3-3「良い感じに願わなければならない!」
異世界での活動2日目。
なんだか色々有った気がしたのだけれど、まだ2日なのだ。
魔法も技も原理なんて分からない。
欲なんて言う、リスク山盛りの異能は知ることが出来たけど。
「技とは――良い感じに願うこと!」
ガダルの口から出てきたのは、あまりにもフワっとした一言だった。
「強い願いは身を滅ぼす、と昔から言われている。
決してしてはいけないことは『一生のお願い』、分かっているな?
けれど、けれどだ。
技もまた、願い事から生まれる力であるのだ。
ゆえに、良い感じに願わなければならない!」
「……なぁマト……」
「クゥ、言いたいことは分かるよ……。
良い感じって言葉、クゥっぽい」
「オレ、そう教えたわ……。良い感じじゃ分からねえよ、ってチビ達に突っ込まれた……」
「だよね……」
「フハハ、その様な顔になるのも分かるぞ! 良い感じでは分からんと!
だが、その言葉が一番適切だ。
大きな願いは欲となり、己を傷つける。
小さな願いでは叶わない」
声が青空の下で響く。
ここまで、大した話をしているわけではない。
けれど覇気ある声は子ども達だけでなく、おじさん達も惹き付けるものだった。
「ので、昔の人は考えた。
小さな願いを3回繰り返す、という方法。
大きくなりすぎず、小さくても聞こえるように。
これが、良い感じの願い方」
ガダルが美しい銀の尾を風に靡かせ、一歩前に出る。
「だが!!」
その場の全員の視線を一瞬で集める。
「繰り返す願いの言葉は、目的への小さなステップで無ければならない!
結果ではならぬ!
……難しいな、つまりはこうだ。
『早く走りたい』……これらは技で叶う願いだ。
だが『逃げ切りたい』は欲で叶えること。
かならず、代償が降りかかる」
「クゥの超跳躍も、お願いしてるの?」
「おうよ、高く跳ぶ、高く跳ぶ、高く跳ぶ、と心で唱えてるな」
「そうだ! クゥ殿のように3度心で願う。
願いが整えば、それだけで力は生まれる」
「んんっ、まってガダル。
じゃあ、やり方は3回願うだけって事?
クゥは超跳躍って叫んでたよ?」
「お、おい、なんか恥ずかしくなるからそういうのやめろって……」
クゥがわしゃわしゃ耳の間を撫でてくる。
ちょっと力が強い。
照れている――同級生を肘でグリグリするみたいなやつかな、これ……。
「いや、マト殿。それが正解なのだ。
小さな願い事に名前をつけて、言葉にする。
これは力を高めると言われている。
技は、願いから生まれるもの、ならば気合こそ最高の後押し。
デカい声で叫ぶほうがいいぞ!」
雑な説明にも聞こえるけど、納得してしまう謎のカリスマ。
「っしゃ! オレが正解って事だな!
だがガダル、それだけでチビ達や、このマトに使えるのか?
オレだって何回かチビ達には教えたんだぜ?」
「それはクゥ殿、教え方が下手くそなのだ!」
ズバっと指摘され、クゥが口を空いたまま固まっている。
可哀想なので、頬をふわふわの手でぷにぷにして励ましてあげる。
「クッ……!」
ガダルもガダルで、何故か悔しそう。
何かに敗北したような声を上げて目を逸らした。
ああ、あんよ。ボクのあんよが欲しかったのか……。
「やったことがない、見たことがない、見たけれど出来るとは思わない。
これは、願いの質が大きくなりがちだ。
欲になってしまう危険もある。
クゥ殿、超跳躍を皆に見せてあげてくれないか」
「お、おうよ! 任せときな――マト、しっかり掴まってろよ」
「うん!」
「っしゃぁ、いくぜ――」
この瞬間か……! ここで小さな願いを繰り返してるのか!
「超跳躍――!」
砂埃だけがその場に残った。
視点はあっという間に空へと登る。
流れる風が耳を後ろに引っ張る――必死にクゥにしがみつく。
そして、音も無く衝撃もなく着地。
立つのはオレンジ色の屋根の上――クゥの孤児院の屋根の上だ。
「クゥ、やっぱ凄いね」
「あったりまえよ! どうだ、ガダル! これがオレの超跳躍よ!」
屋根の上で腰に手をあて、ドヤ顔で叫ぶクゥ。
「素晴らしい、とても素晴らしい技だ!
が、見せる技としては大失敗だ!」
遠くて見えにくいけれど、ガダルも大概なドヤ顔をしている……。
「なんでだよ、ちょっと待て! すぐ戻る!
――超跳躍――!」
気づけば、一瞬でガダルの前。
この技のどこが大失敗なのだろう……?
