4-20「もっとクゥと宝探し行きたいから」
「『喰らい奪う牙』!!」
ガダルが構える両手剣から再び紅いオーラが吹き上がる。
溢れ出す力で形作られた巨大な狼の頭が口を開き、敵を呑んだ。
続くであろうクゥにアイコンタクトし、ガダルが飛び退く。
「さぁ……何か来るか!」
魔法床に磔になっていたガーディアンの光が次々に消灯していく。
全ての赤い光が消えた瞬間。
「クゥ、何か飛び出た……!
甲冑の真ん中、氷を突き破って光ってる玉みたいのがある!」
「予想通りだな!
アレか……丸い玉……いや、指輪か……? 最後のお宝、頂きだぜ!」
クゥが走り込み手を伸ばそうとした時。
「しゅ」
影蠍が鳴いた声がした。
「クゥ、赦が来る!」
「宝が目の前にあるんだ、コイツだけは……!」
浮かび上がった指輪。
飾り石は黒色の澄んだ宝石。
キーン、と小さな振動音が聞こえ……目で見て分かる程の魔法的な力が収束する。
それは爆弾が弾ける直前のような。
「いけねえ! 馬鹿野郎、下がれお前さん達!!!
魔装展開『竜を寝かす者』!
まだだ! 魔装展開『氷の天蓋』!!」
アードが両手に魔装を掲げ力を解き放つ。
小さな結界がクゥとマトを包み、さらに結界の周囲が凍結。
結界の耐久力を高める。
「マト、来い」
肩にしがみつくボクを、クゥはそっと掴んで全身で包むように抱きしめてくれた。
「待って! クゥが怪我したら意味ない! これはボクも納得できない!」
「言ってんだろ、ガキで良いって。守られとけよ、おっさん漏れてんぞ」
「クゥ……!」
「『狼王の晶盾』アアア!!」
ガダルが咆哮するが、距離が遠い。後方に位置する仲間を守るには充分だが、クゥとマトへは届かない。
その瞬間、辺りが真っ白な閃光に包まれた。
指輪に蓄積されていた願いの力が爆発を起こす。
「クゥ……!」
ただ名を呼びしがみつくしか出来ない。
「悪運のツケを払うのに悪運を呼んだら意味がねえからなあ。
なあに大丈夫さ、マト」
宥めるような優しい声色。
安心するけど、安心するけど……!
バキバキと氷が砕ける音が響き。
包み込む結界にもヒビが入るのが分かる。
「大丈夫だ。なんせ、ウチの大商人のコレクションなんだろ。
壊れたら偽物だって後で笑ってやろうぜ」
「もう……! 分かった、大丈夫。
もっとクゥと宝探し行きたいから」
カシャン、と氷が弾けて消えた。
残る結界もヒビだらけ。
指輪から放たれる光は徐々に弱くなり……そして地面に落ちた。
「終わった……か……?」
「……! クゥ、足場が!!」
この足場はマヌダールが魔法で作ったもの。
マガロが走っても壊れる事は無かったけれど。
度重なるダメージか、それとも特殊な力かは分からない。
ボクは大きな亀裂が足元に走ったのをハッキリと見た。
「おっと、床かよ! 指輪は捕まえたぜ……!
甲冑は残ってねえ……か……!」
片手でボクを抱いたまま、転がる指輪を素早く拾い、皆の方へと跳ねる。
爆発に巻き込まれた甲冑本体は最早残骸も残っていない。
「クゥ、手、煙……!」
指輪を拾った右手から、焼ける音がする。
「マジでクソ熱いな。いやあ、絶対火傷だわ。
後で診てもらうから心配すんな……持って帰らない方がオレには痛いからな!」
「……しんぱい」
「ありがとな」
ガダルの特技は仲間全員を守り切っていた。
吸収した力の上乗せも効果を示したのだと思う。
「こちらは無事だ! 流石クゥ殿……しっかり盗んだのだろう?」
「もちろんな! 超熱いぞ! バキバキに焼けてる!」
「クゥさん! 焼けてるじゃありませんよ。
一番の仕事道具と宝の価値、しっかりと考えて行動してくださいね?」
「クゥ、マーさん怒ってるよアレ」
「オレでも分かる。胡散臭くねえ時はヤバい時だ」
「お前さん達は、オレの顔についての言及と今の不注意で2回デコピンとゲンコツだからな?
早く戻れ、崩れるぞ、全く……」
「マト、戻ったら速攻アードから逃げるぞ。良いな?」
「うん」
「うん、じゃないですぜ! お二人が殴られてから美味い飯で宴会に決まってるんですぜ!」
床のヒビが広がっていく。
マヌダールが怒った顔のまま詠唱を始めた。
親戚のおじさんが危険なあそびをする子供達に注意する顔だ……。
「汝ら、人の身でよく耐えた物だな……。我でも危なかった所だが……」
後ろからはマガロの声。
あの爆発を耐え抜いた竜。
恐らく、ガダルが敵の力を奪わなければ倒れていたと思わしき深傷。
「デカい宝物さんよ、ボロボロになってる所悪いが少しでも近づいてくれ。
連れて帰らないとマトさんが不満でシワシワになっちまうからな」
「シワシワは困るな……従おう」
「ま、俺達もお前さんへの守りが間に合わなかった。
そう言うバツの悪さもあるんだ、治療くらいさせてくれ」
「行くぞ!」
「はい?」
「は……? マト、何でアイツ跳んでるんだ?」
「馬鹿野郎!! 床が割れそうだって言ってんだろ、クソデカトカゲが!」
「最悪ですぜ……これは着地と同時に粉々ですぜ……」
「きゃっきゃっ」
「ジジイがすげえ険しい顔で唱えてるぜ!
