4-14「なるほど、出し惜しみ無し」
宝を示す輝きが視界に溢れる。
黄金色の粒子は、極彩色の恐竜へと飛ぶ。
「クゥ、ダメだ……! あのドラゴン、全身が光っててコアみたいなのが分からない!」
「全身が弱点って訳じゃ無さそうだが……あいつ自体にすげえ価値があるって事だな」
「多分……! ン……足についてる枷みたいなやつ、ちょっと光が強いかも!」
「アレだけのドラゴンが壊しきれねえ枷なら、古代の特殊金属だな……!
だが弱点には見えねえぞ」
「うん……! でも、何かのヒントかもしれない。もうちょっと観察しよう」
「了解だぜ!
今度は飛ばされんなよ、マト! 速度を上げる……『加速』!!」
クゥの全身が活性化し、一度緑の光に包まれ輝いた。
一歩は大きく、速度も速く。
竜の周囲を疾風の如く走る。
「あれは私の技か……!
やるなクゥ殿、ならば本物を見せてやろう!
『超加速』『超剛力』重ねて『肉体超越』『竜殺し』!!
出し惜しみなどしないッ……目覚めろ、魔装展開『狼王剣!!」
ガダルを虹色のオーラが包み込む。
狼の遠吠え一つ、バスタードソードを掲げれば大剣へと姿を変え。
同時に全身のオーラが真紅へと変化する。
吐き出す吐息は煙の如く、ガダルの周囲は陽炎で揺らめいている。
「なんちゅう強化をしてんだ、ガダルさんよ……。
こいつは俺も張り切って行こうじゃねえか!
魔装展開……鋼と雷の森リィルパット神器模倣、『選ばれし蒼の巨木槍』!!
重ねて魔装共鳴……鋼と雷の森リィルパット遺物、『壊神紋の命玉』!」
アードが焼け焦げた木の枝を高く放り投げれば、続けて取り出した電撃を放つ宝玉が枝目掛けて飛んでいく。
2つが合わさり、雷鳴が床へと突き刺さる。
それは青を帯びた銀色に輝く2m程の木の槍。古代神の武器を模倣した槍。
「信仰なんて物は現代に残っちゃいないが、古代遺物には詳しいんでね!
模倣品でも依代には丁度いい……借りるぜ、神様!」
槍を引き抜き、アードが構える。
「おっと……忘れちゃあいけねえな。
ピート、てめえも偶にはとびきりを使いやがれ!」
アードが懐から取り出した、錆びた短剣をピートへ投げる。
「大将、畏まりましたぜ!
ンなら……あっしも偶には魔装、使わせて頂きやす!」
ピートは短剣を受け取り、優しく撫でながら呟く。
「さあて、久方ぶりの愛刀……見せてやりますぜ!
魔装開放――『銘刀の末』」
ボロボロの短剣が静かに輝く。
ピートの周囲に、壊れた武具の幻影が浮かび上がった。
それらは、役目を終えるまで使われた武具達の記憶。
短刀は幻影達を纏い、飾りっ気はないが見事な片手剣へと姿を変える。
同時に左手に出現するのは輝くバックラー。
「最期を見送った全ての武具の力を受け継ぐのがコイツらですぜ……!」
軽装に剣とバックラーの剣闘士スタイル。
欲も技も無い、魔法もない。
けれど纏う気配は王者そのもの。
「キヒヒィ……皆さんやる気満々ではありませんかァ!
なるほど、出し惜しみ無し……ならば、私達もやらざるを得ませんねェ!
ならば……見せ場はこの大魔道士マヌダールが頂きましょう!
キャアさん! 上へ!
欲【司書無き図書館】――」
マヌダールが空を舞うキャアの背で魔本を呼び出す。
空間自体の高さはビル1つを上回り、飛行に制限はかからない。
「縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――攻撃術。
階位、母なる海――竜の書。
遊べ遊べ白き園――遊べ遊べ泉の大地――。
白銀と水晶の平野、至るは永遠なる竜の城。
音はなく、生は眠る――母なる海に抱かれて」
恐竜を見下ろすように、キャアが飛ぶ。
その背でマヌダールの詠唱が完成すれば、竜の周囲に氷の塊が無数に生成される。
「貫きなさい、永久氷衝!!」
美しく澄んだ氷は鋭く巨大な氷柱へと姿を変え。
マヌダールが手を振り下ろすと共に一斉にドラゴン目掛けて飛ぶ。
「グアアァァァ!」
ドラゴンはその体格に見合わぬ跳躍で宙へと跳ねる。
そのまま身体を捻ると巨大な尾で、射出された氷柱を薙ぎ払う。
「……やりますねェ!! だが、まだ氷柱は残っていますよ!
どうやら我々は、一味というヤツらしくてですねェ!
キナ臭い創造神の魔法なんてのはちょうど良いでしょう!」
マヌダールが手を横に払えば、新たに生まれた氷の塊が竜へと飛ぶ。
空中で竜は身体を捻りながら、次の氷を噛み砕き防ぐ。
「ん? クゥ……あのドラゴン、笑った……?」
「おいおいマトよ、竜は笑わねえだろう。アレじゃあアードのおっさんより悪そうだぞ」
地上を走るクゥが、肩のボクをそっと撫でながら答える。
「てめぇら! 聞こえてるからなァ!!