「では若者達よ! 今の技、自分にできると思うか!?」
「えっえっ……無理だよぉ。クゥは凄いんだもん!」
「凄ぇけどオレには無理だな――」
「え~! あんなに凄いのは、やっぱり、私には……」
ザワザワと子ども達の声が聞こえてくる。
結論としては、クゥは凄すぎるので僕たちには出来ないという意見に纏まったようだ。
「出来ないと感じてしまう願いは、願ってはいかん。
気の緩みで、言ってはいけない『一生のお願い』になってしまう事があるからだ。
よーし、全員立つのだ!
マト殿も、クゥから降りるといい」
「うん、分かった!」
肩からするすると降りて、庭の草の上に立つ。
「しっかり周りと距離を取れ。
全員まずは一歩前に跳ぶだけ、をするぞ。
技の練習ではない!
アード殿もマヌダール殿も立つのだ、まだまだ歳ではなかろう!」
「んだよ、俺達にもやらせんのかよ、ガダルさんよォ……。
お前さんの体操モドキで俺はもう一日分動いた気がするぜ……。
仕方ねえなァ」
「キヒヒィ……あ、足の骨がァ! 足の骨が折れてしまうかもしれませェん!
跳ねるなど! ああ、そうだ、魔法、魔法なら……!」
「俺は諦めて立っただろ、ジジイ、つべこべ言ってんじゃねェ!」
マヌダールが首根っこを掴んで無理やり立たされている……。
結果、全員が起立。
丁度いい距離感で並ぶ。
「まずは今、訓練した分!
筋肉もほぐした、怪我もしにくい!
いつもより前に跳べるはずだ……!
3、2、1で思い切り前に跳ぶぞ!」
ガダルが、体育の教員みたいな顔つきになってきた。
これが本来なのだろう。
目の下のクマが不健康そうで本当に勿体無い……。
「それ、3、2、1……いけえ!」
各々の足元から砂煙がふわり、と上がる。
どれだけいつもより飛んだかは分からない。
けれど、ガダルの声でテンションが上がって上手くいった気がするのだ。
「うむ! いつもより身体が軽いはずだ!」
「……マヌさんよ、どうだ?」
「アードさん……私はァ、何も変わってないですねェ……。
いや、これは何かの仕込みで……!
トリックが……!」
「あるわけねえだろ……」
アードのナイトキャップが疲れたと言わんばかりに、頭から地面に落ちた。
「大将とマヌさんは不調ですかい?」
「ピート……。お前さんよ、跳べって言われたんだ、庭に穴開けるんじゃねえ……」
やたらデカいズウウン! という音はピートからだったようだ。
力加減出来ないって言ってたもんね……。
クゥが駆け寄って来た。
素早くしゃがむと、頭を撫でてくれる。
「マト、やっぱ跳ぶのは良い感じだな!」
「えっ、あっ! うん! ありがと!」
そんなに周りの子と変わらない気がする。
けれど、うさぎの形をしているのだ、やってやる! という気持ちだったので嬉しい。
「さて、みんな。
感覚は掴んだな?
全員元の位置に戻って、もう一度だ!」
ライトな体操教室、ヨガ教室と言ったところ。
ガダルが上手いので、気分がアガる。
「では、願い事は3回。
『一歩前へ跳びたい』……!
言葉はクゥ殿から頂き、超跳躍にするぞ!」
「っしゃ! お前ら、やんぞ!」
子どもたちが歓声を上げながら腕を突き上げている。
せっかくなので、ボクもひょい、と手を挙げて声を出す。
「それでは、構え!
3、2、1……」
一歩前へ。
一歩前へ……一歩前へ!
「超跳躍!!」
全員の声が重なる。
足元に光の渦が集まり、浮き上がって弾けたような。
鳥が飛び立つ時に残した、羽のような。
身体が少しだけ軽い感覚……浮いた! と感じるくらい。
足音なく着地する。
土煙も上がらない。
どのくらい飛んだかな……?
振り返った瞬間、クゥが走って来て抱き上げられた。
「わっわっ! なに!?
どうしたの!?」
「出来てるじゃねえか!
すっげぇ跳ねてんぞ!
ほら見ろ!」
先ほどの倍くらいは跳ねている気がする。
ちょうど1回分くらい距離が伸びた!
「やるじゃねえか! さすがオレの弟子! 完璧だな!」
「これで良いのかな……えへへ」
「うむ、マト殿! しっかり出来ている!
全員が出来ているぞ!
先ほどより間違いなく前に跳べている!
その距離がわずかでも、力は増した!
後は練習と訓練!
逃げる時に必要な、あと1歩は大事な力だ!」
暑苦しい叫びだけど、なんだか腕を掲げたくなる。
力が発動したか、なんて定かじゃないけれど。
皆が小さな宝物を見つけたような空気だった。
「……さて! 腹も減ったろう、中に入って飯の時間だな!
ここから先は、ピート殿に引き継ごう!」
「そう来ると思ってたんで、仕込みは終わってますぜ!
けれど、朝飯は仕上がっていねぇんです。
みなさん、手伝ってくれますかい……?」
再び歓声が上がる。
このおじさんたち――上手いぞ……!




