2-16「ボクは皆と一緒に居たい」
結局、隠すことに失敗したピンク色の毛玉は全員の手に1つずつ渡ってしまった。
マメに自分でブラッシングしないと、こういう事になる――学びを得た。
肝に銘じておきたい。
なんだかんだのバタバタは続いたものの、全員食堂へ到着。
ガダルにもアードがそれなりの服を「貸した」のでとりあえず大丈夫である。
ギャーギャーしているうちにピートは厨房へ走り、難なく夕食は完成したのだった。
配膳が終わり、ピートも席へとたどり着く。
これで、本日の功労者全員集合である。
「ということで……今日は、大ミミズ退治おつかれさま!」
手元にはグラス。
雰囲気の作りにワインっぽい色をしたジュースが子ども達の分も含めて用意されている。
これだけ悪人顔が集まっているのに、アルコールは置かれて居ない。
クゥの孤児院であり、子ども達の食事も一緒だからだろう。
「おうよ! おつかれさま、乾杯だ!」
乾杯的なグラス当てはあるようだ。
ので、乗り出してカツン、と当てて。
口に含めば、転移前に飲んだブドウジュース的な味わい。
食事や生活の細かい部分を、先輩の転移・転生者が整備したのが伝わってくる旨味。
「後で酒でやり直すぞ、飲むやつはマトさんが寝てから集合しな。
俺が何本も良い奴持ってるからなァ」
「おっさん悪いィな、最近良い奴持ってる奴が少なくてよ」
「お前さんに盗られんからだろうよ! ったく……」
「つまみが必要なら、ちゃっちゃと作るんで言ってくだせぇ」
こっそり集合飲み会、ちょっと見たい気もするけど……。
その絵面は、ほぼほぼ悪役の密談だろう。
「キヒヒ……これは素晴らしい果実ゥ! 果実の液!
熟成されすり潰された恵みが、甘みと芳醇な香りォ!
いただきますよォ! キーヒッヒッ……!」
マヌダールのテンションもいつも通り。
「……これはワインではないのか……?」
ガダルが俯きながら唸る。
グラスの中に鼻を突っ込んで嗅いでから、ぺろぺろ舌で舐めている。
大柄な体躯から想像できない可愛さが溢れている。
「ワインとは別だな、子ども達も多いんでな。
で、ガダルさんよ……話、聞かせて貰おうじゃねェか」
「ああ。
国が私の脱税に気づき、軍を連れて攻め入ってくる前の事だ。
古代イルイレシアの遺跡が見つかったのだ、シハの街の地下に。
私が眠れる方法になるかもしれぬと、温泉を掘っている最中だった」
「……元領主さんよ、そいつは初耳だぜ」
「遺跡の扉には鍵が無く、何をしても開かない。
が、小さな穴が合ったのだ。
鍵穴ではなく、何か丸い輪のついたものが入りそうな穴が――」
クゥが目を逸らした。
「恐らく、その盗賊が盗んだ指輪が鍵なのだろう。
狼の家紋が扉に刻まれていた――私、リーシオンの家紋だ」
グルル、と喉から唸り声をだしながらガダルがクゥを睨む。
「本当に悪かったって! だがよ、オレは盗んだモノ、全部部屋に飾ってんだよ。
金や食事はよ、欲で生み出せるからよ……。
今更で悪ィが……返させてくれよ……」
「それは本当なのか!?
でかしたぞ盗賊! いや、クゥ殿……!」
ガダルが机に手を突き、勢い良く立ち上がる。
「ちょっ……どうしたんだよ!?」
「王国の使いは、脱税の補填に指輪を差し出せ、と言ってきたのだ。
盗まれた、差し出せぬと伝え……財は出す、他の方法で頼むと話してもその一点張り。
遺跡の鍵だと気づき、それが目当てだったのは明白。
結果――攻め込まれ、シハはもう無い」
「オレが盗んだことが……でかした、とは……」
「クゥ殿が盗んだ事で指輪の所在は分からなくなり、王国へと渡らなかった。
家紋が残る、先祖のものであろう遺跡へは誰も立ち入らなかったということだ。
泥棒に、守られてしまった。
民は奴隷商……アード殿に救われている。
感謝しかない……。
いや、だが――」
「納得はいかねぇだろ、後でクゥさんでも一発殴っとけ。
泥棒を正当化されんと、俺らの仕事はやってらんねェからなぁ?
で、クゥ、お前さんはさっさと指輪を返してやれ。
いや――ちぃと待て」
「なんだよ? その遺跡、すげえ宝があるかもしれねェ!
マトは宝探しに来たんだろ、連れてってやりてえ」
「どうして短絡的なんだお前さんはよ! 少し考えろ!
まず、そこの狼さん家のモンだ!
旅行気分で人の家に土足で踏み入るな、泥棒め!
次、国絡みだ――バレれば、シハの街と同じだ。
この街も狙われるぞ。
しかも、トガまで抱えていると来たもんだ」
「……やっぱボクってマズい感じ?」
「マト殿、桃色の獣人は古代遺跡の手がかりや鍵と言われている。
王国は必死に遺跡を探している……つまり。私の指輪か、それ以上の価値なのだ」
長い口吻に手を当てたガダルは深刻な顔。
「な! 凄いんだよ、マトは!
