3-12「年寄りはほぼ全員、盗賊団あがりだぞ」
「さあて、準備しちまうぞ!」
朝食が終わり、全員が動き出す。
アード達は街へ向かい、マヌダールはキャアを連れ森へ向かったようだ。
「んじゃ、ガダル……偉い人んトコ行っちまうか。
イノシシ持ってよ」
「うむ、クゥ殿……同行よろしく頼む!」
ガダルの美しい所作のお辞儀に、尾がふわりと揺れる。
ああ――この人は確かに領主だったのだ、と思わせる優美さ。
「ボクも一緒に行く! 終わった後の準備も教えてね」
「よーし、出発だぜ!」
と、いうことで。
討伐した赤イノシシの報告に出かけた。
いわゆる冒険者ギルド、というのも有るらしいが誰一人ボク達に登録者はおらず。
こうなると手続きが一番面倒くさいらしい。
役所に関してもクゥは全く把握していなかった。
そこで、彼らしい発案……町長宅に突撃する形になった。
結果的に作戦は大成功。
ガダルは感謝され、街で暮らして欲しいと言われるほど。
これでガダルが住みにくい、ということはもう無いだろう。
「けれど、マトくん。
キミのこれからは大変かもしれません。
桃色の毛並みの獣人さんは、苦労が多いと聞きます。
困ったらクゥやガダルさんに頼りなさい。
私も力になります、いつでも来て下さいね」
町長は片目に傷はあるが、とても笑顔が優しいおじいさんだ。
銀髪をオールバックにし、ピシっとしたシャツ。
まさに役人さん、そんなイメージ。
「おう、助かるよじーさん。
だけど、マトの事で王国がちょっかい出してくるんだろ?」
「マトくんだけではありませんよ?
近くの遺跡の隠し部屋で、ガーディアンが起動したそうですね?」
「筒抜けかよ!」
「当たり前です。キミはいつも幸運と、ソレ以上の問題を運んできますからね?
結局、危険はいつも身近にある、ということです。
街に何かあったら――なんだか良い泥棒達が助けてくれるのではないですか?」
「……任せといてくれ。
頼りになる人達も増えた。今以上に、力になるからよ」
ガダルが意を決して、口を挟む。
「どうか内密に願いたいが……私はシハのリーシオンの生き残りだ。
古代イルイレシア絡みの問題は、王国が介入してくると思われる。
気をつけて欲しい」
その言葉に町長の顔色が変わった。
シハの件、耳に入っていたそうだ。
「――心中お察しします、とお伝えするよりはクゥの一味の方ですし。
アルクバーグにはきっちり税をお納めくださいね、のがよろしいでしょう」
「言われてんぞ、ガダル!」
「……気をつけよう、今度こそ上手くいくはずだ……」
「言い方~!」
つい突っ込んでしまった。
「冗談はさておき、概ね把握致しました。
マトくんも心配せず暮らして下さい。
面倒な話は我々が何とかするものです、上手くいきますよ」
「で、一応報告しておこうと思うんだけどよ。
明日から、そのシハの遺跡に行く予定だ。
あと……孤児院で学校ってのをしようと思ってる。
奴隷商のガルドリアス、うちの横の何でも屋のマヌダールも力を貸してくれる」
「……遺跡。ガダルさんも一緒なら大丈夫でしょう。
しっかり気をつけて盗んで来てください。
学校は大賛成です。
遺跡のお仕事から戻った頃には、こちらも手伝えるよう準備しておきますね。
資金は欲で作ったのですか?」
「おうよ! マトで使ったら、たんまりな」
「……なるほど、それだけの宝ってェ事か……。
これは王国からの介入、しっかり対策が必要ですね。
今は心配せず、がっつり儲けて来て下さい。
学校と、税金の分」
「まだ擦るのかよ、じーさん結構エグいな……」
「ぐぅ……」
ガダルのぐぅの音が出てる……。
「えっと、ボクもがんばります!
どうかよろしくお願いします!」
ぴょい、と大きく頭を下げる。
「良い子ですね! はい、よろしくされました。
んじゃァよ――しっかりやりな、マト。
クゥはちぃと気が抜けてんが、腕はちゃぁんとしてるからなァ。
言う事聞いて、ばっちり金目の物を持ってきやがれよ」
「ンッ!?」
「おや、顔がシワシワになりました!
マトくん、驚いてもカワイイです!
それでは遺跡の探検、頑張ってきてくださいね」
クゥの耳打ちが聞こえる。
「町長、親分なんだよ……」
「は?」
「クゥ殿、今なんと……?」
「おっと、困りますよ、親分だなんて。
ったくよォ……儂はオルド、"霞の腕"のオルドだ。
引退したジジイが、聞き耳出来ねえとでも思ったかクゥ?
全部聞こえてんだよ、もうちぃと上手くやりな。
ンなら……アルクバーグの親分としての命令だ!
金貨一枚残さず、全部かっぱらって持って来い!
もちろん誰一人死ぬんじゃねぇぞ、一番高ぇのはテメェら自身だからな?」
「心得たぜ、じーさん」
「あの」
「なんでしょう?」
またこのパターンだ……。
町長もか! 町長もなのか!
