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3-10「マトさんよ……似てきちまったな……」

「んっ!?」


「よく頑張ったな、マト! だけど最後のコレはダメだぞ!

 オレもやったけど、骨が折れた」


 その途端、伸びてきた腕に抱えられる。


「はい、キャッチだぜ!

 もう大丈夫だ、ゴールまで突っ込むぞ、マト!」


 あっという間に庭が近づいていく。

 あれ……?


「クゥ、超跳躍(ハイジャンプ)はもう……」


「無いぜ! と言うことで、オレもただのジャンプだな!」


 さっき骨折れたって言ったのに!?


「馬鹿野郎、お前さんも何の対策も無しか!?」


 アードの声が届いた瞬間、衝撃と共に目の前が土煙で隠される。

 着地……した?


「大丈夫ですかァ! お二人分の薬……いや! 蘇生! 蘇生の禁術を今ァ……!」


 土煙でまだ何も見えない。

 マーさんの慌てふためく声だけが聞こえてきた。


「クゥ……?」


 ぷに、と顔に両手(あんよ)を押し付け声をかける。


「……いやあ、ヤバいかと思ったけど意外と問題ねえな!

 と言う事で、オレ達の勝ちだぜ!」


 視点が一気に高くなった。

 クゥが立ち上がったということ……土煙が晴れ、周りもはっきり見える。


「無謀すぎるぞ、マト殿。クゥ殿もだ……だが、私が構える必要は無かったな!」


「肝を冷やしましたぜ! マトさんを受け止めるなら大丈夫ですがね。

 クゥさんを受け止めたら大将のジャケットが破けたかもしれねえ」


「それはちぃと許せねえなあ? ま、無事で何よりだ、お前さん達。

 屋根から帰ってくるとは思ってもいなかったがな?」


「いやぁ、マトが壁登った時は興奮しちまってよ!

 壁を蹴ってぶっ壊す反動で跳んだのは凄かったぜ?」


「……おい、お前さん達」


「おう!」

「はい……」


「何を壊したって?」


「家の壁だな」

「蹴ったら崩れちゃった」


「ちぃと来い。まず保護者」


 ごん、とアードにクゥが小突かれた。


「で、マト」


 殴られはしなかった。

 けれど思い切り顔を近づけて睨まれた。

 この距離で凄まれると全身の毛が逆立つ。


「壊すのはダメだからな? クゥの真似も程々にしておけ、全く……。

 だが、壁を壊した? 本当にマトがか?」


「ああ、違いねえ。 蹴りの強化だったな。ガダルの教えた技のやり方だろうよ」


「なんと! マト殿が技を……!」


「おう、超跳躍(ハイジャンプ)もしっかり使えてたな」


「素晴らしいですよォ〜! 特技(スキル)ですかァ! 

 壊してしまうこともありましゅからねぇ……うー、良く出来ましたよぉ!

 よちち……良い子ですねェ〜」


 マヌダールが可愛いペットを甘やかす褒め方をしてくる……。

 悪い気はしないので、微笑んでおく。


「あっ! もうマトくん着いてる!?」


「屋根から行くなんて思わなかったよ!」


 子ども達も屋敷へと全員戻ってきた。

 ちょうど、空が赤色に染まり始めた。


「ってこで、今日はオレとマトの勝ちだ! 精進しろよ!」

「えへへ、しろよー!」


 クゥが拳を突き上げるので、同じように(あんよ)を突き上げる。

 子ども達の拍手と歓声、大人のため息が聞こえる。


「マトさんよ……似てきちまったな……」


「困りましたぜ……チビ盗賊が生まれちまいそうだ……」


「躾に難ありですよォ! このマヌダールが教育! 教育を!」


「子供は元気に限る! フハハ、良いぞ! もっと汗を掛け!

 身体も強くなるし、足裏の焼きもろこしの香」


 ゴオン! という比較的デカい音でガダルがアードに殴られた。

 うん……それは擁護できない……。


「さて、全員居るな?

 お疲れ様だと言いたい所だが、何はともあれ家に入れ!

 もう夜が来る……急げ! んで、そのまま風呂にでも入っちまえよ!」


 クゥの言葉に、子ども達は皆屋敷へ帰っていく。

 アード連れの大人達もその面倒を見るように一緒に中へ。


「よーし、今日はお疲れ様だぜ! 

 皆のおかげですげぇ助かった!

 ガッコーってのはこう言うモンで良いんだよな?」


「ったく雑だなクゥさんよ! 色々問題だらけだが、悪いって訳じゃあねェ」


「ほっといたら盗賊団が出来上がっちまいますからねぇ。

 あっしらもお手伝いしやしょう、足を洗うとか」


「盗むのは、お前達じゃ腕前が足りねえからやめろって教えてるぜ?」


「言い方、言い方なあ……。そう言うとこだよ、お前さん……」


「学習力も基礎体力もある若者ばかりだ、きっと未来、好きな事が出来るようになる!

 だが、指輪を盗むようには育ててはいかん!」


「返しただろ! 根に持つなってマジで!」


「ほらー、揉めないで!

 今日とっても楽しかったよ!

