4-4「クッ……水とは卑怯な……!」
「矢とか球が転がってくる、とか?」
「うんにゃ……もっとやべえ奴だな……!
水の匂いがする……!」
「……!!
音! ゴーって音がする!」
うさぎの耳を動かせば、左通路と天井の上から地鳴りのような音。
水の匂い、という言葉も考えるとこれは。
「片側の通路が水で埋まるやつ、だな。
おそらく、入ったらそこの扉が落ちてきて出られなくなる。
それでも……行くか?」
クゥが一応確認したからな、という自慢げな顔で皆に尋ねる。
「行く! キラキラは右に続いているもん!
ここで諦めるわけない!」
「クゥさんよ、ご冗談を、だぜ。
危ねえから帰るじゃあ仕事にならねえんだろ、もちろん行くぜ」
「当たり前ですぜ!
水責め、と言うなら水中呼吸の魔装がありますぜ!」
「キヒヒィ……ならば魔法を用意しておきましょう!
今こそ賢者の知恵をお見せする時ですよォ!」
「クッ……水とは卑怯な……! だが……敗北はせんぞ!」
「全員行く気満々ってとこだな!
入ったらマトの指示で右へと走る。
後ろから音がしても振り向かずに進んでくれ。
オレが指示する、いいな!」
『おうよ!』
全員の声が重なり、別れ道へと踏み込んだ。
「ん……! ガコンって音がしたよ!」
「マトにしか聞こえてねえな……恐らく何かのスイッチだ。
ほぼロクでもねえ、走るべきだぜ!」
「ったく、入ってすぐ戦ってからの走れか? 俺はただの商人なんだがなぁ!」
アードがため息一つ、気合を入れて走り出す。
一斉に右の通路を駆ける。
【宝の在り処】が告げるのは、左へ曲がる角があること。
「突き当たりが左に曲がってる!」
その声と同時に、入ってきた入口へ石扉が落ちた。
予想通り退路を断つ罠。
「流石クゥ殿、罠も手のひらの上と言う事か!
沼の香りが強くなった……!」
「んにゃ、そんな気がしただけ、だがな!
アレが閉まったということ、そしてずっと水の匂い……。
そろそろ来るぞ!」
「クゥさんよ、少し速度を落とせ!
流石にプロじゃなくても、性格の悪イ事には明るいんでなぁ!
魔装展開、幻茸の森ン・リェ遺物……『眼に見える真実』!」
走りながらアードが掲げるのは、青白く光るキノコが生えた杖。
美しく輝く胞子が舞い上がり、道の先へと降り注ぐ。
真正面……床のど真ん中を埋め尽くすように、光るキノコが生えてきた。
「うお、なんだそのキモい道具!」
「コイツは幻惑の森で道を示す道具の一つ!
キノコは幻覚にだけ生える! つまり……」
「床に落とし穴、って事か!
クソ、水音で感覚が鈍ってたか……!
助かったぜ、おっさん! あのキノコを飛び越える!」
「きゃあ〜!」
先ほどより狭い空間、キャアが翼を開いて飛ぶのはギリギリ厳しい。
「任せてくだせえ!」
マヌダールを乗せたキャアだけを先に行かせ、ピートが馬車を掴んで……抱え上げる。
「持つのは意外としんどいですぜ!
魔装馬車とはいえイノシシより重いようで……!」
そして、跳ぶ。
何の問題もなく着地。
「来たな!」
全員の耳に飛び込む、濁流が流れるような轟音。
視界に飛び込んでくる、通路を埋め尽くす水流。
「んぇ! 思ったより多いよ!?」
「オレもこの規模だと思わなかったぜ……!」
「お前さん達……グダグダ言ってねえで、走れ!!」
アードの絶叫に合わせ、曲がり角へと走る。
ゴオン!という音と共に、キノコが生えていた空間が消える。
そこには大穴。
「やっぱ落とし穴だな、開いた音がしたな……」
角を曲がる。
曲がっても通路は続く。
その先には登りの階段。
ボクの欲は、その上を示している。
「あの階段の上に光が流れてる!」
「了解だ……! このまま走るぞ!」
クゥの言葉で全員走り続ける。
左右に見えてくるのは牢獄。
ありきたりの状態、骨や風化した装備が転がっている。
「あれ、水の音がしない……?」
気づけば、背後から聞こえていた轟音が消えた。
「キヒィ……あの穴へと水が流れたのでしょう!
二段構えのトラップ……ですがァ!
水と穴、引っ掛かりますねェ!
イルイレシアでは魔装以外にも自然を利用した動力が多いのですよォ!
左右の牢に鍵穴が無い、不自然ではありませんかァ?」
「マト、何か聞こえるか?」
「ちょっと待って、クゥ。
……カチカチカチって何かの音が続いてる……!」
「皆さん、構えて下さいねェ!
不自然すぎますからねェ!
牢の中に武器や防具は必要ありませんからァ!
