4-6「アードさんがズルい、と申しておりますよォ!」
ふわり、とアードの手元に羊皮紙が現れる。
「罪人――死体。
リーヴ金貨での価値なし。
獣化刑後、動く死体として使役。
守護者たる鍵のフェイク――。
咎人、トガと名付けられておりカギの強奪を防ぐ物……」
「……キヒィ……納得ですよォ!!
つまり、カギである『守護者たる鍵』を隠すため作られた存在!
これらを放ったり、こういったショーで使役して見せることで鍵であるイメージを隠した訳ですねェ!」
「とことん性格が悪ィ国だな……。
お前さん達! そこに出て来た『トガ』は正真正銘、昔話通りの罪人だ!
売り物にならねえ、動く死体のな!
俺達のマトさんはどうだ?
呪われた宝物、だよなァ……?
あんな罪人共に触れさせる訳にはいかねえよなぁ!」
アードが後方から大きな声で叫ぶ。
「マト殿には指一本触れさせぬぞ!
このガダル・リーシオンが全て滅して見せよう!」
「そうですぜ、お宝のマトさんの為に気合い入れて行かねえとですぜ」
「おうよ、任せときな! 『オレの』マトだからな!」
前衛で構える3人のテンションが上がったのが分かる。
罪人の群れと向き合う3人も何かしら「やらかしている」のだけれど。
「ありがと! 頼りにしてる!!」
「フハハ、そう言われては仕方ないな! 本気で行かせて貰う!
『超加速』『超剛力』『属性強化:風』!」
ガダルの周囲に緑色のオーラと赤いオーラが溢れ。
風が渦巻き、耳や尻尾が大きく揺れ始めた。
「喰らうがいい――『狼の牙』!!」
横薙ぎの一撃は真紅の斬撃を生み出す。
瞬間、周囲の風も赤き刃へと変わり――飛んだ。
辺り一面を巻き込む、飛ぶ薙ぎ払いが何十体もの罪人ゾンビを巻き込んで消し飛ばす。
「つよ……! ガダルすごいよ!」
「こいつは負けてらんねえですぜ……!
マトさん、あっしも意外とやれるとお見せしますぜえ!」
続いてピートが走り出す。
目の前、犬獣人のゾンビの懐へ滑り込み。
片腕を掴んで、ただ豪快に投げ飛ばす。
その後ろに居た猫獣人、その後ろのトカゲ獣人――何人巻き込んでも止まらない。
投げられた1人に巻き込まれ、敵の一列が壁まで壊滅していく。
そして壁へ衝突。
轟音が闘技場に轟く。
「まだですぜ! 敵が何人居ようとも! 武器を取り上げられようとも!
やっちまえるのが、あっしらですぜ!」
武術的な美しい蹴りではない。
けれど、実践的……踏みつけるような蹴りが隣の敵へと叩き込まれる。
無論、凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
後方までキリモミで弾け飛んでいく敵は、他の敵を巻き込み。
辺り一面を吹き飛ばした。
「ピート、やっぱめちゃくちゃ強いじゃん!」
「にしし、お褒めの言葉ありがたいですぜ!
やる気が溢れちまうってもんですぜ!」
「おいマト」
「ん」
「オレも」
「クゥ……。 じゃあ、すごいとこ見せてよ!
クゥのいいとこ、見てみたい!」
ふわふわの両手で、優しく頬を押しながらイタズラっぽく笑う。
すごい事なんて知っているんだ。
でも、きっと、こうすると彼はもっと強くなる。
「良いぜ……! 前の連中とは違うモノ、見せてやるぜ!
しっかり掴まってろよ、落ちたらマトがどれだか分かんなくなっちまうしな!」
「クゥ~!」
駆け出し、大きく踏み切って跳ぶ。
特技は温存しているが、その飛距離は一般人を遥かに凌駕する。
「魔装展開――『縁切り鋏』」
腰から引き抜いたナイフが、黒く禍々しいオーラを纏う。
ナイフ、というよりもハサミを2つに分解した片側、といった風貌。
「見てろよ、マト――! オレもめちゃくちゃ強くて! すごいんだからな!」
トン、と一歩踏み込みゾンビ獣人に刀身を掠らせる。
一瞬の出来事、敵から光が溢れ……前のめりに倒れた。
ゾンビだと言うのに、ピクリとも動かない。
「何したのクゥ!? すご……」
「こいつはオレの七つ道具の一つって奴だな!
願いを断ち切る刃を持つ!
魔法や特技で動いてるんなら……その力を切り裂く物だぜ!」
「七つ道具! 盗賊らしいワード出て来た!」
「あったりまえよ! マトにもあげたろ、じーさんの道具。
アレも全部魔装だ! 後で覚えようなァ!」
会話をしながらでも、動きが鈍る事はない。
しゃがみ、回転し、跳ね。
敵の群れの中で踊るように刃を振り回し、一網打尽に力を奪う。
まるで時代劇の1シーン――集団を1人であしらいながらバサバサと切り倒す。
古代の魔法から解き放たれたゾンビは、砂となって消える。
ただ、姿は戻らなかった。
それほど強固な呪いなのだろう。
「んわ……すご……」
「にしし、どうよ? なぁ、なぁ〜」
クゥが指で頬をぷにぷにしてくる。
「凄いよ! ちょっともう〜」
仕方ないので頬を両手で押し返す。
「……おい、お前さん達よぉ……。
敵は片付いてるが……何やってんだ……。
ジャレてん場合じゃねえだろ……」
「マトくん! アードさんがズルい、と申しておりますよォ!」
「言わねえでいい!
