4-8「今日ここまでで一番の盗みだ」
「なんだ……こいつは!! 信じられん巨大さだ……!!
魚なのか!? マト殿、マヌダール殿! どうなっている!?」
「怪魚! すっごいおっきい魚!
頭から蟲が生えてる……!!」
「魚……ですかい!! デカすぎて……」
闘技場中央を丸ごと飲み込む程の口。
そのまま、物凄い勢いで飛び出してくる。
「うそ……空に出てくるの!?」
まるで空中を泳ぐかのように。
怪魚は空へと浮かび上がる。
闘技場には大きな穴、空中には怪魚。
地表には頭部を失ったとは言え、魚と繋がる蟲が這いずり回っている。
「ったくよォ……ふざけやがって……!!
デカすぎる上に……虫も気にしてねぇと戦えねえ!
厄介すぎるだろうがよォ……!」
「核の位置を教えて、欲【宝の在り処】……!」
先ほどまでの反応、地中にも核があった事を示している。
地中に居たのはコイツ。
だったら、核は外に出て来たはずだ……!
「えっ……!?」
キラキラは怪魚が開けた穴へと吸い込まれていく。
反応があるのは依然として地下からだ。
「この魚には……もう核がないよ!
穴の中から反応がある!!」
「想定外ですよォ!
本体以外に反応……!?
マトくんの力は宝を探す力。
弱点などではなく、地下に宝を隠している……そう言うことですかァ!?」
「……ならば、私はあの魚を狩るだけだ!
民の死亡や失踪、建物の破壊……貴様が犯人だと言うのなら!
許しておけるはずが無いッ! ピート殿、力を貸してくれるか……!」
「力ですかい?
ははあ……! 分かりましたぜ、いつでも……!」
「恩に切る!」
ガダルがピートへ跳ぶ。
ピートはそれを両手で受け止め、ジャンプ台……いや発射装置の如く、投げ飛ばした。
凄まじい速度と飛距離。
剣を正面に突き出し、超高速で怪魚へとガダルが突撃する。
「私が叩き斬る!
いくぞ、シハの震源……!
『噛み砕き』!!!」
ガダルの構える大剣から真紅のオーラが吹き出す。
力は形へと変わり、紅き牙のような刃を作り出した。
怪魚は巨大ゆえ、動きが遅い。
突撃を避ける事など出来ず、その横腹に直撃を受けた。
「ここからが真髄……!
重ねて『狼王凱旋』!」
突き刺した大剣に力を注げば、体内で刀身が激しく動く。
さながら、チェーンソーの如く。
一撃で斬り捨てる斬撃ではなく、治らぬ傷口を与え致命傷を与える攻撃。
「ゴアアアア!!」
空を舞う怪魚が口を開き吠える。
効いている……気がする。
「くっ、大ミミズも別に動きやがるんですかい!」
地上では蟲が暴れ狂う。
ピートはおろか、アードや馬車すら巻き込みかねない薙ぎ払いが放たれていた。
「そんな事は、絶対にさせねえですぜ!」
ドォン! と激しい衝撃音が響くが、それはピートが受け止めた音だ。
頭部を失った蟲という巨大鞭を、身体一つで食い止める。
「投げ飛ばしちまいてえ所ですが……!
流石にこのデカさはコントロールできねえ!
なら! 大ミミズはあっしが食い止めてやりますぜ!!」
全力の力を込めて、暴れようとする蟲を押さえ込む。
「目が! こっち見た!」
「どうやら、体を狙うガダルさんは無視に決めたようですねェ!
正念場ですよォ、マトくん、キャアさん!
こちらで飛んでいるのは私達だけ。……空中戦、参りますよ!
しっかり掴まって居てくださいねェ!」
「うん!」
「きゃあああ!!」
グリフォンの翼が大きく動く。
一気に加速し……怪魚目掛けて突き進む。
ギロリ……と視線が追いかけて来る。
そして、ゆっくり……ゆっくりと口を開く。
「……何かしてくる!」
「キャアさん、上……にッ……!!」
その声と同時に、怪魚が大きく息を吸い込んだ。
あたり一面の残骸や、自らが壊した地表すら吸い込むほどの吸引力。
轟轟と唸りをあげ、周囲の空間も激しく振動している。
「きゃあああ!」
激しく翼を動かし、インコグリフォンは必死に耐えた。
しかし……徐々に吸い込まれていく。
このままではまずい。
「口の中へ欲を使いますよォ!
詠唱の間……持ち堪えてくださいね、キャアさん!」
ボクは、敵の吸引に耐え必死にしがみついて居た
キャアの首を抱きしめ、飛ばされぬようにと。
けれど。
そんな力がある身体では無いのだ。
ふわり、と身体が浮いた。
「いけない……! マトくん!!!!」
慌てて身体を乗り出すマヌダールの手は宙を切る。
キャアもまた耐えるので精一杯。
すぐに咥えるなんて出来なかった。
「あっ……」
ボクの手は、吸い込まれる風圧に耐えられなかった。
あっという間のこと。
怪魚の口へとボクは飛んでいった。
「……マト殿オオオオオオ!」
ガダルの叫び声に、全員が反応する。
アードもボクを救おうと、魔装を掲げている。
視界がコマ送りのように進んでいく。
「ダメだ、これ……」
開いた魚の口。
中には細かな牙がびっしりと生え、溶解液と思わしき唾液が溢れている。
口の奥は真っ黒……深い深い闇。
「何とか……しなきゃ……!
