4-11「人拐い……拐っちゃった」
「よぉ。追いかけてきてる理由が何となく分かったわ」
クゥが先に声をかけた。
目の前には影の巨人とサソリ。
何故か、飛びかかってこなかった。
「大きくなっちゃったのは、ボクが欲を使って楽しく過ごしてるからなのかな。
キミはあっちから来たの?」
ボクも静かに話しかける。
何故だか、悪寒がしないのだ。
返事はない。
けれど、あれらは生まれなかった失敗と喜びの塊なんだ。
「悪運、良いじゃねえか。
運なんかに頼らねえように、研磨するんだよ。
運が良かった、それだけじゃ盗みはいずれしくじる」
「クゥらしいや。
呪われた宝物っての、楽しんでるよ。今までよりずっとずっと楽しい。
悪いことがあっても、楽しい悪いことだよ。
それが、嫌なの?」
業が反応する。
影が揺らめき、少し大きくなったように見えた。
「んだよ、オレらが赦を楽しんでるから気に入らねえってのか?
多分……そうだよな。
お前はさ、ニーナを助けられなかったオレが塞ぎ込んだ未来……いや。
乗り越えた未来なんだろ」
「ボクはきっと、これからも狙われたり、大変そうだけど楽しんでく。
キミはこっちの存在じゃないよね……?
一緒にここに来たのに、キミだけはぐれちゃったんだね」
影は止まっていた。
腕も伸ばさなければ、尾で狙ってきたりもしない。
ただ、揺らめいて声を聞いていた。
最初に切り出したのは、クゥだった。
「業だっけか。オレと家に帰らないか?
そんだけデカくなったんだ、欲を選ばなかったオレも消えてねえはずだ」
「……そっか、そうだね。キミはボクがココで皆と会わなくても、平凡に生きている証拠だ。
暗いところで待ってるだけ。
追いかけて、捕まえて、ボクと消えたい。
それじゃつまんないでしょ、ボクのもう一つの可能性くん」
「マトの言うとおりだぜ。
ニーナが死ぬのは嫌だから、認められねえ事はあるけどな。
お前の可能性を知ってれば、できる準備が沢山増えるんだ。
だから帰ってこい」
『一緒に行こう』
2人が笑顔で手を伸ばす。
「悪運が足りねえなら盛ってみろ、本当の可能性ってやつを見せてやる」
「曰く付き、カッコいいもん。
名刀も聖杯も大体呪われてるんだ。宝物に箔が付くってモンだよ」
影が静かに動いた。
追いかけてくる動きじゃない。
話を聞いている。
それを理解したような雰囲気。
みるみる大きさが縮んでいく。
「待て待て待て! 消えられねえのになんで縮んでんだ!
居なくなるのはダメだろ!
一緒に行くって言ってんだよ!」
影は縮み続けていた。
もうすぐ人間の大きさ。
「なら、何度でも証明してあげる!
キミたちが生まれた原因の力で……キミたちも宝物なんだって。
欲【宝の在り処】!!」
光の粒子が溢れる。
穏やかに明滅する、温かな輝きが生まれ風に乗る。
力は確かに、業に飛んでいく。
影の巨人は今や小さな黒い人影。
影のサソリもまた、掌に乗ってしまいそう。
光が2つの影を包んでいる。
「業は宝物だってボクの欲も言い続けてる。
どうする、クゥ? 全部かっぱらう前に急がないと消えちゃいそう」
「んじゃぁ、パパッと持って帰らねえとな?」
ボクは縮んでいく人影に近づく。
それは、掌に乗りそうな兎の形になった。
「キミが居なくなるのも嫌だって思うようになったんだ。
キミが行く未来もまた宝物だって、こっちで気づいたんだ。
だから――これ、あげる。まだまだ上手くできない、この世界の力」
耳につけた、成功とは言い難い光の魔法。
灯りの魔法としては力不足。明滅するホタルのように小さな光。
そっと掴んで――業の兎の耳につける。
「ぷ」
「!? 鳴いた!?」
「鳴いたな……!?」
「なんか反応あって羨ましいな……。
よぉオレのサソリ。
お前には生き残ったニーナも見せなきゃいけねえが……これをくれてやる」
腰のポーチに手を突っ込むと、取り出すのは1本の霊薬。
「ジジイに作ってもらってんだ。
毒ってのは一種類じゃねえ、呪いもある。
色々分析してもらって……結構沢山、解毒薬は持ってるんだぜ。
で、これがお前の原因になったやつだ。
オレの欲は運頼み。悪運に勝つにゃぁ、準備のが大事ってもんよ」
ぽん、とフタを指で弾いて飛ばす。
掌くらいの大きさになったサソリの側に静かに置いてやる。
「しゅ」
「!?」
「鳴いた!?」
「鳴いたよな!?」
掌サイズになってしまった業たち。
何故か黒いうさぎになったそれと、ちょっと丸っこいサソリ。
「これから先の消えてしまう可能性は、赦で払うよ。
