4-7「今が攻め時ですよォ!!!」
続くピートが、大ミミズの胴体目掛けて掌底を放つ。
手のひらとは思えない、まるで巨大な鉄球を壁にぶつけたような轟音が響く。
頭部を失ったワームが、衝撃に身体をくねらせている。
「効いている……! 畳み掛けるぞ、ピート殿!」
その時――アードの声が皆へと響く。
「蟲。部位の名前。
イルイレシアの生きた災害。
地中に潜み、村ごと飲み込んで動き回る巣を持たない生物。
願いにて、シハディール地下に拘束。
溶解液、強い顎、強い再生力。
弱点になる属性は無い。
魔装『狼王剣』の刀身は体液の影響を受けず、致命打を与えやすい。
核の摘出で再生能力を停止できる。核はリーヴ金貨5万枚。
……大体こんな所だ!
領主様よォ、お前さん達は……こいつを見張る為に此処に暮らしたのかもしれねぇなァ!」
「……これがリーシオン家の使命だと言うのか――!
面白い! 先祖より引き継いだこの剣で、止めて見せよう……!」
ガダルが剣を構え直せば、グネグネと傷口が蠢き蟲の首が再生する。
「頭全部再生するの……!?」
「みたいだな……! オレらはアレをやるしかねぇって事だ!」
「分かった、任せて!
欲【宝の在り処】!」
輝く粒子が巻き上がる。
辺り一面に散らばった輝きが蟲へと飛び、その体に纏わりつく。
「キラキラ……リーヴ金貨5万……核を教えて!」
反応が不自然だ。
再生した頭部より少し後ろに一箇所。
そして長く伸びた胴体に一箇所。
そして――地中に飛び込んでいく光が幾つかある。
「たぶん、こいつ……核が1個じゃない……!」
「やはり特殊な個体でしょう!
畑に居た全喰い種とは格が違いますよォ!」
「オレの奪取は後2回だ……!
2個までなら奪える……! 」
「クゥさん、待って下さいッ!
ここは終点ではありませんッ……貴方の特技は我々の肝!
使っても1回までですよォ……この後の大物に備えるべきです!」
「……くそ、ままならねえな!
なら――どうするんだ!」
「全員で――奪い取りますよォ!
根こそぎ持って帰るんですよねェ……私が指揮を取りますよォ!
マトくんとキャアさんの力を借りたい!
ご家族の方、よろしいですかァ!」
『おうよ!』
声と同時に、キャアがマヌダール目掛けて降下する。
美味しい果物をくれるおじさんは大好きなのだ。
「きゃっ!」
マヌダールがよじ登る。
飛び乗るならカッコいいのだが、今ひとつ締まらないのも彼らしさだろう。
「きゃああ~!」
ゴキゲンな悲鳴を上げながら、マヌダールを乗せたキャアがクゥの元に飛んでくる。
「っしゃ! 援護、バッチリ頼むぞ!
『印』は後2回……マトもケチれよ!」
「わかった! クゥもバッチリ頼むよ!」
ふわふわの左手をグーに握って、クゥの右手とコンとぶつける。
肩から飛んで、キャアの背に。
よちちと動いて、お子様席――首の後ろに座る。
準備は完了だ。
「しゃあああ! 気合い入れろ、お前ら!
マトに魔法と技がある!
今日はおっさんも疲れてねェ! ガダルも増えた――!
ピートもやる気満々だし……キャアとジジイも定位置だ!
やれるよなァアア!!!」
「――当たり前だ、私を誰だと思っている……!」
ガダルが大剣を高く掲げる。
違う……! カッコいいけど違う、そうじゃない……!
「やれるよなァアアア!!!」
クゥが諦めていない!!
『おうよ!!』
ガダルも気づいた。
全員が拳を掲げてから――走り出す。
「ギュアアアアア!」
再生しきった頭部が吠えた。
全身を蠢かせ、凄まじい速度で蟲が迫ってくる。
ガダルとピートが横へと飛び退き、アードもギリギリで転ぶように避けた。
クゥの姿は無い――何か、狙っているはずだ。
その様子を上空から見下ろしながら、ボクらは作戦を立てる。
「マトさん、どうですかァ? 見えていますかァ?」
「うん……! 首の後ろ、そこから結構先……お腹の中と、多分土の中にある部分だよ!」
「土……炙り出す必要があるかもしれませんねェ!
しかし、今は悪手!
地中から全身が出てしまえば、闘技場全体を埋め尽くし、避けることが出来ません!」
「どう攻めよう、マーさん」
「きゃっ! きゃああ!」
「おや……行きたい、という事ですかァ?
危険ですよぉ、キャアさん。
ですが……悪くない! 首を上に向けられれば……狙えるチャンスは増えますよォ!」
「うん、ボクも賛成! しっかり掴まる!」
「きゃああん!」
インコ顔のグリフォンが大きく羽ばたけば、蟲へと突進する。
「きゃあああ~~!!」
闘技場全体に響き渡る女性の断末魔のような叫びに、蟲が反応する。
恐らく、前の個体と同じで振動でも獲物を感知している。
キャアの大きな鳴き声に釣られた……!
