5-1「汝ら、まさか売るつもりなのか!?」
「んーーッ!」
モゾモゾとクゥの腕の中から這い出る。
外はすっかり朝。
魔法の灯りが明るくなった空に溶け込むように輝いている。
「……ホントに遺跡探索、行ってきたんだなぁ」
周囲は盛り上がった宴会の跡地。
けれど、その場で眠る町人は無く。
朝の庭にはボクとクゥ、マガロだけだった。
サロペットの胸ポケットを開ければ、中には小さな影兎が眠っている。
手を突っ込んでそっと探せば、指先に指輪が触れた。
「これ! 地下闘技場の底にあった奴……!」
そっと取り出して朝日に掲げる。
「赤っぽいけど、何色って言うんだろ……凄い色んな色に光ってる。
綺麗だなあ……むふふ、高そう!」
宝石を通り抜ける光は、虹色を作り出していた。
「……お、起きてたか、マト~」
「んあっ」
ぬいぐるみが如く、抱き寄せられた。
「もうちょい寝てろ……」
「抱っこしなくて良いよお……。おはよ、クゥ」
「おはよ、マト。これは確かによく寝れるわ、ガダルが抱きたがる訳だ。
何してんだ、腕伸ばして」
「拾ったこれ見てた」
「クソデカ魚のトコに落ちてた指輪か」
「なんかこう、凄い感じがする」
「後でおっさんに頼んで鑑定してもらおうな」
その時、背もたれ……デカいクッションが動いた。
「……むう、陽か……。む、汝らも居たのか」
「声でけーよ! 朝っぱらからどんな声してんだ、マガロ!」
「わっ……びっくりした!
おはよ、マガロ。ホントにドラゴンさんがお庭に居た。夢じゃなかった」
「すまぬ、加減が分からぬ。……寝起きも久しぶりだからな。
地下で起こしたのは汝らで、今起こしたのも汝らと言う事。
夢ではないな」
「ま、あんな地下に居るより良いだろ。
そういやお前、お宝の指輪の話してなかったか?
マトのこれ、どう思う?」
「虹玉の指輪のことか?
……む……それだ! その指輪の事だ!」
「声がでけぇって言ってんだろ……! その指輪すごいのか?」
「高いの?」
「憎き王国が生まれる前に作られた、我らの加護を形にしたものだ」
「……王国前の遺物なら、信じられねえ値が着くな。マト、やったじゃねえか」
「にしし、すっごいうれしい」
「汝ら、まさか売るつもりなのか!?
その虹玉の指輪は我らの力を帯びているのだぞ」
「おう、帯びてると凄いのか?」
「……」
「うわ、超渋い顔になった。マガロしわしわになっちゃうよ」
「凄い……のだぞ……?
我ら虹の竜は願いを叶え、共に苦難を与えることで世界の可能性を増やすのが役目。
世界には願いの末に生まれる結末と苦難の可能性と、願いのために生まれなかった可能性が存在する。
願いの為に生まれなかった可能性の多くは正気を失い、願った主と共に世界へ還る事を望む。
その――泡沫の可能性を主の心へと還す加護だぞ……?」
「ん……?」
「なんか聞いた事ある……な……?」
「ぷぅ」
「しゅっ」
「あっ! うさちゃん!
ロトくんも!」
「強欲な者達よ、汝らはその指輪を用いて、業の先へと至ったのではないのか……?」
「悪ィ……知らなかった。
オレらはよ、その……地下で夜になるとオレらを追ってくる影と出会って……話してたら、ちっさくなって。
こうやって着いてきてくれるようになっただけなんだよ」
「うん、ボクも。ポッケの中に指輪をしまってたから、力を貸してもらったのかも」
「本来、夜を越えられる者は強欲なる森の長……我ら虹の竜と関わりを持つ所持者だけ。
他の者は願いを叶え、夜へと還る事で世界は豊かに循環していたのだ」
「夜を越える……! 業と仲良くなるって事だ」
「んじゃあ、他の者ってのは欲を持つ者……夜へ還る、業と消えるって事だな」
「汝らの言葉で間違いはないだろう。
我ら虹の竜は願いを聞き、欲を与える者。
けれど――その願いも、与えた欲も我らには分からず。
我らを通った力が、欲と赦へと変わり願ったものへと届くだけ」
「ま、まあ、それだけ頼まれてちゃ覚えてたら大変だろうしな」
「フハハ、違いない! 汝らと違い眠っていても欲を与えてしまう。
この力は我の意思ではなく、世界の意思だろう。
我も世界の一部ということよ」
「ねぇ、マガロ。欲は使ったほうがいいって事なの?」
「勿論だ、マト。
多くが願い、叶え。願い、向き合い、乗り越え。そして感謝と共に夜へと還る。
『欲深くあれ。世界はそれを望む。その全ての思いも結末も、世界を回す。
待ち人は夜の森に。いつか、そこへと帰ろう』――祈りの言葉だ」
「……逆じゃ、ねぇか――。
オレらは、大きな願いをするな、夜は外に出るなって言われて育ってるんだ。
それじゃよ。願って、叶えて……満足したら世界に還れ、ってのが昔の良い事ってことか……?」
「汝が言うとおりだ。願わぬ事は、この世界を衰退させてしまうのだから。
満足できぬなら抗って乗り越えよ、それもまた力を生み出す善行――そういうものだ。
この指輪は更にその先。
願いと抗いを繰り返し、生きて立ち向かうことで世界を豊かにする強欲なる聖者の指輪だ」
「やべえ難しい話になってきたな……!
