3-11「皆の出来ることを再確認させてくれ」
「ったく、気が早ェ……と言いたい所だがよ。
今回は、早い方が良いと思うぜ」
明らかに疲れている。
けれど、それ以上に満足感のある顔でグラスを回しながらアードが切り出す。
「ん、急いだほうが良いの?」
結局、ボクはジュースしか貰えないのだけれど。
同じようにグラスをくるくる回しながら尋ねる。
「問題は多いぜ?
まずはトガ……ピンクのかわいいもふもふが街を駆け回った。
この街だとソレに関して強くは反応してねェが……旅人が居るかもしれねェ。
王都へ情報が届く前に冒険を済ませて、腰を据えて対策しねぇとな」
「ボクか!」
「マトさんよ、何度も言ってるだろ……。クゥの知らなかったぜ、みたいな顔しやがってよ」
「そんな顔してるの、知らなかったぜ……」
「やらねェで良いわ! 次はそこの狼。ガダルだな。
シハは滅んだ事になっている。
一般市民は保護されるが、脱税領主はそうはいかねェだろ。
顔が割れてる人の姿じゃねえから余裕はあるが……警戒すべきだな」
ガダルが自分の右手を見つめながら答える。
「指輪の力を使うな、という事か……。
やむを得ぬ、うさぎカフェに入れなくても諦めよう――」
「ストップ。うさぎカフェ?」
「ああ、うさぎカフェだ。
獣種でうさぎ型をした角のあるもの、羽のあるもの様々なうさぎ達の足裏が嗅げる」
「偏った情報の伝え方をするんじゃねェよ……。
俺達のキャアみたいな獣と一緒に暮らすのはちぃと大変だ。
なのでお貴族様達には、貴重な獣と触れ合える場所で遊ぶのが人気だそうだぜ」
「人間しか入店出来ない店も多いのでな……。眠るのに大事な行為なのだ」
「言い方……! 心配だから今度嗅がせてあげるけど、今は我慢して」
ガダルが舌をべろん、と出しただらしない犬顔になる。
頭の悪そうな顔になったなぁ……。
一方、他のみんなの目が据わる――。
「マト、オレと言う存在が居るってのによぉ……!」
「おうおう、ウチの見習いと触れ合うならそれなりの金貨は用意して貰おうじゃねぇか!」
「後輩をそんな危険な目に合わせて黙っていられる訳がありませんぜ」
「キヒヒ……いけませんねェ! 足裏は大切な場所!
健康のためにも、大事にしなければなりません!
それにィ……私の生徒の足裏を嗅ぐなんて破廉恥、許されませんよォ」
「もう~! 遺跡に行くならキャンプとかするんでしょ?
皆と一緒に寝る! 順番だからね!」
「マト~! オレはずっと抱っこしてたいが……。
仕方ねぇ、皆のトコでお泊り会をしてこい!」
皆が親指を立てて満面の笑みになる。
「よろしくね! みんなのお話もしてね!」
さらに皆が腕を組んで頷く。
満場一致。
興奮しきったガダルが、フリスビーの投擲を待つワンちゃんの顔になってしまったが……。
「ってことで問題はそこの2人。他には何かあるか?」
「遺跡自体も問題だぞ。
なんせ冒険者様が行ってねえ、地図も作らせてもねえ、危険の状態もまるで分からねえ」
「楽しそうって問題か」
「はは、違いねぇ。だからこそ、準備はしっかりと、だ」
「私も遺跡の全貌については全く分からぬ。
地下に家紋のある扉があった、所までなのだ。
私も中を知りたい。
改めて同行を頼ませてくれ」
「喜んでだ! 頼まれなくても忍び込むがな!」
「ボクも行きたい。初めての宝探しだよ!」
「おうよ!作戦の前に皆の出来ることを再確認させてくれ。
集団強盗はコンビネーションだからな」
「お前さんは言い方が最悪なんだよ……。そうだな。
俺の欲は【鑑定眼】……商品を知る力。
能力や値段、纏わる話の資料を手元に生み出す。
赦は、鑑定しちまった物は自分の物には決してならない、だ。
だが、今回は1人じゃねえ。
取得はお前さん達に任せて、俺は気軽に鑑定出来る。
あと……戦いは得意じゃねえが、魔装コレクションはクソ程あるんでな。
そいつでなんとかするぜ」
アードがニヤリ、と笑う。
悪巧みをする商人の顔。
「キヒッ……私マヌダールは大魔法使いだった者、ですよォ。
欲は【司書なき図書館】。
持っている魔法書の中から好きな魔法を1つ、何でも使える力です。
……ただし赦により、一度使った魔法は2度と使えません。
永遠に。
ですので、遺跡に本が有ればァ! 更に強くなりますよォ!