その首を高く上げ、口を4つに開く。
「――いけない! 左です、キャアさん!」
「きゃああ!」
マヌダールが何かに気づき、咄嗟にキャアに指示を出す。
蟲の口から煙が上がり……ゴポゴポと音が聞こえてくる。
「まさか、何か吐くって言うの!?」
ボクの叫びと同時に、溶解液が高圧で吐き出される。
それはまるでレーザー光線。
ブレスというよりは鋭い一本の線として、空を舞うボクらを追うように飛んでくる。
「キャアさん! そこから上に!」
マヌダールの指示に合わせ、キャアが真上に軌道を変えて回避する。
追跡するように放たれていた溶解液は、標的を失い闘技場の無人の客席を薙ぎ払った。
もちろん、そこに味方は1人も居ない。
誰も巻き込まない位置を、マヌダールが見極めていた。
「今が攻め時ですよォ!!!」
「核は頭の真下! もう1個は蟲の身体が闘技場の外壁に当たって曲がり始めたトコだよ!!」
「最高の位置取り、流石だマヌダール殿!
頭の真下――承知した、マト殿! 我が斬撃は首を狙う!
『狼王凱旋』!!」
蟲は空への攻撃で首を上げ、隙だらけだ。
走り込んだガダルが大剣を横薙ぎから袈裟斬り、斬り上げ――と連続で繰り出し、大ぶりの振り下ろしを叩き込む。
4回閃いた斬撃が首の後ろを切り分ける。
バラバラになったパーツの中から、黄金色の結晶が転がり出る。
「あれか――!」
「ガダルさんよォ! 餌に釣られての拾い食いが多すぎるぜ、帰ったら躾だなァ!
魔装展開、氷晶の塔ティカ遺物……『氷の天蓋』!!」
アードが澄んだ水色のオーブを起動させれば、ガダルとピートの真上に氷の膜が広がっていく。
広がった膜は、突如柔らかい布のようにたわみ、2人の身体を覆うように巻き付いた。
瞬間、千切れた蟲の身体から溶解液が豪雨のように降り注ぐ。
防御の膜が溶解液を弾き、2人には傷一つ生まれない。
「クッ……! これは予測できなかった……かたじけない――!
感謝する、アード殿! だが、核確かに確保したッ!」
「貸しが1つだなぁ、ガダルさんよォ!
ピート! 魔装が効いてるうちに胴体も決めちまえ!」
「もちろんですぜ……!」
ボクが指示した位置……胴体の曲がっている所へ既にピートが走り込んでいる。
体術で貫けば、恐らくあの溶解液を浴びることになる。
本来はそれを見越しての魔装だったのだろう。
「それじゃあ、あっしの番ですぜ! こいつを喰らいな、でぇりゃあああ!」
大きく振りかぶり……拳を叩きつける。
ただのパンチだ。
拳法でも何でもない、上から下へと振り下ろすだけの殴り。
だが――蟲の体皮をいとも簡単に貫く。
爆発音と共に拳が触れた部位が弾け飛び、その体に風穴が開いた。
「この奥ですかい!?」
空を舞うキャアの背から乗り出し、ボクはその奥を見る。
輝きが集中している――ほぼ、そこから真っ直ぐだ。
「そこから、真っ直ぐ!」
「畏まりましたぜ!」
魔装の保護を受けたピートが躊躇いなくその胴へと飛び込む。
1秒、2秒、3秒――蟲の体内で連続爆発が起こる。
蹴り、殴り、また蹴り飛ばす。
魔装の守りで溶解液を無効化しながら、身体の中からの攻撃を続けた。
5秒後。
穴とは逆側から、飛び蹴りで飛び出してくるのはもちろん彼だ。
その手には輝く核が一つ。
「……やるぅ! 2人とも、ナイスだよ……! 後は――土の中」
「おかしいですねェ――これで2個所。弱すぎますよォ!
お二人が強いのは分かりますがァ……この前の全喰い種より弱いです!
違和感がありますよォ……油断なく待機して下さいッ!」
クゥの気配は全くない。
何かを狙っている、待っている……そんな気がする。
「!? ものすげぇ揺れてますぜ!」
「!!……コレは! この振動は! シハの街で何度も味わってきた地震ッ……!」
「光が地表に溢れてきてる!! 闘技場の真ん中から丸く!!! 凄い範囲だよ!」
2人とも下がって! クゥも聞こえてる?
どこに居るか分からないけど――気をつけてね!!」
瞬間、闘技場の中央……ほぼ客席ギリギリまでの地面が崩落し巨大な穴へ変わる。
そして、巨大な何かが飛び出してくる。
その姿は――空からならハッキリと分かる。
巨大な怪魚。
あまりにもバカでかい口を開いた、アンコウのような存在。
頭部の疑似餌のかわりに伸びているのが蟲だ。
アードが何気なく読み上げた鑑定眼に答えは有ったのだ。
「蟲、部位の名前って言ってた……!」