オレの自慢のお宝だからな!」
クゥがくしゃくしゃと頭を撫でてくる。
不安な時は、これがとても安心するんだ……。
「ま、つまりマトさんよ。
お前さんを連れてることが王都に伝わりゃ、遅かれ早かれ問題になる」
「とはいえ、隠しきれるものではありませんよォ!
なんせ、もう街を歩いておりますし、私の耳にもすぐ飛び込んできた話ですゥ!
色々決める時、かもしれないですよォ」
マヌダールが穏やかな顔でボクに微笑んでくれた。
「うん……でも、分からなくて。
ボクね。宝物が欲しいって願ってここに来たんだ。
なんだこう、人生の凄いもの、みたいなやつが欲しいって」
ぴょこ、と耳を垂れる。
やっぱり、言葉にすると不安なのだ。
安っぽいと思われないだろうか、見限られないだろうかと。
「それを持ってるのが、かっこいいと思っただけなんだ。
それでね。
お宝を探せるボクの欲で見るとね、みんながね。
すごくキラキラして見えるんだ」
んしょ、机の上に手を置いて身を乗り出す。
「お金とか、宝石とかそういう物だけじゃなくてね。
こうして一緒に居てくれる人がとっても大事な存在で。
お宝なんだって気づいて――」
誰も、言葉を挟まなかった。
クゥはずっと、肩に手を置いていてくれた。
「一番はね。ボクは皆と一緒に居たい。
それに、手伝いたいし、色々教えて欲しい。
宝物はみんなだから、願いは叶っちゃったけど……。
今度はみんなとね、ちゃんとしたお宝探しもやってみたい」
照れくさくて、耳を倒して顔を隠す。
ぽん、と背中をクゥが叩いた。
「オレ泣いちゃうぞ? 見ろ! これが出来の良い弟子だぜ!
一緒に居るどころか、お宝は手放さねえからな?」
「お前さんよ、調子に乗るのはいい加減にしろよ!
ウチの見習いだって言ってんだろうが!」
「そうですぜ、あっしの後輩ですぜぇ! 料理も雑用も覚えてもらわねェと」
「ということですよォ、マトくん。
私達は一緒に居ます、ちょっと怖くても頼りになる顔ぶれですよォ!
下手にブラッシングしたら怒られてしまいそうですがァ……ブラシは毎日しますよォ」
「……くっ……私だけ仲間に入れぬ……!」
ガダルが微妙な顔をしながら、屈辱ッ……みたいな顔をしているので笑顔を向ける。
出会いは大切なことだ、って思うようになった。
だからガダルの為に、ボクの為に、みんなの為に力を使う。
大好きの証明の為に。
「欲【宝の在り処】――!」
辺り一面、輝く光の粒子だらけ。
クゥもアードもピートも、マヌダールも――ガダルもしっかり光っている。
溢れた粒子が二階へと飛んでいった。
「うん、みんな光ってる! ガダルさんもちゃんとキラキラしてるから安心して。
それより、二階に光が飛んでったよ」
「二階っちゃぁ、クゥさんの部屋だろうがよ。
ってことは例の指輪か?」
「思い出した! デカい家のあったやつ……赤い宝石の狼の装飾の指輪……!
机の上に並べてあんぞ」
「間違いない! クゥ……でかした……!」
「部屋にあるなら安心だね!
あと、もう一つ!
クゥの夢も叶えたい。ここをね、学校にしたいって。
ボクも魔法とか技とかも全然分からないし、国のことも世界のことも分からない。
みんなに先生になって教えてほしいなって……」
全員が大きく頷き、任せろ、と親指を立てて見せてくれた。
「マト、オレたちは小さな頃から、3つの小さな願いは叶うって教わってくるんだ。
魔法や技なんかは小さな願い事で、1日3回使えるってのが分かりやすいトコだな。
だから――」
アードが言葉を繋ぐように割り込む。
「俺達と居ること、宝探しに行くこと、学校を作って学ぶこと。
これで3つ……縁起が良いって話だぜ。
小さいか、って言えば怪しいが……呪いのお宝のマトさんよりは小せえ。
問題ねえな」
「身のこなしや手先、悪知恵のクゥさんと、顔の怖ェ大商人の大将。
んで、胡散臭えけれど本当の魔法使いのマヌさんと……先生は豊富ですぜェ」
「私の帰る街はもうない。その仲間に入れてもらえぬだろうか?
助けてもらった縁がある……!
自警団としての技術と! 脱税なら任せてくれ!」
「せめて政治って言えねぇのか、領主さんよ……!」
アードが額に手を当ててため息を吐いた。
「えへへ、みんなありがとね。ご飯冷めちゃうし、食べよう!
みんなお皿貸して! 欲しいの取り分けるね!」
椅子からぴょん、と降りて取り分けの準備。
その声に、皆が一斉に皿を突き出したのだった。
2章おしまいになります!
3章もよろしくお願いします!




