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5-2「次の仕事は森の遺跡でどうだ」

「おや! なんです、そのうさぎちゃん……!!」


「これは……えっと、えっと……!

(デザイア)と合体した人拐いです……!」


 町長の目が一瞬鋭くなった。


「ふむ……人拐い、と。

 しかし悪寒を感じませんし、悪意も無さそうです。

 触ってもよろしいですか?」


「ぷー」


「大丈夫みたいです! ほら、うさちゃん、行っておいで」


「ぷぅ」


「マト、ウチのじーさん相手だとおじさんの顔になるんだな……。

 んでよ、じーさん、オレのも居るんだ」


 クゥがポーチから影色のサソリを取り出して机に置く。

 小さな影色のウサギとサソリは音もなく町長の手のひらへと歩いて行った。


「しゅっ」


「これはこれは! とても可愛らしい……!

 良い子ですね! 良い子です……!」


「ぷぅ」


「しゅ」


「他に夜を越えられた方はいらっしゃいますか?」


「なんだって……? 今なんて言った? じーさん、その話を知ってるのか!?」


「おいクゥ、てめぇ遺跡にあんだけ行ってて壁画や文字の一つも見てねえのか?

 ……おほん! ええと、ですね」


 町長、"霞の腕"のオルドは丁寧に説明してくれた。

 その話はマガロと変わらず。

 知識は極めて正確であり、この大盗賊がどれほどの存在かを証明していた。


「町長さんのお話と、マガロのお話は殆ど一緒です!

 この後、ご案内致しますので孤児院の庭に居るドラゴンと是非お話を……」


「マト、良い子に出来るのは分かったがおじさん出すのやめてくれるか……?」


「おう……マトさんよ。ちゃんと出来るのは良いガキなんだがな?

 その喋りはよ、良いガキじゃあなくて、俺らの仕事の喋りっぽいんだよ……」


「違和感ありますぜ……」


「声が低くなるのが特に好ましくないのだ……。

 私にはどうか、うさちゃんらしく話しかけて欲しい……」


「……そうですね。

 マトさんはいつものように可愛らしい方が和みますから、そのようにお願いを……」


「ジジイてめぇもだよ、なんだその雰囲気! 胡散臭さ何処行ったんだ」


「ほっほっほ、まぁまぁ皆さん……おほん。

 どうにも儂に気を遣っちまうって話かァ?

 現役じゃねえ老いぼれにビビってて仕事ができんのか?

 オラ、ちゃんと面見せやがれ!」


「ンッ」


「おうおう、そっちのが良い顔だな、マト。

 てめぇらはこっちのが話しやすいみてえだから、めんどくせぇ町長の顔はしねえぞ。

 ちゃっちゃと報告しやがれ、若造共!」


 町長……オルドの優しく穏やかなタレ目が、鋭く迫力のある目に変わった。


「むーー! どっちにしても緊張するよ!」


「お、吹っ切れたな、マト。よしよし。

 ちゅうことでじーさん、報告続けるぞ。

 (デザイア)の強化、それを補助する虹玉の指輪、後はイルイレシアのガーディアン素材が山盛りだ。

 盾とか、クソデカ魚の核みたいなのも見せた通りだ。

 後はオレの宝物のマトの情報。

 『真の守護者(トゥルーガーディアン)』……古代イルイレシア遺跡の扉を開ける力ある事が分かった」


「把握したぜ。いいねぇ、『理由はどうあれ』マトも鍵開けを覚えたって事だな。

 まさか虹の竜までかっぱらってくるとは思わなかったが、てめぇら全員良い仕事だ、良くやったな。

 だがよ、これからやる事は多いぞ。しっかり聞け」


 町長の眉間に刻まれた皺がより深くなった。まさに悪党の親分の顔だ。


「ひとつ。持ってきたガーディアンの素材を組み立てて動くようにしろ。

 所有権はクゥ。そうしてから(デザイア)で金に変えて分けろ」


「……動くようにしろだ……?」


「そうだよ。テメェら、デカい動き回る宝物……虹の竜をどうやって守るつもりなんだよ。

 学校も建てる、もちろん宝探しも行かねえとだろ?」


「確かに……そうだけどよぉ……」


「ふたつ。虹玉の指輪はマトが肌身離さず持て。

 王国は人拐いの研究をしている……恐らく関係がある。

 指輪だけで置いておけば盗まれるかもしれねえが、マトが持ってるならお前らが絶対に守んだろ」


「オルドさん、私には関心は出来ませんがね。

 ただでさえ真の守護者(トゥルーガーディアン)としての危険がある。リスクを重ねる必要は……」


「アードよぉ、一番大事なもんは鍵をかけた箱に詰めて置くもんだろう?

 つまり纏めて守った方が良い。マトが連れていかれる可能性はあるか?」


「ありませんね」


 アードが即答する。

 商人の信頼を背負う、真摯な表情。


「そういうことだ。

 みっつ。お前らの良い仕事は、良い仕事すぎた。

 つまり……王国が目をつける可能性がある大手柄だ。

 アルクバーグは傘下じゃねえからこそ攻撃される可能性まである。

 心に留めて備えろ」


「クッ……やはりそうなるか! シハのようにはさせぬ!