それもまた、楽しいかなって。
でもね。
自分が願わず頑張った可能性、を敵だと捨てたりなんて出来ない。
おいで」
クゥの肩から飛び降り、縮んでしまった影へと手を伸ばす。
よちよちと歩いてきたソレは、ぴょん! と跳ぶと手のひらへと飛び乗った。
「……うっ……」
意識の中に、走馬灯が流れているような。
つまらない毎日。
つまらない毎日だけど、それなりにゲームしたり。
何気ないオンライン通話で笑ったり。
それなりに美味しいものを食べている。
見るかもしれなかった記憶が、流れてきた気がする。
「宝探し、失敗するとこだったよ。
宝物はそこに『も』あったかも。
忘れ物してきちゃった。
だから、キミがその代わりの宝物。一緒に行こう」
「ぷ」
影に瞳が生まれる。
無表情で凹んだ穴のようだった場所に、光が灯る。
赤い目の黒い影のうさぎ。
切り離された自分の一部。
殆どが「良くないこと」だけれど、それも大事な何か。
胸のポケットへ滑り込んで顔だけを出した。
「ボクもこの子も消えないみたい」
「やるじゃねえか。
なら……お前も来いよな。
ロクでもない運命があるからこそ、何とかする楽しみがあるってもんよ!」
クゥがしゃがみ込めば、影のサソリが走り寄ってくる。
顔を見上げた気がした。
そっと、その掌に登る。
「……見たくねえ景色ばっかりだ。そりゃあ消えたくもなる……だけど。
そう言う悪運なら許容範囲だ、もっと持って来いよな!」
クゥの脳裏にも景色が流れたはずだ。
欲が無ければ出来なかったこと、助からなかったこと。
もちろん殆どが「良くない」こと。
「だけどな。
何があっても何とかするって決めてるんでな。
お前もオレの起きるかもしれない悪運ファミリーで代わりねえさ」
「しゅ」
サソリをベルトポーチに仕舞えば、蓋の隙間から顔を出す。
ふわり、と光が現れサソリの眼孔に緑の輝きが煌めく。
少しデフォルメされた、マンガチックな存在。
影から生まれた、サソリのキャラクターといったところ。
「人拐い……拐っちゃった」
「おう、そうだな。
さ、連れて帰るか……!
ん!!!」
「クゥ、穴が崩れてくる!!」
「ぷー」
「しゅー」
「お前らか!?」
「キミ達のせい!?」
入り口周辺の壁が突然剥がれ、落下してくる。
恐らく、彼らは追加の赦としても作用するのだ。
持ち主を不幸にする呪われた宝と、不幸を呼ぶ力が2人へ試練を与えている、そんな空気。
「で、これをクリアしてやらねぇとよ」
「キミ達ごと消えちゃうってことかな!」
「なら、乗り越えるだけだ!
オレが疾ければ、あの時だってニーナを抱いて帰れたぜ! 業!
『加速』!」
クゥの足から緑の風が巻き起こり、全身を輝かせる。
「……そうだね。
これはゲームで良くある場面だ。
業、キミはボクよりもっとゲームも漫画も知っていくはずだったんだ。
だけど、今なら本物が見れるよ!
クゥ! 落ちてくる瓦礫を足場に上に跳んで!
クゥなら出来るさ!
そういう場面なんだから!」
素早くクゥの肩に飛び乗る。
「ったく、簡単に言いやがってよ!
だが、オレだ!
簡単だと証明してやるぜ!」
「道を見つけるよ――【宝の在り処】!」
1個の巨大な瓦礫。
確かにアレは足場になりそうだ。
だけど――アレだけじゃ足りない気がする。
クゥの超跳躍は足りない。
「どうだ、マト」
「あのデカい瓦礫は光ってる!
でも――アレだけなんだ!」
「そうか、アレだけか。
なら大丈夫だな――行くぞ!」
落下してくる瓦礫目掛けクゥが跳ねる。
「生きて帰れねえと、宝もまた……落ちていくだけの瓦礫と同じだぜ!
欲【幸運の分け前】!!!」
ポーチから取り出し掲げるのは、握り拳くらいの赤い宝石。
この遺跡、最初に戦ったガーディアンのコア。
オレンジ色の閃光が弾ける。
手に入れたお宝と同じだけの幸運を周囲に分ける力。
周囲に煌めく黄金が生まれ、雨のように降り注ぐ。
その中に。
宝箱。
宝箱が混じって落ちていく。
「幸運の前借りだ!
このまま落ちて抗うより……皆を巻き込んで何とかしたほうが!
きっとマシだぜ!」
「クゥ、めちゃくちゃ宝箱が光ってる!」
「そりゃあ当たり前だよなぁ!
マトも……この業も連れて帰るための幸運がアレだ!」
瓦礫を足場にクゥが再び跳ねる。
次の足場は落下する宝箱。
宝箱に足が届く前に、再び穴の周囲が崩落する。
「――光ってる所が見える!
第一階位――色、灯――『印』!!!」
強く念じ指させば、崩落せず残った地上の出っ張り……そこに光の柱が立ち上がる。




