3-7「第一階位――色、灯――『印』」
「……うめぇな、ジジイ……」
「違いねぇ。流石に本職って感じだぜ……」
相変わらず後方で腕を組む2人がマヌダールを見て声を漏らした。
「魔法の使い方、は少し難しいのですよォ。
これはゆっくり練習しなければ使えません!
ガダルさんが話した技やァ、アードさんの話した魔装とは違うのですよォ。
でも、折角ですからァ……お話しましょうかァ?」
「あ、あの! 気になる!
アードのおっさんが、光ってのを使ってたけど難しいの?」
ボクはぴょい、と桃色の前足をあげて質問する。
「素晴らしいです、それですねェ!
それは……第一階位、灯、煌――『光』、ですかねェ!
魔法は昔の人が見つけた、『小さな願い』を再現できる言葉ですよォ」
技との違いが今ひとつ分からない。
むしろ、願いだけで使える技で良いんじゃ……?
「むむっ! マトくんのお顔に難しい事を考えるシワが!
大変ですよォ、ふわふわにクセがついてシワシワになってしまいますよォ!
技との違い、悩まれましたねェ?
技は3度願いを思うことで色々な事が出来ますが、体の修練が必要なのです!」
「しゅうれん」
「体を鍛えて、その体で出来る事の一歩前へ、が基本ですからァ!
クゥさんの気配を消したり、物凄い距離跳ぶのはとっても凄いんですよ~!」
ちょっとだけ振り向くとクゥが鼻の下を指で擦ってニヤけている。
本当に分かりやすいけれど、子ども達もクゥが褒められると嬉しそうに歓声をあげた。
みんなの信頼が良く分かる。
「魔法は、自分が出来ないことでも出来るようにする、技より危ないお願いの仕方です。
ですので昔の人が安全に使えるよう、頭で浮かべる願いや言葉を本に纏めたのです。
ですがァ~」
マヌダールが思わせぶりに言葉を溜める。
ずるい、先が聞きたくなる喋り方だ。
「願い事は、人それぞれイメージが違いますねェ。
本を読んで真似してもその通りに想像できないと上手く行かず、失敗までありますよォ!
ですので、先生に習うのが一般的です!
安全に願うコツを知るのが魔法の勉強!」
「あの、マーさん! どうしても使いたい魔法があるんだ。
ボクにできるかな……?
『印』……この前、マーさんが使った魔法」
「もちろんですよォ! 先生と練習する約束でしたねェ!
難しい魔法ではありませんし、マトくんなら失敗しないハズですよォ!
なんせ、この大魔法使いマヌダールの『印』を隣で見たのですから!
折角ですから、今日はマトくんにアシスタントしてもらいましょう」
キャアから落ちるように降りたマヌダールが、ボクを優しく抱え上げ皆の前に立たせる。
「あの、やったことないし……始めてだから……」
マヌダールの耳打ちが聞こえる。
「マトくん、魔法は欲にならないよう、昔の人が作り出した強い願いの事です。
マトくんは欲をお持ちですから、危険が少ないのですよォ。
ですので、先生が言う通りに考えて下さい。
【宝の在り処】の場所を教える――と強く考えて。
第一階位――色、灯と唱えますよォ。
魔法の力を調整する言葉ですので、忘れずに。
最後は大きな声で『印』です」
マヌダールの手のひらがそっと頭に触れる。
優しく撫でながら、大丈夫ですよォ、と笑ってくれた。
「はぁい、皆さん! 今マトくんにアドバイスをしましたァ!
この前、先生がお手本を見せた魔法なので使うことが出来るはずですゥ!
皆さんは、ゆっくり学びましょう!
ピンクのうさぎさんは凄いのですよォ!」
マーさんがハードルを上げていく……。
「それではァ……!
少しキャアさんで上に上がりましょうゥ!」
マヌダールにひょいとグリフォン特等席に乗せられ、あっという間に空へと浮かぶ。
見下ろせば畑にする場所……ウネが掘られ、等間隔に大きめの窪みが出来ている。
「あの窪みに種植えるの?」
「はぁい! おっしゃる通りですよォ! あの位置に『印』をお願いしますゥ!
大丈夫、出来ますよォ」
「やって……みる!」
【宝の在り処】の場所を教える……!
あの畑は皆で大ミミズから取り返した宝物。
種も宝物。その種を植える場所も……宝物!
今は、その場所を教えたい!
目を閉じ、強く願う。
風が自分の周りで動いている気がする。
「第一階位――色、灯――『印』!!」
大きな声で叫べば、欲のキラキラに似た輝く粒子が空から地面へと舞い落ちる。
それらは穴へと飛び、小さな光の柱を何本も立てる。
できた……?