不死種、来ますよォ!」
鉄格子がカチカチと真上に上がっていく。
ガゴン!という音と共に全ての牢獄が開いた。
「いや、流石に多すぎんだろ!」
溢れ出してくる、動く骨。
片手剣と小さなバックラー、武器の構成で元剣闘士だとすぐ分かる。
「……数えてられねえですぜ。
懐かしい気がしますが……せめて死んだらお休みが欲しいもんですぜ!
あいつら、給料出てやがるんですかい……!」
ピートが馬車をキャアに戻し、クゥとガダルに合流する。
「キヒヒィ!
無限肉体労働の骨さんの相手は、厄介でしょう!
こちらの肉体労働の皆さんには、休暇が必要ですからねェ!」
マヌダールが高笑い一つ、両手を広げ叫ぶ。
「ココは大魔法使いが一撃で仕留めましょう!
元が剣闘士なら……派手に送ってあげるのが花道というモノですよォ!
マトくん、この辺りにお宝の反応は有りますかァ?」
「えっと……!
正面の階段の上に沢山光が登ってく!
でも牢屋の中へ飛び込んでる光もあるよ!
ガイコツたちは光ってない!」
「……やってしまって構わない、という事ですねェ!
キーヒッヒッヒ、このマヌダールの大魔術、思い知りなさい!
欲で片付けますよォ!」
「了解だぜ! つまりこの骨を……ジジイに近づけなきゃ良いって事だな!」
クゥが腰からナイフを引き抜く。
緑色の宝石が煌めく、新しい武器――恐らくアードのコレクションの一つ。
「マヌダール殿、承知した!」
ガダルも横に並び、バスタードソードを構える。
「俺は魔装で有事に備えるぞ!
ピート、お前さんは行って来い!」
アードが馬車の横に走り、全身に纏う魔装をいつでも放てるように待機する。
「大将、感謝しやす!
……放っておけねぇんですぜ!
勝てば開放だの……! 負ければ骨として故郷に帰れるだの!
どこにも誠意がねぇ嘘で、死んだ後も働いてるのは見過ごせねえですぜ!」
「ンなら根性見せてやれ!
オレとガダルは後ろの守りに徹する――てめェでやれ!」
「分かりましたぜ!」
何の武器も持たず、その身一つでピートがガイコツ剣闘士目掛けて突進する。
「欲【司書無き図書館】――。
縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――攻撃禁呪。
異界階位、真聖王――極光の法」
マヌダールの詠唱が始まる。
異界を冠した魔法は、ほぼ娯楽書物や異世界のフィクション由来の物。
ちょっと、興奮してしまう。
「マヌさんの魔法の前に、あっしが全員ぶっ倒して足止めしてやりやすぜ!」
1体目の骸骨に振り上げた拳を叩きつけ、文字通り粉々に砕いた。
身体を沈め、上へと突き上げる拳が次の骸骨をバラバラに吹き飛ばす。
ガダルのような流れる動きではないが、尋常ではない威力の鈍器「素手」を振り回すような攻撃。
伸ばした左手で3体目の頭部を握りつぶし、4体目を遥か後方へと蹴る。
吹き飛んだ骸骨が何体も巻き込んで崩れ……部品が混じって再び立ち上がろうとしている。
小さく跳ねると、踵で蹴り下ろし5体目の頭部から足までを一撃で骨粉に変える。
「やるじゃねぇか……!」
「クゥ、その牢に残ってる骸骨……持ってる盾が光ってる!
あの宝石っぽい!」
「雰囲気が違う不死種はめんどくせえ事が多いんだぞ、マト。
だが、よく見つけたな。
アレを持って帰らねぇと、根こそぎにはならねえからな!
魔法が完成する前に、毟り取る!」
クゥが跳ねる。
走り込んで来た骸骨の頭部を踏み台に、次の相手へと飛ぶ。
もう一度頭部を蹴り、さらに奥へ。
「――なんだと!?」
もうすぐで届く、その時だった。
盾だけを持った骸骨が自分の頭部を外し――抱え。
投げてきた。
想定していなかった動き、このままではクゥに直撃する。
やるしか、ない。
クゥの肩から前へと跳ぶ。
「そうはさせないから! 『兎のあんよ』!」
壁を破壊したうさぎキック――これなら何とかなると思った。
オレンジ色の閃光を纏うドロップキックが、飛んできた骸骨の頭を粉砕する。
「助かったぜ、マト!」
空中でクゥに捕まれ、そっと肩に戻される。
「こいつは頂くぜ!」
骸骨の盾はあっという間にクゥの手元に。
お宝を奪えは、後は戻るだけ。
「ちぃと時間がねェな! なら『超跳躍』――!」
一足飛びにマヌダールの元に戻った。
正面で戦うピートも、その声に反応し戻る。
ガダルも下がりながら戦い、壁としての役割を果たす。
「我、光なり――善の極光にて、抗う全ての闇に裁きを。
これは救済、虐殺に非ず。
死したもの、自らの行いを悔い罰に感謝せよ!」
マヌダールの手元に浮かぶ魔本――いや、アレは小説だ。
光の文字列が抜け出し、周囲で弾ける。
本が焼け落ち、魔法が完成する。
「聖法『理は我に』!!」




