4-12「マト、ちっさいのはポッケに入れろ!」
宝である――その足場は特別、つまり「大丈夫」ということ。
「んなら、そこだ!!!」
宝箱を最後の足場に、クゥが光の道標が立つ出っ張りへと跳ぶ。
周囲が崩れても、まるで橋のように飛び出した足場だけは崩れなかった。
トン、と軽やかに着地する。
「……戻ったぜ!!!」
皆の元へとクゥが走る。
「業、連れてきた!」
肩に乗るボクはゴキゲンに皆へと報告した。
「ぷ」
「しゅ」
「……オィ……マジで言ってんのかマトさんよ……!?」
今まで人拐いと呼ばれていた、夜の闇に潜む影。
その正しき名を業だと鑑定したアードが身を乗り出す。
「うん、この子」
サロペットの胸ポケットを開けば、中から小さな赤目の黒兎が顔を出す。
「ぷー」
「鳴いたな……。それがこの前の巨人なのか……?」
「なんだか、ちっちゃくなっちゃった。
でもこの子は確かに追いかけてきた巨人だよ」
「なぁなぁ、オレのも見てくれよ、おっさん。ほら」
クゥが腰のポーチを開けば、音も立てずに緑の瞳の影のサソリが飛び出してくる。
「しゅうう」
「クゥさんよ……お前さんのも鳴くのかよ……。
確かにサソリだったのは覚えてるがよ、なんだか可愛くないか……?」
瞳が大きく表情がある。形も丸みを帯びていて、なんともポテっとしている。
サソリをモチーフにしたマスコットと言う方が近い雰囲気だ。
「どういう事ですかァ!?
まさか……その兎さんと蠍さんが……人拐いという事でェ!?
光の下に、しかも……人の管理下にいるなどォ……!」
「とんでもねぇ、あっしが昔見た人拐いはそんな大きさじゃねえ……。
それにアイツはよ、触れられた瞬間に消えちまったんですぜ?」
「人拐いは――巨大なコウモリだ。
私は何度も見ているが……この私でも全身の毛が逆立つような恐怖を感じる。
そんな小さな動物のハズが……」
皆の反応は想像の通り。
「オレもそう思ってたし、まさかこんな風になるとは思わなかったんだ。
だがよ、悪い知らせもある」
「あるね」
「……俺は聞いてたから分かるぞ。クゥさんよ、欲を使ったな。
キャア、馬車を頼むぜ! マヌさんはそのままキャアの背に居てくれ!
ピートはキャアのカバーを。ガダル、お前さんは戦闘という不運が来た場合の対処だ」
アードが素早く馬車へと走り指示を出す。
「不運――? アード殿、それは一体――」
「そこの盗賊が欲を使った。
その弟子もさっきから欲を使いっぱなしだ。
赦は不幸と、呪われた宝物になる――後は分かるな?」
「この先、大凶ということか……」
「ご明察だぜ、ガダルさんよ! ロクでもねぇ事が起こるってワケだ!」
声と同時に闘技場の入口側が全て崩れ――外周にある観客席へヒビが広がっていく。
「しゅー」
クゥの頭の上に登った蠍が小さく鳴くと、その瞳が強い緑に輝いた。
その瞬間、観客席に広がっていたヒビが一気に広がり、物凄い勢いで崩落し始める。
「やっぱり駄目なやつでしょ、キミ!」
クゥの頭の上の蠍と目が合う。
「しゅっ」
首を振った……。
「駄目じゃないんだ……」
「お前ら、仲良ししてる場合じゃねえぞ! しっかり掴まってろ!!
逃げるぞ、こいつは特大の不幸が来る!!!」
「ぷー」
「アッ!」
「どうしたマト……!!!」
「うさちゃん飛んじゃった!」
「はあああ!? そいつはマト2号か? マト2号なのか!?
何処だ、何処に飛んでった……!」
手のひらサイズの影兎は、なぜか巻き起こった風に拐われ、穴の中へと吹き飛んでいく。
「ぷーぅ」
ジタバタしながら空を舞っている影兎の瞳が紅く輝いている。
「こっちを何とかしてから合流するぜ!
おっさん達は馬車引っ張って奥の階段から先へ進め!」
「あれが赦……降りかかる不幸と『呪われた宝』か……。
師匠と弟子の相乗効果で不運の連鎖が起きてる気がするんだがよ……。
そう言うんなら分かったぜ、こっちは任せておけ、お前さん達!」
「キヒィ……! 馬車とキャアさんはお任せくださいィ!」
「きゃっきゃっ!」
「あっしもおりますから、問題はねェはずですぜ!」
「ああ――敵が出たら叩き斬るだけ!