霊薬の調合や生物の知識、遺跡の伝承などもお任せ下さいねェ!」
「マヌさんよ、お前さんのその力は……。
ったく、欲は上手くいかねえモンだな……」
「キヒヒッ……アードさんこそですよォ! ままなりませんねェ!」
2人が困り顔で目を合わせている。
「んなら、あっしピートも話しておきやすぜ。
あっしは欲を持っていやせん。
特技や魔法もありやせん。
出来るのは料理と、腕力……特に物を投げるのは得意ですぜ。
アード大将のトコでずっと働いてますんで、連携は任してくだせえ」
「俺からも補足しておく。
ピートは崩落した岩くらいなら投げて道を切り開ける。
単純に馬鹿力、そして細かい事も出来る器用さもある。
頼れる店番兼荷物持ちだ」
アードの補足にピートが満面の笑み。本当に嬉しそうだ。
「ピート殿の怪力は私の技を上回りますからな……。
改めて名乗らせて頂く!
私はガダル・リーシオン。
シハの領主だった者。
欲は【勇者の目覚め】。
眠って目覚めれば全ての傷や病、疲れが回復するものだ。
だがその、赦によって全ての回復は眠らないと起こらない。
私は昔から眠れんのだ……。
さらに疲れが溜まると眠れず、その疲れは睡眠以外で癒せない……。
戦いの面では、技……冒険者達が特技と呼ぶものを得意としている。
身体強化にて爆発力を高めて戦う手法……盗賊を捕らえるにはもってこいだ!
逃してしまったがな!」
「ガダル、ほんと悪かったって!
で、その逃げた盗賊クゥだ、改めてよろしくな。
欲は【幸運の分け前】。
手に入れた宝物の価値の分、金貨や他の宝を生み出す力。
副作用は運が悪くなるらしい!
まあ、楽しんでるから良く分からねえがな!
技は消える潜駆、跳ぶ超跳躍、本業の奪取だ。
ガダルみたいに沢山使える訳じゃねえ、よろしくな。
ダンジョンは墓荒らしで慣れてるから、スカウトの仕事が出来る。
先行は任せてくれ」
「墓荒らし、なぁ。
マトさんよ、お前さんの所がどうかは知らんが、墓荒らしは犯罪だからな」
「そうなんだ……。
あっあっ、じゃあボクも名乗ります!
狩野川マト、異世界から来ました。
元ヒトだよ。
んと、欲は【宝の在り処】。
宝物と、宝物への道にキラキラする光が出て分かるやつ。
ダンジョンなら道案内出来るかも。
技は教えてもらった超跳躍と、兎のあんよ!
うさぎらしいキックをするやつ! 壁壊しちゃったやつ。
あと、魔法は印が使えるようになったよ!
キラキラの位置、教えられる!」
両手を高く上げてニッコリすれば、皆が幸せそうな顔で頷く。
「もうそんなに出来る事増えたのか!
やるな……!
だが、マトは足も遅えし体力もねえ。
技や魔法を使わせるのは本当に危ねえ時だ。
オレの宝物だが、オレの手が届かない時もあるかもしれない。
その時は守ってやってくれ」
「言われなくてもだぜ、クゥさんよ。
なんつってもマトの赦は『自分が呪われた宝物になる』だからなぁ?
そういう訳アリのお宝は守ってやらねぇとな」
「おせわになります!」
「良い子ですねェ!
私の蔵書全て使ってでもお守りしますからァ、安心してくださいねぇ!」
マヌダールがもしょもしょ耳の間を撫でてくる。
こそばゆいけれど、知っている人の撫で方だ。
「私とアードさんピートさんで荷物の支度はしましょう!
ガダルさんは、クゥさんと赤イノシシを町長に持って行く。
これを明日済ませて、明後日出発で……」
「まって! ここの子ども達は皆で出かけて大丈夫なの?」
「おう、問題ねぇぞ。街の人に明日頼んでおく。
オレも何日も空ける事があるからいつもそうしてるぜ。
見られたら即帰る、ってワケにゃぁいかねえからな」
プロの泥棒だ……。
「マヌさんの案で構わねぇ。
俺らが魔装や道具、マヌさんが霊薬や書籍の準備だな。
クゥとガダルはちゃっちゃとイノシシを片付けて、俺に合流しろ。
武器やら道具、俺の在庫から見繕ってやる」
「色々恩に切る、アードどの。
どのような賄賂をお望みか……?」
「お前さんも言い方どうにかならねぇのか! だからバレんだよ!
ずさんな脱税領主め……」
そんなこんなで、出発は明後日になった。
色々決まったので、会議という名の飲み会は更に盛り上がっていく。
途中でピートが厨房に行き、つまみが作られる始末。
ベロベロになったアードをピートが抱えて部屋に戻る。
酒に強すぎるマヌダールはいつもどおりのテンションで帰宅。
辺りを片付けた後、ボクが部屋に戻ろうとすれば、ガダルが泣きそうな顔。
クゥの指示で「寝かせてやれ」との事。いそいそとガダルの部屋へ。
幸せそうにボクを抱っこした瞬間、爆睡。
任務は数秒だった。
こっそり抜け出てクゥの部屋へと戻る。
「クゥ、今日もありがと。ガダル寝たよ」
「任務完了だな! んじゃ、マトもこっち来て寝ろ」
「うん。あ、寝るまでさ、何か凄い泥棒の話してよ」
「任せろ!」
静かに夜は更けていく。