「大成功ですねェ! ただし、欲と違い1日3回までです。
それが魔法の欠点ですよォ、忘れずに。
良く出来ました! 皆さんの所に戻りましょう!」
グリフォンが着地すれば、子ども達が立ち上がって大歓声で迎えてくれる。
ぴょ!と両手を高くあげれば、拍手も大きくなる。
あわせて、大きくお辞儀。
授業参観のお父さん達が泣きそうな顔で喜んでいる……。
照れる。
「えへへ、できた」
「他の魔法は、また練習しましょうねェ!
さて、マトくんが種を植える場所に印をつけてくれましたァ!
まずは植えてしまいましょうかァ!」
山盛りの種の袋をマヌダールが指し示す。
「クゥさんが、畑の敵から生み出した幸運がこちらですよォ!」
拳を握り締め突き上げるクゥに拍手が集まる。
ボクはつい、腕を組んで頷いてしまった。
当然、アードも腕を組んで頷いているのだ。
似てきたかもしれない、気をつけよ……。
「このマヌダールが、全ての種をチェックしましたァ!
お野菜の種ですねェ!
しかも消毒済みで、育ちやすい種ですよォ!
ので、そのまま印のそばに丁寧に蒔いて土を掛けますゥ!」
「マーさん、これって一個一個育てて苗にしなくて良いの?」
「マトくん、やはり詳しいですねェ!
イルイレシアの手法は全て知っているのでは……と思ってしまう程ですよォ。
本当はそれのが良いそうですが、種の数も有りますしィ。
皆さんが楽しく植える方が良いですからァ〜」
マヌダールがそっと頭を撫でてくれた。
「わかった!」
そして子ども達の植え付けに混じり、一緒に土いじり。
謎の高揚感がある。
掘りたいなあ……という欲求。
手元がウズウズする。
「うさぎさんですからねェ」
マヌダールが公園で遊ぶ孫を見る目で笑っている……。
「さて、種が蒔けましたよォ!
それではァ、ここからはお薬の時間ですよォ〜!」
懐から取り出した瓶を、皆の前でカッコよく回して見せるマヌダール。
そのまま落とす。
何事もなかったかのように、フカフカの土から拾い上げ話を続けた。
クゥが吹き出しながら崩れ落ち、アードが目を逸らし。
ピートが目を覆い、ガダルが大口を開けて固まる。
「おっと……何も見ていませんねェ?
瓶に入っているのは、野菜が良く育ち病気になりにくくなる水ですよォ!
これは魔法の薬と呼ばれますが、実はそんなことは無いのです!
これは、森の薬草や水を混ぜる事で作る物……!
皆さんでも作る事が出来る物ですよォ!」
「技とか魔法と違うの?」
「そうです!
作るために手間もかかるし、知識も沢山必要ですが……!
1日に何本でも使えますよォ!
3回の願いではありませんからねェ!
皆さんにお配りしますから、植えたところにかけておきましょうねェ!」
結局、霊薬を配るのにモタつくマヌダールをクゥ達が手伝った。
子ども達は、大きくなあれ、なんて願いを言いながら畑に撒く。
願いが力になる世界の気がする。
だからきっと、その言葉も大事なんだと思う。
「大きくなあれ!」
ボクも呟いてかけてみる。
緑色の光がふわり、と空へ昇っていった。
「怪我をした時も、同じように霊薬をかけますよォ! ですが、大事な事があります!」
勿体ぶる声。
子ども達も悩んでいるし、正直ボクも思い浮かばない。
「霊薬は、必ず『何の薬か』分かるものしか使わない!
良いですね!
この畑に使う薬と、怪我を治す薬が同じ瓶で、どちらか分からないとしたら……?」
「……当たるまで使えば良いだろ」
クゥが雑な意見を溢す。
分かりやすくダメな例だ!
「はい、クゥさん。
もしそれが、鍵を溶かす薬だったらァ……?」
「やべえな。確かにやべえ。
とりあえず飲んで調べりゃ良いかと……」
「お前さん、よくそれで生きてんな……」
「クゥさんの胃が大将の面の皮くらい厚いってことですかい」
ピート、即アウト。
アードに遠くへ引きずられて行った。
「必ず瓶には何の薬か分かるよう記載すること!
覚えていても、間違いなくても、書いていないものは使わない!
良いですね! ケガの薬もです!」
うろ覚えでのミスを防ぐ、重要なコツなのだと思う。
「わかった!」
「畑の植え付けも終わりましたし、それでは帰りましょうねェ!」
そう叫んだマヌダールにクゥが割って入る。
「まだだぜ!
チビ達、外にいる! 昼間で元気もある! ならやる事はなんだ?」
「クゥを捕まえるやつ!」
ん?
「そうだな! オレが今から逃げる!
時間は夕焼けが少し見えた瞬間まで、そこで終わりで家に入れ!
その前に、オレにタッチしたら優勝だ!」
クゥの授業、まさかこれでは……。
「今回は特別に宝物もあるぜ!
オレかマト! どっちか捕まえたら、2人で部屋の掃除をやってやる!」
歓声が響く。
ん……!? ボクも!?




