4-2「『狼の牙』!」
「門から、声がしてる……!
光の粒は一度門の前で止まった後、中へと流れてるよ……!」
クゥの肩から乗り出しながらボクは叫ぶ。
「ああ――オレにもしっかり聞こえてるぜ。
守護者たる鍵ってのはガダルの指輪か……?」
「クゥ殿、私の指輪には変化がない……! しかし、これの事だというのか?」
ガダルは自らの指輪を高く掲げる。変化はない。
「駄目か……! 気配的に罠は無ぇ……だが解錠待機中という音声。
何かしねえと通れないタイプだな……」
通路を塞ぐようにそびえ立つ巨大な扉は、ただ同じ音声を繰り返している。
「守護者たる鍵を確認――守護者たる鍵による解錠待機中」
「マヌさんよ、お前さんはどう思う?
俺は【鑑定眼】の結果から――可能性がある気がする、が……あまり認めたくねぇんだ」
「アードさん。……恐らく、私も同意見です。
今回の探索の為、書物を読み漁りましたが守護者たる鍵についての記述はありません。
けれど――口に出せば分かります」
マヌダールが眉間にシワを寄せ、落ち着いた静かな声で淡々と話す。
「守護者たる鍵……。
認めたくなくて、口に出せば分かる……か」
クゥの腕がそっとボクの頭に伸びてくる。
いつものわしゃわしゃとする豪快な撫で方ではなく、優しく静かに。
「マト、オレには大事な宝物の桃色のうさぎなんだけどよ……。
桃色の獣人は――トガって言うだろ……」
「ん……!
クゥ、待って? 昔刑罰に使われたから咎人って意味なんじゃないの……?」
「トゥルーガーディアン――トガ、じゃねえかって」
皆が沈黙する。
流れる音声だけが延々と響き渡っている。
「マト、やれるか?」
「ん……どうしたらいいか分からないけれど、扉に触れたら良いのかな?」
「オレも行く。罠は無いはずだが、一瞬でも危険を感じたら下がる。いいな?」
「わかった!」
クゥが静かに扉へと歩く。
突然の事すぎるけど、出来ることがあるならやってみたい。
なんせ……宝探しは始まったばかりなのだから。
「いくよ! 開けッー!!」
ボクが扉を右手で触った瞬間――扉から振動が聞こえ。
音声が変わる。
「守護者たる鍵による解錠を承認。
――イルイレシア深部防衛機構【狼】の起動。
開門待機、力による二重承認を開始」
鳴り響く轟音。
クゥが素早く後方へと飛ぶ。
瞬間、天井から門の前へと巨大な犬獣人型ゴーレムが落ちてきた。
全身は石で出来ている。
灰色、というよりは薄い桃色を帯びたローズクォーツのような。
瞳は赤い宝石――ガダルの指輪と同じ色だ。
特徴的なのは犬の首が3つだという事。
「ケルベロスかなぁ……」
「マト、何だか分かるのか??」
「なにもわかんない!
でも、ボク達の世界ではそう呼ばれている首が3つある番犬の物語があるよ!」
「面倒くさそうって事は分かった……!」
ゴーレムの瞳石に赤い光が溢れる。
グオオオ、という咆哮が地下神殿に響き渡る。
「私の指輪も輝いている……! 姿……そして防衛機構【狼】という名!
我らリーシオン家と関係があるとしか思えぬ!
力による二重承認――つまり、マト殿が触れた後、門番を破壊しろということだろう?」
ガダルがゴーレムへ咆哮を返す。
「やるしかねぇって事か、ガダルさんよ。ったくいきなり大物とは厄介だぜ……。
ピート! 魔装を出せ、躊躇いは無しだ……! 商品、ガンガン中古にしてくぞ!」
「大将、了解ですぜ!」
「私は霊薬で回復しますよォ! 傷の際には下がってくださいねェ!
魔法も狙いますが、無駄遣いは出来ないと覚えていてください!
キャアさん、お背中お借りしますよォ!」
「きゃっ!」
マヌダールがキャアに飛び乗り、馬車を後退させる。
「首が多いんだ、ウチらの狼1人の前衛じゃ不利だしなァ!
後ろはマヌさんに任せて全員で行くしかねぇぞ!
お前さん達、気合を入れろ……ぶっ壊して、イルイレシアの骨董品……持って帰るぞ!」
「良い事言うじゃねぇか、おっさん!
なぁマト……どうするんだったか?」
「金貨一枚残さず、かっぱらう!」
『ッしゃあ!!』
全員の声が重なる。
敵は防衛機構【狼】――古代イルイレシアの特殊なガーディアン。
「速攻で片付ける――!
『加速』『超化』重ねて『剛力』『超化』」
ガダルが特技で自己強化し、長さ130cm程度――豪華な装飾を持つバスタードソードを構えて走り込む。
全身が色とりどりのオーラで覆われ、何種類もの力を発現させているのが視覚的にも認識できた。
始めて見る武装したガダル――盾は持たず、両手持ちで戦うタイプの剣士だ――!
