5-3「ニラルゲは我の森の名だ」
「……汝……何者だ」
「おうおう、儂はオルド。
ただの町長だよ。
てめぇは大層な力の持ち主だ、偽っても分かるだろうよ。
なら、飾る必要もねえからな」
「町長……!? 人族の長に感じる気配では無いぞ……?
我はマガロ、虹の竜……赤だ。
して、話とは何だ」
「2つある。
ひとつ。
この森の奥地はどうやらニラルゲ。
遺跡の壁画で赤の竜が住んでたと描かれる場所だ。見覚えはあるか?」
「景色も変わり、力も薄れている。
願いと可能性が薄まり……かつての気配は無い。
……言われねば気付かなかった。
だが、ニラルゲは我の森の名だ」
「お、おい、マガロ……! つまり、この森お前ん家だったのか!?」
クゥがオルドの後ろから声を上げる。
「繰り返す……言われねば分からなかった。だが……我はかつて此処で暮らしていたようだ」
「それなら話が早え。2つ目だ、虹の竜。
儂らの街とてめぇの家は隣同士ってことだな? 儂の街に住め」
「フハハ! おもしろい提案だ……!
だが我がこの街に入れば踏み荒らしてしまおうぞ」
「中に入れって言ってるワケじゃねえぞ、壊したら直させるからな?
マガロ、この森はお前の土地で家。
儂らの街に森を繋いで町人になれ、って言ってんだ。
儂らにとって、町の人々全員が家族みたいなものだ。
家族のモノはしっかり守るってのが盗賊でなあァ?」
「フッ……おもしろい。
我を迎え入れる代わりに、我に街を守れと言ったのだな、町長。
その申し出、受けさせてもらおう」
「流石に賢いな、伝説のドラゴンさんはよ。
街だけじゃねえぞ、てめぇの事も儂らが守るんだよ。
厄介事がお互い増えそうなんでな、協力してくれ。
おほん……それでは!
改めてこのアルクバーグでお迎え致しましょう、虹の竜……赤の冠、マガロさん!」
静かに立ち上がったオルドは、優しい笑顔に変わって丁寧なお辞儀を1つ。
「……!? 汝、何かの降霊術か……!? 殺気も気配も……存在感もない……!?」
「そういう反応になるよねえ」
クゥの腕の中で、ボクは眉を垂れて苦笑い。
「だけどよ、マトは迫力ねえじーさんのフリしてる時のが緊張してんじゃねえか」
「大人の事情なの」
「ガキでいろって言ってるだろ、拾った時から。せっかく可愛いのによぉ……」
頭をわしゃわしゃされるので、目を細めておく。
「さて、大事なお話は済みました。マガロさん、これからよろしくお願い致します。
そうだ、森の事ですが。私の息子とその弟子よりお話があるようです」
「んっ! あっ、そうだ! マガロ、ニラルゲの遺跡が森にあるか、知ってる?」
「遺跡……。そうか、我が長く不在の間に……そう呼ばれるようになってしまったのだな。
虹の竜の祭壇や、竜の民の神殿は残っているかもしれん。
盗掘されたと思わしき、森の秘宝も見かけたしな」
「俺の方を見るんじゃねえよ、マガロ。
あの鐘は東の貴族から、子どもと引き換えに受け取ったものだ。
いつどこで見つかったか、は分からねえ」
「マガロ、ボクね。次、その場所に宝探しに行きたいんだ。
マガロの故郷だって知らなかったから、今びっくりしてるけど……」
「フハハ!!! 盗賊が家主に相談して泥棒に入ろうと言うのか!
面白い、それは大変に面白いぞ!
我は可能性を循環させる者、その仕事……歓迎しようではないか!」
「来てくれないの?」
「盗賊団が家を案内されて楽しめるのか? 我は待っているとしよう。
汝らの長にも街の守りを頼まれてしまったのだからな!
『宝探し』の欲を持つ、真の守護者よ」
「粋な事言いやがってよ、マガロ!
分かった、お前からの挑戦だと思ってオレらがばっちり盗んで来てやるぜ」
「本当にお前さん達は……。
ったく、トントン拍子で秘境探索の話を進めやがって。だが、道案内は居ねえぞ。
森は下手な遺跡より危険なんだ」
アードが頭を抱えてため息を吐く。
「そういや、オレも森での盗みの経験はねえな……」
「キーヒッヒッ! それなら学びが必要ですねェ!
特にこの森は特異な獣が多いのですよォ!
不可思議だと少しずつ調べては居ましたがァ……!
伝説の竜の森と繋がっていたと言うなら合点が行きます!」
マヌダールがクゥに駆け寄り、興奮気味に話す。
いつもより、更に早口で大好きなテーマだと分かる。
「確かに、マヌさんが言う通りですぜ。
森では食えそうに見えて食えねえ物が多い……知らねえで入るのは危険ですぜ」
「ピート殿が言う通りだ。
私も訓練は熟した。その中で巨大な森は遺跡より手強い事と習う。
丁寧に準備を進め、知識、技、道具……万全で挑むべきだ」
ガダルが真剣な目で答える。
だが口角は上がり、やる気に満ちた笑顔だ。
マーさんの転移での往復も出来るだろうが……今回はシハのように特別な事情はない。
故に、準備をして正面から盗みに入りたいというのが、盗賊団……皆の総意だ。
「良い心がけと顔つきですね!
