4-18「しっかりやってこいよ! 弟子!」
「――赤の竜の活動再開を確認。ガーディアンを展開――」
巨大な丸扉の魔法陣が輝く。
幾つもの金属片が切り離され、空中で集まり――人型となる。
その姿は黒い甲冑。
瞳には赤い光――全身の関節からも赤い光が漏れ出している。
大きさはTレックスほどの巨体のマガロと同等かそれより大きいか。
「――真の守護者を同時に確認。
条件一致、赤の竜による鍵の所有を想定。
段階進行、赤の竜と同時に真の守護者の抹消を開始」
「ん……あれ? ボクも狙われてる……?」
「っぽいな。マトがマガロに盗られた、って判定されたってことだろ。あげねえけどな」
「我と汝が友好状態にある事は想定されていないと言う訳だな。フハハ、気分が良いわ」
「2人とも! 敵、来るよ!」
敵ガーディアンは全身から赤い粒子を吹き上げ、空中を突進してくる。
「飛ぶ相手は面倒くせえな……!
恐らくあのガーディアンもコアを備えているなら、マトの欲で看破できるハズだ!」
「分かった……! いくよ、欲【宝の在り処】……!」
示される宝はもちろん、出口を封鎖している丸い扉に埋め込まれた宝石。
次点でガーディアン全身も輝いていた。
全身が光の粒子で包まれ、あの存在自体が全て宝であると分かる。
「あの黒い奴、全部光ってる!
さっきの奴みたいにコアだけじゃない!」
「くそ、アレを持って帰るのか!? どう見ても強そうすぎるだろ!」
「『このような日』に備え、我を抑えるために作られたガーディアンだろう。
我と相性は間違いなく悪いぞ!」
「でも、戦えねえ訳じゃないんだろ?」
「フハハ、盗賊風情が言ってくれるわ! 無論……戦えぬ事など無い!」
マガロが大きく息を吸い込む。
胸がパンパンに膨らみ、鼻から煙のような息が漏れる。
「ガアアアアア!!!」
放たれる咆哮は衝撃波となり、飛来する黒い甲冑を飲み込む。
全身の関節に火花が走り、煙が吹き上がり……いとも簡単に甲冑がバラバラに崩れた。
「一撃じゃねえか! なんだよ、何が相性が悪いだ……ん」
「あー……そう言うやつか〜……」
バラバラになった甲冑から、赤く輝くエネルギーの糸が伸び繋がる。
そして、元の動く巨大甲冑へと戻る。
「復活するのかよ!」
クゥが声を荒げる。
ボクは、あの手の挙動を色々な漫画やゲーム、物語で知っている。
こうして生で見れば驚かない訳ではないが、納得してしまう挙動なのだ。
「たぶん、何処かに核があってそれを何とかすれば全部止まるはず!」
「そうか……! ならマト、バラけた時に宝の反応は変わったか?」
「全部同じ! 全ての部位が光ってて、全部が特別な何かだよ!」
「攻撃が来るぞ、汝らも避ける準備をしろ!」
その言葉と同時に甲冑の腕が手首から外れる。
まさか……。
「腕が飛んでくるのかよ!」
「知ってた……」
飛来する手を避けるには、足場や空間が狭すぎる。
マガロが尻尾で叩き落とすのも難しく、手はもちろん届かない。
あの予備動作……マガロの咆哮は繰り返し撃てないのも容易に理解できる。
「コイツはオレ達の仕事だな!」
クゥがマガロの背から飛び降りて走る。
マガロには狭い空間であっても、クゥならば上手く使いこなせる。
「来やがれ! 腕!」
甲冑が放った飛来する拳は、叫ぶクゥへと軌道を変える。
「それで誘導できるの!?」
「誘導出来たし、OKだろ! 引きつけて避けるぞ!」
「ぷう」
「わっ、うさちゃん出て来ちゃだめ! ……ン……」
「マト。うさちゃん押し込むとこ見てたぞ」
「何でも……ない……かな……」
「うさちゃんの目が光ってたって事は、今この攻撃が向かって来た理由は?」
「ボクの赦の『呪われた』部分って事かなぁ……」
「だろうな!!!」
空から襲い掛かる腕は、明確にボクを掴もうとしているようだ。
クゥがしゃがみ、跳ね、スライディングし、三角跳びとフィジカル全開で避け続けるが追跡は止まらない。
「厄介すぎんだろ!」
「んあーーっ! クゥ! もう一個飛んできてる!」
「おかわりは要らねえよ! 勘弁してくれ! うおおおお!」
その間、マガロも咆哮で敵の本体を狙う。
黒甲冑は回避行動を取らない。
分離合体による余裕か、それを軸とした行動が設定されているせいか、すべての攻撃を受け続ける。
「……何度破壊しても元通りになる――か……!
だが無限では無いだろう! 我が動かなくなるまで叩き潰してやる!」
敵が空中であり、足場は遥か下――マガロは咆哮での射撃戦が軸になる。
巨体とパワーで戦うタイプの竜だと想定できるが、その力を発揮できる場所ではない。
恐らく何かの特技や魔法、欲を備えているだろが、不利なのは変わりない。
「マガロが何回も壊してるけど――ほとんどダメージ入ってない……!
