4-3「やったの!?」
ゴーレムの2つの首が、それぞれを捉え唸り声をあげる。
切り落とされた首も再び火炎攻撃を狙ってくるだろう。
「後ろはあっしに任せてくだせぇ!
動かねぇ首なんて――ぶん投げちまえば炎は届かねえですぜ!」
ピートが走り込み、自分より遥かに巨大なゴーレムの頭部を担ぎ上げる。
「ちきしょう、めちゃくちゃ熱くなってますぜ!
だがよ――料理ってのは慣れちまうんですぜ、こんな熱さなんて!
ぶっ飛んじまえ!」
そのまま全身に力を込め、壁目掛けて放り投げる。
飛んでいった首は壁に激突し……砕けながら床へと落ちた。
「後ろは問題なさそうだな――ならば私も参る!
隙を作る! マト殿、クゥ殿……良い仕事、を頼むぞ!」
ガダルが一足先に仕掛ける。
「頭部を分断するのが罠だと言うのなら!
貴様の足、奪わせて貰うぞ!
『集中』『限界突破』――」
ガダルを包むオーラに色数がさらに増えた。
縮地の如き一歩でゴーレムの懐へと飛び込む。
「連技――『狼王凱旋』!!」
振り上げた剣が再び赤い閃光を纏う。
巨大なゴーレムの足を狙った袈裟斬りが閃いた。
まずは一撃。
甲高い斬撃音。
再び地面に着いた剣を反転させ、振り上げる。
踏み込んで横に薙ぎ払い、回るようにもう一撃。
一撃一撃が重い両手持ちの剣が、軽いショートソードのような勢いで繰り出されていく。
連撃は止まらない。
圧倒されたゴーレムは両方の頭でガダルを見た。
その動きを止めようと、両腕を伸ばしながら口から煙をあげる。
「マト……今なら近づける! 行くぞ!」
クゥが咄嗟にゴーレムの背後へと滑り込んだ。
「敵はガダルに集中してるな……!
もうすぐチャンスが来る!
マト、やれるか!?」
乱雑に振り下ろされるゴーレムの拳をガダルが弾き、連続剣技で足を狙い続けている。
敵の右足にはヒビが広がり……動きが鈍くなった、だろうか。
「任せて! 後ろから狙うかぁ……流石クゥだね!
……第一階位――色、灯――『印』!!」
キラキラの位置は背中からでも分かる。
中央寄り右寄り――傷のある石の所。
指差せば、輝く光が標のようにゴーレムの胸に突き刺さった。
「流石マトだぜ……ここからはオレの仕事だな。
潜駆は要らねえ。
崩れたら、一瞬で決めるぞ」
「これで終いだ……! クゥ殿のお手並み拝見と行こう!」
ガダルは振り上げたバスタードソードをゴーレムの足へと叩きつける。
ガアアン! という激しい衝撃音と共にその足が膝から砕け……前のめりに崩れ落ちる。
「おうよ――!」
ボクの動体視力では追いつかなかった。
気づいた時に既にゴーレムの背に居たのだから。
クゥが跳ねたのも、走ったのも気づかなかった。
「それじゃぁ――頂くぜ、1個目のお宝!
『奪取』!!!」
一瞬、クゥの伸ばした手が輝いたように見える。
「悪いな、貰ってくぜ!」
ご機嫌な声……その手には握り拳ほどの真っ赤な宝石が握られていた。
「やったの!?」
「ああ、間違いなく……やったぜ!」
言葉が持つ不吉な意味を打ち払う、自信に満ちた笑顔。
ゴーレムの背から跳ぶと、馬車へと走る。
「さあて……! 倒せたかな、と!」
「クゥ殿、敵は停止したと考えて良さそうだ!
瞳の光も消え、身体もただの石像へと戻ったようだ……!」
ガダルは正面にゴーレムの残骸を捉えたまま、少しずつ下がる。
警戒は解いていない……「やったか!?」でしくじらないタイプだ。
「ぶっ壊した頭からも、小さな宝石が転がってますぜ……!
1個も残さねえ、でしたな! 集めておきやしょう」
ピートの言葉通り、壁に叩きつけた頭や本体の頭のそばには赤い宝石。
瞳だったものだろう。
「ピート、任せたぜ! で、コイツがコアだっけ?
丁度心臓っぽい位置に埋まってた石だぜ。
おっさん、なんだか分かるか?」
クゥがアードに宝石を投げる。
「危ねえな! てめぇ、宝に傷でも付いたらどうするつもりだ……!
遺跡で見つかる宝石は何個も見たが、明らかにデカい。
俺が鑑定しても構わねえが、ウチの店で取引出来なくなるのは損だな」
「キヒィ……!それなら、アードさん、少し拝見しますよォ!
……おやぁ……!
古代遺跡のガーディアンのコアとは異なりますねェ!
霊薬の触媒に使える鉱石、というものが存在しますがそれに近いものですよォ!」
「霊薬の触媒……だと……?
……ならば、この液体は……」
ガダルが倒したゴーレムの残骸を見つめている。
その周囲には赤く輝く水溜りが生まれていた。
「当時から治癒効果の高い草の成分には、赤い色素が多いと言われていますゥ!
