4-17「なんだ、扉か。開けるぜ」
「できる!」
視界の中でマガロにキラキラした光の粒子が集まっている。
間違いなく、彼は宝物だ。
「おいマガロ!
悪いけどよォ、お前を盗みたいとウチの弟子が言っててな?」
「フハハハ! 面白い!
良かろう、出来るものならやってみるがいい!」
会話の間にも遺跡の崩壊は進む。
石床にも大きなヒビが走り始めた。
「クゥさんよ……勝手に決めやがって……!
お前さんの孤児院くらいあるんだぞ、そのドラゴンは!」
「あっしなら持ち上がりやす」
「ピート、そういう事じゃねえ!
寝る場所やら飯の確保、あとアイツの安全が保証できねえ!
国から何されるか分からんぞ!
……が、置いて帰って生き埋めはもっと良くねえ。
クゥさんじゃあねえが、その場でなんとかするしかねえな!」
「私はマガロ殿からまだ何も聞けていないッ!
私も共に帰る事を望むぞ、アード殿!」
落ちてきた瓦礫を両手剣で吹き飛ばしながらガダルが叫ぶ。
「っしゃあ!
マガロの枷をここに集めろ!
んで、マガロ! 教えてくれ!
この場所にお前が知る宝はあるか!」
「我にそれを尋ねるか!
ならば教えてやろう、奴らは作り出した魔法生物に虹の指輪を食わせた!
あの指輪は我ら冠竜の……」
「これ?」
ボクは胸のポケットから、さっき拾った指輪を出して掲げる。
「素晴らしい……! これで弟子か、なかなかの手癖だな!
むう、天井の破片が……!」
立ち上がった竜が、落ちてきた瓦礫を身体で受け止めて弾き飛ばす。
「わ……ありがと……!」
「感謝など、森に居たとき以来だ。
指輪があるのなら、いわゆる宝物はもうないだろうな」
「クッ……! リーシオンの素晴らしい武具が眠っていると思っていたのだが!」
ガダルが枷を馬車付近へと運びながら、悔しそうに呟く。
「狼……! リーシオンは我が敵の1つ! やつらの武具は……」
マガロが言葉を終える前に、その頭上へと巨大な瓦礫が落ちてくる。
「マガロ殿、上だ!
竜がどれほど頑丈でも、放っておける身の上ではないわ!」
ガダルが飛び上がり、両手剣が落下してくる遺跡の破片を粉々に粉砕する。
「……もはや敵ではないのだな。
汝の剣こそリーシオンの牙だろう、此処に武具など無い!
だが我を封じた時の武器とは力の質が違ったぞ……何かが欠けている!」
「もう! お話するのはいいけど、早く逃げないと危ないんだからね!
宝物がもう無いなら、最後の1個を持ってずらかるよ!」
「枷は集めましたぜ! マヌさん、移動を頼みますぜ!」
「キーヒッヒッ、分かりましたよォ!
マガロさん、今から我々の家へと転移しますゥ!
貴方は大きいので、事故があるといけません!
転移前も転移後も動かないで下さいねェ!
皆さんもですよォ! 転移は事故が一番怖いらしいですから!」
「異界人しが使えぬ術を扱うか、賢者よ!
ならばその言葉に従おう!」
「欲【司書無き図書館】――!
縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――転移術。
階位凍結――風歌い風舞う。眠りの上に命芽吹き、友の夢花開く。
悠久の時、回る円環――春来たれり」
マヌダールが両手を掲げれば、複雑な魔法陣と桃色の光が何重にも展開された。
周囲を囲むように花びらが舞い上がり、辺りがシロツメクサの花畑に変わる。
全員の足元に、花冠のように編まれたリースが生まれ……転移の力を帯びる。
だが、強欲の赦はそう簡単に赦してはくれない。
クゥの影サソリの瞳が強く輝いている。
発生するのは連続する天井の崩落。
クゥへと雨のように降る瓦礫は、術の完成を待たずに直撃する軌道。
「中々に面白い時間だったぞ、盗賊団!
我はこの程度で死んだりはせぬ。
いずれまた会おうではないか!」
極彩色の二足歩行の恐竜……マガロが床を蹴り跳躍した。
瓦礫めがけて突撃、体当たりで吹き飛ばす。
「馬鹿野郎、カッコつけてんじゃねえぞ!
オレのケジメに巻き込んで捨てていけるか!」
「マガロ……! ボク達は金貨1枚残さないって決めてるんだ!」
盗賊と駆け出しの2人が残った所で何かが出来る訳ではない。
けれど、そのまま竜を置き去りにする事が出来るような性格ではない。
言葉の確認なんて要らない。
2人の意思は同じだった。
『残ってマガロをなんとかする』
マガロへとクゥが跳ねれば、その背中を駆け上がる。
その瞬間に術は完成する。
「『転移門・兎の穴』……!」
馬車や皆の居た空間が圧縮され、点になって消える。
転移は成功しただろう。
残されたのはボクとクゥ、なんだか凄い肩書きのドラゴン。
「何故残った!
