3-13「みんなァ! 金貨一枚残さず、全部かっぱらうぞ!」
「魔装?」
ぴょこり、と耳を真横に倒しながら首を傾げる。
「おうよ。デカい宝箱だ。
中に冷気を生み出す魔装で、遺跡の侵入者を捉えるトラップだった物だ。
中から吹き出す風で凍結させちまう……みたいな」
マヌダールが髭を弄りながら笑う。
つまりクーラーボックスって事だろうか……?
「お、マトさんよ。噂をすれば何とやらだぜ、ピートのご帰還だ」
振り返れば巨大な箱を背に担いだピートが戻って来る。
宝箱なんかじゃない。
それに、クーラーボックスなんかじゃない。
「冷蔵庫だコレ……」
「皆さんお揃いでェ! バッチリ食材は準備させて頂きやしたぜ!
コイツならだいぶ長い時間運べますからなァ!」
手を振りながら到着したピートが、箱――魔法冷蔵庫を地面に下ろす。
ズウウウン! という理解を拒むような轟音が響く。
「えっ」
「おっと、マトさんは絶対に持ち上げようとしちゃあ駄目ですぜ。
こいつは中々重いようですからなァ」
「今の轟音……恐らく、私でも技を使って一瞬持ち上がる程度かと。
流石ピート殿だ」
「お褒めに預かり光栄ですぜ。
この馬車自体も魔装で、重さを軽減しやすから……中に入れたら触って大丈夫ですぜ。
キャアさんでも軽々運べる」
「マトはそれでも触るんじゃねーぞ。
下敷きで見えなくなっちまったお宝を探せるのは、お前だけだからな?」
「わかった!
でも、言い方! 言い方~!
クゥだって見つけてくれるでしょ!」
「そりゃあ、オレはそれが仕事だからなァ?
ほら捕まえたぜ?」
一瞬だった。
視界が高くなった。
抱き上げられている……。
何が起きたか分からない速度。
いわゆる、盗賊の早業というやつだ。
「!? クゥ? えっ……早ァ……」
「無くさないように、大事なものは常に持ってるってのが鉄則だからな。
マトはオレが責任持って守る。
ってことで……全部の荷物の積み込み、準備は終わった感じか?」
「そうだな、そのデカい箱で終わりだ。
戦闘用の魔装、補助用の魔装……遺跡で発掘された貴重な類の道具もたんまり準備済み。
クゥ、ガダルの装備も見繕ってある。後でしっかり確認しておけ。
食材やらの管理はピートが全てやっている。
こちらも問題ねぇ」
「ええ、私の書籍もォ! 霊薬や薬草も搬入済みでございますよォ!
先程の箱でのみ保存できる特殊な霊薬も、今回は持ち込めますゆえご安心下さいィ!」
「恩に切る、アード殿、ピート殿、マヌダール殿。
遺跡内では私が守ろう」
「ガダルさんよ、お前さんが居てくれるから何とかなるんだ。
クゥもオレも戦士じゃねェ、戦いを避けるプロだからな。
宜しく頼むぜ」
「先陣はオレとマトで行く。
弟子にゃぁ、師匠の道具を渡したからな。バッチリ活躍してくれるハズだ。
オレが罠を見て――マトは常に宝を探す。
罠の危険からはオレが死守するが、敵がやべぇ時はガダル、任せるぜ」
「みんな、よろしくね。
ボクはココに宝探しに来たんだ……だから、とっても嬉しいよ!」
「おう、よろしくな! だが、ちぃと探すだけじゃァ心構えが足りねえな、マト。
心構えはよォ――。
金貨一枚残さず全部かっぱらって持って来い、だ」
「わかった、ぜ!」
ひょいと右手を上げれば、クゥが指先でハイタッチしてくれた。
「ったく、マトさんよ……すっかり一味じゃねェか……。
こりゃあ帰ってから、しっかりガルドリアス商会でも教育しねえといけねえな。
クゥ2号が出来上がっちまう」
「アードさんにも、しっかり習うよ!」
満面の笑みで返す。
アードが赤面して目を逸らした。
「マトォ……その表情の変わり方、オレの弟子っていうかよ……。
じーさんにも近い感じがするんだよな。
底が知れねえ、こいつは出来る盗賊になるぜ!」
「えへへ。でも、盗賊かぁ……」
「クゥさん! 悩ませるとマトくんがシワシワになりますよォ!」
「そうだぞ、クゥ殿! あの顔はなんとも言えない興奮があるが!
クセになってしまうといけない!」
今、興奮って言ったな、ガダル……。
「ま、全部準備も整ったな!
この孤児院の事は出かけている間、町長がサポートしてくれる。安心してくれ。
ガダルの住み込みも喜んでくれたぜ。
脱税は駄目だって言ってたがな」
「辛辣ッ……! 安心してくれ、クゥ殿! みかじめ料はしっかり収めさせてもらう!」
「ガダル~! 言い方~!」
「……やはりやべぇ街だったか……俺もしっかり収めねえとな……」
「おっさん! 何その顔! シワシワじゃん!」
「若者たちから聞いておりやすよ。爺様が時々いらっしゃると。
その方が町長様ですかい……しかし、みかじめ料とは……」
「ピート! 真に受けないで! ガダルの言い方、言い方だから!」
「キヒヒィ……やはり、只者ではないと思っていましたよォ!
