3-1「明日から忙しくなんぞ」
大家族の夕食みたいなご飯が終わり。
子ども達を部屋に返した後、再び二次会が始まっていた。
クゥも一度部屋に戻り、「例の指輪」を取りに行く。
建前上、他の子ども達と同じくらいに見えるためボクも部屋に戻された。
「マトも部屋で寝る時間だろ、部屋に居ろよな」
「えー。いじわる」
「ったくしょうがねぇな……」
ひょい、と抱えあげられたのでそのまま身を任せる。
抱いて運ばれるの、なんだか安心する。
「お、随分早ェじゃねぇか。指輪は見つかったのか、クゥさんよ?」
「おうよ! これで間違いねえか、ガダル」
クゥが投げた指輪を、ガダルが肉球で包んで受け止める。
「これだ……! 本当に助かった……。
くっ、盗まれた事を感謝するハメになるとは……。
だが、遺跡への鍵は奪われなかったのだ、感謝すべきだ……。
戻ってきたのだ、ありがとうと言わせてくれ」
「まぁ、良いって事よ」
クゥが満面の笑みで親指を立てている。
「ガダルさん、それ使うの?」
「この指輪で人になるのは領主をする時と、都合の悪い時で……」
「ちょっとまて、ガダルさんよ。今なんつった?
都合の悪い、だぁ?」
ワイングラスをくるくる回す姿が、マフィアのボスにしか見えないアードが突っ込む。
「そうだ! 信用のありそうな人の姿を使い分けて言い訳する時だ!」
「小者か!! 偉そうに胸を張るんじゃねえl!
ったくよぉ……お前さん、クゥにガタガタ言うのはこれからなしだ。
後、この街で指輪を使うんじゃねェ。
信用問題で最悪だ。今のふわふわしたままで居やがれ、全くよォ……」
「そうか……。信用は使い分けた方が良いかとばかり……」
「大将……あの貴族さんはバカなんですかい?」
ピートがアードに耳打ちしている。
ボクの耳はウサギの耳、しっかり聞こえた。
「言うな、聞こえんぞ」
コン、とアードがピートの頭を小突く。
「キーッヒッヒ……! 信用は今のままで大丈夫でしょう!
なんせ、こうしてマトくんが拾ってきたのですからァ!
姿はフワフワのがよろしいかと!
子ども達も喜んでおりましたし。
屈強で、力強く、野性味の溢れる大きな男性はここにはおりませんからねェ!」
「オレも野性味溢れるくらいは」
クゥが頬を膨らませている。
確かに皆と比べれば少し身長も低いし、細い。
まさにスカウトと言った見た目、大きな狼獣人と比べれば小さく見える。
「クゥさんよ、あんなガタイじゃ仕事にならねぇだろ。
お前さんはお前さんで人気があるんだよ」
「そうか! んなら構わねえ。
それにしても、戻ってくるまで待ってくれても良いのによ!
オレにも酒くれよ!」
「ほらよ。ガダルの領地だったシハのワインだよ」
「……ってことはもう作れねえワインってことか……」
「それが! それがだ……!
アード殿が助けてくれた者に、ワイン作りをしていた者が居たそうだ。
土地や風土が変わるので味に変化はあるかもしれないが、ここで出来ると!」
「それなら安心したぜ、気持ちよく飲める!」
「お、おい! 馬鹿野郎! 一気に飲むやつがあるか……!
香りを、香りを楽しんでだな……」
肩を落とすアードの横で、ピートも頭を抱えている。
酒が分かる人の反応である。
「美味ければ、どうでも良いだろう!
私も懐かしい味で、つい一気に飲んでしまったからな!」
「ガダルさんよ、お前さんはそれ以上に皿を舐めるのをやめろ。
今すぐにだ……どんなマナー習ってきたんだ……。
マトが真似したら大変だろう!」
「しないよ!?」
「しないのか……!? 皿も綺麗になるし、スープも隅々まで味わえる。
食べ残しなし、素晴らしいのだぞ……!?
人の姿での会食は、スプーンが掬えぬ最後の一滴に涙したものだ」
「くっ、それなりに良い事言ってるように聞こえるじゃねえか……。
いや、舐めないでも綺麗には食える! これが脱税貴族の話術か!」
「……えい」
ぺろ、と受け取ったブドウジュースを舐めてみた。
ちゅる……と口の中に酸素と混じった甘みが広がる。
味が良い気がする……!
悪いことをした感覚も有り、なんとも言えぬ高揚感がある。
「おいち」
あれ、誰も止めないんだ……?
全員が腕組みをして頷いている。
これは――。
にへ、と笑ってから普通の飲み方に戻す。
「可愛いからマトならやっても良いな。
だけど、表でやんなよ、子ども達が真似すんといけねぇからな。
既にマヌダールのジジイの笑い方と喋り方は流行ってんだ。
めんどくせぇ流行を作るんじゃねえぞ?」
クゥがわしわし頭を撫でてくるので、目を閉じて満足げな顔。
撫でられるのがとても嬉しい。
「うん、わかった!」
「いい返事だぜ。
んじゃ、酒でも飲みながら……明日からのことでも決めようぜ!
