4-5「おい……空が……」
マヌダールが右腕を突き出せば、何百本もの光の槍が音も無くガイコツへと飛ぶ。
槍に貫かれたガイコツから十字の閃光が次々と立ち上がり、辺り一面に光に包まれた。
そして真っ白な爆発が続く。
視界が光に染まり……そして晴れれば――。
そこには一体のガイコツも残って居なかった。
「……この術はまだ詠唱があるようですゥ!
……『正義執行、全ての標的の浄化を確認』……ですよォ!」
ボクには分かる。
マーさん、そこ要らないトコです……。
「おい……嘘だろ……全部消滅させたって言うのか……?
ジジイ、なんだ今の魔法……」
「はァい、これは異界目録『翼の色なんて関係ない! 〜黒い羽が悪魔の使徒だと村から追放された私が本当の勇者? 正義を語る天界の「駄」天使の汚職を最強スキル【侵食】で断罪します〜』から拝借した魔法ですよォ!」
マーさん、それ目録じゃないんだ。
多分、ボクの世界から持ち込まれた小説だと思う。
しかも、そのタイトルだと今のは敵の魔法だよ……。
「信じらねえ威力ですぜ……!
これなら剣闘大会でも一位が取れますぜ!」
「やるな、マヌさんよ。
こんな魔法……王国兵ですら使ってねえ。
なんていうかよ、使い捨てが勿体無いぜ」
「ま……まさか、これほどまでの使い手とは!
しかしながら赦は魔法使いとして知識を食い捨てるようなもの……。
マヌダール殿……感謝する!」
「マーさん、ありがとね! すごいや!」
クゥの肩から飛び降り、マヌダールの足元に走り。
ちょいちょい、とローブを引っ張り、親指を立てて満面の笑顔で見上げる。
「マトくん! これほどまでの破壊魔法だとは想像しておりませんでした。
この魔法だけ、図録が出ていたので助かりましたよォ!」
挿絵があったんだね……。
「よし、通路は開けたな……!
全員、出発するぞ!」
「おっけ!
ええと……この先は階段の上に沢山の光。
牢屋はこの2つ先の右に1箇所、4つ先の左に1箇所!」
再びクゥの肩に戻り、案内を再開。
右の牢に転がっていた宝は、黄金の剣。
沢山の宝石で飾られ、とても煌びやかなもの。
「呪われてんだろ」
「鑑定するまでもねえな」
「触りたくないですぜ」
「キヒヒィ! ロクでもない香りしかしませんよォ!」
「なんという宝飾、優美だ!」
躊躇なくガダルが剣を拾った。
「ガダル、大丈夫?
どう見てもそれ呪われてるよ……?」
「ああ、これは呪いの品だろう!
だが私には通じぬ……リーシオンの血族は呪いへの耐性を持つ!
特に狼の血が強い者には、呪いは無効だ!
それにこの私は寝れば治るからな!」
「ガダル、寝れないじゃん」
ガダルが深刻そうな顔になって俯く。
「むう……!
ただ豪華なだけの剣にも見える。
呪いは物欲と錯乱だろうか、体が弾いてしまうゆえハッキリはわからん。
この剣、どうすべきだ?」
「ガダル、お前さんが持っていろ。後で欲で鑑定してやる」
「アード殿、それは助かる……! ちょっとカッコいいと思い始めていた所でな!」
そして、左の牢獄の宝。
「何にもねえな。
ン……あの蝋燭、1本だけ炎が青いぞ」
「あれっぽいよ、クゥ」
「何かのスイッチの可能性もあるな……まずは調べてみるぜ」
「クゥさん! それは古代の魔装の一つ、死者を使役する灯りかと思われますよォ!
遺跡の品で取引率は低いですがァ、訳アリで多くの書物に記載がありますゥ!」
「気持ちの良い物じゃねえが、価値はありそうだな!
特に罠は無さそうだ、吹き消すぞ」
青い蝋燭が消える。
その瞬間、先ほどガイコツから奪った宝石入りの盾が砂になって消えた。
盾自体も蝋燭で再現されていた武具だった、ということだろう。
チィン、と赤い石だけが床に転がった。
「もしかして……ガイコツラッシュの正攻法はよォ……。
これ消せばよかったんじゃねえのか?」
「っぽいね……!
マーさんはボクたちの仲間にしか居ないから、マーさんが居ないパーティの為ということで」
「そうだな! 上手くいけば全てが成功、大成功だぜ!」
剣と蝋燭、宝石を宝に加えて一同は進む。
階段はキャアが馬車を引くのは難しい。
当たり前のようにピートが担いで登っている事に、違和感を感じなくなってきた。
「さあ、この上だよ……!」
視界が開ける。
確かにここは地下遺跡だったはずだ。
目を疑う光景――。
「おい……空が……」
階段を少し登った程度で外になるはずがない。
けれど。
「外……だと? 地下のはずだ、なんらかの魔装が組み込まれてるって事だろうよ。
この景色……闘技場か……?」
「大将、間違い無いですぜ。
この囲むような席……正面にある格子付きの門……!
