4-1「やばいガーディアンとかが居そう」
「異界階位、8等級――禁呪、空間連結。
詠唱破棄――座標交換」
マヌダールの手元に現れた本から文字列が浮かび、焼き焦げて消える。
全ての魔術書から人生で1度だけ同じ魔法を使える欲が力を生み出す。
「……ン……?」
マヌダールの持っている本、魔術書なんかじゃない。
アレはボクの居た世界の漫画だ。
なるほど、転移者が持ち込んだり召喚術でこの世界に現れた「フィクション」ですら発現させるのか……!
「転移は始めてだからワクワクするぜ!」
クゥのゴキゲンな声と同時に、視界が一瞬青い閃光に包まれる。
眩しさに目を閉じ、恐る恐る開いて見れば既に転移は済んでいた。
「うわ、すっご……ダンジョンじゃん……!」
地下の大神殿、そんな景色。
灯りは見つけられないが、視界に問題がない明るさ。
明るすぎず――雰囲気が丁度いい。
天井は見えぬくらい高く、周囲は岩壁。
石作りの床や柱が並ぶ先には巨大な門。
その紋章は狼の頭。
「……まさか、本当に一瞬で着いてしまうとは。
間違いない――ここが、遺跡の門だ……」
呟いたガダルの指輪から赤い光が門へと伸びていく。
「……ッ……! なんだこれはッ……!」
「いきなり負けたみたいな声出すなよ、ガダル……。
やっぱオレが盗んだ指輪が鍵だったみてぇだな」
「クゥさんよ……。
盗賊ってのは、ギルド所属のスカウトみてえな探索や罠解除は出来ねぇのか……?
なんかそのよ……着いた瞬間にノーチェックで門が開きはじめてんだが」
「いや、オレに言うんじゃねえって! ガダルが勝手に開けたんだからな!」
「ッ……そうか、私が……! かたじけない……!」
「ヒヒッ……! 魔法が成功し、このマヌダールが称賛されるタイミング奪うとは!
ガダルさん……中々のやり手と見えますよォ! この賢者マヌダール、次こそは!」
マーさんが珍しく前に出て来た……。
これは褒めて欲しいやつだ……。
クゥの肩から飛び降り、マヌダールに登る。
「マーさんすごかったよ! お話の中の魔法みたいだった! 流石先生だね~!」
もちゃり、と両手で顔をわしゃわしゃする。
めちゃくちゃ幸せそうな顔になったので、花丸である。
クゥの肩へ戻る。
「いんやぁ……こいつは。
着いた瞬間に完全に開いちまいましたぜ……」
ピートが口をあんぐり開けて呟く。
「っしゃあ、コレならそのまま行けるな!
皆、探索開始だぜ!」
クゥの叫びと共に、一同は出発した。
門に近づいた瞬間、手前から奥へと青白い灯火が点灯していく。
「やばいガーディアンとかが居そう」
「お、マト、良いカンだな。
オレも同じ意見だ……この灯りの挙動、古代遺跡でもヤバい所で見るやつだぞ」
「……風も妙に冷てえな……クゥさんよ、先頭を任せるぜ。
作戦通り後ろと馬車は俺とピート、キャアで守る」
「おうよ! んじゃ……いっちょ仕事の時間だな! 行くぜ、マト!」
「うん、任せて! 欲【宝の在り処】!」
黄金色に輝く光の粒子が視界に溢れ出した。
ふわりと風に乗った煌めきは、まっすぐに遺跡の奥へと飛んでいく。
光の道標は空間に残り……さながら移動先を指示されるゲームのチュートリアルみたいだ。
「しばらく真っ直ぐ! だけど途中で右に曲がった……!
そこで教えるから、そこまで行こう!」
「ナイスだぜ、マト!
案内を頼む! 『印』の魔法は、急ぐ時と危ない時にしろよ」
「おっけー! このまま前進!」
「きゃあんっ!」
馬車を引くグリフォンも大変ゴキゲンに鳴き声をあげる。
その声が反響するくらい、遺跡の内部は静かだ。
ただただ石造りの神殿のような景色が続く。
「……こんなものがシハの地下にあったとは――。
壁にある文様などは、私の屋敷で見たことがあるものばかり。
だが……この遺跡については何の文献も残っていない」
「ガダルさんよ、領主だったお前さんが知らねえってことは……恐らく。
俺達も、王国すら知らねえ場所だって事だな。
流石に緊張はするが……楽しみじゃねえか」
「……ああ、私も楽しみになってきた!
幼い頃より冒険をしてみたかったのだ、故に技も磨き戦いの技術も得た!
脱税よりも……身体を動かすほうが得意なのだ!」
「脱税が得意にはならねえよ、ガダル……。
お前、金周りが面倒で放置してただけじゃねえのか……」
「クッ……」
「図星なの!? しっかりしてそうだと思ったのになぁ。
でも、今はアードのおっさんやマーさん居るから大丈夫だね!」
遺跡に着いてから既に2敗しているガダルへ笑顔で手を振る。
背筋がピンと伸び、急に元気が溢れたのが分かった。
「しかし、代わり映えしねぇな……?