踏み込み、大きく跳ねる。
その高さは巨人のごとき身長を持つゴーレムの頭に届くほど。
「貴様に動く隙など与えぬ!」
高く振り上げた剣が、赤き光を放つ。
それは指輪や敵ゴーレムの瞳と同じ色。
剣の光は柱のごとく伸び、巨大な真紅の刃と化す。
「――『狼の牙』!」
そして、振り下ろす。
扉ごと断ち切ってしまいそうな斬撃が、3つ首のゴーレムへと閃く。
ギイイン、という金属音が響き、激しい火花が弾け飛ぶ。
ゴーレムの左の首が……宙へと跳ね上がり、ガダルの着地と共に床に転がった。
「一撃!? ガダルすごいよ!」
「……お、おィ……マジかよ……。馬鹿にしてて悪かったよ……。
ただの脱税うさぎ吸いおじさんじゃねぇのか……」
「お前さん、本当に戦える貴族だったのか……。
不健康そうすぎて、どうせやれねぇと思ってたぜ、すまねぇ……」
「キヒィ……凄まじい剣技……! 達人でしたかァ!
マトくんの足裏を狙う悪い狼かと思っていましたがァ……!」
「こいつがガダルさんの本気ですかい……!
あっしより力が無いんでちぃと疑ってましたぜ!」
「きゃっ」
寝不足うさぎ吸い狼おじさんは「まぁ、それなりにはやれんだろ」くらいに思われていた。
皆の顔に反省が浮かんだ。舐めててすいません。
「手応えがおかしいッ……!
斬れたというより……外れた――! 警戒しろ!」
着地したガダルは再びゴーレムへと走り出す。
ついにゴーレムが動く。
その瞳が輝き――口元から煙が吹き出す。
「――! たぶん、炎が来る!」
ああいう攻撃はゲームで見たことがある。
だからボクは咄嗟に叫んだ。
「承知した! ならば――!」
敵正面に走り込んだガダルが、剣を天に掲げる。
「『狼の盾』!」
赤く輝く狼の紋章が現れる。
この文様は、ここまでの壁に刻まれていたもの。
リーシオン家の家紋。
それはまるで盾のごときオーラを帯びて、地面に突き刺さった。
ガダルは正面から全員を守る、エネルギーの盾を展開する。
「……! 首だ! 転がってる方も動くぞ!」
クゥが危険を感知し叫ぶ。
視線をガダルが切り落とした首へと向ければ、同様に口から煙を吹き上げていた。
「キヒィ……ならば私がこちらを!」
「待ちな、マヌさんよ。お前さんの魔法はもっと大事な時に残しておきやがれ。
こういう安い仕事は俺に任せておきな――!」
アードが首の前へと走り、懐からハンドベルを取り出す。
キィン……と美しい響きを一度放てば、音が色を帯び。
水色の風となって馬車周囲を包む。
「魔装展開――ニラルゲ遺跡の秘宝『竜を寝かす者』!
ドラゴンのブレスを無効化する守りのフィールドを展開する鐘だぜ!
ただし、音の直後しか効果がねえ! 出しっぱなしには出来ねえぞ!」
その声と同時に、巨人と転がった首、両方の口が赤熱し予想通り火炎を吐きだす。
周囲一体を埋め尽くすほどの爆炎が生まれ、視界が炎で包まれた。
「熱ささえ感じねぇ……! やるな、おっさん、ガダル!」
クゥが叫びながら瞳を閉じる――。
恐らく視界が封じられている状態で、頼れる感覚に集中する為だ。
「見えなくても――力はちゃんと発動するはず!
応えて、欲【宝の在り処】!」
ボクは再び欲を展開する。
今とは違う宝が見えるかも知れない。
ゲームで培ったカンが言っているんだ。
あの頭部の瞳か、それとも身体にコアがある。
コアや宝石のドロップ率は低いが、希少価値や強い武器の素材になる……!
つまりそれは「宝」!
眼前に再び黄金の粒子が舞い、弾けてゴーレムへと飛ぶ。
集まる位置は……!
「みんな……! ゴーレムの左胸に光が集中してる! 多分、それが価値の有るコアだよ!
瞳にも光が少し集まってる、そっちは……かっぱらうお宝だと思う!」
「マト殿、承知した――!」
「ゴーレムやガーディアンはコアを止めれば大概停止しますよォ!
破壊してしまうと、魔装の材料としての価値が下がりますゥ、我々の目的は宝探し!
つまり……」
「オレが盗めって事だな!」
「ならば私が敵を食い止め、首を断ち、腕を断ち……!
厄介な大盗賊の活躍を見届けるのが正解か!」
「言うじゃねえか、脱税騎士!
隙を作ってくれ……盗みのチャンスってのは1回、その瞬間しかねェ!
任せておけ!」
「近づかないと正確な位置の輝きが分からない!
クゥ、ボクも行く! 『印』をつける!」
「おうよ、マト! 任せたぜ!
お前には絶対ケガなんてさせねぇ!
しっかり避けるんで、落ちねえように掴まってろ!」
クゥがガダルと並んだ。
同時に左右に分かれ――隙を狙う。




