4-9「マト、今度吹っ飛んだら説教だからな!」
クゥとアード、カダルの声が重なる。
「第一階位、灯、煌――」
「おい、クゥさんよ……お前も使えるんじゃねぇか!」
「そりゃぁ、使えねえなんて一言も言ってねえしな?」
「私もこのくらいの魔法なら……」
3人が目を合わせて頷き、ボクを見てくる。
ン?
「マト」
「ん」
「印が出来るなら出来るぜ、きっと。
オレに続いて唱えてみろ。
最後は『光』だ。
人拐いが出た森で、おっさんが使ってた奴だな」
「ん!? 魔法!?」
「第一階位、灯、煌――ほい」
よいしょ、とクゥの肩によじ登って。
「第一階位、灯、煌――『光』!!」
ふわり、と小さな光の玉が手の中に生み出される。
それは、とてもとても小さなオーブ。
静かに浮き上がると、まるでホタルのように空中に留まっている。
「ちっちゃ……」
「お、おう……ちっさいな……。
可愛くて良いぜ、掴んで耳にでも着けとけ!
居る場所が分かるのも大事だからな!」
「掴めるんだ……。ん!」
手を伸ばせば、それは指に吸い付く。
もしょもしょと耳を倒し、その先に近づけるとくっついた気がする。
「こう?」
「おう! 練習すりゃちゃんと灯りにもなるからな!
初めてにしては上出来だぜ、後でマヌダールのジジイにしっかり習おうな!」
「う、うん!」
「第一階位、灯、煌――『光』!」
クゥの手元で輝く光の玉が生まれる。
くるり、と指先で回せば光の方向は前だけに。
懐中電灯のような灯り。
「お前さん、意外と器用な事しやがるな……。
俺は浮かべるだけなんだがな……」
「私もだ……流石クゥ殿、泥棒は違う!」
「ガダル、すげぇトゲがあるんだけどよ……。
ま、それじゃちっと行ってくるぜ」
「こちらは片付けてお待ちしてますぜ!」
ピートが微笑んで手を振る。
「マーさん、元気だして!
なんせボクは大丈夫だったので!」
「……申し訳ありません、私としたことが……」
「ジジイ! 元気出せ!
そこで光でホタル作ってる弟子が居る!
戻ってきたら、せめて灯りになるように教えてやってくれ!」
「おやァ……! 可愛らしいですねェ……!
初めて見ましたよォ、小さな光!
……それでは戻ってきたらお教えしましょう!」
「もう~! うん、お願いだよ、マーさん!
それじゃクゥ……行こう!」
「おうよ! もう1個のお宝、持ってこようじゃねえか!」
闘技場の真ん中に開いた巨大な穴。
その底は見えない。
分かっているのは欲で見つけた宝が1つある事と、蟲を生やした怪魚が落ちていった事。
「行くぜ!」
トン! とクゥが踏み切って跳ぶ。
瓦礫や闘技場の破片……僅かな場所を足場に、ぴょんぴょんと地下へと向かう。
「うん……! この下に光の道標が飛んでいってる!
もっと底の方……かな」
「了解だぜ!」
穴は、予想より深かった。
クゥの光が照らし出した地下は、岩石が剥き出しの大穴と行った所。
人工物は無く、ただ丸く削り取られたような深い穴が下へと続いているだけだ。
岩壁を走り、足場を跳び、盗賊は軽やかに穴を下っていく。
照らす光はまだ底を捉えない。
「ねぇ、クゥ。
さっきさ、ありがとうね」
「なんだよ、改まって。
オレの大事なモンだって言ってるじゃねぇか」
「でも、奪取を無駄に使わせちゃった」
「一番の宝物が盗まれそうなのに、無駄もクソもねぇだろ。
ったく、しょうがねぇなぁ」
掌が頭へと伸びてくる。
ぽんぽん、と優しく触れらればとても安心する――。
「……こわかった」
「オレも怖かったからよ、躊躇いなく超跳躍と奪取を使ったんだぜ?
……怖くていいぜ」
「そっか……。
ねぇ……なんでこんなに大事にしてくれるの?」
「最初に会った時、すげーつまんなそうな顔してたから気になってたんだよ。
ちっこいうさぎが、疲れたおっさんみたいな顔してたから」
「クゥ~! ひどくない?」
「だからアードのおっさんも、ピートも追いかけてたんだろうよ。
放っておけねぇ顔してたからな。くしゃくしゃの」
「例の顔……?」
「それよりひでえよ。 村を焼かれた一人ぼっちの獣人って感じでよ」
「……うあ、それはひどいや……」
「連れて帰ったら楽しそうにしてくれて嬉しかったからな。
ちゃんと一緒に居ようって思ったんだよ」
「……クゥ」
「ま、そしたらすげぇ宝物だったんでな! キープして大正解!
オレの鑑定眼だな、こりゃ!」
「もう……」
むぎゅ、と両手で頬を押す。
「さぁて、話してるうちによォ!
底が見えてきたな!」
「……魚、落ちてるじゃん!