 みんなありがとね!」


 クゥの肩から飛び降りて、一人一人の前で頭を下げる。

 それに応じて、みんなが頭を撫でてくれた。

 すごく嬉しい。

 アードも撫でたそうに手を突き出している。

 仕方ないので、頭を手のひらにすりすりしておいた。


「えへへ。 それじゃ、家の中に入ろ? 街の中でも人拐いは出るの?」


「見た事は殆どねえな!

 ただ、灯りのない路地裏や街の隅っこには出るぜ」


「人拐い、か。 あれらは街にも出るが家には入らぬ。

 光の下には入れんのは知っての通りだ。

 光がない室内にも入って来ない……野営中のキャンプも然りだな」


「家には入らねえ、か……」


「門の前で待ち続ける人拐いも居る、という。

 それに――」


 ガダルが視線、耳、鼻……全てを動かし、周囲を伺う。


「王国は人拐いを探している、という話。

 闇に潜む恐怖を勇者が退治して回っている、闇に怯えぬ世界を作るために……との事。

 きな臭いだろう? あれらは、闇に潜む恐怖とは違う気がするのだ。

 おっと……すまない、人拐いなど見たことは……」


 グルルと喉を鳴らして俯くガダルに、ボクは慌てて声をかける。


「あるよ、ガダル。

 ボクが見たのは、巨人みたいな影と、サソリみたいな影。

 クゥとアードと一緒だった」


「なん……だと――?

 2体……? どういうことだ……」


「めちゃくちゃ動揺してんな、ガダルさんよ。

 顔がマトみたいにシワシワになってんぞ。

 俺の(デザイア)鑑定眼(プライスレス)】で調べたが、アレらは(カルマ)と言うらしい。

 王都なんとか研究塔……所長との取引が出来るようだ。

 それと……俺らの返済されなかった(ギヴン)……(デザイア)の負債だってな」


 額に手を当て、やれやれとアードが溜息を吐き出す。


(カルマ)……だと……? 私には聞き覚えのない言葉だ!

 王都の研究塔……所長……カディーナか! しかし彼は勇者を忌避していると聞く……!」


 ガダルの声が一層大きくなる。


「なぁ、2人とも。これは、やべぇ話ってことか?」


「そうだな……私は古代より続く……続いていたシハの貴族の血族。

 人拐いについて、気になる話や伝承、噂を沢山知っている。

 それがアード殿の話で更にきな臭くなった、という所だ」


「だそうだ、クゥさんよ。

 俺も一般的に出回ってる話との差が違いすぎて困惑した件だからな。

 お前さんの言葉で言えば、やべぇ話、だ」


「大将、すげぇ悪い顔してますぜ、まるで奴隷商人だ!」


「ピートてめぇは本当に……。

 何にせよ、俺は気になっている案件で調べたい、って訳だぜ」


「お待ち下さい、皆さん!

 (カルマ)なんて言葉は初めて聞きましたよォ!

 気になりますねェ! 私の知らない知識だ……!

 (デザイア)や、しきたりとも繋がりのある様子!」


 マヌダールの声が響いた頃、空が赤から紺へと変わりきった。


「マヌさんも知らねえ、と来たか……。

 コイツはちょっと、面白い話じゃねえか。

 マトさんよ、つまりこういう話は――」


「お宝ってことだね!」


 楽しくなってきてしまった。

 むふ、と鼻の下がちょっと伸びる。


「……クゥ、マトの反応がお前さんに似てきてるからよォ……。

 ちょっと気をつけやがれ」


「似てきてもカワイイから問題ねぇだろ! オレのお宝なんだからな!

 おっと……あんまり立ち話してんと、本当に人拐いが来ちまうかもしれねぇ。

 一旦中に入るぞ、みんな盛り上がりすぎて弁当も食ってねぇだろ!

 チビ達にも配ってやらねえとな」


「そうだな、中に戻るとするか。

 忘れるほど興奮できる一日だったということだな。

 ……私も久しぶりに楽しめた、感謝しよう」


 皆で屋敷へと入る頃に、空は夜へと姿を変えた。


 けれど、決して暗くはない。

 想像するファンタジックな異世界の街と比べれば遥かに明るい。


 闇を忌避し避けるしきたりがある世界。

 街はまるで、元いた都会の夜景くらいに煌めいている。


 流れるように風呂。

 今日は子ども達も同時であり、大浴場はまるでプールのようになっていた。


 皆が行儀よく入浴する中、クゥが子ども達にシャワーで水をぶっかける。

 そこからは大騒ぎ。


 死んだように湯に浸かっていたアードの顔に思い切り水がかかり、そのまま戦闘に参加。


 ボクも疲れで浮かんでいた所に、クゥの狙撃が着弾。流れで戦闘に参加。


 アードに呼ばれたピートも援軍として両手に桶を構えて登場。


 マヌダールは子ども達に手に水を溜めて放つ、人力水鉄砲を教えているようだ。


 一方、この様子を注意するであろうと思われたガダル。

 だが……彼にはやることがあった。


 ボクが狙撃され動くたびに落ちる桃色の毛玉。

 これを全て回収すること……だ――。


 結果。

 疲れを取るどころか、追いかけっこ二次会会場と化してしまったのが今宵の入浴だった。


 その後、皆で昼用だったサンドイッチを片手に会議が始まろうとしていた。


 「それじゃあ、遺跡探索の作戦会議だ!」

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