ガダルん家の遺跡、学校作り、あとマトの訓練なんかもな」
「訓練!?」
「そうだぜ、弟子よ。
見ろ、先生がいっぱいいる。オレだろ?
で、商人のおっさん。料理人のおっさん。
胡散臭いジジイ。あと自警団で貴族の狼だ」
「マトさんよ、別に強くなれって言ってんじゃねえんだ。
そのよ……教えさせて欲しいって言ってんだ」
アードが照れくさそうに髭を弾いて笑う。
「そっか、嬉しい。ありがとね!」
「もちろん、私もお教えしますよォ! 秘術! 大魔術! 遺失魔法! そして禁術!
あと、生活の知恵ですねェ。流しが汚れないとか」
「ヤバそうなの混じってたけど、流しが汚れないのは便利かも」
「流しが汚れない! そいつは助かりますぜェ……!」
「ふーむ、なるほどなァ。
その道のプロしか居ねえんだ、教え合うのもお互い得だな。
クゥの手口を聞きゃあ盗まれねぇ。
ガダルの手口を聞きゃあ騙されねぇ」
「聞き捨てならぬ! 私は詐欺師……ではなく、少し脱税しただけだ!」
「町での支払いはどうしたんだ、お前さん」
「していないッ!」
ナチュラル詐欺師……いや、なんかうまい事言えちゃう人だ。
「ま、学校を作るのは満場一致だ。
明日から忙しくなんぞ、お前さん達、覚悟は良いか?」
「おうよ! だが、マトを宝探しにも連れて行きてえ!」
「私も遺跡と……街の跡地が気になるのだ」
「まあ待て。
今日明日でスッ飛んで行くもんじゃねえ。
建物を作らねえでも、授業は充分できる。
お互いの技を伝えて準備する時間を作るぞ。
古代イルイレシアの遺跡がやべえのは誰でも知ってるはずだ」
「確かにおっさんの言う通りだな。だが周りくどいぜ……!」
クゥが身を乗り出す。
「マトに教えたいだけだろ!」
あっ……アードおっさんが目を逸らした。
マーさんも流れるように目を逸らした。
ピートは思い切り頷いているので、後でアードに殴られるのだろう……。
「そうだったのか!」
ガダルは騙せても騙されるタイプの反応だ……。脱税貴族狼が大口を開けて驚く。
「くっ……! 急ぎたいが、皆の言う通りだ。私も異論はない」
「んじゃあこうだ。
明日から、授業を一人ずつ回す。
終わる頃には準備も整う……皆でシハの遺跡へと行く。
その後、建物を改築して……」
「長えよ、おっさん。
マトの宝探しに付き合う。
準備して出発、帰ったら学校作り。これで良いだろ?」
「雑だな、クゥさんよ! 違いねえがな!」
「じゃあ、マトさん、もう一度カンパイをお願いしやす」
「そうですねェ!是非!」
「んじゃあ、みんなよろしくね! かんぱーい!」
グラスを軽く当てながら皆で腕を掲げた。
談笑は続き、やっぱり皆は宝物で大好きなのだと再認識させられた。
皆が出来上がってきた頃。
「話を断ち切ってすまないのだが……皆に相談がある」
ガダルが真剣な顔で目を伏せる。
貴族が気まずいことを言い出すシーンの顔だ!
「面倒ごとかよ……ったく言ってみな!」
ガタン、と席を立ち上がったガダルが声を張る。
「今晩マトを貸してくれ!
よく眠りたいので、抱っこして寝たい!
最悪、毛玉をもう2つくらい頂きたい!
力を貸すと思って――」
一瞬、空気が止まる。
皆が順番に歩み寄り、1発ずつガダルが殴られる……。
元が貴族で領主など関係なしだ。
「ったく、油断も隙もありゃしねぇ!」
「ボクは1人で寝られるから、えっと……ガダルさんには」
毛玉をあげるって言うの恥ずかしいな……。
「ブラッシングして毛玉が取れたらあげるから、我慢してください」
「オレも欲しい」
「……みんなにもあげるので……」
「それなら公平ですよォ! 許容できますゥ!
さて、そろそろ。ちびっこうさぎさんは寝る時間ですよォ。
今日は解散にしましょうかァ」
「ああ、そうだな。今日は毛玉と共に眠ることにしよう」
顔も見た目もカッコいいのに、残念が溢れるガダル。
「んじゃ、解散だぜ! 片付けは朝やるから大丈夫だ!」
そして、各々が部屋や家に戻る。
ガダルは2階の空き部屋を使うことになった。
そしてボクはクゥの部屋。
「それじゃ、寝ちまおう! 今日は疲れた!」
「うん、いっぱいありがと」
「大したことじゃねえ、大事な宝物なんだぜ?」
「……うん」
なんだか色々話した気がする。
途中からウトウトしてあまり覚えていない。
そして、朝。
外から聞こえてくる轟音とクゥの絶叫で目を覚ます。
「ああああああ!? なんだ今の音!」