コゲ臭い……というより、焼き魚の匂い」
「普通に腹の減る匂いしててムカツクぜ……!
さぁて、マト……そろそろ場所は分かるか?」
「任せて! 欲【宝の在り処】……!」
周囲は暗闇。
灯りはクゥの魔法、『光』だけ。
見えているのはバカでかい、コゲたアンコウみたいな怪魚。
風も無い地下で、風が吹いた気がする。
眼の前に溢れ出た輝きの粒子が、怪魚の後ろへと回り込むように飛んでいく。
そこに集まり、強い光を放っている。
クゥもいつもの何倍も明るい――。
ボクの本当に大事な宝物だ、と欲なんて使わなくても分かる。
「クゥが光ってる」
「やめろって、照れるから。
ほら、早く何処にあるか教えねえとオレが見つけて帰っちまうぞ」
「えー! でかい魚の後ろだよ! 光が集まってめちゃくちゃ光ってる」
ぴょん、と大きくクゥが跳ねれば眼の前には眩しいほどの光。
「どこだ……見当たらねえな……ん。これ……か……?」
クゥが掴んだ何かが物凄い輝きに包まれている。
こんな光り方、初めて見た。
「指輪……だな。 石が不思議な色をしてる――緑やピンク……何色も混じってる」
「眩し……。 うん! それだ……その指輪が物凄い反応してるよ」
「むむ……オレの感覚じゃ分からないタイプだ。
高そう、程度だな……これはおっさんの欲に頼ろうぜ」
「うん、そうしよ」
「マトが見つけたんだ、お前が持ってろよな!
ぜぇったい落とすなよ?」
「う、うん……」
「胸のポッケに突っ込んどけ、ボタン有るしな」
「はぁい」
そっと輝く指輪を閉まって、ボタンで止める。
初めての――トレジャーハントって奴かもしれない。
興奮で胸がドキドキする。
「じゃ――速攻帰……!」
全身を包むような悪寒。
怪魚の残骸の後ろで何かが動いた。
何か、じゃない――この気配は知っている。
「ふざけんなよ! 地下に出るのか!?
建物の中での目撃例も、ダンジョンでの目撃例もねぇぞ!」
「クゥ、逃げよう! たぶん、ここは遺跡の地下深く――周囲も岩!
遺跡特有の謎の明るさも無い……夜の街の外と同じ条件だよ!」
「人拐い……いや、業だったか?
悪いな、オレ達は今仕事中でな!!
ずらかるぞ!」
灯に照らされた先に見えるのは2つの影。
巨人とサソリ――知っている。
「やっぱり、あのデカイ奴がボクに関係有って……サソリがクゥを狙ってるってこと!?」
「関係有る奴は、確かに決まってる気がするな!
だが……それ以上にやべえのが分かるぞ!
前より――」
『デカイ!』
二人の声が重なる。
巨人は2mなんてもんじゃない。
もう見上げたら大きくて、なんてレベルじゃない巨大さ。
家より遥かにデカい。
サソリも真っ赤な巨大イノシシや馬車よりも大きい。
「目とか無いただのデカイ影なのに!
目があった気がする! クゥ……! 2体ともボクを見てるよ!!!」
「……宝の在り処に反応したって事だな……。
森の時と同じだ、欲を使ったやつを狙ってる!」
クゥが壁へと跳ねる。
「マト、今度吹っ飛んだら説教だからな!
掴まってろ、『壁走り』……!」
足から緑色の風が溢れる。
飛びついた壁を垂直に上へと走る。
「うん! って、うああああ! 真上!? 真上に走るの!?」
「当たり前だ! 振り向くなよ! 落ちたらマジで回収できねぇ!」
相変わらず業の足音はしない。
けれど、その気配は悪寒としてしっかり伝わってくる。
巨人は壁をよじ登り、サソリも駆け上がって来る。
「クソ……! マジで気持ちが悪ィ! 寒気がする……!」
「クゥ、ボクも! 本当にアレ、なんなの!」
「分からねぇ、昔から闇に居るって言われている!
だけど――見えるようになったのは【幸運の分け前】を覚えてからだ!
!?……マト、強く掴まれ! 行くぞ! 超跳躍!!」
何かにクゥが反応した。
間髪入れずに壁を蹴り、一気に上へと飛ぶ。
今日使える最後の超跳躍を使うほどの事――?
「クソがああああああ!! 伸びろ、伸びろ……もっと飛距離を出せエエエエ!」
クゥの全身のオーラが更に強く輝く。
いつもより、もっと前に。 きっとそんな願いなのだろう。
力が増す――距離が伸びる。
「えっ……」
体の横を黒い影の指が掠める。
目線の隅でサソリの尻尾が見える。
走るだけでは業が引き離せていない。
「まだだあああ! 伸びろ!!」
着地はしない。
長い長い上への壁を飛ぶように突き進む。
遥か上に光の点が見えた。
あそこまで逃げれば――!
その時、おぞましい声が響く。
「『悪運』」
「『曰く付き』」