「かっこいい」
「それはどうも! ですが、クゥの顔が嫉妬でシワシワになってしまったので。
褒めるのはクゥにしてあげてくださいね。
で、準備に行くのでしょう?」
優しい言葉の後、町長の顔つきが180度変わる。
隻眼が鋭く赤く輝き、ザラついた声で吠えるように続ける。
「――てめぇら!
儂はよォ、たんまり街の仕事が残ってんだよ。ココは宴会場じゃねえ。
さっさと帰りな、宴会やるのは黄金でも持ってきてからにしな!」
「っしゃ、分かったぜ、じーさん。
おら、ズラ帰るぞ」
「どうしてこうなるの、もう~!
親分、お疲れさんした!」
頭を下げてからクゥに続く。
ガダルも頭を下げているが、貴族っぽさは消え。
ピートがアードにゴマを擦っているような動きになった。
この人も相変わらずである。
上手くいくコツなのだろう。
「……はい、お疲れ様でした! 孫達の面倒はじーさんに任せてくださいね!」
その声に見送られ、3人は町長宅を出るのだった。
「クゥ、あのさ」
「おうよ」
「先に言ってくれても良かったんじゃ無いかなって……」
「じーさんは昔からじーさんだからなあ。
オレを拾ってくれた人だぞ」
「……あのさ、クゥ。
じゃあ、あの孤児院」
「おう、じーさんからオレが引き継いだ」
色々身の回りのことが繋がっていく。
クゥの顔が知れていたり、街の皆が優しい事など。
「クゥ殿、『霞の腕』はかつて暴れ回った大泥棒と聞いた事がある。
まさか本人とは……」
「じーさん凄いらしいな。
ただ教えるの下手くそでよ。全部見て覚えろ、って言われたわ」
師匠にして弟子あり、弟子の弟子がボクになるのだが……。
「って事はだよ? 街の人は……」
「年寄りはほぼ全員、盗賊団あがりだぞ」
街ぐるみでした。全てに納得。
「オルド・パーダ・アルクバーグ、じーさんの本名だよ。
ココは遥か昔から山賊の根城だったらしくてな」
「聞いた事がある。
西で山賊達の居城が打ち滅ぼされ、街になったと。まさかとは思うが」
「すげえな、じーさんの戦術は完璧か?
自分達で自分達を滅ぼす作戦……!」
「流石の偽装、恐れ入る……。
我々の中では、小さな村が生まれたくらいの認識だった」
「税は無いらしい、国とは関係ないしな」
「恐れ入るッ」
「それじゃ、アードのおっさん達と合流しよ。
道具とか色々用意しないと!」
「んじゃ、戻るとするか!
あと忘れる前に渡しとくぜ。
じーさんがこうしろ、って言ってたからな」
「クゥ、これは? それに町長とそんな話ししてたっけ」
「じーさんがオレにくれた、所謂7つ道具だぜ。
鍵開けたりするやつな。話はしてただろ? 指で」
つまり、これは大泥棒のスカウトツールだ。
弟子のクゥからその弟子のボクへと引き継がれた、って事になる。
会話は指……なるほど、盗賊の手信号か。
「道具、確かに受け取ったよ!
使い方も手信号も、クゥが教えてね」
「マトには教えちゃうかなあ〜。
ホントは見て覚えろ! って言うんだけど、マトだしな〜」
わしゃわしゃとクゥが耳の間を撫でてくる。
「ありがと!」
笑顔で返して、歩き出す。
まだまだやることは沢山ある……帰って準備を手伝うのだ。
いそいそと家へと戻れば、アード達も買い出しを終わらせ荷造りの真っ最中。
マヌダールも大量の霊薬を運び込んでいた。
「……アード殿、これは……」
「下手な冒険者より万全すぎる準備っつうか、移動商店だろ!」
「ガハハ! 商売もできる、探索もできる!
そして、だ」
「異世界の転移魔法、7つほどストックがございますよォ!
つまり……いざと言う時は!
ここへいつでも帰還できる、という事ですねェ!
保険もバッチリというワケですよォ!」
庭には1台の豪華な馬車。
店と寝食、全てを運べるような代物。
キャアが楽しそうにその周りを走り回っている。
「キャアが思ったよりパワーがあってな、1人で充分運べそうだ。
つまり、動力は1グリフォンだぜ」
「キャアすごいね!」
「きゃああん!」
鳴き声がヤバい事を除けば、飛べる力持ちで用心棒。
頼りになるのだ。
「諸々の薬品や道具、武器なども全て載せましたよォ!
道中商売も出来てしまうくらいの物量ッ……安心ですねェ!
私の蔵書も搭載していますからァ、調べごとも可能ですよォ!」
マヌダールが自慢な顔で叫ぶ。
「アードのおっさんも、マーさんも凄いよ! あれ、ピートは?」
「おう、もうすぐ戻って来るハズだぜ。
飯やら何やらの仕込みだって、魔装を担いで出ていったからなァ!」
魔装を担いで……?