欲をしっかり使って、良い感じにすると世界も元気になる。
もちろんやべぇ事が起こるから、それも越えろ。
業は、願い事の裏側で寂しがってる。
なんとかしたきゃこの指輪を使えってことだな?」
「やや大雑把だが……汝の言葉で間違いはない。
価値は分かったか? 世界に7つしか無い指輪を盗んだ大盗賊よ」
パン、とクゥとハイタッチ。
「やったな、マト~! 凄いぞ~」
めちゃくちゃ撫でてくれるので、目を細めてえへへと笑っておく。
「ってことはクゥ、この指輪で欲使えばめちゃくちゃ金貨が増えるんじゃ……!」
「んにゃ、アレはオレの手に入れた宝の幸運を配る力だからな。
その宝はよ、マトの初報酬だから駄目だぜ」
「えー、クゥのにしたほうがお得だよ?」
「そういうもんなんだよ。ちゃんとポッケにしまっとけ。
それに――使う必要の有るやつが何人も居るだろ。
貸してやらないとな?」
「わかった! そうだね、貸してあげよ!
うさちゃんもロトくんも可愛いから、皆のも可愛いよ」
「商人、賢者、剣士――あの者達の事か。
しかし忘れるな。
指輪は長にしか扱えなかった――無論、長でなくその指輪を使おうとした者は多い。
だが……指輪だけ残して世界へと還った」
「大丈夫だぜ。皆、上手くやるさ。
困って迷うなら、答えが出るまで待てば良い。
不安なら、一緒に横に立ってもいい。
影を残したって良いんだからな」
「フハハ、面白い……! 肝の据わった盗賊団よ!
その行く末、楽しみに見届けさせて貰うぞ」
「いや、見届けてる場合じゃねえぞ。
お前もその盗賊団のドラゴンだからな、今」
「む」
「その嫌そうな顔、何とかならねぇのかマガロ……」
「お鼻大きくなってるね。
嫌だと目が細くなって、お鼻大きくなるんだ」
「むう……」
「デカいし目立つんだ。お前を狙ってくる敵も居るかも知れない。
戦えばお前のが強いかも知れねえが……それが原因で面倒くせえ事にもなるだろ。
このアルクバーグはオレのじーさんの町、全員が盗賊団みてぇなモンだ。
悪いようにはしねえ、ちいと仲間で居てくれねぇか?」
「ボクからもお願いする!
マガロのしたいことも有ると思う! それも出来るように頑張るから!
街に居てよ!」
「……全く、そんな『願い』を聞いたのは始めてだぞ。
村に住めなど言った長は1人も居なかったのでな。
フハハハ! 良いだろう、この我も盗賊で良い!」
そんなこんなで、正式に何だか凄そうな虹の竜も仲間になってくれた。
皆も順番に目覚め、庭に出てくれば竜と話し。
いつものようにピートが朝ご飯を作り、皆へと振る舞う。
外で賑やかな食事の始まり。
マガロは自分の食事を取ってくる、と笑い。楽しげに森へ走っていった。
「馬鹿野郎!!! お前さん、そのデカい図体で森へ走るんじゃねえ!
どこから見ても怪物が暴れてるように見えんだよ!」
アードの叫び虚しく、狩りに行ってしまったマガロは大変ゴキゲンに「暴れまわって」いた。
まぁ……大きいから仕方ないよね。
そして朝のドタバタが終わり、着替えて全員が庭に再集合。
「んじゃ、じーさんに報告に行くぞ」
皆が頷く。
町長……クゥの育ての親の元に、今回の仕事の報告へと向かう。
今回は全員。
とはいえ、キャアは飽きてしまうだろうしマガロは巨大すぎる。
2人はお留守番だが……壊れた壁の守護者としてこれ以上にないだろう。
「じーさん、報告に来たぜ!」
「おお、来ましたかクゥ。
おはようございます、みなさん。
ずいぶん良い仕事だったようで、昨夜から報告を心待ちにしておりました!」
「昨日の夜も話したじゃねーか」
「あれはお酒の席ですからついつい飲みすぎて、トホホ。何も覚えていませんよ。
それでは何を頂いて来たのか是非見せてください! さあさあ!」
皆が一斉に机の上に遺跡の宝を並べる。
巨大な甲冑や枷は孤児院だ。
この後、町長こと親分が楽しみに見にくるそうだ。
「じゃあマト、とっておきを見せてやれ!」
「分かった! えっと」
胸ポケットを開くと、指輪では無く黒いチビうさぎが飛び出してきた。
「ぷぅ」