輝く物は高品質……血液のように霊薬を循環させていた、と想像できますよォ」
「ならば、この液体も宝か!」
残骸に歩み寄ったガダルが無警戒で手を突っ込む。
戦闘経験はあっても、単作の経験がないことが良くわかる。
「あっ、ガダル触った」
「バカだろ……オレでも何か突っ込んで試してから触るぞ……」
「毛が入ったら売れなくなるだろうがよお……」
「せめて皮袋で掬え、と習わなかったんですかい……?」
「キーヒッヒッヒ! 人柱! いや狼柱を自ら行う蛮勇!
流石ガダルさん、領主だっただけはありますよォ!」
振り返ったガダルの目が点になっている。
クッ……不味かったか!? みたいな分かりやすい顔だ。
「んん!?
触れた場所に緑色のキラキラが溢れるな!
これはやはり霊薬だろう!」
ペロ。
「舐めた……」
「バカだな……」
「目も当てられねえ」
「信じられませんぜ」
「愚者! 愚者ですねぇ!」
泣きそうな顔でガダルがこっちを見てくる。
良いことしたと思ったら失敗で困ってるワンちゃんだ。
「オッ……!?
おお!! 甘い! 大変甘く……力が漲る!
贈り物で頂く高い霊薬の味だ!」
そんなこんなで自主的な人柱、ガダルが鑑定した液体は回復霊薬。
マヌダール、アードも近づき鑑定したが純度が高く高価な物だそうだ。
これもしっかり持ち帰る。
赤い魔法石6つ、ゴーレムのコア1つ、そして大量の回復霊薬。
1度目の戦いの戦利品はまずまず。
「んだが、コレで認証ってやつは終わったんじゃねえか?」
「ボクが触って、ゴーレムを倒した。なら、この扉は……」
声が響く。
「二重承認終了。扉を開門します」
凄まじい轟音を立て、扉が開いていく。
開いた途端、中に灯りが生まれ……奥まで広がっていく。
「待てよ……、普通ガーディアンの後は宝じゃねえのか……!?」
見えた景色は、再び神殿のような通路。
だが……なんだか違和感がある。
ダンジョン、とは少し違う。
「……おい、お前さん達。この構造は見た事がある。
俺が商売で見てきた通路……闘技場の『地下』。
選手の控え牢獄や、獣を捕らえておく場所……!」
アードがため息を吐き出す。
「違いねえですぜ。あっしも何度も歩きましたが……。
何処も似たような物だ、変わらねえですぜ」
ピートが頷く。まさか、この腕っぷしと腕力……。
「ピート、知ってるの?」
「あっしは闘技場の剣闘士でやんしたから」
恥ずかしそうに頭を掻くピートの肩を、アードが叩く。
「そうだぜ。こいつは凄えんだ、なんせ『技無し』の異名を持つナンバーワンだったからなあ。
ただ、客が飽きてきたから処分するって話が出ていてな。
……俺が連れてきたのさ」
「ですぜ。だから、大将に恩と感謝しかねえ。闘技場より殴られますがな!」
「ピート殿……やはり使い手だったか!」
「ご飯も上手くて力持ちで戦える人! すごいじゃん!」
「んだよ、隠してやがったのか……! やるな、ピート!
オレもボヤボヤしてねえで気合い入れていかねえとな!
進むぜ!」
「うん、行こう!
光の道標はこのまま真っ直ぐ!
突き当たりは右だよ!」
「分かったぜ。マトは宝に集中してろ、罠はオレが見る!
オレはよ、闘技場は好きじゃねえ。
さっさと抜けちまおう」
「クゥさんよ、捕まった盗賊の末路だったりするか?」
「いや……それは、オレらのミスだ。カッコ悪いだけだぜ。
だけどよ……何にもしてねえ奴がアレで死んでいくのは納得いかねえ。
ピートも、どっかからか拐われて来られてんだろ……」
「……優しいですぜ、クゥさんは。あっしは……」
歩き出した皆へ、ピートが語る。
「強盗と無銭飲食ですぜ」
「そっか」
「おう」
「キヒッ……」
「ピート殿……」
「後、国家反逆だな。
王都の騎士団をグーで殴ったらしい」
「照れ臭いですぜ、今はタダの大将のお手伝いですぜ!」
「中々箔がついてんな、やるじゃねえか。
マジでウカウカしてらんねえ、騎士団を殴ったのは痛快すぎんだろ」
「ええ! それはそれは面白い話! ですが素性がバレれば、さらに危険!
面白いですねェ!
訳アリ、最高じゃないですかァ!」
「クッ……やはり殴るべきだったか……。頭を下げて脱税になるくらいなら……」
「全くもう!
悪いトコはカッコいいけど上手にやらなきゃダメだからね!」
クゥの肩で腕を組んで、ボクは呟く。
皆が頷いている。
「マトの言う通りだぜ! 上手く『やる』ぞ、お前ら!」
『おうよ!』
そして、通路は分かれ道に。
「……左から嫌な感じするぜ。
右に進んでも何か動くだろ、気をつけやがれ!」