クソ早口だし間に合うとは思うけどよ!」
「跳んでは不味かったのか――」
「おう、そうだな……」
今更遅い。
一歩で皆の所に合流しようと跳ねた、テンションの上がった恐竜が落ちてくる。
「マーさん!!! 早くううう!」
「――『旅の門』!!」
ゴオオン!! という激しい着地音と共に作られた魔法の床が割れたガラスのごとくバラバラになる。
全員の落下が始まる……その瞬間に青い光が辺りを包みこんだ。
一同の姿はもう無い。
魔法の足場は消え。
戦闘で生まれた壁の空洞が崩落を開始。
シハの地下遺跡は砂煙と共に、深い深い土の下で眠りについた。
「……到着、だな――!!!」
クゥの声と同時に眼の前に広がるのは、彼の家……夕焼けが照らすアルクバーグの孤児院。
到着するのはそこそこ広い庭。
広い……庭……。
「予想はしてたんだよ」
「ああ、そりゃ誰でもしてるぞ、クゥさんよ」
「言わなくても分かる事ですぜ」
「うむ、想定通りだだろう?」
「予想通り!? キヒィ……流石にコレは酷いと思いますよォ!!!!」
「マーさん家が……」
「我は壊そうと言う気など無く……ただ、尾を伸ばしただけなのだ――」
マガロの尾が孤児院横の壁を破壊。
そのままでは止まらず、マヌダールの家へと接触。
不幸中の幸いか、居住スペースだけを破壊。
商品や書庫は無事だった。
「私の! 家が! 粉々ですよォ!?」
「荷物運ぶのも手伝うからよ、しばらくウチで住んでくれ……」
「マーさんごめんよ……!」
「ね、寝る場所があるなら……仕方ないとしましょうゥ……。
遺跡探索の必要経費だったと……」
「まぁよ、学校にするんだろ?
二件とも繋いじまって、建物も直せば良いじゃねえか。
俺らも手伝うし、なんせやっちまった本人が一番力仕事に向いてんだろよ」
「我に家を建てろと言うのか!?」
「戦ってる時より驚いた顔するんじゃねえ!」
「しかし経験が!」
ドゴオオオオン……という強烈な音が響く。
「マガロ、てめぇ何やってんだ!!!」
慌てたマガロが無意識に尾を振り抜き、マヌダール家とは逆、反対側の孤児院の壁が粉々に吹き飛ばした。
「うわ、森と繋がっちゃった……」
全員が目から光を失って俯いていると、子ども達が孤児院から飛び出してくる。
「……何!? 何が起きてるの!?」
「ドラゴンだ!!!」
「うわああ!! ドラゴン! かっこいいね!!!」
勿論、あんな振動だ。
街中にその音は響き渡り……野次馬が殺到する。
「ちょっと派手すぎじゃない?」
「どっかの遺跡の絵に描いてあって大笑いしたけど、本当にあの色だったのか」
「おいクゥ! 動物を飼うなら、飼える場所で飼え! うっせえぞ!」
街の人々の肝は据わっていた。
盗賊団の家系、そもそも元盗賊、訳アリ……大騒ぎになるベクトルが違う。
「お前ら、もうすぐ夜なんだぞ! どうすんだこんなにぶっ壊して!
待て……そのドラゴンボロボロじゃねえか!
寝かせろ! 治療すんぞ、薬師と魔法使えるやつは手伝ってくれ!」
クゥが偉そうな顔でマガロを見上げる。
「そこに寝ろ、ちゃんと薬塗られるんだぞ!」
「クゥ、てめぇも右手震えてるだろうが! てめぇも治療が先だバカ!」
ボクは、怪我人が小突かれるのを始めてみたかもしれない……。
「クゥ……。汝の街は狂っているのか……?
我は大騒ぎになるかとばかり……」
『なってんだよ、ケガして帰って来やがって!』
マガロの足をおばさん達がホウキで殴っている……。
結果として。
マガロの治療とクゥの治療が優先され。
動けるようになったマガロが森側の壁を完全に破壊。続いて森の入口の木を伐採。
瓦礫をピートや力自慢が撤去。
丸い寝場所が作られた。
「壁がなくても、アンタが居りゃあ何も入ってこないでしょうよ!」
あの尊大な竜がタジタジになって動いているのは可愛いと思う。
出来る「盗賊」達の集団作業により、夜になる前に一時的なマガロの居住スペースは確保されてしまった。
夜が近づいてくる。
明るい街の中、人拐いの心配はない。
ならばこの後、やることは一つだ。




