4-16「感謝するぞ!!! 盗賊共め!!!」
クゥの指先から伸びた光の帯が、竜の枷へと突き刺さり解錠する。
鍵穴など無い。
けれど、小さな音がカチリと響き。
2つに割れた枷が地面へと落ちた。
竜の枷は全て地に落ちた。
「ドラゴンのキラキラが強くなった!
落ちてる枷も全部光ってる……あれも持って帰るべきものだよ!」
「おうよ、了解だ!
まずは敵が動かねえウチに、おっさん達の方に戻るぞ!」
クゥが竜から離れるように後ろへと跳ぶ。
着地と同時に駆け出し、素早くガダルとピートの後ろへと走り込んだ。
「戻ったぜ!
枷自体を外す意味は分からねえ。
だがウチの弟子がよぉ、アレは宝だって言ってんだ。
つまりアレは――アイツから引き剥がして、奪い取るものだぜ!」
「納得ですぜ! その説明が一番しっくりきやす!」
「……なるほど、マト殿の欲か。
ならば、奪い取るのが正解だな!」
竜が咆哮する。
腕に突き刺さった黄金の柱を引き抜き、隻眼に緋を灯し。
立ち上がった竜の胸元が大きく膨らむ。
「キヒィ……皆さん! ブレスが来ますよォ!
対策を――」
「感謝するぞ!!! 盗賊共め!!!」
ドラゴンが吐いたのは吐息ではなく、大声だった。
地下遺跡全体が振動する程の声。
「ふざけんじゃねえ! 盗賊はそこの緑の服と弟子のうさぎだ!
俺は商人! こいつが商人見習い!
上に飛んでるのが俺のグリフォンと盗賊の家の隣に住んでるジジイ!
そこの狼が脱税領……」
アードが大声に大声で返す。
だが最後の一言が急に小さくなり、黙る。
「アード殿!? なぜそこで黙るのだ!?
私はシハの街の元領主、ガダル・リーシオン。
断じて盗賊などではない!」
「フハハハ、そうか……! しかし、出来る盗賊団よ!
我へと至る鍵、真の守護者を捕まえているとはな!」
「お、ドラゴン分かってるじゃねえか! 褒めてくれんのか!
オレの宝物、マトがその鍵なんだろ」
クゥがわしゃわしゃ頭を撫でてくる。
「捕まってないよ、クゥはボクの師匠で恩人!
それに真の守護者とかも知らないよ!」
「ほう――それは興味深いな。
して、汝らは我を滅ぼしに来たのだろう?
封印の扉を開ける……つまり、この我を倒せる者がついに現れたと」
「……そうだ! 私は竜殿との戦いを――オ゛ッ」
ガダルがアードに後頭部を殴られた。
今殴るのに使った棒、何か凄い魔装なんだろうけど――お仕置き棒みたい……。
「汝ら、やはり戦いを望むか!」
「おい、ドラゴン! テンション上がってるトコ悪いんだがよ。
オレ達は、このマトの宝探しに付き合ってるんだ。
戦うつもりは無いぜ! お宝だけ持って帰りてえんだ。
そこの狼はこの遺跡の上に住んでたみたいで、色々目的はあるみたいだがな」
「うん、宝探しに来たんだ。
ドラゴンさんと戦わないで済むなら戦いたくないよ!
でも、ドラゴンさんの枷は宝物なので全部欲しいです!
それに……えっと、えっと」
「マト、顔がくしゃくしゃになってるぜ……おじさんっぽくなるからやめてくれよな……。
マトの欲は宝物を示す力。で、ドラゴンよぉ。
お前も宝物として光ってたって事を言いにくくて、こんな顔になってんだ」
「フハハ、確かにシワだらけの毛玉になってしまったな!
面白い真の守護者だ、目の位置も分からん!」
一斉に全員が武器を構え直した。
戦いを避け話そうとしていた全員の目は、狂戦士の目へと変わっている。
「おいドラゴン、ぶっ殺すぞ」
「クソデカトカゲさんよぉ。覚悟は出来てんだろうなぁ?」
「聞き捨てならねぇですぜ……取り消さねえと殺しますぜ」
「愚か! 愚かですねェ……! なんという暴言! 命で償ってもらいましょう!」
「随分眠れたのだろう、竜――! ならば永眠させてやる、貴様が吸うマト殿は無い!」
全員がそのままの勢いで魔装を展開。
クゥの肩にしがみついた後、ドラゴンに苦笑いを向け。
ごめんねと視線だけ送っておく。
無意識に緊張で口から舌が少しだけ出ていたようで。
「舌、良いな」
竜がドスドスと前に走ってきて、床に腹ばいになる。
目線を合わせに来た……?
「舌、出てしまうのか?