……我々は剣闘士としての入場って事ですぜ!」
「ったくよお、一体どうなってんだ、ガダルの町の地下はよ……」
「かたじけない……聞いた事すらない景色に、私も動揺している……。
だが、壁や門にある紋章は我がリーシオンのもの。
無関係では無いだろう」
「みんな、キラキラの道標は門の奥へと飛んでる! 先に進むしか無さそう!
んっ……??
音! 何かが動く音がするよ!」
「了解だぜ、マト!
音か……どうせあの門が開くんだろうよ、お前ら! 準備は良いか!」
「言われなくてもだ……!」
ガダルが真っ先に飛び出し、剣を抜いて構える。
闘技場の装飾に家紋が含まれているのも、彼を駆り立てる要因だろう。
「……領主様が活躍しちまうと、あっしらはクビになっちまうんですぜ?
……横、失礼しやす」
ピートもガダルに続いて前に。
「マト、オレらはいつも通りだ。敵が出たら……宝を見つけて頂く! いけるか?」
「任せて! ボクが視る、クゥが掴んで!」
「おうよ!」
配置はガダル達より少し後ろ。
敵の隙を狙う位置。
「後方は俺の魔装と、マヌさんの魔法でカバーするぜ!」
「馬車に関してはご安心ください! きっちりお守りしますよォ!」
ん……?
馬車の守りは、キャアでは……?
「きゃあああああん!!」
甲高い女性の悲鳴が空から響く。
凄まじい速度の影が、クゥ達の横に突き刺さる様に降りてくる。
「きゃあん!」
「なるほど、参戦か! キャア、やる気満々だな! よろしく頼むぜ!」
「きゃっ!」
地下とはいえ、その空間は開けた地上の闘技場。
空を舞ってこそのインコグリフォンでも全力が出せそうだ。
満を持して……キャアがその爪を構えた。
門の奥から獣の鳴き声が聞こえてくる。
種類も数も多い。
「来るぞ! 迎え撃つ……!」
ガダルが先陣で剣を掲げる。
「領主様よりブッ倒さねぇと、元チャンピオンの面目が丸潰れですからなぁ!」
ピートが一歩を踏み出す。
纏う気配が変わった……アレは商人の見習いなんかじゃない。
戦う者……しかも熟練の気配だ。
地鳴りと共に門が開く。
そして獣……いや獣人の群れが飛び出して来た。
「……そんな馬鹿なことがあるのか……!?」
ガダルが一歩足を引いた。
「こいつは、やりにくいですぜ……」
ピートも固まったまま動かない。
「なにあれ!? 敵の毛並み、全部ピンクじゃん!!」
ボクの叫び声が、闘技場に響き渡っていた。
「お、おい……すげえ数のトガだぞ……!?」
「お前さん達! 動揺するな、ぶっ倒せ!
マトに似ているだけだ! どう見てもアイツらは……」
「死んでますよォ!
瞳の焦点も合っていない、個体によっては腐敗していますよォ!」
「それに見やがれ、足枷、手枷……首輪。
アレが昔話に語られる、本物の『トガ』……咎人だろうよ」
「マト、焦るのは分かるぜ。オレもビビった」
クゥが背中を優しく撫でてくれた。
少しだけ、息が楽になる。
「アレらは決定的に違う所があるぜ。
それは……マトの欲が反応してねえって事だ。
なあ、おっさん」
「ああ、クゥさんよ、お前さんの言うとおりだぜ。
俺もクゥもなあ、宝にゃ目ざといんだよ。
鑑定眼を使うまでもねえ……!」
「確かに……! なら、ボクも見極める!
欲【宝の在り処】!!」
瞳を強く閉じて、開く。
溢れ出した黄金の粒子は風に乗り、一直線に開いた門の奥へと飛んでいく。
走って来る桃色の犬や猫、山羊……各種獣人達には、一筋の輝きも纏わりつかない。
残酷だけれど、そこに価値などない、と言う事。
「どうだ? オレの目利き、間違ってたか?」
クゥがわしゃわしゃと頭を撫でて来る。
目を細めて笑顔で返す。
ボクの周りでもキラキラが回っている気がする。
ボク自身も大事なものなんだ。
欲も背中を押してくれた気がする。
「間違ってないよ! ボクはクゥのお宝でしょ?」
「おうよ!!
ガダル、ピート! 加減はいらねえ、ぶっ飛ばしちまえ!
オレらもやるぞ、マト、キャア!」
「きゃあん!」
後ろから、ヒソヒソ話し合う声が聞こえる。
「……アードさん、アレらは売り物にしないのですかァ?
偽トガでも、トガですからァ……何か、価値があるかもしれませんしィ?
どうですゥ? ココは私に譲ってくれませんかねェ?」
「がはは……マヌさんよ、お前さんも悪だねェ。
だが、こりゃあ珍しい奴隷になるかもしれねえ!
不死種のトガ、タダで引き下がるワケにゃぁいかねえな?
欲【鑑定眼】……!」