嫌な感じもしねえ、罠とかも無いな。
まるでタダのデカい通路だ……マト、曲がり道はそろそろか?」
「うん! ココ! ココを右。
柱と柱の間へ光が続いてる……壁の中だよ!」
「透ける壁……ってか。
……ン、なんだこの気配……。
お前ら全員、まっすぐマトが行った方向へ走れ!」
「気配……?
ンッ……!!! ピート、正面のずっと奥から大きな音がした!
ガコンって奴!」
「……キャア、進路を右だ!
お前さん達もしっかり走れよ!」
手綱など無くても、キャアは話を理解し共に進んでくれる心強いグリフォンだ。
主たるアードの声には、一層良く反応する。
全員が右側へと走る。
「その柱の間だよ!!」
そうボクが叫んだ時、音の正体が分かった。
壁だ。
壁が動いて向かってくる。
いわゆる、部屋ごと押しつぶすトラップ……!
「マジかよ!? 大規模すぎんだろ、この空間ごと押しつぶすとか誰が考えるんだよ!
みんな急げ! マトも掴まってろよ!!」
「分かった!!!」
轟音が響き続け、部屋が揺れる。
正面から迫る壁を避ける為、右側……神殿めいた飾りの柱2本の間へと皆は全力で走った。
「飛び込めーッ!」
クゥとボクが先に飛び込む。
通れる、と信じてのこと。
「うおおお、すり抜ける! 行けるぜ!」
クゥが着地した先……そこには再び、地下神殿が広がっていた。
少しだけ灯りが暗くなった。
揺らめく青い炎がよりハッキリと見え、雰囲気に恐怖が混ざってくる。
「怖ェぞ!! 壁に突っ込むのとか、まじで怖ェ!!」
顔面蒼白のアードが、キャアに咥えられて追いついてきた。
他の皆も一緒。全員無事だ。
「悪ィな、キャア。足がすくんじまってよ……」
「きゃっ」
かわいいインコの目が鋭くなり、くい、と首をあげて見下ろす顔。
これは……ドヤ顔だ! この子、ドヤ顔するのか……。
「ま、キャアのお手柄だな。
だが分かるぜ……オレもマトが言わなきゃ、流石にこの壁には気づかねえ。
それに分かってても入るのは避ける。
怖いのは大事だ。怖いうちの40%は本当に怖い事が起こるんだよ。
怖いと思ったら……絶対に言え、我慢すんな」
わしゃり、とクゥの手がボクの頭を撫でてくれる。
実はすごく緊張していて不安だった。
だから、本当に嬉しい。
「マト殿が耳を垂らしている時は、怖い時かもしれんな。
私達も警戒する事にしよう」
んっ……耳?
あ……。
ぺたん、と倒れていた耳を両手でうんしょ! と上に戻す。
ふらふらと揺れた後、バッチリ立ち上がった。
「えへへ、ボクも緊張してた。
もう大丈夫、先へと進もう!」
雰囲気の変わった地下神殿を奥へ奥へと進んでいく。
【宝の在り処】が示す道は、ただ真っ直ぐ。
光の粒はその最奥で丸い光の玉のように集まっている。
あそこに、何かある。
「正面の奥にキラキラが集まってる!
多分、何かあるよ……!」
「中々早ェ登場だったな、宝物さんよォ。
こいつはちぃと楽しみになってきたぜ……!」
アードの言葉を遮るようにクゥが叫ぶ。
「止まれ! 左右両方、来るぞ――!」
全員が一斉に停止。
瞬間……少し先。
左右の壁から大量の矢が射出され、足元に穴が開く。
矢に気づいても穴に落ちる。
穴に気づいても矢が飛んでくる。
罠に気付いた、という油断を突く巧妙な構成の罠だ。
「……わっ……」
「マト~? こりゃあ1回死亡だな。
オレが居るから大丈夫だけどな!
こういうのは任せて、お前はお宝を見ててくれ!」
「いやぁ……えげつないですぜ。
クゥさんよ、良く気づきましたな……」
「おう、ピート! プロだからな。
お前が美味い食材見つけんのと変わらねえ」
「なるほどですぜ」
「お二人共静かに。
何やら聞こえています――正面奥。
恐らくマトくんの言う、宝物の場所です。
遺跡のガーディアンの音声に似ていますが――。
警戒しましょう」
マヌダールから胡散臭さが消えた。
鋭い目つき――賢者、と呼べる顔。
ガダルも剣を構える。
「そろそろ、この私の出番のようだ。
クゥ殿――敵対存在が現れたら私に任せてくれ。
その間の罠の対処は頼んだぞ」
「がってんだぜ!」
落とし穴と矢を避け、皆が直進すれば……目の前に現れるのは巨大な扉。
門に彫られているのは、鹿やヤギ、ライオンのようなもの、グリフォン、ウサギ……。
幾多の動物の文様。
鍵穴は無い。
機械音声のような声が、繰り返されている。
「守護者たる鍵を確認――守護者たる鍵による解錠待機中――」