緊張したり困ると、舌、出てしまうのだな?」
ぶふん、と竜から大きな鼻息が吹き上がる。
「出てないよ」
「出ているだろう、真の守護者」
「こっち向け、マト。……出てるな」
「おいおい、ちょっと抱っこしてこっちに向けてくれよ、クゥさんよ」
「ほれ」
「出てるな」
「出てますぜ」
「出てますねェ!」
「舌――ッ!」
「出てないよ」
両手で口元を隠す。
出てた……!! そっとしまう。
「舌の魅力が分かるのか。
……仕方ねえ、さっきの失言は水に流してやる。
そばでもっと良く見ろ。かわいいだろ、ほら」
保護者会の皆さんも「そうだな」と腕を組んで頷いている。
「ああ、汝の言う通りだ。
我は、楽しげで表情豊かな真の守護者を見たのが始めてなのだ。
シワシワも興味深かった」
「ねぇ、ドラゴンさん。
ボクはその、真の守護者ってのが何だか分からない。
教えてもらってもいい?」
「構わんぞ、枷を外してくれたのだ! 安いものだ!」
竜の傷は深い。
豪快に笑えば、破壊された片目から鮮血が流れる。
「あの、マーさん。ドラゴンさん治せる?」
「……キヒィ、そうですねェ! 治してあげることは出来ますがァ……!
ドラゴン……私達へと敵対しない、そう誓って頂けますかァ?」
「汝らがイルイレシアの使いならば容赦はしない。
我はこの後、イルイレシアを滅ぼしに向かう!
だが、汝らは鍵を盗んだだけの盗賊団だろう?
イルイレシアの使いにしては、悪人面すぎる、フハハハ!」
あーうん……。
そうだね……。
あっ……。
「うるせえぞ、俺の顔見ながら笑ってんじゃねえ」
アードがドラゴンの足を蹴っている……。
「キヒィ、お聞きくださいドラゴンさん。
その国はもう、滅んでいますよォ。
遥か、遥か昔に」
「何……? だがシハの守り人がそこにいるではないか」
「……竜殿、シハはもう無い」
「何を言っている――貴様、リーシオンの者だろう……?」
鼻息を吹き出せば、竜の語気が荒くなる。
「ミアル王国からの攻撃で……先日、シハの街は無くなった。
民は皆無事だが……力不足――お恥ずかしい」
「これは、お互いにお話が必要な気がしますねェ!
ならばまずは治しましょう!
欲【司書無き図書館】――。
縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――回復術。
異界階位、花――賢者の石。
エリクシール・エリクシール・アリア・ティアーナ・ルゥ・アリアック。
永久なる命紡ぐ雫よ――黄金生む神秘の秘薬よ。
死の門閉じる導きとなれ」
マヌダールの手元に現れた蔵書が輝けば、辺り一面に乳白色の雨が振る。
本は焼け焦げ、世界から消えた。
癒やしの力を帯びた雫は、竜の傷をみるみると癒やし。
浴びた全身の疲労を消し飛ばす。
欲により、睡眠以外での回復が起こらないガダルを除いて。
「汝、異界の魔術書を使うのか――なるほど。
外敵ルピアの氷柱を使ってみせたのもそれか。
良い欲だ」
竜の全ての傷が塞がった。
「お褒め頂き何よりですよォ! これは大賢者皆伝で構いませんねェ!
冗談はさておき。それではお話を致しましょう」
「良いだろう。我は虹の赤、冠竜マガロ。ニラルゲの森の主だ。
そこの極悪顔が、我を封じる為に作られた鐘を持っているとは驚いたがな。
シハの守り人と、その魔装、それにイルイレシアの神と祀られる外敵ルピアの氷魔法。
そんなものが揃えば敵だとしか思えぬ。
だが、そんな集団が我の枷を破壊し始めた……改めて顔を見れば、悪人の群れ。
これはイルイレシアを荒らした盗賊では、と面白くなってしまってな」
「あー、だから笑ってたんだ。ドラゴンさん……じゃなくて、マガロさん。
ボクはマト。本当は人間のハズなんだけど……。
別の世界から、宝物を見つけたいって一生のお願いで来たんだ」
「マトか。マガロで良い。
……なるほど、異界からの来訪者……。
我も多くの異界人を知っているが真の守護者は始めてだ。
本来真の守護者はイルイレシアで作られた、欲のマスターキーだ。
欲の鍵は生き残るハズがない。
アレらは、鍵になる願いの末、我らの扉を封じた後に消える運命だからだからな」
「お、くしゃくしゃになったな」
「ふむ、なるほど……こういった話でくしゃくしゃになるのか」
「えー、そんなコトないよ……」
「欲の鍵とは業を以て対消滅する鍵、二度と開かない鍵だ。
言葉巧みに誘導し、封印の扉の鍵を消滅させることで確実に封じた訳だな。
そして、その扉を開けるための鍵がある、と噂を流した。
桃色の獣人――咎人が鍵だと」
「……そっか、じゃあ……」
次の言葉の瞬間。轟音を立てて天井が崩落しはじめた。
皆の周囲に巨大な瓦礫が降りそそぐ。
クゥの頭の上に乗っているサソリ、ロトの瞳が強く緑色に輝いている……。
「話の途中で悪運が発生したの、見て分かるようになっちゃったね、クゥ」
「悪ィ、これはオレのせいだな……。
まずはマガロの枷を回収する。続いてジジイの魔法で転移できるか?」
「キヒィ、問題なく!」
「でもさ、このままだとマガロさん埋まっちゃうよ」
「マト……ちゃんとお世話出来るか?」