そうそう、皆さんは学校を作られるのでしたね。森は今や町人の家。
それを知り活用する術は子ども達、大人達問わず力になるでしょう。
さて! 私はマガロさんを抑えていた枷などを拝見して来ましょう!」
町長オルドは、優しく穏やかな笑顔で孤児院へと向かっていった。
子ども達が大歓声で迎えている。
クゥと同様、彼もまた皆の父親なのだ。
「ぐるるぅ」
「マガロ、顔がズルズルに溶けてる」
「うわ、だらしねえな。何だその顔……」
「我がかつて封じられた時よりも、強大な力の圧を感じたのだ……」
「気持ちは分からんでも無いぞ、マガロさんよ。俺も話してる間中、手に汗がな……」
「大将にもそんな事があるんですかい? 面の皮より手の皮のが薄」
ゴォン! と派手な音でピートが殴られ地に伏せた。
「……正直、私もその重圧に震えが来るほどだった。
王国の視察、資産の確認……あの時くらいに!」
「ビビりながら脱税してんじゃねえ!」
「クッ……」
「ま、まあ! みんな!
そう言う事で……学校の準備と一緒に、森の探索の準備をする。
それで良いかな?
マガロも準備は手伝ってね!」
「我に異論はない。楽しみにその可能性に溢れる姿、見させてもらう……!」
「良かった! で……なんだけど」
ボクがシワシワの顔をすれば、皆が集まってくる。
ボクが伝えた話は、強欲のこと。
人拐い……業と向き合い、夜の恐怖を消す話。
「俺もそれは気になってたぜ。夜動けるのは探索では強いアドバンテージだ。
マトのうさちゃんも可愛いしな」
アードが目を逸らす。
この極悪顔商人は可愛いものが好きなのだ。
「私もあのコウモリと和解し、眠れるようになりたい。
策があるのならば、教えて欲しい」
ガダルの目が鋭くなる。
「……私は悩んでおりますよォ。
夜、追いかけてくる影を見るたび、思い出すことがあって……」
マヌダールが息を吐き出し、目を伏せる。
重い空気を纏うことが少なく、飄々としたイメージがあったマーさんがこの表情。
「マーさん……!
あのね、皆の欲の事、嫌じゃなかったら教えて欲しいんだ。
ボクもクゥも、出て来た人拐い……業に意味があったみたいで。
力になりたい」
ぱたぱたと両手を振りながら、必死に皆に声をかける。
「マトくん……そうですね。
墓場まで抱えていくつもりでしたが……どうやら、今は話せる人が居るようですゥ」
「ああ、マヌダールさんよ。俺も情けねえ話だから隠したいと思っていた。
だが……そろそろ向き合ってやらねえとな。
俺もお前さん達になら話せる」
「……私は以前話した通り、寝る前にボヤいただけだったのだ。
高尚な理由も意味も無く、ただ……。
ゆえ、話すことなど」
「ガダル。それならボクもだよ。
しかも此処じゃない世界でね、ちょっと落ち込んだ時に試しちゃったんだから。
だけど、そのおかげでね。
宝物いっぱい出来た。みんなも宝物なんだ。
でも、まだまだ足りないかなぁ!」
「マト~! ったく欲張りウサギがよ! でも、それが良いとこだぜ。
宝、ガンガン見つけて集めような!
オレの願いも皆に話してなかったし……折角だ、ちょっと話さねえか?」
「ふむ、汝らの欲の話か。
我らは自らの意思や情報に関係なく、願いに合わせ欲を与える変換器に過ぎない。
眼の前での願いを聞くことはなかったのだ。我も聞いても構わぬか?」
皆が笑顔で頷いた。
早速、クゥが最初に話す。
大成功の盗みの帰りに、サソリに刺され倒れていた少女を救う術が無かったので「願った」話。
それを聞けばアードとガダルが急にお父さん顔になり。
嫌がるクゥの頭を撫でていた。
続いてボク。
本当はSNSで見た年下の宝物自慢記事に落ち込んで願ったんだ。
上手く噛み砕いて、宝物と言えるものが見つからなくて自信を失って願ったと伝えた。
「最初の宝はオレだからな!」と胸を張るクゥの横で、アードが「見つけたのは俺だ」と腕を組み。
そこへ「マトさんの顔を最初に見たのはあっしですぜ」とピートが首を突っ込んで。
大騒ぎになったけれど、結局クゥの勝ちだったという話になった。
そしてマヌダールが口を開く。
「それでは、私のお話を聞いて頂いてもよろしいでしょうかァ!」
話を切り出す顔は、いつもの胡散臭い大魔法使い。
だけど――目の奥が、とても淋しげだった。