マトはデコピン、クゥは拳だ! 覚悟してろよ、お前さん達!
だがまずはお前さんだ、ドラゴンよォ!」
アードが目を閉じ、槍を掲げる。
「|祖なる壊神に奇跡を捧ぐ、我が命は雷と共に《ティマジン・チョロ・シィラコモ・パトラ、マカラ・リィガ・テト》」
「なんと、アードさん……古代イルイレシア語とはァ……!」
「ブチ抜け、『空穿つ輝く雷霆の槍!!』
力など込めない。
ただ、槍を放すだけ。
槍は青白い電撃に包まれ、ドラゴンへと迸る。
その軌道は直線ではなく、雷の如く何度も曲がり敵へと飛んだ。
「グゥアアアアウ!!!」
空中で氷の柱を払っていたドラゴンに回避は出来ない。
その背に直撃した雷槍が轟音を立てて爆発する。
閃光は落雷そのもの、鱗や鬣を貫き焼き払う。
地上へと叩きつけられた巨竜から煙が上がった。
マヌダールの放つ氷柱が追撃として降り注ぐ。
「これは……やった、んぷ」
「マト~!」
クゥに口を抑えられた……。
ちょっと言いたかったなぁ……。
「ふはは、この程度で倒れられては、私が居る意味がない!
やられてくれるなよ、竜!」
まるで縮地……全身を強化特技で高めたガダルが一瞬で竜へと肉薄する。
「気が合いますぜ、ガダルさんよ!
あっしも……折角構えた剣、きちんと働かせてやりてえですからな!」
強化など一切ない。魔法も使わない。
身体能力だけでピートが煙の中へと駆け込んでいく。
「――シハの地下で眠る竜よ! リーシオンの牙、受けてみよ!
『狼王の鋭牙』!!」
ガダルの巨大な両手剣に赤く揺らめく爆炎が立ち昇る。
炎を担ぎ、高く跳ね。
倒れる竜へと叩きつけるように振り下ろす。
煙でその様子は見えない。
けれど、凄まじい爆音と再び吹き上がる煙。
弾け飛んで来た尻尾の先端。
明らかにその刃は届いている。
「あっしも行きますぜ!!!
この一撃は……此処まであっしを助けてくれた全ての武器の分ですぜ!!」
煙も爆炎も関係ない。
いかなる環境でも剣闘士は下がらない。
その環境の中で……倒れ悶える竜の懐へと飛び込み、構えた剣でその顔を狙う。
「やり方は汚え方が、一段と盛り上がるんですぜェ!!!」
ピートも跳ねる。
狙いは竜の目――鋭い突きがその瞳へと閃く。
ズン、という金属と肉の鈍い音が響き――破壊する。
「全部見られてたら……盗賊さんが仕事出来ねえですからなぁ!」
ピートとガダルが同時に煙から駆け出し、アードの前へと戻る。
相手は正体不明の竜。追撃し続ければ、特異な反撃が来るかも知れない。
「マト、煙が晴れたら近づくぞ――!
輝きの位置を正確に教えてくれ!」
「わかった!」
ごふぅ……という風の音。
竜の吐息。
煙が吹き飛ぶ。
尾は千切れ、隻眼。
全身に氷の柱が突き刺さった恐竜が立ち上がる。
その気配に、衰えなし。
「あんだけブチこまれて効いてねえのか!?
行くぞ、マト……しっかり掴まって、しっかり見ろ……!」
「分かった!」
加速状態のクゥが竜へと走る。
距離が縮まれば、光の道標もハッキリと分かる。
「クゥ! やっぱり手足についてる枷に光が集まってる! あれが宝だよ!」
ボクは悩んだ。
枷が光っている。
つまり枷は宝なのだ。
枷は拘束するもの。
つまり竜を抑え込む宝。
それとも……あの拘束の影響で竜が暴れている。
つまり盗めば解決する宝。
「……顔がクシャクシャになってる声だな、マト。何を悩んでる?」
「壊せばいいのか、着けておけばいいのか分からない!」
「何を言ってんだ――簡単な答えだぞ、マト。
オレ達はどうするんだったか……?」
「金貨一枚残さずかっぱらう……!」
「おうよ、なら……答えは1つだぜ!」
「宝は! 奪い取るもの!」
「絶対に飛ばされんなよ……仕掛ける!
1つや2つ、あの枷……奪って見せるぞ……!」
走るクゥの肩で竜を睨む。
「笑ってる……! あれは笑ってるよ!」
竜の隻眼が細く孤を描き、牙が全てギラリと見える。
あれは、笑顔だ。
「おっさんと同じタイプの笑顔じゃねえか!
不気味だがビビってる場合じゃねえ、行くぞ!」
クゥが跳ねる。
狙いは短い腕に着いた枷の1つ。
「ガアアアアア!!!」
竜の咆哮は風を生み、衝撃波と変わる。
「当たるわけねェだろ、見え見えの咆哮じゃねえか!」
空中で身体を捻り、衝撃波の直撃を避けながら敵の胸へと突っ込んでいく。
「――隠してる技を見せんのは……ちぃとやりづらくなるが。
ま、あいつら全員……マト一味だからなぁ?
そいじゃあ、とっておきだ――! 『解錠』!」