キラキラしているのは甲冑と……扉の宝石――」
「……マト。あのガーディアンはあの扉から出てきたんだろ? なら……!」
「そっか!! なら、あの宝石を何とかすれば」
「おいおいマト、何とかするだって?
何とかじゃねえ、かっぱらうに決まってんだろ! 任せろ!」
「対策が出来たか……マト、クゥ!
――この場で戦うには、防戦しか出来ぬ!
敵が形を変えた――早めの『仕事』を頼みたい!!」
マガロが吠える。
敵が形を変えた――?
「クゥ! 敵の足に剣みたいなのが着いた!
多分腕はこっちに飛ばしてるから、アレでマガロに攻撃する気だと思う!」
「見えてるぜ、マト……!
この空間じゃ叩き落とすのも厳しい……つまり、オレらが肝だぞ! マト、頑張れるか?」
その言葉だけで、クゥが言わんとしている事は分かる。
始めての遺跡と同じ――ボクが腕を引き付けてくれ、ということ。
「分かった……!」
「……お前なら大丈夫だ、しっかりやってこいよ! 弟子!」
クゥの拳にボク拳をコン、とぶつけて。
肩から飛び降りる。
「んじゃあ……」
「行くぞ!」
「行くよ!」
2人で別方向に走り出す。
「――『壁走り』!!」
クゥの声が響く。
潜駆はもう使えない。
つまり――しっかりボクが飛んでくる腕を引き付けなければならない、ということ。
「行くよ……欲――いや、そっちじゃない!
うさちゃん、曰く付きだ……!」
「ぷう~!」
ポケットから頭を出した影色の兎の瞳が紅く輝く。
「――真の守護者の捕獲、抹殺を優先」
機械的な音声を耳が捉える。
「釣った!!!……後は逃げれば……!!」
甲冑の腕は狙い通り真っ直ぐにボクへと飛んでくる。
マガロには狭いこの空間でも、ボクには充分すぎる大部屋。
「『超跳躍』!!」
一歩を前に、一歩を大きく。
輝く緑の光を纏って、思いっきり前へと跳ねる。
飛来する腕の左右からの掴みは宙を切った。
「よし……!」
そのまま着地。
決してクゥみたいに走って避け続けられる力はない。
「ううう! やるしかないんだ!
……うりゃああああ! 『兎のあんよ』!!」
再び自分を狙って飛んできた腕を、ドロップキックで吹き飛ばす。
「当たったァアア! 次は――」
「マト、足が行くぞ!」
マガロが吠える。
「足ィ!?」
自分の頭上へと飛んできたのは甲冑の両足。
2枚の刃を備え回転するそれは、さながら遠隔操作の大型ドリルだ。
「うああ!!!」
クイックターン、その場で反転して後ろへ跳ぶ。
瞬間、ガガガと削り取る音をあげながら敵の足は地面へと突き刺さった。
「もう一個! もう一個手がどっかに飛んでる!」
視界の中の輝く粒子を辿る。
見えない。
後ろから風切り音が聞こえる。
「聞こえた!」
この腕は引き付けて、そのまま走るだけ。
後ろから迫る風音に意識を向けながら、壁にあけた大穴……空洞の外周を全力で駆ける。
一方。
「遺跡の貴重な宝にしてはよォ……守りが甘すぎるんじゃねェか?」
クゥは既に壁走りで扉へとたどり着いている。
赤い宝石をじっと見つめ――周囲の様子を伺う。
「感覚的にトラップはねぇな。
マガロが逃げねえようにするもので、人間への対策は無し、か――。
なら、ちゃっちゃと外すぜ――!
魔装――『縁切り鋏』」
引き抜いたナイフが、禍々しいオーラに包まれハサミへと姿を変える。
その斬撃は願い……魔装や特技、魔法との連結を断つ力を持つ。
「――頂きだぜ」
赤い宝石をクゥが抱えれば――扉の魔法陣に流れていた全ての光が消滅する。
地鳴りが響き、丸い扉が2つに割れ。
外れて――落下する。
「ちょっと待てよ! 普通こういうのは左右に開くウゥアアアアアア!!!」
扉の落下に巻き込まれ、真っ逆さまに落ちていくクゥ。
瞬間、閃光が溢れ空中にゲートが生まれる。
飛び出してくるのはキャアに乗ったマヌダール。
「いやあ、まさか居残りとは思いませんでしたがねェ!
クゥさんは回収! 続いて――『戦闘空間』!!」
「悪ィ、最高の登場だ……助かったぜジジイ!」
巨大な縦穴に床が作られ、足場が整った。
同時にアードとピート、ガダルの転移が終わり、足場の上に姿を見せる。
「お前さん達、最後の祭りは終わっちまってねぇだろうなァ!」
「おっさん!!! 悪いな、オレが敵の核は盗み――」
「クゥ、止まってない!! 甲冑も腕も足も! それどころか、真っ赤に光ってる――!!」