街の祭りで開会を宣言した後に影に消えただとか……。
噂をすると後ろに立っているだとか――」
バッ、とマヌダールが振り返るがそこには誰もいない。
「忙しそうだったし居ないと思うよ……。
じーさん、たんまり街の仕事が残ってるって!」
「そうだぜ。良い稼ぎでも出して、宴会でも開いてやろうぜ。
オレも親孝行になるしな!」
「ああ、育ての親代わりか……こんな盗人のガキ、面倒見るのは大変だったろうによ」
「……言うなって、オレが『霞の腕』を覚えられなかったのはじーさんも気にしてんだ」
「今なんて言った?」
「じーさんも気にしてる」
「その前だよ……」
「霞の腕、か?」
「聞き間違えじゃぁ無いみたいだな、クゥさんよ――大泥棒オルドが町長ってことかよ……」
「そうだぜ」
アードとピートが頭を抱えて唸っている。
商人という仕事上、ヤバい泥棒の噂は良く知っているのだ。
その筆頭の名前が出てきてしまったのだから。
「ったくよ、もう驚くのがバカバカしくなってきたぜ。
そろそろ夕方だ。確認が終わったら中に戻って休むぞ、お前さん達」
「そうだな……!
それじゃ、明日に備えて、こっからも頑張るぞ!」
「休むって言ってんだよ、馬鹿野郎!」
クゥがピートに小突かれた。
そこからは皆で全ての確認を済ませ、食事を取り、風呂に入り。
いつもより早い時間で部屋に戻る。
折角の探検前だ。
寝る前にクゥに話しかければ……大の字で爆睡中。
緊張などしない、のが彼の強みなのだろう。
布団がベッドから吹き飛んでいたので、一生懸命上に引き上げてクゥに被せる。
シャツとズボンもだるだるで、ヘソが丸見えなのだ……風邪をひくといけない。
「もう~! クゥ、お休み! すっごい疲れたよ!」
ボクの身体は小さい。
布団をベッドに引っ張るだけでも一苦労だった。
「それじゃ、ボクも寝る!」
しゅぽん、と布団に潜り込んだ瞬間。
ジタバタと動いたクゥのケリで、布団がベッドの下に吹き飛んでいく。
「!? そんなコト……あるの……!?」
泣きそうな顔でもう一度布団を引き上げて。
なんとか次は朝まで無事に眠れた。
そして朝。
全員が屋敷の庭に集合した。
支度を整えた皆にマヌダールが言う。
「キヒヒィ……まだまだ私の魔法で転移出来るのですよォ!
今は急ぐのが吉……王国の件もありますからねェ!
ですので、まずは1回――転移でシハへと移動しましょう!」
「いきなり転移!」
「はぁい! 未知の遺跡に挑むのですから、万全で突入が最善ですよォ!
ガダルさんから位置を教わっておりますのでェ……!
遺跡の入口前、地下大空洞へ転移致しますゥ!」
自信に満ちたマヌダールの笑顔が、より胡散臭い。
壁の中や土の中に転移しなければ良いのだが……。
「それは違いねェが……『貴重な』魔法を使っちまってもいいのかい、マヌさんよ」
アードが髭を弄りながら眉を垂れる。
赦の重みを分かっているメンバーだ。
使った魔法を二度と使えなくなるマヌダールの世話になることに躊躇いがある。
「ええと、コレはですねェ!
異世界から持ち込まれた書籍と言われておりまして――欲以外では発動できませェん!
つまり、どんなに修練しても言葉は分からず、触媒も手に入らないって事ですよォ!
魔法コレクションを一つ試せる……悪い話では、ありません!」
「それなら、喜んで乗っからせてもらうぜ。
馬車も全て準備完了、お前さん達、行けるな?」
「もちろんですぜ、親分! 弁当も用意済みですぜ」
「問題ない! 昨夜は桃色毛玉でしっかり眠っている!
いつでも出発可能だ!」
「……おう……そうかよ……ガダル……。
じゃ、行くか!」
「クゥ、なんかこう、バシって決めてよ」
「ん? ああ……ンならよ。
ウチのマト親分が景気づけに何か言いてえみたいだぜ?
聞きやがれ!」
ボクなの!?
気づけば、抱き上げ高く掲げられている。
こうなったら言うしかない。
「おほん……!
ケガとか死ぬのは絶対駄目だよ、みんなボクの宝物なんだから!」
大きく息を吸い込んで、精一杯叫ぶ。
「みんなァ! 金貨一枚残さず、全部かっぱらうぞ!
行くぜェェェ!」
この人達には、きっとこれがいい。
だから……言葉を借りた。
「しゃああああ!」
全員が腕を突き上げ、声をあげる。
同時にマヌダールの声が続く。
「欲【司書無き図書館】。
縷縷たる書庫、棚は魔法。開くは呪文書――空間転移」




