をして、俺も儲かる。そんなうめぇ商売を思いついただけでな?
良い奴ではねぇよ、合法でも人売ってんだからな。
嘘のが稼ぎより多いくらいだぜ。
だが自分でゼロだと思っていた価値をよ? を百にも千にもしてやれる商人なんだよ」
「真っ当な善人ではねぇけどよ、良いおっさんじゃねえか。
……少なくとも、俺らには顔の怖いだけの良いおっさんだからな!」
「あっ」
素早い踏み込みでクゥが小突かれた。
「そうですぜ、顔の怖いだけの」
当たり前なのだ。
そのまま振り返りながらピートが殴られる。
他一同は賢いので、笑うのを堪えて目を逸らした。
「本当に仕方ねえな。
さあて、ガダルさんよ、お前さんの話も聞かせて貰おうじゃねえか。
疲れて嘆いたって言ってたがよ、その前に……あったんじゃねぇか?」
「……クッ、話すしかない、という事か……!
私の素性はそこまで面白いものでも、珍しいものでもなくッ……」
「うっせえ! さっさと話せ、元領主の話なんて滅多に聞けるもんじゃねぇんだよ!」
負け騎士の顔を浮かべていたガダルが、ピートにデコピンされている……。