クゥ殿が辿り着く前に蹴散らしておこうではないか!」
馬車は崩落する闘技場の狭い足場を上手に進み、階段へと差し掛かる。
後はピートが抱えて下へと飛び込むだけだ。
皆は上手くやってくれている。
「クゥ! うさちゃん……捕まえてくる!」
「っしゃ……ロープ繋いだぞ!」
フック付きのロープ――恐らくクゥの仕事道具。
いつも腰に装備していたそれを、ボクの服に繋いでくれた。
話さなくても、彼の言葉が少し分かる気がした。
信用してくれていることも分かるんだ。
だから躊躇いなく、穴へと飛べる。
「捕まえてこい! 次からはお宝を飛ばすのも! お宝のお前が飛ぶのも説教だからな!」
「うー、分かった! ――いくよ、『超跳躍』!!」
クゥほどの大ジャンプは出来ない。
けれど――この前よりももっと前に、もっと先へ。
足に蓄えた緑色の光が弾け、強い推進力を生み出す。
崩れる穴へ、ふわふわと落下している影兎目掛けて跳ぶ。
クゥと繋がったロープが一気に伸びて行く。
もう少しの所……もう少しの所で――ピンと張った。
「届かないッ……! あと、あとちょっとなのに!」
相応の不幸と、あがく曰く付きの宝物。
あと少しで届かない……これこそが本当の――赦。
追いかけてくる人拐いの慣れ果てを失っても、損をすることはないのだと思う。
むしろ都合が良いのかもしれない。
けれど――人拐いもまた、欲で輝いた宝物の一つなのだ。
金貨一枚残さずかっぱらうなら――手放しちゃいけないものだ。
「クゥなら……出来るか出来ないかなんか気にしてない!
出来なかったら次をやるだけ!」
腰にぶら下げた、クゥと比べたら短いフックロープ。
彼が服と一緒にくれた、体格に合わせて作ってくれた道具。
使い方はその場で教えるぜ、なんて言っていた。
悪運は『その場』を待ってくれないみたいだ。
「うりゃあああ!!」
映画を真似て、腰のロープを投げる。
飛ばされていく影兎に、それは乱暴に巻き付いた。
捕まえた――!
「クゥ、巻き付いた!」
「っしゃああ!! 引き上げんぞ!!」
宙吊りになるボクと、その先で宙吊りになっている小さな影兎。
両方を気合でクゥが引き上げる。
一気に身体が上へと上り、地上へと辿り着いた。
激しい崩落は止まらない。
闘技場に地震のような揺れが続いている。
「っと……! マト、ちっさいのはポッケに入れろ!」
「ぷうー」
「嫌がるんだけど!」
「押し込め!」
「っぷ」
「押し込んだ!」
「ボタンしろ! で、サソリお前もポーチに入れ!」
「しゅ」
「嫌がってるじゃん!」
「っし」
「押し込んでる……」
「っしゃあああ! 走る! 駆け抜けるぞ!!!」
激しい揺れと降り注ぐ瓦礫、広がる中央の穴。
もうすぐこのフロアは全壊すると分かる。
業と呼ばれた存在を連れ、クゥとマトは次のフロアへと全力で突き進む。
「お宝全部――頂戴したぜ!!」
最後の一歩を跳ねるように飛べば、次のフロアへと至る階段へと届く。
背後で全てが崩れ落ちる中、ようやく――二層目の闘技場を突破した。
階段を下れば、眼の前には再び地下神殿が姿を表す。
一本道、眼の前には豪華で巨大な扉。
分かりやすくらい『この先にボス』と分かる扉だ。
門より少し離れた所に、一団が待っている。
「悪いな、待たせちまった!」
「ちゃんと宝物回収したよ~!」
「無事で何よりだぜ、お二人さん。大丈夫なのは分かりきってたけどな。
で、マトさんクゥさんよ――連れてきちまったのかよ、業」
アードが髭を弄りながら尋ねてくる。
「うん、ココに居るよ」
「オレのもココに入ってるな」
「なら、俺が調べるのが妥当だろう。
そこの3人も相当気にしてるからなァ」
「実は! 大変興味がありましてェ!
あまり正確な文献がない上に……人拐いを拐ってしまう人など聞いたことがありません!
しかもしかも……チラりと見えたお姿が可愛かったのでェ!」
「かわいいよねぇ」
「かわいいな」
「あっしには良いモノには見えねえんです。
だが、マトさんの欲が宝と言うなら間違いないですぜ」
ピートが困った笑顔を浮かべている。
「私もにわかには信じがたい――だが……その、小さな兎や蠍というのは……。
うらやましい、ような――」
そうだった。この人、小動物好きな人だった……。
「なんにせよ、調べておくか?」
「クゥ、アードのおっさんにお願いしよう」
「ああ、そうだな――んじゃ、出すか」
その言葉で皆が一斉に輪になってしゃがむ。
道端に座り込む不良みたいな円陣が出来上がってしまった。
「うさちゃん、出すよ~」
「ほら、お前も出てこい」
円陣の真ん中に、影色の小さな兎と蠍が走り出る。
うおおお! と小声で歓声が上がる。
おじさん達は小さな生き物を脅かしてはいけない、と感覚的に小声になってしまうのだ。
「確かにカワイイな……という事は、良い金になる。
小動物は愛好家が多いんだぜ……!」
ニタァ、という悪辣な笑顔。
商人の顔でアードが指を構える。
「欲【鑑定眼】――!」