あと半分以下、ってとこか。問題は無さそうだな……!」
雪崩れ込んでくる桃色の咎人ゾンビを蹴散らし続け、もうすぐ群れは片付く。
「っしゃ! これで終わりか……!」
クゥが最後の一体、ヤギ獣人の横を通り抜ける。
ふわり、と舞い上がる光と砂。
斬撃すら見えぬ一撃、罪人は古代の呪いから解かれ消滅した。
「ん!? みんな! 真ん中から離れて! 何かの音がする……!」
「了解だ……!
揺れてんな、やべえぞ!」
前に出ていた3人が一斉に外周へと散る。
キャアも上空をぐるぐると飛びながら警戒を続けている。
瞬間、響き渡る爆発音。
闘技場中央に砂柱が立ち上がる。
「ギュアアアア!!!」
咆哮が轟く。
聞き覚えがある鳴き声。
この世界に来て間もないボクが、聞いた事のある声。
「全喰い種……!!」
それは畑に巣食っていた化け物より遥かに巨大。
あの個体も異常に巨大な芋虫だった。
けれど……この個体は……闘技場一周より長いだろう。
頭部も全員をまとめて飲み込めるほどデカい。
「お、おい……デカすぎねえか……?」
「……こんな巨大な大ミミズがシハの地下に居た……だと……!?
多発する失踪と地震……私が自警団に籍を置いた理由だ!
……ようやく突き止めたぞ、犯人……!」
ガダルの気迫が強く濃くなった。
纏うオーラが赤く染まる。
闘志が揺らめく炎の如く立ち昇っている。
「厄介ですぜ……。
試合に全喰い種が出てきた噂は何度も聞きやしたが……。
生き残った剣闘士は居ねえと聞いていますぜ!」
「おう、ピート!
そりゃ朗報じゃねえか!
引退した剣闘士が倒しちまったら……観客様は大盛り上がりだろうな!」
「そりゃあ違いねえ、最高ですぜ!!」
土から飛び出した大ミミズの頭部が4つに開く。
中には細かい牙がびっしりと生え、垂らした唾液からは煙が上がる。
「図録で見た全喰い種の中では……絶滅種、もしくは変異種の特徴を備えていますゥ!
唾液は物質を溶かす力が強く、危険……!
飲み込まれたら助け出す前に溶かされてしまいますよォ!」
「この前のよりデケェ以上、俺が前に出るのは厳しい!
魔装での補助に徹する!
いんや、これはマト一味としての収益だなあ!
宝石やら土やら……あいつは金になるんだろ!
欲【鑑定眼】!!」
輝く羊皮紙がアードの手元に生み出される。
あくまで取引資料として知識を得る能力。
読み上げる時間が必要だ。
「ナイスだ、おっさん! 読み終わったら教えてくれ!
特別な価値のある部位は――」
「ボクとクゥで毟り取る!」
「マト殿、クゥ殿、任せたぞ!
だが、この私が倒してしまうかもしれんがな!
行くぞ、地震の根源!!
『肉体超越』重ねて――魔装展開、宝剣『狼王剣』……!」
ガダルの全身から吹き上がるオーラが虹色に変化した。
恐らく、彼の最上位の全身強化。
掲げたバスタードソードに刻まれた狼の紋章――リーシオンの家紋が紅く輝き、剣自体を光で包む。
キィン! と美しい金属音1つ、バスタードソードは遥かに巨大な大剣へと姿を変えた。
太い両刃に狼の紋章、美麗な文様が刻まれた柄……その大きさは2mを越える。
「流石ガダルさんだ、半端ねぇですぜ。
だが――あっしも、やる時はやりますぜ――」
ピートが静かに目を閉じ、息を吐き出す。
一歩踏み出した足が、ズウウン、という巨人の一歩の如き振動を生む。
身体を低く構え――その拳を前へと突き出す。
拳法の型のような動き。
欲も、魔法も特技も持たぬ男の身体活性。
極限の力を引き出す、我流の構えだ。
「ギュアアアアア!!!」
咆哮した全喰い種の頭が真っ直ぐにガダルへと向かう。
「初級剣技の3回目、お前にくれてやる……だが、ここまでの一撃と異なると思いしれ!
『狼の牙』!!」
地面を引きずるように振り上げた大剣が、丸呑みを狙う巨大な大ミミズの頭部へと目掛けて放たれる。
それは瞬間の出来事だった。
激しい衝突音と同時に――大ミミズの首が弾け跳ぶ。
その切断面は美しく、真っ直ぐにブレもなく。
一撃の元に切り捨てた。
遥か遠く、闘技場外壁へと吹き飛んだ頭は土へと戻った。
「流石の剣技ですぜ、ガダルさん……!
なら、次はあっしですぜ!!」




