4-13「凄い曰く付きのうさちゃん……事故宝物!」
指で窓を作って覗けば、アードの手元に羊皮紙が生み出される。
「……なんだこれは……。
そいつの名前は『強欲』だ。
……『一生のお願い』で消滅することになった可能性の集合体。
『業』が変化した存在だと……」
「キヒィ、この小さな影たちがやはり人拐いで間違いないのですねえ……!」
「みたいだな。
彼らを生み出した『一生のお願い』を使わずとも、先に進む力がある事を証明すると『欲』の一部となるだと……!?」
「えっ……うさちゃん、ボクの『宝の在り処』になっちゃったの!?」
「おいおい、サソリもオレの『幸運の分け前』だって言うのか?
――やっと帰ってこれたな。 おかえりだぜ、サソリ。」
クゥが影蠍に手を伸ばせば、自慢げに「しゅ!」と鳴いてハサミを振る。
「おお、まさにクゥさんっぽい動きと雰囲気ですぜ!」
「ああ……! この自信に満ちた動き……良いぞ、たまらぬ!
私もお迎えしたいくらいだ……!!」
「ったく、持ち主以外が興奮してどうすんだ、お前さん達。
で、コイツは……意思を持ち、形を得た欲そのもの。
力持つ者から離れることは出来ず消滅もしない……らしいぞ」
「えーー! うさちゃん、あの時飛んでったよ!?
もしかして、放っておいても勝手に戻って来たのかな……?」
「ぷふん」
「お、調子が良いマトみたいな顔になった。こりゃ、えへん! だな。
そっくりじゃん」
「えー! こんな顔しないよう……」
「俺も似てると思うがな、マトさんよ。
赦を強化し、赦が発生するたび力を蓄える……か」
「ん!?」
「おい、おっさん。今なんて言った? 何を強化だって?」
「この可愛い生き物達が……!
赦を強めるだと……!? なんと言う事だ、美人局ではないか!」
「ガダルさん、言い方ァ……ですぜ……。
しかし、それじゃあロクでもねえってことですかい?」
「まあ待て。
蓄えた力を解放すると、欲は強欲となり、新たな可能性を生み出す……だと。
コイツらに頼むと赦だけを発生する事も出来るみたいだな……」
「キヒィ!! それは、欲を強化すると言う事ですかァ!
蓄えた力を解放……という言い回しが気になりますよォ。
まさか何度も赦に苦しんだ後、ようやく強欲を使えて。
その後はまた貯め直し、ですかァ?」
「そう読める、な」
「あー! あの時、目が光ってやつが赦の蓄積だ!」
「なるほど、納得だぜ。
俺の身の回りのトラブルのどれが赦だって分かるようになったって事だな!」
「前向きすぎんだろ、クゥさんよ……。
気まぐれで赦を起こす事もある……って書いてあるぞ……」
「悪い子だ!」
「ぷー!」
「悪くないんだ……」
「ぷう」
「まあ……乗り越える姿やら立ち向かう姿が好きなんだろうよ。
お前達の分身みたいなもんだが……難儀な力だな……」
「しょうがねえなあ、オレは運が良いから分けてやるよ。
よろしくな、サソリ」
「しゅー!」
「わ、めっちゃ跳ねてるじゃん! すっごい楽しそうになった……!」
「で、値段は……。
おい、お前さん達、よぉーく聞け。
コイツらは王国が探している意思ある影らしい。
もし提供すれば100万リーヴ金貨……だと……!!???」
「は?? 100万だ!?」
「なんつう額ですかい!」
「……流石に私も絶句してしまったぞ、アード殿……」
「キヒィ! 凄い額ですよォ! クゥさんの欲で幸運には出来ませんかァ?」
「オレの欲に力は発動しねえ、以前試した」
「そりゃそうだな……。追記がある。
対応する欲を持つ者を拘束して提供した場合、とな」
「最悪じゃねえか、王国が何かやってる証拠だろ!」
「そう言う事だな。まとめるぞ――」
業、人拐いから生まれる存在。
人拐いに自分から接触する必要があり、失敗すれば両者消滅。
うまく行くと、欲に取り込まれる。
欲のデメリットが起こる度に力を蓄え、それが満ちると強欲と呼ばれる力が使える。
使った後は貯め直し。
イタズラで赦を使う事がある……。
アードが羊皮紙を床に置き、皆に説明してくれた。
説明が終わると、羊皮紙は光になって消えた。
欲の有効時間、みたいなやつだろう。
「大体分かったぜ。
つまりお前は特大の悪運ってことだな!」
「クゥ、言い方〜!
じゃあ、凄い曰く付きのうさちゃん……事故宝物!」
「マトさんよ、お前さんもだ……。言い方ァ……。せめて名前はつけてやれ。
罵詈雑言すぎて可哀想になって来たからよ……」
「大将、小さい動物に甘いですぜ! これだからすぐ手を噛まれ……」
ごん、と久しぶりに良い音が響いた。
ピートが頭を抱えしゃがみこみ、アードが自分の拳をふうふうと吹いている……。
「名前、なあ? チビ、ガキ、ちっこいの、影、サソリ……うーん」
「クゥ殿、名付けは初めてか……?」
ガダルが何かを察した。
走り込んできてクゥの顔を覗く。
「おう。チビ達の名前はじーさんが付けてたからな。
マトはどうするんだ?」
「ボクもうさちゃんに名前つけなきゃだね」
「うさちゃんでは無いのですかァ?