 この剣、この街のために使わせて貰うッ」


「シハの元領主がその顔をしてくれるなら、儂は安心だがな。

 儂の息子がでけえ事をやってんだ、街で見ねえ訳がねえ。

 だが、儂も街も現役じゃねえ。

 お前らが何とかしろ、儂らも何とかする。分かったな?」


「キヒ……オルドさん。

 その3つ、全て原因は同じに聞こえますよォ。

 ミアレの襲撃に備えろ、と言う事ではァ?」


「それで違いねえ。

 だが、襲撃はまだまだ先だろうよ。

 あいつらはズル賢い。

 準備を整えるまで、情報の真偽が揃うまで手は出してこねえ。

 だが、来るなら……人拐い狩りをしてるって『勇者』だ。

 どんな奴かも分からねえが、ロクでもねえ噂しかねえ。

 ひとつずつ出来ることを調べ潰しておけ」


「分かったぜ、じーさん」


「良い返事だ、クゥ。褒美にてめぇの弟子に仕事をやらねえとなあ?」


「んっ、ボク!?」


「おうよ、新米。新米に丁度いい話がある。

 昔からウワサが有ったが誰1人辿り着いてねえ遺跡の噂だ」


「じーさん、まさか」


「そうだよ。マト、お前が住んでる家の隣の森の奥深く。

 イルイレシアの遺跡が眠っているっていう噂。

 昔、この辺りを根城にしていた山賊に酒飲み歌として伝わってた話だな」


「キヒィ、それは知りませんでしたよォ……」


「マヌダール、てめぇは引っ越してきてから酒場に来たことねぇだろう?

 それに歌の噂なんて信じねえだろうし、実際……噂止まりで見つかってねえ」


「時々酒場で歌ってるやつがいる、この歌だろ?

『ニアーゲ、ニアーゲ、森の奥。 酒飲み騒いで眠れ竜の子、大樹の根本で鐘を打つ』……」


「……ん。 おい待て、クゥさんよ。その歌詞は……」


「口に出してオレも気づいたぜ……おっさん……。おっさんの持ってた魔装……」


「ああ、多分その歌の場所の魔装……。

 ニラルゲ遺跡で見つかったと言われる、障壁を生み出す鐘(ドラゴンララバイ)だ。

 ニラーゲ……似た響き、おそらく同じ場所だな。

 だが、貴族から受け取ったもので出どころは分からねえぞ」


「良いねえ良いねえ! 宝の話が繋がって行くのは堪らねえなあ!

 で、儂が言いてえのはよ?

 新米マト、てめぇは宝が探せるな?

 次の仕事は森の遺跡でどうだ。根こそぎかっぱらってこい!」


「うん!!」


「お、決まりだな、マト! オレも楽しみだぜ!」


「だが、まずは宝の清算や準備だろ?

 学校の支度もやらねえと儂が全員盗賊に育てちまうぞ。

 おほん! ……それでは、早速……この私にドラゴンさんを見せて下さい!

 大きな枷などのお宝も気になりますし!」


「了解だぜ!」


 ということで、全員でいそいそと孤児院へと戻る。

 庭へとたどり着けば、ど真ん中でお腹を出して眠っているグリフォンが1頭。

 クチバシの周りどころか、首までオレンジの果汁まみれ。


「キャア……」


「マト、後で洗ってやってくれ……」


 そして、竜の頭。

 身体は庭の外、森だった場所に有るわけだが、その頭部は庭。

 凄まじいイビキをかきながら爆睡中だ。

 目を背けたくなる……。


「うっせえぞマガロ!! 一体何なんだそのイビキは!!!」


「キヒィィ!! ありえませんよォ! 私は庭に店舗を移動したのですゥ!

 この音ではお客様が来ませんよォ~!」


「おいマガロさんよ……なんちゅうイビキだ……。 鼻に岩でも突っ込まれてェのか?」


「大将それは逆効果ですぜ、寝ている時に息が止まってる可能性もありやすから……!

 大将と同じで首の位置を変えれば止まるかもしれませんぜ」


「眠れるのが羨ましいぞ、マガロ殿……!」


「こちらが噂の虹の竜さんですか!

 本当に大きなイビキで気持ちよく眠ってらっしゃいますね!」


「起きてマガロー! 町長さん来たよー!」


 大きな鼻先を両手(あんよ)で撫でれば、顔にシワが寄る。

 瞬間クゥが走り込み、ボクを抱いて後ろへと跳ねた。


 皆の反応も早かった。

 アードとマヌダールも走り出し、ピートもキャアを抱えて離れる。

 町長は気配すら無いまま、すでに孤児院の屋根へと移動している。


「ぶぇ……」


 そこでハっと気づく。

 ボクの両手(あんよ)はフワフワなのだ。フワフワが鼻の穴を触ってしまった。


「ぶぇっくしょおおおおい――!」


 暴風と大水のようなクシャミが庭全体に炸裂する。


「また!!! また私のウチがああああ!!!!」


 森、庭、マヌダールの廃屋。

 この順番に並んでいるのだから、起きる事象は1つ。

 尻尾で崩れかかっていたマヌダールの家は、藁の家の如く吹き飛んだ。


「わ、我を起こすのは……! 汝らか……。

 む……汝、何と言う気迫だ……!」


「おぅおぅ、儂はこのアルクバーグの長、"霞の腕"のオルド。

 ちぃと話がある――面貸しやがれ」


 町長は親分の顔で、竜の顔の前に座り込んだ。

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