馬鹿野郎というのは汝らの事だ!」
「だってマガロ埋まる気だったでしょ、そういうのボク知ってるんだ」
「違いねえ! こんな地下に埋まられたら発掘すんのがめんどくせえ!
馬鹿デカ宝物は自分の足で歩いてオレんちまで来い!」
ズウウン、と地下を揺らしながらマガロが着地。
「……諦めの悪い盗賊だな」
「そりゃあ、そういう宝探しだからな。
作戦なんてねえぞ、此処からは走って帰る!」
「クゥ、技はどのくらい残ってるの?」
「ほぼ0だ。だけどジジイの魔法で疲れは無い。やれる事は多いさ!」
「何も考えず、我の為に残ったのか……!?」
「今から考えりゃ良いだろ。
偉いドラゴン様だか知らねえが、1人より3人のがマシだぞ」
「呆れたものよ!」
こんな状態だが、マガロの声は楽しげだ。
「マガロ、お前も楽しんでるじゃねえか!」
嬉しそうな笑顔でクゥがマガロの背を叩いている。
悪運という赦を楽しんでしまうからこそ、此処まで来れたのだと分かる笑顔。
「それじゃあ、今日最後の宝探しだよ!
帰り道っていう大事な物を見つけるんだ!
欲【宝の在り処】……!」
輝くオーブが視界で溢れ、周囲へと舞い上がる。
オーブは天井を抜け、その先へと一直線に飛んでいく。
凄まじい速さだ。
宝への道のりを示す光だが、
宝は宝であり、宝が出口を示している保証はない。
「真上に飛んでった!
ドアの方じゃ無いよ、さっきまで無かった反応!
行ける? 取り残しかも!」
「上だって!? ぶっ壊れ始めて何か出たって事か!?
そういう宝は特別な事が多い……どうせ出口も上だ! 向かうぞ!」
「盗賊2人よ、我はかつて邪竜と呼ばれた者……悪巧みに混ぜてもらっても構わんな?」
『おうよ!』
ボクとクゥの声が重なる。
「上だな! 我は此処がどれだけ地下かは分からぬ!
だが……冠竜の脚力を舐めるなよ!」
「……!
光の粒子が壁に留まってるとこがある!
アレが道って事……! マガロ、壁って使える?」
「ならば分かった……!
『竜脚跳躍』」
マガロが床を蹴り高く高く跳ぶ。
その足からは炎のようなオーラを放ち、まるで飛ぶかのような速度で壁へと突撃。
その蹴りは壁を大きくえぐり取って破壊、空間を作り……中層に留まる足場とした。
「すっご」
「やべェな……これはオレらじゃ勝てねえわ」
「汝らの方が、よほど我を封じた者より強かったがな。
盗賊、名は何と言う?」
「ああ、遅れて悪かったな。
オレはクゥ、クゥ・パーダだぜ」
「覚えたぞ、クゥ。
汝は戦が本懐ではあるまい、我と戦っていない事が自体が勝ちなのであろう」
「2人とも~! またお話ししてる、急がないとだよ~!
2人とも楽しみすぎ!
天井の穴を抜けて、上に光が飛んでる。
多分あそこから上だと思うよ!」
「この上――面倒があるかもしれぬ……!」
「面倒……? マガロ、一体どういうことだよ」
「天井は我を封じた後に作られた物と想像出来る。
この先には我を地下へと落とした時に使われた、魔法門があるはず。
魔法を折り重ねた門であり、我の力を封じるように作られている。
開ける事は叶わぬ……」
マガロがグルル……と悔しそうに喉を唸らせる。
「なんだ、扉か。開けるぜ」
大したことじゃなかった。
「そうだね、開けよう」
開かないなら、開けるだけのこと。
「汝らがどれほど優れた盗賊であっても……!」
「オレの解錠は使い切ったが、腕前ってのがあるんでね」
「真の守護者はマスターキーなんでしょ!
なら、ボクでも開けられるハズだよ!」
「フハハハ! なんという答えだ、面白い!
汝らの戯言は、どうにも愉快でならん!
その声は、出来ると言う声だな。
ならば我も、突破する……そう言わねばならん!
もう一度だ――掴まっていろ、『竜脚跳躍!!」
再び、マガロが炎を纏って跳ぶ。
瞬間、ボクをクゥが風圧で飛ばないように抱えてくれた。
天井の穴を抜け、みるみる壁が近づく。
再び蹴りで壁をえぐり、足場を作る。
そこから見上げる天井。
まるで金庫へと続くような超巨大な丸い扉。
色は黒、金属の光沢が有る。
幾重にも魔法陣が掘られ、その中央には緋色に輝く水晶が1つ。
水晶の大きさはボクより少し小さいくらいだと思う。
「……あの宝石に光が飛んで行ってる!」
「アレが宝って事だな!」
「……リーシオンの狼よ。
汝らの武器もまた、悪国に奪われ利用されたと言う事か……」
「ガダルの武器がなんか足りないって話、もしかしてアレのこと?」
「我にはそう感じる」
「って事は~!」
満面の笑みのクゥと目が合う。
「かっぱらうよ!」