ずっとそう呼ばれておりましたし……!」
「うさちゃん……。
うさちゃんで良いの?」
「ぷう」
「良さそう」
「良さそうな顔だな……」
「キィーヒッヒッ、納得していますねえ!」
「うさちゃん、可愛い名前ですぜ」
「クッ……私のうさちゃんが2人になってしまった……!」
ン……?
ガダル、もしかしてボクのことをうさちゃんって分類してたのかな……。
「ガダル、お前のじゃねえ。オレのだ」
「……クッ、すまぬ、つい」
ン? あっ、うさちゃんも大きな枠でクゥのうさちゃんになるのか……。
「で、オレのサソリの名前か……」
クゥがバリバリと頭を掻く。
あまり得意ではなさそう。
けれど、とても真剣に悩んでいる。
「ロトちゃんは?
ロットロットロットにもう1ロットで」
パン! とクゥが手を打って微笑む。
「流石弟子だぜ! 今回はその案を採用だな!
よろしくな、ロト」
「しゅっ」
2匹の強欲の名前が決まり。
ひとしきり皆と触れ合った後はハウスへと戻る。
うさはボクのサロペットの胸ポケットへ。
ロトはクゥのウェストポーチの中へ。
「……まさか人拐いを連れて帰るだなんてな。
だが、俺達も向き合う日は来るはずだ……しっかり考えておかないとな」
「キヒヒ、間違いありませんねェ!
業は自らの欲の双子だと分かったのですから」
「ああ……欲は私の泣き言から生まれてしまった力だ……次は向き合わねばな。
だが、あの巨大すぎるコウモリは……クッ。
私は私に怯えているのかッ!」
「カッコよく言ってもなんも変わりませんぜ、ガダルさん。
出会っちまって消えちまうやつも居るんだ、みんな油断しねえでくだせえよ」
「そうだな。で……だ。強欲は良しとして。
クゥさんよ、あの扉どう思う?」
「開けたらガーディアンだな」
ごくり、と皆が喉を鳴らす。
ボクの視界の中では、扉の中へと光が飛び込んでいく。
つまり、あそこに宝がある。
「欲が言ってる……あそこに、宝があるって」
「ならば、突き進むのみだ。
リーシオンの紋章は狼。
門に彫られた絵は……二足歩行の竜のような生き物に立ち向かう狼人。
シハの地下にある遺跡……恐らく、これは私の血筋に関わる事のはず」
「キーヒッヒッ、準備をしても上手くいかない事は多いですよォ!
ならば向き合ってから決めるのも一興!」
「マヌさんの言うとおりですぜ! そいじゃあ突撃しましょうぜ……!」
「きゃあああ!」
扉に近づけば、何重にも重なった声が響き渡る。
「トゥルーガーディアンの到達を確認。
エリア『竜の楔』を解錠……保留していた討伐処理を再開します」
扉に光の紋様が浮かび上がり、轟音を立てて左右に開く。
土煙が晴れれば、奥には巨大な極彩色の爬虫類……いや、恐竜。
ボクの知識から言うなら、始祖鳥カラーのTレックスだ。
四肢には鎖が繋がって居たであろう枷の残骸。
全て風化し……竜は解き放たれている。
「グオオオオオオオオ!!!」
竜は立ち上がり、一声吠えた。
「参ったぜ、お前さん達……。まさか竜とはな……」
「呆けてる場合じゃねえぞ、おっさん!
おっさんの魔装、竜の吐息も弾くんだろ、出番じゃねえか」
「……はっはっ! 言ってくれるぜ、クゥさんよ。
そうだな、そうだ……面白え!」
アードが両手に魔装を構え、豪快に笑った。
「扉の絵図のごとく。
この私リーシオンのガダルが!
汝、竜を滅しよう! いざ、参る!!」
先陣へと走りでたガダルが名乗りをあげ、剣を掲げる。
「あっしも竜さんとは、現役時代からやってみたかったんですぜ!」
ガダルに並ぶのは、ピート。
丸腰の剣闘士だが、放つ気はガダルに勝るとも劣らない。
「キヒヒィ……! ブレスや特殊な力があるやもしれませんねェ!
キャアさん、共に空から支援しますよォ!」
キャアが馬車を置き、空へと飛び立つ。背にはマヌダール。
爪やクチバシによる近接攻撃と、マヌダールの魔法。
制空権は譲らぬ構え。
そして。
クゥが走り出す。
部屋の外周、竜の死角を探して。
その肩に掴まり、ボクも狙うべき物を探す。
「マト、仕事の時間だ! かっぱらう獲物を決めろ!」
「分かった……! 教えて、欲【宝の在り処】!!!」