絶対に諦めないよ……!」
出来る願いを考えろ。
敵を倒す?
空を飛んで逃げる?
それとも口を塞ぐ……?
何をしたら良い……?
何をしたら……。
思考を巡らせても、勝機が見えない。
ボクの力では、打開出来ない。
「……嫌だなぁ、みんなとお別れするの……」
助けて、欲しいな。
クゥ……あの時みたいに、また助けて欲しいな……。
クゥ……。
「『助けて』」
黄金の輝きが全身から放たれる。
それは怪魚の吸い込みなど関係なく。
真っ直ぐに、何も無い空へと飛んだ。
何も無い空に、人影が見える。
まさか潜駆……?
「超跳躍からの~~!」
姿が、見えた。
「これは一回死んだな、弟子!
だが諦めねえのはやっぱりオレの弟子だ!
『奪取』……!」
気づけば、安心する声が近くで聞こえる。
全身が輝くオーラに包まれた、クゥに抱き抱えられている。
「クゥ……」
「ダメかと思ったか?
よしよし、怖かったな……。
宝物は盗ませねえって言っただろ?」
ボクを抱きしめ落下しながら、クゥは不敵に笑う。
「よくもウチの弟子を怖がらせてくれたなァ!
マトの代わりにプレゼントをくれてやる!
ジジイ特製の壁をぶっ壊すやつだぜ!」
腰から、試験管のような霊薬を引き抜くと敵の吸引めがけて投げ込む。
吸引は止まらない。
霊薬は敵の口内へと飛んでいく。
マトの手を掴めなかった事で、思考が止まってしまったマヌダールが吹き飛びそうになるのをキャアが阻止。
クチバシで咥えて、敵の攻撃圏内から脱出する。
「ちきしょう、手が空いてるのが俺じゃねぇか!
マトだけなら構わねえが、てめぇもかよクゥさんよォ!!」
アードが必死に落下先へと走り込む。
「だが――最高だぜ。
今日ここまでで一番の盗みだ、大泥棒さんよォ!」
「そりゃあどうも!」
ボクを抱き落下してくるクゥを、見事にお姫様抱っこ。
アードが完璧に支えきった。
「早く降りろ、ったくよォ……!
マト、何もなくて良かったぜ――。
俺は何も考えられなくて、魔装も間に合わなかったからよォ」
「……こわかった。
みんなありがと……」
「さぁて、離れるぞ!!
ガダル、ピート! 2人とも撤退!
キャアもジジイ運んでこい!
ジジイは良くやった、落ち込んでる場合じゃねえぞ!」
クゥがボクを抱いたまま走り出す。
アードもそれに続く。
魚から飛び降りたガダルが合流――ピートも蟲を投げ飛ばして帰還。
空からキャアが舞い降り、腰を抜かしたマヌダールが地面に転がる。
「ジジイ元気出せ!
オレがずっとタイミング見て隠れてたんだ、何にも落ち度はねェ!」
「ヒヒ……落ち込んでると言うより、また大事なヒトを失ったかと思いましてねェ……。
腰が抜け……」
「気合だ! 今は気合だ!
帰ったら酒飲んで聞く! マトは無事、ジジイが無事じゃねえとマトも無事じゃねえぞ!」
「マーさん、ボクは大丈夫だから!」
「それなら……。
本当に肝を冷――」
ドオオオン!! という激しい爆発音が辺りを包む。
クゥが飲み込ませた爆弾霊薬が炸裂した音。
怪魚が空で激しい爆炎に巻き込まれ、黒煙を吹き上げている。
連鎖するように体内で繰り返し爆発が怒り、その疑似餌……蟲も粉々に吹き飛んだ。
「ヒイイイイイイン!」
「オレもあんな爆発すると思わなかったぜ……。
ジジイ、お前が作ったんだろ、悲鳴やべえぞ……」
「きゃあああああん!」
「キャア、マーさん喜んでる訳じゃないから真似しないであげてね……」
空に浮かんでいた怪魚は爆発しながら地面へと墜落。
崩れた闘技場の中央付近に衝突、再び激しい轟音を立てながら――穴の中へと転がり落ちた。
「……マト、怖かったよな。
オレは……あの下の宝を狙いに行く。
だから、ここで待って」
「……待ってない。
行く。ボクが居ないと、場所分からないかもしれないじゃん」
ふわふわの両手でクゥの身体にしがみつく。
「根性あるじゃねえか、マト!
なら――2人でチャチャっと回収だ!
皆は体勢を立て直してくれ!」




